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異世界転生 生まれ変わったら、貴族の三男坊でした。  作者: 田中AP
異世界転生まで
4/6

第3話 人生の分岐点

 [2015/8/2]

 翌日、夏休み明け早々僕は学校を休んだ。

 人生、初のサボりだ。

 出勤の早い両親には心配されたが、「大丈夫」「ちょっとバテて頭痛いだけだから」と言い訳しつつ、学校に休みの連絡を入れてもらった。

 長期間の夏や冬のような休日以外で平日の昼に自宅にいることは、学生になってから始めてのこと。


 「……はぁ。……うつだ」

 

 それもそうだろう。なにせ昨日は余命を宣告された挙句、助からないとまで言われているのだから。

 なにより、こんな話誰にも相談できそうにない話だというのが辛い。まぁ、こんな話をしたところで誰が信じるんだって話だが……。


 「……はぁ……」


 ベッドの側にある小テーブルに置かれたスマホを手探りで探す。

 ガサゴソと布団の中にスマホを持った手を収納すれば、とあるアプリの『カウントダウンなんちゃら』を起動する。


 『242日3時間12分10秒』


 ピッ、ピッ、ピッ、と某映画のあのような電子音を周囲に響かせながら、画面内に映る数字が刻々と減っていく。

 「誰が使うんだ? こんなアプリ」だなんて大地が色々くだらないアプリをダウンロードする度よく言ってたっけ。

 正直僕も馬鹿にしていたのだけれど、ふざけた名前の割にお前、すごく役に立ってるわ……僕の寿命を刻むのに。

 刻々と、ただ減っていく数字を眺め、裕也は何度も何度もため息を吐いた。



 しばらくして、なんとなく気分が落ち着いてきたので体を起こしてみる。


 「死ぬって、こんなに怖いんだなぁ」


 実際、自分がこうなるなんて思ってもみなかった。

 他人事のようにテレビで人身事故やら自殺他殺のニュースを見ていたが、こうなってみると改めされる。

 テレビや新聞を見て馬鹿にしていた自分が恨めしい。


 「死ぬって事は、終わるって事なんだなぁ」


 妙に哲学的な事をぼやきながら、僕は動きたくないと訴える体に鞭を打ち、お腹が空いたと主張する胃袋に答えるべくキッチンへと向かった。


 「気分はどん底なのに、腹って空くんだなぁ……」


 リビングへ行くと、テーブルの上にメモ書きと母親が作って行ったのだろうお弁当を見つけた。

 時計を見れば、時刻は十一時。学校では三時限目が始まった頃だろうか。

 「そういえば昨日は晩御飯食べてなかったんだっけ」などと思い出しながら、この憂鬱な気分を少しでも晴らそうとテレビのリモコンを手に取った。


 さて、いつもの八チャンネルを映して、丁度始まった昼前の特番を見ながらお弁当を食べることにする。


 『さて、本日の特ニューはー、これです!』

 

 ジャンッ! という効果音と共にパネルがひっくり返る。

 時系列順に載せられた事件や記事が今日の特番のニュース……もとい、と……特ニュー……なのだろう。

 

 『北朝鮮にて張云チョウウン氏が宣言された第二次朝鮮戦争ですが、先程入った情報によりますと北の艦隊がアメリカをトップとした韓国・日本軍により駆逐された模様です』


 『八代さん、今回のこの戦争に日本も参加している訳ですが、集団的自衛権が可決されてから初めての戦争参加となる訳ですよね。今後、この自衛権による隣国の影響などはないのでしょうか?』


 『そうですね、現在は北朝鮮とアジア諸連合が対立した関係となっているので、現状は特にこれといった影響は無いのですが、米大使館より中国及び韓国における日本大使館、ならびに観光客に一時退避勧告が出されたことを考えると、今後日本への影響もあるのではという意見もあるようです。また、国内でも未だ集団的自衛権を認めない反対運動が活発化していますので、今後政府がどのように対応するかによって状況が変わりそうな状態です』


 『なるほど、今後はさらなる注意が必要という訳ですね。では、韓国国境付近にいるリポーターに中継を繋ぎましょう。韓国の伊藤さーん!』

 

 『はい! こちら韓国国境にいます伊藤です。現在、韓国は米国及び日本と情報を連携し、北の艦隊を包囲これを撃沈。また、ここ韓国国境付近では韓国への威嚇射撃が頻発していますが、今現在、こちら側に大きな被害は出ていない現状です』


 『日本海におけるけん制はうまくいったようですが、今後韓国はどのような対応をとるようですか?』

 

 『はい。日本大使館に入りました情報によりますと、まもなくこの一帯には非常事態宣言が発令され、韓国軍が防衛体制に入る模様です』


 『そうですか。大変危険な状況です。伊藤さん、気をつけて非難してください。ありがとうございました』


 『ありがとうございました』


 『韓国からの生中継でした。八代さん今後の中国との……』


 なにやら知らないうちに戦争になっていたようだ。早いうちに終わって平和になってほしいものだ。

 そんなことを思いつつ、つつがなく食事を終えてしばらくボーっとしていると、気になるニュースが聞こえてきた。


 『次のニュースです。○○県○○市の桜ヶ丘町にて通り魔事件が発生しました。犯人は未だ捕まっておらず、現場付近は警戒態勢、また付近一帯は通行止めとなってます。中継が繋がってます、現場の佐藤さーん』


 『はい。こちら桜ヶ丘町の佐藤です。現在ここは国道七号線より南に3キロ程移動した現場の道路ですが、静かな住宅街の一角で朝の通勤時間帯での事件でした。

  犯行時刻は午前八時頃、少し前までこの道は人通りの多い時間帯で、特に通学中の学生や出勤する会社員が多く通行していたようで、今回はその時刻を見計らっての犯行だった模様です』


 『なるほど……で、被害にあった方の情報はどうですか?』


 『はい。えー、先程の桜ヶ丘警察署の発表によりますと、被害者は桜ヶ丘高校に通う高校生の伊藤愛奈さん十七歳。腹部を刺され出血して倒れている所を偶然通りがかった会社員が発見し、通報した模様です。未だ犯人の目撃情報は入っておらず、病院に搬送された被害者の意識が回復するのを待っている状況となります』


 なんと、僕の通っている高校のしかも同級生だ。

 というか、この子クラス委員じゃん。僕もよく話したことがある子だ。

 突然の事件に、僕は先程までの鬱な気分は吹っ飛んでいた。



 *



 [2015/8/3]

 翌日、僕はいつものように学校に登校した。

 いつまでも引きこもっていても仕方が無いし、それに平日のあの時間に家にいるってのがなんだか落ち着かなかったので、気分を入れ換えた。

 朝、家を出る前にちょいと両親に心配されたが、問題ないと言って出てきた。

 家族に心配されたのなんていつ以来だろうか……。


 「お、裕也! おはよう!」


 「大地ー。おはようー」


 さて、教室に到着すれば待っているのは質問(なんで昨日休んだの?)タイム……と思っていたのだが、やはり昨日の事件の影響か、皆あまり元気がないようだ。彼以外に限るが。


 「聞いたか? 裕也、伊藤さん刺されたんだってよ?」


 「僕も昨日ニュースで見たんだ。びっくりしたよー」


 どこかしこで似たような話題が絶えず、何人かはテレビの取材を受けたとかどうとか少し話題が盛り上がったりもしたが、程なくして担任の先生が教室に入ってきたことにより中断される事となった。

 伊藤さんの状態を先生がホームルームで説明してくれたのだが、出血の割に思ったほど傷が浅かったらしく命に別状は無いが、軽いショック症になっているらしく、しばらくは安静にされるとのことだ。また、犯人が未だ捕まっていないらしいので、皆注意するようにと何度も何度も聞かされた。

 と、そんな事件ことがあったせいか、今日はお昼で学校は終わるらしく、いつもの時間が流れ始めた。



 「さて、裕也ー帰るぞー」


 なんだかんだであっという間にお昼となり、下校時刻となった。


 「うん。今日は部活ないの?」


 「おう、事件あれのせいで桜ヶ丘の高校はどこもお昼で帰すって、さっき鈴木先生が言ってたぜ?」


 「そっかぁ、怖いね」

 

 「だなぁ。ま、そんな奴俺にかかれば何てことないがな! わっはっは! 来るならきやがれ!」


 「ちょ、それ死亡フラグ……うん。今日は違う人と帰ろう」


 「だわぁ! 嘘だっての!」

 

 いつも元気な大地でも、さすがに通り魔とは出会いたくないようだ。

 教室を出て廊下を進みながら僕達はそんな話をしつつ、冬休み前以来だろうか、久しぶりに二人で下校することにした。


 昨日の事件現場は、僕が住む家から道路を二本跨いだ先の住宅街の道路なのだが、大地がうるさく「ちょっと見て行こうぜ?」とやじ馬精神を盛らせ、僕を引っ張って少し遠回りするルートになった。

 なんてこともない、いつもの帰り道。だけど、昨日はこの近くで傷害事件があったんだ。

 怖い怖いと思いつつ、十字路の角を曲がった先が事件現場だなと大地の案内で進めば、いつもは人通りの少ない道路が人で溢れかえっていた。

 こんな状態じゃ、犯人の好都合なんじゃないかなぁと僕は思う。

 記者やカメラマンは取材で忙しいのかあっちへこっちへとウロウロし、警察の人ややじ馬だろうか近所の一般人だろうか、大勢のおじさんおばさんがウロウロしている。

 なんだかなぁとため息を吐き、僕は大地と回れ右して自宅へと帰ったのであった。



 *


 [2015/8/10]

 それから数日が経ち八月十日。あの日の通り魔事件の犯人は無事警察に捕まったとニュースで放送された。

 なんてことのない朝のひと時のニュース。その事件だが、なんと民間人がその逮捕に協力したようである……のだが、そこでテレビに映った衝撃の映像に僕は朝食の味噌汁を盛大に吹き出してしまった。


 『いやぁ、大活躍でした! 根岸さん! 犯人を捕まえようと思った時の心境はどうだったんですか?』

 

 『えっと、はい。なんとかしなきゃと必死でした』


 『すばらしいっ! そのときの状況を聞かせてもらえないですか?』

 

 『あの……、学校に遅刻……あ、連絡してあると……はい。その日の朝はいつも通りに学校へ登校してたんですけど、あの辺りを僕が歩ってたときに偶然前を歩いていた女性の方が襲われそうになっているのを目撃しまして、こう……えいっ、ってタックルしました』


 『なるほど、そして犯人は犯行を行うこともできず、偶然・・・開いていた側溝に足をとられて頭を強打、それで気を失ったという訳ですね!』


 『はぁ、そんな感じです……』


 そう、これ僕です。

 なんか犯人捕まえちゃったんですよ。

 訳もわからず「えいっ」って感じで、犯人捕まえちゃったんですよ。


 それは、あの事件から四日後の八月六日のこと。

 その後の捜査でも犯人は見つからず、二件三件と多発する通り魔事件はさらに過激犯行を行うようになったのである。

 正直、学校とか休校にしてほしいぐらいには僕もビクビクしながら『犯人なんて頭打って捕まればいいのに』などと思いながら登校していたのだが。下を見て歩いていた僕が偶然顔を上げたとき、前方を歩いている女性後ろに怪しく隠れ尾行する黒ずくめの男がいるのを目撃してしまったのである。

 明らかに怪しいその犯人(黒ずくめ)を見て、僕は思わず駆け出したのだ。

 するとどうであろうか、あれやあれやのうちにその犯人(黒ずくめ)に僕はタックルをかまし、女性はいきなりの状況に訳もわからず叫び声を上げ、これまた偶然通りがかった警察の人が現場を目撃し、そのまま取り押さえたというのが今回の逮捕劇だ。

 あの前の人が僕だったらと今でも冷や汗がでる心境だが、このとき僕は運がよかっただけなんだと自己完結したのだった。


 そんな訳で、現在僕は周りからの賞賛に正直戸惑っています。

 父さんは「さすが息子だ」とか言ってたが、さすがに母さんは心配してくれた。

 学校へ行けば取材だカメラだと右に左にひっぱり回され疲れ果て、なんとか大地をバリケードに校門を通り過ぎれば今度はクラスで大騒ぎだ。


 「つ……疲れた……」


 人生初のモテ機到来。いや、違うか。

 そんな訳で、僕の残り少ない人生はこの辺りから着実にトチ狂い始めたのである。


 『異世界転生までの残り日数:234日(地球時間)』

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