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旧 第63話 死神ちゃんと勇者ご一行様

挿絵(By みてみん)

 〈担当の冒険者達(ターゲット)〉の元へと向かうべく死神ちゃんが〈四階〉へと降り立つと、どこからともなくコルネットの音色が聞こえてきた。どんどんと近づいてくる音に慌てて地図を確認すると、その〈近づいてくる音〉がまさに今回のターゲットだった。

 死神ちゃんは天井スレスレまで浮かび上がると、担当のパーティーがやってくるのを静かに待った。そして、吟遊詩人が殿しんがりでコルネットを吹き続けているのを確認すると、死神ちゃんは彼の眼前に急降下した。

 突如音が乱れたことに、縦一列に並んで歩いていた一行は抜刀しながら一斉に振り返った。そして、彼らが顔をしかめさせるのと同時にステータス妖精さんが吟遊詩人の腕輪から飛び出した。



挿絵(By みてみん)



* 吟遊詩人の 信頼度が 3 下がったよ! *



「なんだ、脅かすなよ。モンスターとエンカウントしたかと思ったじゃないか」



 パーティーリーダーらしき君主が、言いながら刀を納めてため息をついた。彼らの視線の先では、吟遊詩人からコルネットを奪い取った死神ちゃんが、彼の腕の中で聞くに堪えない下手くそな音をびいびいと響かせていた。



「うーん、ラッパは難しいな。サックスだったら吹けたんだけど……」



 呆然と見つめてくる彼らのことなどお構いなしに、死神ちゃんは顔をしかめさせた。死神ちゃんはコルネットを吟遊詩人に返してやると、ふわりと浮かび上がりながら首を傾げさせた。



「ていうか、お前ら、移動中ずっとラッパなんて鳴らしてたらモンスターに気づかれやすいだろうに、何で鳴らし続けてるんだ?」



 一行は苦笑いを浮かべ、君主が代表して話し出した。何でも、ずっと同じ階層で探索を続けることに飽きてきた彼らは、普通とは変わった趣向で冒険をするということに現在ハマっているのだそうだ。現在はダンジョンの最下層で待ち受けているであろう灰色の魔道士を〈魔王〉と呼び、戦士を〈勇者〉に見立てて冒険しているのだという。しかも、何故か〈北を背に、南だけを向いて歩く〉という縛り付きだ。

 移動中や戦闘時には専用の音楽を奏で、冒険風景を実況しながら進んでいるそうなのだが、やってみたらこれが意外と楽しいらしい。実況内容は全て〈話した内容を自動で筆記してくれるペン〉でしたためていて、地上の宿屋での寛ぎの時間にそれをみんなで回し読みするのがここ最近一番のお気に入りなのだそうだ。


 突如、相槌を打つことなく呆れ顔で静かに聞いていた死神ちゃんに、戦士が手招きをした。彼の元へと死神ちゃんが近づいていくと、戦士は表情を変えることなく死神ちゃんをお姫様抱っこした。死神ちゃんが顔をしかめさせると、君主がニヤニヤと笑いながら言った。



「お前、それ、もしかして〈お姫様〉代わりか」


「はい」


「じゃあ、お前、戦闘の最中もずっとそのままな。――よし。どうやらこの子、死神のようだし、一旦戻るとするか」



 一行がどやどやと隊列を組み直す最中も、死神ちゃんは顔をしかめさせたままだった。というのも、戦士は仲間に声をかけられても〈はい〉か〈いいえ〉でしか返しておらず、しかも〈きっとそれ以外の返答をしたいのだろうな〉という時には表情で訴えかけるということをしていた。どうやら行動だけでなく言葉も制限されているみたいなのだ。

 一瞬、いじめを疑うような状況なのだが、自ら進んで死神ちゃんをお姫様抱っこしたところを見るに、彼もノリノリでこの〈お戯れ〉に参加しているらしい。死神ちゃんは深いため息をつきながら「面倒くさそうだし、早く帰りたいな」と心の中で呟いた。


 一行は地上目指して出発した。もちろん、先ほど言っていた通りに、彼らは北を背に、南だけを向いて歩いていた。元来た道をバックしながら進んでいき、時にはカニのように横歩きをする彼らのことを、途中ですれ違った冒険者達が〈痛々しいものを見る目〉で見つめていた。死神ちゃんは抱きかかえられているがために目を引きやすいらしく、誰かとすれ違う度に同情の眼差しを向けられた。――きっと〈変な大人に捕まって可哀想な子だ〉とでも思われているのだろう。その度に、死神ちゃんの〈帰りたい〉という欲求は煽り立てられた。


 途中、一行はモンスターと遭遇した。言っていた通り、吟遊詩人の奏でる音色が〈支援の音色〉を織り交ぜた〈戦闘が盛り上がるような音楽〉へと変化した。そして、後衛の僧侶が熱のこもった実況を行い、その声と音楽に乗せられた戦士と君主が楽しそうに戦った。

 戦士は君主の提案を守り、死神ちゃんを抱きかかえたまま戦闘していた。とても戦いづらそうだったのだが、彼はそれでも死神ちゃんを手放すということはしなかった。そして、戦闘をやりきった彼の顔はとても満足気で、呆れ果てた死神ちゃんはもはやため息すら出てこなかった。


 そんな無茶苦茶な戦闘を続けていたため、戦士が死亡することが度々あった。その都度、僧侶が蘇生呪文で生き返らせ、そして君主が朗々とした声で「勇者よ、死んでしまうとは情けない」と言った。そのセリフを言われる度に、戦士はとても悔しそうにし、仲間達は何故かしたり顔を浮かべていた。



「なあ。そんなにポコポコと死んで、その度に生き返らせてたら魔力の無駄だろう。いい加減、この〈お戯れ〉、やめたらどうだ?」



 死神ちゃんはげっそりとした顔を浮かべると、彼らに向かってポツリと言った。すると、僧侶がポーチの中から得意げに何やら取り出しながら死神ちゃんに声をかけてきた。ポーチから取り出されたそれは、魔力を回復させることの出来る特殊な飲み物だった。



「備え方の方向性が間違ってるだろ、それ……」



 死神ちゃんが頭を抱えると、バックで進む一行は楽しそうに笑い声を上げた。それと同時に、吟遊詩人が音を乱し、そのまま〈戦闘音楽〉を奏で始めた。しかし、それもすぐさま途絶えた。

 後ろ歩きをしていたがために火吹き竜(ファイヤードレイク)がそこにいるということに気づかず、吟遊詩人は背中からドレイクの脇腹に突っ込んでしまったのだった。そして、爪で薙ぎ払われた彼は壁に叩きつけられた。

 振り返り、壁際で伸びている吟遊詩人の姿にぎょっとした一行は慌てて武器を構えた。戦士の〈命大事に〉という掛け声を合図にドレイクと相対した彼らだったが、手強いドレイク相手でも例の〈お戯れ〉をやめることはなかった。そして、お遊びが過ぎたのか、彼らは全員まとめて炎のブレスに焼かれて炭と化した。




   **********




 死神ちゃんがげっそりとした顔で待機室に戻ってくると、同僚達が〈さすがにこれはナシだ〉という顔で頬を引きつらせていた。最初は面白く見ていたようだったが、傍から見ていてあまりにも馬鹿馬鹿しいと思ったらしい。

 同情の眼差しを向けてくるマッコイに近づくと、死神ちゃんは疲れ切ったままの顔で首を傾げさせた。



「そう言えばなんだけどさ、あいつら、灰色の女神さんについて〈ダンジョンの最下層で待ち受けているであろう〉とか言ってたけど、いたとしても、それってやっぱりレプリカなんだろう?」


「ええ、そうよ。知っての通り、まだ冒険者が到達していない階はダンジョンとして機能させずに、アタシ達の訓練施設とか、いろんなものに空間が利用されているけれど。彼らが最下層に到達した暁には、きちんとダンジョン化して、魔道士様のレプリカも配置される予定となっているわ。でも、〈待ち構えている〉というのはないと思うわね」



 マッコイの言葉に、死神ちゃんは不思議そうな表情を浮かべて傾けていた首を起こした。すると、マッコイはニッコリと笑って言った。



「あくまで予定だそうだけど、きちんと営業時間を設けたうえに、予約制にするそうよ」


「戦闘をするためにアポをとるって、どうなんだよそれ……」



 死神ちゃんは顔をしかめさせると、ぐったりと肩を落としたのだった。





 ――――〈工夫を凝らす〉というのはとても〈前向き〉なことで素晴らしいとは思うけど。でも、度が過ぎたらそれは工夫ではなくなる。だから、〈お戯れ〉は程々に。〈一日一時間〉ぐらいで留めておくのがちょうどいいと思うのDEATH。

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