第2話 天国へのカウントダウン
その後、神様から様々な話を聞き、僕はなんとなく現在の状況がわかってきた。
曰く、僕の寿命は残り少ない。
曰く、目の前のふざけたおじいさんは地球を含めた七つの惑星……というか、世界を管理する神様である。
曰く、詳しくは調査中だが、僕は死んだ後に地球で輪廻することはできないから、他の世界にいくらしい。
正直、信じられない。
ありえないだろ。なんで僕なの? まだ、若いのに!
そんな僕はさらに余計な事を口走ってしまった。
「神様なのに、僕を助けずほっとくんですか?」
「む、聞き捨てならん。じゃからこうやってお主の前に現れたというのに」
「では、僕を救ってくれるんですか?」
縋る思いが勝手に言葉になった。僕は若いんだ、まだ死にたくない。
だから返ってくるであろう『救い』の言葉に僕は期待した。
だが、現実は非情である。
「それは無理じゃ」
「どうして!? 神様なんでしょ!? ならそんなの簡単でしょ!」
「ワシら神はのぅ、世界には干渉できても魂には干渉できんのじゃよ。これは神界でも有名な世の理じゃ」
さも当然とばかりに神様は語る。
「よって、お主は寿命で死ぬ。正確には魂の循環準備により、徐々にお主の肉体からの魂が分離していくのじゃ。正確には残り地球時間で二百と四十三日六時間二十三分でお主の魂は循環準備が完了し、その後肉体と完全に分離する。
普通の魂ならば、これより五年ほどかけて魂が世界中を漂い、記憶域を『消去』していくのじゃが、お主はちと特別でのぅ、魂の記憶域が基準値より大幅に大きいせいか、地球で循環する流れより大きくはみ出してしまったのじゃ」
どこからともなく取り出した水瓶から、神様は目の前の惑星に水を振り掛けた。
「現在の地球の魂の循環はこのような感じなんじゃがの、お主の魂はこの水では表せん程大きいモノなのじゃ。世界の理でのぅ、それぞれの世界には決まって許容量というものが存在しておるのじゃが、現在の地球にはお主が入る分の隙間がもうないのじゃ。よって、はじき出される形で徐々に魂の循環準備が他人より早くなってしまったのじゃろうて」
地球の周囲をゆっくりと漂う水とは別に、ある一点から眩い光を放つ白い水が徐々に吐き出され始める。
「通常の魂はこのように水のような半透明な色で実際に視認できるのじゃがの、お主の場合はその魂に膨大な記憶域が圧縮封入されているようでの、こう白く輝いて見えるのじゃ。そしてこの今流れ出ているのがお主の魂の軌跡じゃ。これから転生するに当たっての道を形成しているのじゃろう」
ゆっくりと地球から離れるその眩く光る白い水は、どこまでも流れていく。
「これが、お主の魂の準備期間じゃ。まだ、他の『入れ物』とリンクしていない状態じゃからここまでで止まっておるが、これからこの軌跡が伸び続け、新しい魂の『入れ物』を探し出すことじゃろう」
説明が終わったのか、神様は再び指を鳴らして地球の周囲を漂う水を回収する。
自然と集まる水を目で追いながら、僕はただ佇んでいることしかできなかった。
そんなこんなで不思議空間から僕は帰ってきた。
今回の件は、一応神様としても想定外だったようでお詫びに『今後、余命まではちょっとした恩恵を与えよう』と言ってくれた。
『恩恵』ってのがよくわからないが、まぁ無いより有ったほうがいいだろうと僕は特に考えるでもなく、とりあえずお礼を言ってお店を後にした。
いろんな情報が頭の中を駆け巡る。
困った事に僕の余命は残り僅か。
死亡原因も決まっているようで、突発的な心臓発作により僕は死ぬらしい。
もっと人生楽しみたかった。
もっともっとふざけてみたかった。
恋愛もしたかったし、結婚だってしてみたい。
だが、何をしようにも許された残り時間は『二百と四十三日十七時間』。
「はぁ……」
ため息を吐きつつ、取りあえず僕はスマホのアプリストアで『カウントダウンなんちゃら』というアプリを検索してダウンロードした。
虚しい天国へのカウントダウンだ。
そんなことをしながら歩いていたら、気づけば僕は家についていた。
帰り道の記憶が殆ど無い状態である。
「あぁ……、気をつけなきゃなぁ」
しばらく後悔した後、誰も居ない我が家に到着した僕は、真っ先に部屋の角に置かれたベッドに潜り込んだのであった。
『異世界転生までの残り日数:243日(地球時間)』