旧 第3話 業務説明だよ、死神ちゃん!
「ぎゃあああああああ!!」
翌朝、第三死神寮中に死神ちゃんの絶叫がこだました。
食べなくても生きていける・ほぼ死ぬことはない・お風呂もお手洗いも要らないというチートスペックな死神でも、寝ないと疲労がとれないという欠点があった。そんなわけで、自室に案内されたあとすぐに、翌日に備えて死神ちゃんは床に就いた。そして朝になって目が覚めてみたら、目の前にあるのは黒のローブを纏った骸骨のどアップ。絶叫せずにはいられなかった。
「あらやだ、薫ちゃんったら。死神が死神に驚いてどうするのよ」
目の前の骸骨が顎をカタカタと揺らした。その声は紛れもなくマッコイのものだった。
「えっ? はっ!? マッコイ!?」
「おはよう、薫ちゃん❤」
「おは……えっ? 何で? えっ!?」
死神ちゃんが驚き戸惑っていると、骸骨は嗚呼と呻いてローブをもぞもぞと脱いだ。すると、骸骨だったそれはマッコイへと姿を変えた。
「制服を着るとね、きちんと死神の姿になるのよ」
「あー、なるほど……。俺のローブは? 今日、初出社した時に支給されるのか?」
「この世界の住人として生まれ変わった際に、着ていた服があるでしょ? あれがそうだけど」
「えっ、あれが!?」
言いながら、死神ちゃんは昨夜とりあえず脱ぎ散らかした服と頭巾を見て顔をしかめた。だって、あれはどう見ても〈童話 赤ずきんちゃん〉の主人公の服を黒染めしただけというような代物だし、あれを身に着けている状態だって明らかに幼女であって骸骨ではないのだ。死神ちゃんは「あれは絶対、違うだろ」と心の中で呟いた。そしてマッコイを見上げて、胸中と同じことを言おうとした。しかし――
「さ、早く起きて支度して。もう朝ご飯を食べている時間もないわよ。結構前から声をかけていたんですけど、幼女にされた影響かしらね。薫ちゃんったら、肩を叩いても揺さぶっても、微動だにせずぐっすりで。初日から遅刻するんじゃないかって、アタシ、ヒヤヒヤしちゃったわ」
そう言いながら死神ちゃんをベッドから追い立てると、マッコイは「エントランスで待ってるから」と言い、部屋から出て行ってしまった。死神ちゃんは抗議することも出来ずにもやもやした気持ちを抱えながら、もそもそと黒ずきんちゃんスタイルに着替えるしかなかった。
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広場の門を潜った先の〈会社内〉は、商社のエントランスロビーという感じだった。受付のようなところにはケバケバしい化粧を施したゴブリンが二人、おすましして座っていた。
「おはよう。今日も化粧、決まってるわね。ところで、新入りちゃん用の腕輪、もう届いているかしら?」
マッコイがゴブリンに声をかけると、ゴブリンは化粧を褒められて嬉しかったのか、ニヤリと笑いながら彼に腕輪を手渡した。彼はそれを受け取ると、死神ちゃんの左腕に腕輪を付けてあげ、そして死神ちゃんを抱き上げた。
ゴブリンはバーコードセンサーのようなものをどこからか取り出すと、それを死神ちゃんの腕輪に近づけた。
「はい、これが出勤時のタイムカード打刻ね。退勤時も同じようにピッとしてもらってね」
「意外とハイテクだな」
降ろしてもらいながらそんな会話をしていると、受付の更に奥のほうから何やら騒がしい声が聞こえてきた。木箱を抱えたオークがハタモトに「それはまだ仕分けが済んでおらぬゆえ、宝箱課へ運ぶのは待つようにと申したであろう」と叱られ、ペコペコと頭を下げていた。
「何ていうか、アミューズメント企業か何かみたいだな……」
ポツリとそう呟きながらオークとハタモトを死神ちゃんが見つめていると、出勤打刻を済ませたマッコイが遠くから「ほら、薫ちゃん、ちゃんと付いてきて」と声をかけてきた。死神ちゃんは慌ててマッコイのあとを追いかけた。
研修室と書かれた部屋に入ると、椅子に座るよう促された。研修期間中は直属の上司であるマッコイが付きっきりで面倒を見てくれるらしく、教壇に立った彼がいかにも〈これから授業を始めます〉的な咳払いをした。
「えー、まず、このダンジョンは二十四時間営業で、アタシ達死神は〈ダンジョンの罠〉という位置づけです。アタシ達扮する〈死神罠〉というのは、冒険者の〈ダンジョン滞在時間〉の長さに応じて発動する嫌がらせ系の罠よ。――そんな業務内容のため、勤務時間帯は早朝、早番と中番、遅番の四種あります。ちなみに、薫ちゃんの場合は早番だけね」
「えっ、何でだよ」
「児童の労働は二十時までと法律で定められております!」
「いやいや! 幼女は見た目だけだし! ていうか、その法律、この世界にもあるのかよ!」
「各種団体からクレームがあっても面倒なので、世界が云々関係なく順守しておくのよ! ていうか、幼女化されちゃったせいで、心も身体も幼児らしくなっているはずよ」
死神ちゃんは言葉を詰まらせた。たしかに、昨日も早々に眠くなり、朝まで泥のように眠ってしまった。感情も、以前と比べて喜怒哀楽が激しく沸き起こる。そしてそれが慣れなくて、また疲れるのだ。
「そんなわけだから、疲れやすいでしょうし、勤務中も自己判断で適度に休憩していいから。――次に。その腕輪は出退勤時だけでなく、この世界で生活する際のあらゆる面で必要となります。業務に関わることで言えば、無線やメールでの連絡にも使用するし、その日に使用する魂刈の管理ナンバーと紐付けたり、ダンジョン内の地図を見たり、〈担当のパーティー〉がどこにいるのかを確認したり――」
「本当に、一般企業のようだな……。ていうか、魂刈って?」
それはね、と言いながらニコリと笑ったマッコイが、部屋の後方へと歩いて行った。彼は部屋の隅の備品置き場にやって来ると、雑多に置いてある数々の物の中から二本の鎌を発掘した。鎌は金のものと銀のものとがあり、どちらもいわゆる〈デスサイス〉の形をしていて、柄の部分には〈研修用〉と彫り込まれていた。
「はい、これが魂刈ね。ご覧のように、金と銀の二種類あるわ。その日の勤務内容によって使い分けます」
二本の鎌を持ち、教壇へと戻りながらマッコイはそう言った。そして、黒板に銀のほうだけを立てかけた。彼は金のほうを持ったまま、死神ちゃんに向き直った。
「まずは金魂から説明するわね。金魂勤務の日は、生きている冒険者にとり憑くのが仕事よ。〈死神と出会ってしまった〉という精神的衝撃を与えたら、あとはただとり憑くだけ。冒険者が死亡して灰化したら、待機室に戻ってきて、次の出動を待ちます。金魂は一応、物理攻撃も可能よ。それから金魂はね――」
「なあ、さすがにその略し方はどうかと思うんだが」
死神ちゃんが思わずツッコミを入れると、マッコイは真顔で返した。
「あらやだ。敢えてルビを振らないでおいたのに、わざわざそこを言及してくるだなんて。薫ちゃんのほうがよっぽど破廉恥!」
「ルビってなんだ、ルビって!」
死神ちゃんのさらなるツッコミを無視して、マッコイは説明を再開した。嬉しそうにニコニコと笑いながら、金魂金魂と連呼する彼を見て、死神ちゃんは「こいつ、絶対わざとだ……」と内心げっそりしたのだった。
――――そんなわけで、説明とちょっとした実技の練習をしたあと、午後からは早速ダンジョンデビューなのDEATH。