日常
平尾加奈は23歳。
大学を卒業してすぐ結婚して、今年で結婚2年目。1歳になる娘がいる。
その年の3月のことだった。
「不倫…してるんだよね」
それは、親友の清水千佳子の告白だった。
千佳子と加奈は同じ大学出身の同級生だ。
千佳子のTwitterを見て心配になった加奈が千佳子にLINEしたことで、二人はその日会ったのだった。
「好きになってしまったものは仕方ないよ。人の気持ちは止められないから…。」
加奈は言葉を選んで言った。
加奈は不倫が嫌いだし、そんなことをする人間は地獄に落ちれば良いとずっと思っていた。それは、妻の立場である自分にとって、自分の幸せを邪魔する存在になるのが『愛人』だからだ。
しかし、加奈にとって千佳子は特別な存在だった。
加奈は千佳子のことを非の打ち所のない良い子だと思っていたから、そんな千佳子が不倫をするなんて余程のことがあったのだろうと思った。
「職場の上司に告白されて、どんどん好きになった。奥さんとはデキ婚で付き合って半年で子供ができて、奥さんの事は愛してないって…私の方が好きだって。だから、奥さんとは離婚するって言ってくれたんだけど、はっきりしなくて…。」
げっ最低な男だ。
「でも、離婚したら子供も一緒に連れてくるらしくて。それは私嫌なの」
千佳子ってこんな子だったっけ?
宇宙人と話している気分だ…。
その日は、千佳子の話を一方的に聞いて解散した。
加奈には、とてつもなく重い話だった。
結婚しているのに、不倫する人ってどんな人なんだろう。
加奈は考え事をしながら夕飯の買い物をして、家に帰って娘の離乳食をつくった。
加奈と夫の司は共働きで、加奈は学校の事務のパート、司は飲食店勤務だ。夜は司が終電で帰る生活なので、司の帰宅まで自分の夕飯は待って、司に温かい夕飯を用意して一緒に食べるのが加奈の楽しみだった。
睡眠時間が短くなるのは辛いけど、夫婦の時間って大切だもんね…。
その生活は加奈にとって苦ではなかった。
「ただいま」
司が帰ってきたので、加奈はテーブルに夕飯を用意した。
「おかえりなさい。今度の休みっていつ?」
司はシフト制、加奈は土日休みのため、基本的に休みが合わない。
「うーん。微妙。ヘルプに回ることもあるから直前にならないとわからないや」
「そっかぁ…。残念だなぁ。」
夫婦の時間がとれないのが加奈は嫌だった。
「ところで、今月の生活費は?」
二人は財布は分けていて、お互いの給与明細を見せたことがない。それは、自然の成り行きだった。
加奈はお互いに決めた額を毎月出せば良いと思っていたが、ここ数ヵ月、司が家にお金を入れなくなった。
「カードの支払いで今月も厳しいわ。ゴメン」
「もう、私だってお金ないのに…。」
「ゴメン」
司は夕飯を食べ終わると、逃げるように風呂に入った。
司はスマートホンと携帯電話の2台持ちで、お金のかかる音楽関係の趣味をしていた。
ふと、充電中の司の携帯が加奈の視界に入った。
ピカピカと点滅をしている。
また、メールが来てるのかな…。
よくある光景なので、何の疑問にも思わなかった。
何か、最近体調悪いなぁ…。
食欲がなく、腹痛と吐き気がする。
具合が悪いなら、早く寝よう。
そう思って、加奈は洗い物を済ませてすぐに寝た。




