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旧 第68話 死神ちゃんと魔法使い(?)

 地図を頼りに、少し拓けた、高台もあるような場所にやってきた死神ちゃんは、〈担当の冒険者達(ターゲット)〉の位置を確認して首を傾げさせた。

 目の前では、冒険者の一団が必死にモンスターと戦っている。そして、地図に記されたターゲットの位置は確かにあっている。しかしながら、腕輪からは〈ターゲット捕捉〉の知らせがなされないのだ。

 こっそりと身を隠しつつ、死神ちゃんは〈ターゲットはどこか別の場所にいるのか〉と辺りを見回した。すると、低い笑い声を響かせながら高台に人影が現れた。



「手伝ってやろうか。――ただし、真っ二つだぞ!」



 死神ちゃんも冒険者達も、突如現れたこの男に一瞬目を奪われた。彼はニヤリと笑うと片腕をスッと天高く掲げ、そして指をパチリとひと鳴らしした。すると、一番大きなモンスターの頭上で小さく風が巻き起こり、それは衝撃波を伴って弾けた。それと同時にモンスターのからだは縦真っ二つに割れ、左右にゆっくりと崩れ落ちた。


 一番手強い敵が倒され、戦闘に余裕が出来た冒険者達は彼に礼を言うと一気に反撃へと打って出た。男は、そんな彼らを満足気に眺め、ウンウンと頷いていた。――どうやら、この男こそが今回のターゲットらしい。死神ちゃんはひらりと舞い上がると、男へと音も無く近づいた。そして強襲を仕掛けたのだが、すんでのところで男が後方へと飛び退すさった。



「新手のモンスターか!?」



 男は言いながら、死神ちゃんに向かって両腕を突き出し、そして両の手でパチパチと指を鳴らした。二つの小さな渦が弾け、死神ちゃんも姿を消していた。

 男は〈敵を倒した〉というかのような達成感と安堵に満ちた顔でほうと息をついた。しかし、それも束の間、彼の視界は真っ逆さまの態勢の幼女で埋まり、彼はこの急な出来事に思わず身を硬直させた。



「残念。モンスターではなく、死神です」



 死神ちゃんはニヤリと笑うと、男の頬をペチンと両手で挟んだ。悲鳴を上げながらバタバタと腕を振って払いのけようとする彼の腕をかわしながら、死神ちゃんは地面に降り立って不敵に笑った。

 男は膝をつくと、苦渋に満ちた表情で拳を地に打ち付けた。



「くっ……。まさか死神にとり憑かれようとは。一生の不覚……!」


「お前、もしかして死神に憑かれたの、初めてなのか? それはどうも、おめでとうございました。ところで、お前の職業は一体何なんだ?」



 彼は中世貴族が狩りをする時のような、動きやすそうなズボンスタイルのスーツをかっちりと着込んでいた。君主というには装備が簡素すぎるし、吟遊詩人だとしても楽器らしきものはどこにも見当たらない。

 死神ちゃんが不思議そうに首を傾げさせると、顔を上げた男が憮然とした表情で答えた。



「私は魔法使いだ」


「へえ、魔法使いってローブ以外にも衣類装備あったんだな。ていうか、お前、杖も魔法のナイフも何も持っていないじゃないか。もしかして、ポーチに仕舞いこんであるだけとか?」



 死神ちゃんが興味深げに目をくりくりとさせると、男はニヤリと笑った。そして、彼は左手の甲を見せつけるかのように、死神ちゃんの眼前に掲げた。彼の〈指パッチンの邪魔にならない小指〉には指輪が付けられており、それには小さな緑の石が嵌めこまれていた。



「素晴らしき私には、これ(・・)だけで十分なのだ」


「おお、〈五階〉産の風属性の鉱物か。本物、初めて見た」



 得意気に胸を張る男の指輪を、死神ちゃんは目を丸くしてしげしげと眺めた。そして顔をしかめさせると、男に向かって呆れ声を上げた。



「でも、だからって〈指パッチン〉はどうかと思うぞ」


「何を!? 素晴らしくカッコいいだろうが! それが分からぬとは、貴様、見た目通りのお子様のようだな!」



 男は鼻をフンと鳴らすと、「まあ、良い」と言いながら立ち上がった。死神を祓うべく〈一階〉を目指して歩き出した男の後ろを、死神ちゃんもとことこと付いて行った。しばらく歩くと、死神ちゃん達の目の前に一人の男が立ちはだかった。指パッチンと同じような出で立ちのその男は、片眼鏡の位置を直しながらニヤリと笑った。



「ワシは貴様と同じ力を手に入れた!」


「ぬ!? 同じ力だと!?」


「ふふふ、ワシの片眼鏡モノクルを見よ!」



 男は得意気に片眼鏡を外して指パッチンに見せつけた。レンズ部に紐を括りつけるための穴が開いているのだが、そこにピンポイントアクセサリとして小さな宝石がつけられていた。――例の風属性の鉱物である。

 片眼鏡の男は、それを装着し直すと指パッチンを指差して叫んだ。



「今こそ、死有を決する時ぞ! 食らうがいい!」



 言いながら、片眼鏡は勢い良く腕を振り上げた。すると、刃のような鋭さを伴った風が指パッチンめがけて飛んできた。指パッチンは横飛びに飛んでそれを避けると、片眼鏡に向かって叫んだ。



「悪いが、今はやめてくれ。私は今、死神憑きなんだ!」


「なおさら良いではないか! それこそ、本気の戦いが出来るというもの! 灰化したくなくば、ワシを倒してみせよ! 貴様にそれが出来るかは、甚だ疑問だがな!」


「何を!? 今までも勝敗は五分五分であっただろう!」


「それも今日までのことよ! これからの勝負は、ワシが勝ち続けるのよ!」



 言い終わるや否や、片眼鏡はブンと腕を一振りした。指パッチンは避けながら、彼に向かって指をパチリと鳴らした。

 どうやら彼らはライバル同士のようで、こうやって常に小競り合いをしているようだった。その様子を見ながら、死神ちゃんは衝撃を受けていた。何故なら、二人の決闘の様子が、明らかにおかしいとしか言いようがなかったからだ。

 おっさん二人は縦横無尽に走り回り、時には踊るようにクルクルと回転しステップを踏みながら風を巻き起こしていた。それも、互いに向かい合い、凄まじい速度で横走りしながらパチパチと指を鳴らし、腕をブンブンと振り上げながらだ。その様子は贔屓目に見ても格好いいとは言えず、残念ながら〈無駄が多い〉としか死神ちゃんには思えなかった。そもそも、これは正しい〈魔法使いの戦闘風景〉と言えるのだろうか。


 途中、二人は同時に立ち止まると、長ったらしい呪文詠唱をし始めた。どうやらそれは、先日残念が唱えていた大技呪文の、風バージョンのようだった。

 詠唱が終わるのと同時に彼らが腕を振り下ろすと、竜巻を纏った腕から風の刃がほとばしった。そして、彼らは先ほどよりも更に早い速度で走り回り、反復横跳びしながら互いを攻撃し合った。


 互いを攻め合いながら爆走するおっさん二人を、死神ちゃんは唖然としたままの顔で追いかけた。彼らの通った後には、流れ弾で倒されたモンスター達が累々と倒れ、アイテムに姿を変えていっていた。また、おっさん達は風だけでなく迷惑も撒き散らかしていて、すれ違っただけの無関係な冒険者がうっかり被弾しかけて怒号を飛ばしていた。


 冒険者の怒号に気を取られた指パッチンに、片眼鏡はニヤリと笑うと腕を振り上げた。いつしか片眼鏡よりも前方を走っていた指パッチンは、それを涼やかな顔でかわし、片眼鏡に向かって小馬鹿にするような笑みを向けながらどこかへと姿を消した。

 片眼鏡は驚きつつも速度を落とすことなく走り続けた。そして彼もまた、フッと姿を消した。


 死神ちゃんはぐったりと肩を落として足元の落とし穴を見つめながらポツリと言った。



「走り回るのはいいけど、足元くらい、確認しような……」



 〈灰化達成〉の知らせを聞きながらため息をつくと、死神ちゃんは壁の中へスウッと消えていったのだった。





 ――――腕を振り指を鳴らし続けながら走り回れるほどの体力があるのなら、殴り合いをしたほうが周りにも優しいし、決着も早くつきそうな気が。でも、おとこのロマン的に、この戦い方は仕方がないのDEATH……?

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