ボクのお父さんは勇者です
ある新任教師は緊張している。
何故なら、初めての授業参観をやるからである。科目は国語、児童にはこの日のために『家族について作文を書く』という宿題を出している。幸いにも忘れた子供はいない、ここまで円滑に進んでいる。
「では、みんなが書いてきた作文をお家の人に聞かせてあげましょう!! 出席番号順に発表するから……最初は"アリス・クリーム"ちゃんから!! 前に出て大きな声で発表しましょう!!」
金髪の女の子、アリス・クリームは堂々と前に出る。恥ずかしいという表情を一切しない……というより感情がわからないような女の子だ。
「私のお母さん。私のお母さんはいつも私に『勉強しなさい』と口うるさく言います。それはお母さんの愛情だと思い、受け入れ勉強します。立派な大人になるため頑張る私を、いつも応援してくれます。そんなお母さんは私の目標です。あんな大人になりたいです」
子供らしからぬ作文に教師は驚いている。周りの保護者もざわつき、アリスの母親は鼻高々としている。
「――というのはウソです。お母さんは鬼です。『勉強しなさい』って言うけど、ろくに家事をせずお父さんをコキ使います。私は『家事をしなさい』って言いたいです。私はお母さんに似たのです。お母さんはただのヒモ嫁です。ホントのこと書くとお母さんは鬼から魔王になります。この作文もお母さんが書きました。ダメダメな大人です。みなさんどうかそんなお母さんを叱って下さい」
今度は別の意味で、教師、周りの保護者がざわついている。
アリスの母親は恥ずかしさで教室を出ていく。
教師はどうしようかと悩んでいるが、先に進むしかないと判断し、仕切り直す。彼の心臓は鼓動を早めている。
「……アリスちゃん、ありがとうね。さ、さて。次は――アスティ・スタート君!!」
アリスからアスティ・スタートという短髪の男の子にバトンタッチ。その男の子は緊張しているのか、モジモジしている。
「え……と。タイトル『パパと新しいママ』ですっ!! 最近、ボクの家に新しいママが来ました。パパと新しいママはイチゴジャムの様に甘くベタベタしています。前のママの時はスムージーみたいにドロドロだったのがウソみたいです。新しいママは、お日さまのように暖かいです。ママはパパと二人っきりの時、仲良く格闘技しています。なぜか夜、ボクに内緒でするからボクも仲間に入れて欲しいです。これからもママとパパよろしくねっ!!」
微笑ましいが、恥ずかしい情事まで知れ渡ったアスティの両親は顔を赤らめうつ向く。それとは対照的にアスティは晴々とした表情に変わる。
「アスティ君、例えが上手く書けていい作文ですね。だけど、次からはもう少し内容を考えましょうね」
「え? 内容って? 家族のことならなんでも良いって先生言ったでしょ?」
「そ……そうですが」
「夜の格闘技のおかげで、ボクに兄弟が出来たらまた作文にするね!!」
「絶対アスティ君、夜の格闘技のこと知っているよね?!」
「? ボク知らなーい」
そういうと、アスティは自分の席に戻る。さっきよりはましだと思い、教師は仕切り直す。
「さ、てと……次はイレイス・ケースちゃん!!」
メガネをかけた三編みの女の子は静かに前に出る。
「……私のお父さん。お父さんは魔獣を育てています。ケルベロスとかリヴァイアサン、ユニコーンとかとか。みんなとてもいいこで、お父さんによくなついています。そんなお父さんの仕事は魔獣ブリーダーです。お客さんから色々な魔獣のしつけを頼まれます。どんなに火炎放射されようと破壊光線出されようとも、お父さんはニコニコしながらしつけます。そんなお父さんのしつけで、どんな悪いこでもいいこになります。お父さんのやさしさは世界一、そして大好きです!!」
この世界ではペットとして魔獣が飼われている。もちろん、犬や猫も飼われている。
しかし犬猫と違って、魔獣は扱いが難しく、ブリーダーに頼んで人になつきやすくするのが一般的である。何気に魔獣ブリーダーは重宝される職業であり、子供のなりたい仕事トップテンに入る。
イレイスの父親はにこやかに手を振るが、指が何本かない。噛まれたり、喰われたりで彼の体はボロボロである。
「……はい。ありがとうね!! 次――」
その後は何事もなく軌道に乗り出し、教師は一安心する。
そして、最後の児童へ。
「……それじゃあ、最後はメタリ・レジェンド君。前に出て発表しましょう!!」
「はい!!」
ハキハキと前に出る、見た目が元気が取り柄そうな男の子。
「ボクのお父さんは勇者です」
メタリは大きく元気にタイトルを言い、本文を発表する。
「ボクのお父さんは、今は家にいてボクと弟とお母さんで暮らしています。家事もしてくれたり、ボクたちの遊び相手にもなってくれます。とてもやさしいです。でも、明日には家を出て行きます。なぜなら、他の国を救うため旅に出るからです。いつ、帰ってくるかわかりません。さみしいです。でも、お父さんは苦しんでいる人を救うため、ワルいヤツを倒してくれる勇者です。この国もお父さんがむかし、救ってくれたとお母さんはいつも言ってます。だからお父さん、ボクのおねがいを聞いて……いつか世界全部を平和にしてください。いってらっしゃい、お父さん……っ」
メタリは泣きながら作文を読み終わる。
「……メタリ君、お父さんはすごい人だよ、いつか世界中を平和にしてくれるさ。だから、泣かないで。お父さんが行きにくくなるからね?」
教師はメタリをなだめる。
「コークス先生……。うん……」
メタリは涙を吹いて、この場に来た父親に向かって。
「お父さん、いってらっしゃい!! 頑張って!!」
元気よく、笑顔で父親に手を振りながら言う。
彼の父親勇者ラピスは、それを見ると。
「おう……行ってくる。必ず帰ってくるさ!!」
そう言ってこの場を後にする。勇者は新たな旅に出る。
その数秒後、学校のチャイムが鳴る。
「さて、授業を終わります。礼!!」
児童達の『ありがとうございました!!』と保護者の拍手で授業参観は終わる。