旧 第58話 死神ちゃんとヒーロー達
〈四階へ〉という指示の下、死神ちゃんが〈担当の冒険者達〉を探してダンジョン内を彷徨っていると、戦士と吟遊詩人の二人組パーティーを発見した。このパーティーの吟遊詩人は先日のマリアッチみたいな〈トルバトーレ〉ではなく〈バード〉のようで、笛の音で戦闘支援をしながら、彼本人も暗器を手に戦っていた。二人の戦いっぷりは息が噛み合っているとは言えず、お互いに足を引っ張り合っていた。
あまりの噛み合わなさに、死神ちゃんは呆気にとられて見つめていた。すると、戦闘を終えたばかりの戦士が死神ちゃんに気付いて走り寄ってきた。
「君、いつからここにいたんだい? もしかして、このモンスター達に襲われて、物陰にでも隠れていたのかな? 大丈夫? 怪我はない?」
死神ちゃんが答えることなくぼんやりとしていると、心配顔で死神ちゃんの肩を掴む戦士の腕輪からステータス妖精さんが飛び出した。
* 戦士の 信頼度が 5 下がったよ! *
戦士は顔をしかめて吟遊詩人を振り返った。すると、吟遊詩人の彼は顔いっぱいに不快感を露わにしていた。
「俺はいつだって真剣に戦っているのに、お前は常にヘラヘラチャラチャラとしやがって。さっきだって、何度もモンスターに隙は生じていた。だから、お前が気を引き締めてもっと踏み込んでいたら、もう少し早く戦闘も終わっていただろうに。それもせず、ようやく戦闘が終わったと思ったら、今度は女の子にいい顔しぃか」
「は? か弱い女の子に優しくするのは当たり前だろう? ていうか、お前だって攻撃のタイミングが微妙だったことが何度かあっただろう。俺のせいばかりにするのは、どうかと思うけどな」
いがみ合う二人を呆然と見つめながら、死神ちゃんは顔をしかめさせた。
「なあ、何でそんな仲も悪ければ気も合っていないのに、パーティーなんか組んでるんだよ」
ああ、と言うと、彼らは同時に苦い顔を浮かべた。二人は辺境の村の出身だそうで、村の中でも一、二を争う腕っ節の強さだった彼らは村長から〈貧しい村を救うヒーローになってくれ〉との命を受けてこのダンジョンにやってきたのだという。どうやら、ダンジョンから算出される珍しいアイテムで一攫千金を狙い、村に富をもたらそうという算段らしい。
「貧しい村の中でも裕福な家に育ったこいつは剣が得意だったから戦士、山で狩りをしながら生活してた荒くれ者の俺は罠の扱いも得意だし笛も吹けるしってことでバードとして冒険者を始めて、結構経つんだが。育ちが違うせいなのか、元から水と油のような性格だからなのか、全く気が合わなくてな。こいつには、ほとほと困らされているのさ」
「おい、それはこっちのセリフなんだがな」
吟遊詩人がフンと鼻を鳴らすと、戦士は彼を睨みつけた。再びいがみ合いを始めた二人を死神ちゃんが呆れ顔で見つめていると、再びモンスターがやってきた。先ほどの群れよりも手強いモンスターが多く、彼らは苦戦を強いられた。何とか撃退したものの、あまりの息の合わなさに二人は頭を抱えて膝をついた。
「さっきから〈息が合わない〉って文句ばかり垂れてるけど、お前らさ、お互いに〈相手が合わせてくれるだろう〉と思ってないか? そんな、相手に丸投げの一方通行な状態じゃあ、どちらかが折れない限りは息なんて合いっこないだろう」
死神ちゃんがため息をつくと、二人はハッと息を呑んだ。そして、互いの顔を見つめ合い、〈お前が折れろ〉と言い合った。少しして、それでは駄目だと悟った彼らは〈お互いを思いやる〉ということを学ぶことにした。
村から重役を押し付けられたのだって、その期待に応えられるか不安なのだって、二人とも同じなのだ。二人は〈唯一、同じ思いを共有することのできる同志〉なのだ。そんな貴重な〈友〉を大切に出来ずして、何が〈息を合わせる〉だろう。何が〈ヒーロー〉なのだろう。――彼らは、そう思ったのだ。
二人とも、何か吹っ切れたのか、次の戦闘ではまあまあ気が合うようになってきた。ただ、またもや手強いモンスターが相手だったため、メインで戦闘を行っていた戦士が傷つき、少し押され気味になっていた。すると、吟遊詩人は闘志をその瞳に宿すと笛を構えて叫んだ。
「奏でるぜ! 勝利のメロディー!」
吟遊詩人は澄んだ音色をダンジョン内に響かせた。そして、その様子を眺めていた死神ちゃんは、思わず叫んだ。
「戦士への支援じゃなくて、お前が強化されるのかよ!」
死神ちゃんの視線の先には、筋骨隆々となった身体に力を漲らせている吟遊詩人がいた。そして彼は吹いていた笛を前方へと掲げると、笛の頭部管部分を右手で持ち、左手で握りしめていた足部管を頭部管のほうへとスライドさせた。
吟遊詩人は笛――もとい、仕込みナイフを手にモンスターへと突っ込んでいった。そして、ナイフと拳でモンスターを華麗に撃退した。
モンスターがどうと倒れ、宝箱へと姿を変えるのを背に、吟遊詩人は戦士に手を差し出した。
「吟遊詩人、お前――」
「お前はたった一人の仲間だからな。守って、当然だろう?」
感動で瞳を潤ませた戦士は、それをごまかしながら吟遊詩人の手をとった。吟遊詩人は爽やかに笑うと、戦士を立ち上がらせた。そして、口をあんぐりとさせて一部始終を見守っていた死神ちゃんは再びツッコミを入れた。
「いやいやいや、おかしいだろう!」
「何がだ?」
「お前のその笛、ダンジョン産だよな!? だけど、そんなナイフが仕込まれてる笛なんて、見たことも聞いたこともない!」
「山で育って狩人として暮らしてたからな。こういう改造は得意だ」
吟遊詩人があっけらかんと答えるのを、戦士が〈さすがは俺のバディ〉という尊敬の眼差しで見つめていた。死神ちゃんは「あり得ない」と呟くと、額に片手を宛てがい頭を抱えた。
そうこうしているうちに再びモンスターがやってきて、今度こそ彼らは絶妙なコンビーネーションでモンスターを撃退した。戦士の剣捌きも、吟遊詩人の笛のアシストも、そして仕込みナイフでの突撃も完璧だった。彼らは堅く手を握り合うと「俺達がヒーローだ!」と叫び、喜びを噛み締めた。しかし――
「ちょっと、そこ! どいてどいて!!」
遠くからそのような声がして、彼らは手を握り合ったまま、二人仲良く声の方を振り向いた。そしてそのまま、二人は火吹き竜の炎に焼かれて星となった。どうやら遠くのほうで戦闘をしていたパーティーが、戦闘を放棄して逃げてきたらしいのだが、上手く逃げきれずにドレイクを連れて来てしまっていたようだった。二人が炭と化したことに気づく余裕もないまま、ドレイクを連れて来てしまったパーティーは走り去った。
結局、逃げ回っていたパーティーもドレイクの炎に焼かれたようで、遠くの方から断末魔の悲鳴が聞こえてきた。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、グレゴリーが天狐を肩車した状態でモニターの前に立っていた。グレゴリーは静かに目を閉じており、心ここにあらずという雰囲気だった。まるで〈俺は何も見てはいない〉というかのようだ。
肩車されている天狐はというと、死神ちゃんが帰って来たのに気付くと、死神ちゃんにキラキラとした目を向けて叫んだ。
「やっぱり、楽器も武器だったのじゃ! しかも、とてつもなくカッコいいのじゃ!」
「いや、そんなわけないだろう……。ていうか、何でお前がここにいるんだよ」
「先日、マッコとおケイと四人でお夕飯した時に、マッコとおケイが〈お花のダンジョン出動風景は見ていて飽きない〉と言っておったじゃろ。だから、〈お勉強〉の休憩がてら見に来てみたのじゃ! 見に来て正解だったのじゃ! あれは、是非とも実装せねばならぬのう!」
職人達が自発的に作っては持ってくる〈新作候補〉もおもしろい物は多いそうなのだが、どうやら、冒険者が勝手に持ち込む物も天狐のツボに入るおもしろさらしい。天狐は楽しそうにクスクスと笑うと、グレゴリーに声をかけながら彼の頭をぺちぺちと叩いた。そしてグレゴリーは天狐の言葉に応えること無く、静かに腕輪を操作した。
「あ、おみつさん? もふ殿、連れ帰ってくれ」
「にゃ!? グレゴ、ひどいのじゃ! わらわはまだ〈しゃかいけんがく〉していたいのじゃ!」
「いきなり来られて肩に乗られても、仕事の邪魔だから。帰れ」
フウとグレゴリーがため息をつくと、どこからともなくおみつが現れ、そしてグレゴリーから天狐を引き剥がした。天狐の「いやじゃー!」という叫びが廊下にこだまするのを、死神ちゃんはボリボリと頭を掻きながら聞き、肩を落とした。
――――絆を深め、息を合わせる事が出来はしたけれど。ダンジョンは、気の抜けない危ないところ。彼らが本物のヒーローになれる日は、まだまだ先のようDEATH。




