旧 第84話 死神ちゃんと修理屋さん
死神ちゃんは〈担当のパーティー〉らしき二人組に近づくと、彼らに向かって一気に急降下した。脅かされた小人族らしき〈髭面のちっこいおっさん〉が飛び上がると、彼を背負っていたと思しき人物が急にパニックを起こし、凄まじいスピードで右往左往と走り出した。そして彼はそのままの勢いで落とし穴へと落ちていった。
死神ちゃんは髭と一緒にその様子を呆然と眺めていた。すると、落とし穴の中から光が溢れだし、しばらくして生き返った〈おっさんを背負っていた彼〉が仏頂面で戻ってきた。
「マスター、驚かさないでくださいよ」
「いやあ、脅かしてきたのはこの子だよ。でも、ごめんね、吉井君」
「お前、吉井って言うのかよ! 随分と見た目にそぐわない名前だな!」
死神ちゃんは驚愕の表情を浮かべると、戻ってきた彼を見て思わずそう叫んだ。何故なら、苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうにポリポリと頭をかく髭に対して不服そうにチロチロと舌を出す彼は、小型の肉食恐竜と見紛うばかりの見た目だったのだ。
「ていうか、ドラゴンに搭乗するのって禁止されてると聞いていたんだが」
死神ちゃんがしかめっ面でそう言うと、吉井は面倒くさそうに目を細めて死神ちゃんを見下ろした。
「ああ、俺の一族、祖先のドラゴンに近い見た目を残してるから、よくドラゴンと間違われるんだよな。――マスターを背中に乗せてたのは、歩幅が違いすぎるから、俺が背負ったほうが移動早いものだから。あと、俺、ここから結構遠い国の出身なんだよ。だから、聞き慣れない名前なのも無理は無いかな」
「いや、あの、そういう問題じゃあなくてだな……」
死神ちゃんが言葉を濁すと、竜人族の吉井は不思議そうに首を傾げさせた。そして彼は髭に視線を移すと、死神ちゃんを指差した。
「で、マスター、こいつ、何なんですか?」
答えに窮した髭は苦笑いを浮かべて死神ちゃんを静かに見つめた。死神ちゃんはニヤリと笑うと、自分は死神であるということを告げた。すると髭は「マンマミーア」と悲鳴を上げ、吉井は面倒くさそうに顔をしかめさせた。吉井は深いため息をつくと、いまだ愕然として震えている髭に〈一階の教会〉まで戻ることを提案した。
吉井は髭と死神ちゃんに〈背中に乗るように〉と促し、二人が背中によじ登り終わると颯爽と走り始めた。彼は竜人族の中でも脚力自慢の一族の出身だそうで、その素早さとジャンプ力を活かせる〈忍者〉で冒険者登録をしているのだそうだ。
対して、髭は錬金術士らしいのだが、回復系の薬を作るのは得意だそうなのだが、爆弾などの調合は苦手だそうで、戦闘はもっぱら前職で覚えてきた火の玉魔法に頼っているという。
そんな、見た目も職業もデコボコなコンビの二人は普段、街で修理屋さんを営んでいるそうだ。そして週末になるたびに、あるものを探して二人仲良くダンジョンへとやってくるのだという。
死神ちゃんは首を傾げさせると、後ろに乗っている髭の方を振り向いた。
「探しものってなんだ? 修理屋の仕事に関わるものなのか?」
髭は不敵に笑うと、勿体ぶった口調で言った。
「キノコ狩りだよ」
「はあ? そんなもん、こんなダンジョンじゃなくてどっか山奥にでも行けよ!」
死神ちゃんが顔をしかめさせて声を裏返すと、髭は〈分かってないなあ〉と言いたげにフッと笑って首をゆっくりと横に振った。
何でも最近、食べると一時的に身体の大きさが変化するという不思議なキノコがダンジョン内で発見されたらしいのだ。髭はどうしてもそれを手に入れたいそうで、吉井はそんな〈店主の我が儘〉に付き合っているのだそうだ。
「僕はね、そのキノコを食べて、大きな身体になってみたいんだ。それこそ、ドワーフくらい大きく。いつも吉井君のことを見上げてばかりだからね、肩を並べて歩いてみたくって。仕事も結構頼りっきりだから、大きくなれたら負担も軽くしてあげられるだろうし」
「俺も大きくなったマスターを見てみたいんだ。そもそも、小人族の中にはドワーフに進化したやつがいるっていう噂もあるしな」
「いやちょっと待て。最後のそれは絶対ガセだよな」
死神ちゃんが苦みばしった表情を浮かべると、髭と吉井は質問に答える代わりに楽しそうに笑った。
しばらくして、彼らはモンスターと遭遇した。脚力自慢の吉井はぴょんぴょんと飛び跳ね敵の攻撃を巧みに躱しながら、カメレオンのように長い舌を勢い良く出して、舌で〈パンチ〉をしていた。髭はというと、吉井の背に跨ったまま火の玉をモンスターに投げつけ、吉井の援護をしていた。一見すると不思議な戦い方ではあったが、彼らの息はぴったりと合っており、次から次へと敵を倒していっていた。
そんなこんなで順調に〈一階〉への帰路を辿って行っていたのだが、途中、彼らは大型の手強いモンスターに追いかけられた。吉井はモンスターの追跡から逃れるべく、幅が広めの落とし穴のある方へと走って行った。そして跳躍したのだが――
吉井は〈今、背中に二人乗せている〉ということをすっかり失念していた。そのため、普段なら飛び越えられる幅の落とし穴を飛び越えることが出来なかった。
「マスター、俺を踏み台にしてあちら側へ渡ってくだ――」
彼はそう言いながら、深い穴へと落ちていった。そして髭は一瞬戸惑った後、彼の好意を無駄にせぬよう、彼の背を蹴ってジャンプした。しかし、戸惑っていたのが仇となり、髭もまた穴へと真っ逆さまに落ちていった。
死神ちゃんはぷかぷかと浮かんだ状態で、暗く深い穴を呆然と見つめた。そして〈灰化達成〉の知らせを受け取ると、何事もなかったかのように壁の中へと姿を消したのだった。
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待機室に戻ると、死神ちゃんはケイティーに近づいていった。そして彼女を見上げて首を傾げさせると、思案顔でボソリと言った。
「なあ、小人族ってドワーフに進化するのか?」
ケイティーは顔をしかめさせると、とても嫌そうに答えた。
「何それ、絶対認めない。あの可愛らしいのが、加齢臭むんむん漂っていそうなズングリムックリになるだなんて。小花が十三に戻るくらい、あり得ない」
「いや、あの、俺、一応、こっちのほうが〈仮初の姿〉なんだが……」
死神ちゃんが心なしか悲しそうに肩を落とすと、ケイティーも何故かしょんぼりとして「分かってるけどさ」と言いながら口を尖らせた。死神ちゃんは小さくため息をつくと〈噂の怪しいキノコを食べたら、一時的にでも元の姿に戻れるのか。はたまた今の姿のまま大きくなるのだろうか〉などと思いを巡らせたのだった。
――――星を掴みとり、勝利の旗を掲げた時、花火が打ち上がるとともに〈大きな夢〉も叶うかもしれないのDEATH?




