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異世界転生 生まれ変わったら、貴族の三男坊でした。  作者: 田中AP
異世界転生まで
5/6

第4話 覚悟

 [2050/10/3]

 人生初の人気者期間モテキからしばらく経ち、マスコミや関係各所の騒ぎが落ち着き始めた頃。

 どんよりとした曇り空の元、淡々としたチャイムの音が桜ヶ丘高校内に響き渡る。


 「でー、あるからしてー……おっと、終わりか。さて、今日の授業はここで終わりだ。委員長」

 「はい。起立、礼~」


 週明けの憂鬱な授業がようやく終わりを告げる。


 「おわったぁ~」


 HRも終わり、皆それぞれ帰り支度を済ませて下校する。

 大地は今週いっぱい部活があるからということで、僕はいつも通り一人での下校。

 少し以前と違う点があるとすれば、声を掛けてくれる友人が異常に増えたことなのだが、初心うぶな僕にはそこから先には進めない。

 まぁそんなわけで、今日は日頃の鬱憤うっぷん『主にマスコミのしつこい質問や、知らない人が突然話しかけてくる』を晴らそうと、少し遠出して桜ヶ丘公園に向かうことにしたのである。


 桜ヶ丘公園。

 名前のとおりここは国内でも桜で有名な公園で、よく観光ガイドの雑誌や春の番組で放送されたりするぐらいには有名な場所であり、自宅から徒歩二十分と意外と近い場所に位置する。

 まぁこれは自宅からであって、学校からでは自宅を通過して行く必要があるのだが、そんな場所まで歩く気もないのでバスでの移動となる。


 久しぶりに聞くバスのブレーキ音にアナウンスが流れ、赤いボタンを押す。


 「はぁ、ついた。ここも久々に来たなぁ」


 所要時間二十五分、たいした時間をかける事無く到着した僕は、早速停留所から少し先にある目的地へと移動を開始した。


 「お、自販機発見!」


 ポケットに入れた小銭を漁りつつ、自販機に向かう。

 色々悩んだが炭酸飲料を購入し、それを飲みながら公園内の駐車場に入っていく。

 駐車場側から少し歩けば、公園内を西から東に突き抜けるように続く一本の緑道が見えてくる。

 よく手入れされているその道は、四月になると沿うように植えられた大量の桜の木が美しい景色を広げる桜道に変わり、これぞ世界に誇る桜の名所のひとつと言えようその景色は、見るものを魅了する。

 だが、現在季節は徐々に涼しくなり始めた『秋』である。

 咲くわけがないと誰もが思うだろうが、桜ヶ丘公園の一角、丘の頂上に鎮座している一本の桜の木が、なぜか今年になって蕾を広げ始めたらしい。

 これは昨日、夕方のニュースで聞いた話なのだが、『これは狂い咲きなどではなく先祖返りなのだ! 間違いない!』などとよくわからないおっさんが力説していた話だ。

 まぁ正直どっちでもいいのだが、来年、僕はこの桜を見れるかわからないのだ。見れるならこの目でしっかりと見ておきたい。

 そんな訳で、現在緑道を抜けて丘を登っている。

 僕の前を進む人が何人か見受けられるが、さすがに平日の十七時ともなればそんなに人もいない。これならゆっくりとできそうだ。


 「ふぅ、もう少し……」


 意外と距離があるその丘をしっかりと踏みしめて歩き、ようやく頂上へたどり着いた。

 そこにはいくつかのベンチと外灯があり、桜の木を照らすスポットライトが設置されている。

 今はまだ暗くないので点灯していないが、そのうちこの桜もライトアップされるだろう。

 さて、それでは念願の『狂い咲の桜』なのだが、桜色が余りにも少ない気がする。


 「んー、まだ蕾が多いなぁ」


 来るのが早かったのか遅かったのか、一応所々咲いてはいるのだが、満開とはいえないその桜の木を見て少しだけがっかりした。

 『どうせなら満開が見たかったなぁ』

 そんな思いを隠せず、悔し紛れに炭酸飲料を一気飲みして近くに見つけたベンチへと腰を下ろした。

 桜を背にして町を眺めれば、意外と景色が良かったことに気がつく。

 それほど高い丘ではないのだが、緑道に植えられた桜の木よりは高い為、僕の家より先の学校までよく見える。

 徐々に陽が沈み、町の外の山々の輪郭を綺麗なオレンジ色がなぞる。

 太陽が沈む景色をじっと見つめながら、僕はポケットからスマホを取り出した。

 最早、癖になりつつある日課の『余命確認』だ。

 美しい夕日から視線を逸らし、『カウントダウンなんちゃら』を起動して表示される数字を見つめる。


 『179日17時間48分30秒』


 残り百七十九日。

 僕はこの僅かな日数で何が出来るか色々考えていた。

 元々そこまで野心家な訳でもないし、名前なんて残したいとも思わない。

 最初のうちは死ぬのが怖かった。ただ怖くて震えていた。

 僕はまだ若いのだから死にたくないし、色々遊んで楽しみたいと思っていた。

 夏休みを終えた辺りだろうか、僕に心境の変化があった。

 色々あって友人が大量に増え、知り合う機会もいっぱいできた。

 遊びに行く機会も格段に増え、新聞や雑誌に載ったりもした。

 マスコミが押しかけてくれば、大地や友人が必死な顔して助けてくれた。

 色々鬱憤ストレスが溜まる事も多かったが、それ以上に毎日が楽しかった。


 少しずつ心に余裕が生まれ、いつしか僕は『お世話になった人や友人に恩返しをしたい』と思うようになったのだ。


 だから、テレビや新聞でよく見るニュースなんて最早どうでもいい。

 僕は、第一に家族に恩を返し、第二に大地に何かを残し、第三に友人達への感謝の気持ちを残したい。


 そして、目標もできた。

 僕は死んだ後に生まれ変わりするのだ。

 知識や記憶を維持したまま、転生するのだ。

 根岸裕也の人生はここで終わるけど、その人生を糧にまた生きていくことが出来るんだ。

 そんなことを考えつつ、夏休み前に起きたとある出来事を思い出して思わず笑ってしまった。



 ーーーーーーーー [7月4日] ーーーーーーーー



 夏休み前の二限目の授業中のことである。

 太陽が昇るにつれ徐々に暑くなる教室の中、開け放たれた窓から吹き抜ける風に当たりながら、僕は授業とは全く違うことを考えていた。

 

 それは、来世について。

 生まれ変わった後のこと。


 どんな場所に僕は生まれ、どんな人間になるんだろうか。というか、そもそも人間として生まれることができるのだろうか。最悪、もしかして動物ですらないのではないか。

 鳥肌が立つ。そんな最悪の事態を回避することはできないのだろうかと、考えるようになったのだ。

 以前神様が言っていた話を思い出すに、循環する魂はある一定の周期でもって輪廻するらしいが、それが固定された種同士で行われるとは聞いていない。

 人間に生まれ変われたとしてもだ、そもそも記憶を持ったままって事実がよくわからない。

 それに記憶を持って生まれたとして、未発達な小さな脳や体に影響はないのか? 転生していきなり脳に大ダメージを負ったりしたらたまったものではない。

 多分、下半身不随とかになりそうだ。そんなことはあってはならない。

 そんな訳で、ここは神様の出番だと思い至った。

 今まで静観していた神様をなんとか呼べないかと思考した。

 しかし、どう呼べばいいのかわからない。そもそも呼べるのかどうかすら謎だ。 

 まるで聞いていない授業内容をノートに書きまとめつつ思考していると、突然、クラスの中心から猛烈な光が発生したのである。


 「うわっ!」


 いきなりの事態に僕は唖然としていると、何時ぞやに聞いたあの声が聞こえてきた。


 「呼んだかのぅ?」

 「え、あの。え、神様?」


 授業中にもかかわらず、唐突に神様は目の前に現れたのだ。


 「なんじゃい」


 さて、驚いて反応してしまったが、これは不味かったのではないか? そう思い、周囲の反応を伺うのだが、何故か誰一人反応することはなかった。

 

 「だから、なんじゃい」


 誰一人反応する事がない、と言うよりはまるで時間が止まっているかのように、僕達ぼくら二人以外の反応がないのである。

 その状況にようやく理解が追いついた僕は、ため息を吐きつつ椅子から立ち上がった。


 「えー、ないわー。なにこの軽い神様」

 「ずっと見ておったが、お主なかなか呼ばんからのぅ。やっと呼んだんで所かまわず来てやったわい」


 なにやら意味深な言葉が聞こえた気がするが、それどころではない。

 僕はこの状況をまず確認する。


 「えっと、皆って今どうなってるんです?」

 「ああ、こやつ等かのぅ? ちょいと時間軸を弄って、伸ばしただけじゃよ」


 ん? どういう事だ?


 「つまり、時間が止まっている訳ではないんですか?」

 「止めたら大変なことになるからの。まずお主は窒息死するし」


 なるほど、つまり時間を止めるという事は空気すら固定されるという事らしい。

 そんな中で、僕だけ自由にできたってなんの意味もないだろう。


 「危なっ……。あ、そんなことより、お願い……と言うか質問があるのです」

 「おお、わかっておるよ。お主の行き先じゃな?」

 「はい」


 そう、僕の転生先の話だ。

 これが事前に把握できれば転生後に色々できるかもしれない。

 

 「そうじゃのぅ、どれどれ……お主の行き先は『第五世界の惑星ヘルデス』じゃ」

 「ヘルデス……」

 「まぁ、これはワシがわかりやすいように呼んでおるだけじゃから気にせんでよい。実際にそこに住む生き物などこのような事実は知らんしの。

  ここは地球に比べたら遥かに文化も違う。転生したら驚くじゃろうな、お主の生まれる地域はとある王国の一角の貴族家のようじゃ」

 「貴族……ということは人間として生まれるのですか?」

 「そうじゃが、なんじゃ? 人間として生まれるに決まっておろうが。そんなことよりもそこの三男坊として生まれるみたいじゃな」


 とりあえず、僕は人間として生まれることがわかった。

 なんだかすごい家に生まれるみたいだけど……その前にこの神様、殴りたい……。

 

 「物騒じゃのぅ」

 「くっ……えっと、どのような場所なのですか?」

 「詳しくは世界間が違うので話せないのじゃが……まぁヒントはやろうかの。まず地球でいう中世時代より多少遅れていると見えるの。お、これは懐かしい……」

 「中世ですか……」

 「まぁ、この世界のこの時代ではなかなかいい場所のようじゃ。よかったのぅ」

 「えっと、はい」


 その後も役に立つ情報を色々聞き出せた。

 僕が生まれることになっている貴族家は、王家からはるか辺境の海に面する位置にあるらしく、なかなかに長閑な場所らしい。

 麦や野菜を育てているらしいが海に漁に出たりはしないようで、そこらへんが少し謎だ。

 とまぁその他にも色々気になることがあったのだが、神様がお帰りになられるということで、この話はここで終わる事となったのだが、僕はもうひとつ、気になることができた。


 「ん? 中世って、いつだっけ?」

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