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異世界転生 生まれ変わったら、貴族の三男坊でした。  作者: 田中AP
異世界転生まで
2/6

第1話 汝の余命、残り四百日

 それは、不思議な出来事だった。

 啓示というのだろうか…。はたまた、神のお告げという奴だろうか。

 僕、根岸裕也ねぎしゆうやに突然訪れたそれは、一月のどんよりとした寒い日であった。


[2050/1/1]

 一月一日。僕はクラスの仲のいい友達と初詣に来ていた。

 この神社は僕が住んでいるここ、桜ヶ丘でも有名な神社で毎年友人とここに御参りに来ている。

 小さい頃はよく両親と来た記憶がうっすらとあったりするのだが、最近は仕事がすごく忙しいらしく、あまり顔を合わせることも無くなった。 さて、そんな清清しいどんよりとした、日の出も見れなかった年明けでげんなりしていたのだが、僕に更なる追い討ちがかかった。


 「裕也ー、次だろ? お前いくら賽銭するー?」


 「んー、僕は今年こそいいことあるようにってね、……五千円入れちゃおうかと」


 「「「おおおおー」」」

 

 そんな話をしながら並んでいると、ようやく空いてきたのか僕達の番がやってきた。


 「よっしゃ! んじゃ、いくぞ!」


 親友が掛け声を挙げる。

 みんな仲良く小銭をジャラジャラ賽銭する中、僕だけお札を折りたたみ投げ入れる。

 なんとなく優越感。


 「賽銭よーし! 二礼二拍手してー、今年も色々祈願! あ、俺は出会い希望!」


 一人うるさい奴がいるが皆それぞれ祈り始め、僕も毎年同じだが健康祈願をする。

 そして、一礼して帰ろうとしたその時だ。


 『汝の余命、残り四百五十五日』


 新年早々、なぜか鮮明に聞こえてきた『言葉おつげ』がこれ。

 しかもせっかく健康祈願した矢先に『僕の余命はあと四百日なんだぜ』だなんて……余りにも酷すぎる。 

 五千円も入れたのに……。

 正月早々苦笑いしながら、誰かの悪戯だろうとそのとき僕は気にもしなかった。



 初詣の帰りで何人かの友達とさよならし、僕は親友であり幼馴染兼腐れ縁の草守大地くさがみだいちと一緒に自宅へと歩いていた。


 「裕也! 帰ったらハンターモンステイムやろーぜー」


 「えぇっ! 僕、まだスライムしかテイムできてないのに無理だよ! そもそもどんなゲームかもまだわからないのにー」

 

 そんな僕を見て、大地はなぜかしぶ顔でゲームの説明を始める。


 「ほほぅ、それならば説明しよう! 最近流行り出した某メーカーで爆発的大人気を誇るVRゲーム『ハンターモンステイム』とは、モンスターをテイムするゲームだ!」


 「いや、そこは知ってるけど……」


 ドヤ顔で大地が話し続ける。


 「その物語の始まりは地方の貧しい村から始まる! 主人公はある日、母親が病気がちになったことがすごく心配で、森へ薬草を採取しに行くことを決意するのだ!」

 

 「迷いながらも、『ムーダ草』っていう薬草を発見するんだよね?」


 「そうとも! だが、そこは今にも崩れそうな崖! しかも、ぎりぎり手の届きそうな場所なんだ! なんて卑怯なんだ! 普通の精神状態であれば、まず近づかないそんな場所だが、主人公は歩みを進めてしまう! 結局『ムーダ草』は手に入れる事が出来たのだが、主人公はそのまま崖から足を滑らせて落下してしまう! そう! ここからゲームが始まるんだ!」


 「テキトーなんだかいい話なんだかよくわからないよね……」


 「主人公は様々な困難を乗り越え、なんとか森を抜けて村へとたどり着くのだが、そこはもはや人の住める環境ではなかった。

  なんと! 村はモンスターの襲撃にあってしまう!」


 「そこ……ちょっと泣けたよ……」


 「かくして主人公は決意する! 村の人々の無念を抱き! あふれ出る涙を流しながら! 冒険者テイマーになることを!」


 「大地……近所迷惑だよ……」


 とまぁ、地方の村に生まれて将来は『テイムマスターに僕はなる!』的な流れで様々なイベントやクエストをこなしていくゲームである。

 今回僕達はそのゲームでアップデートされた新要素でもある『レッツ連携プレイ!』をするつもりであるのだが、僕は正直初心者だ。

 大地なんて発売以前からベータテスターで、発売当初に並んで買ってきたらしい。うらやましい。

 

 「大丈夫だって! なんなら俺のスーパーテイムボールやろうか?」


 「ほんと!? 僕、あれ高くてまだ一個もないんだよー」


 「しゃーねーなぁ。いっちょ鍛えてやりますかー」


 「うぇぇ、大地強いんだもんさー。ちょっとは手加減してよね……」


 そんなこんなで自宅に到着。

 僕の家は三人家族で住むには広すぎる二階建ての五LDKだ。父さんは有名な銀行の部長職で母さんは病院の婦長さん。

 そんな訳で意外とうちは裕福なのです。近所では根岸ハウスと呼ばれるぐらいにはちょっと広いです。


 「あ、なんかむかつく」

 

 「ちょ、大地ひどいよ……」

  

 無邪気に笑いつつ大地を家に招いた。

 大きな玄関にたどり着くと、郵便受けに入っていたいくつかの年賀状を取り出し、玄関を開ける。


 「おじゃましまーす!」


 「ただいまー」


 誰もいない静寂の中に元気な声が響き渡る。

 両親は仕事が忙しい為、いつもこうして家には僕以外誰もいない。

 普通の一般家庭なら一家団欒和気藹々と楽しむのだろうが、僕はここ何年も一人ぼっち状態だ。


 「よっしゃ、ちんたらしてないで早く部屋行くぞ!」


 「こら、ここ僕ん家!」

 

 僕の部屋は広い廊下の先にある階段を上ってすぐ右にある八畳間の一室だ。

 部屋には特にこれといったものはなく、机の上には四十インチの液晶ディスプレイに最近発売したハイパースペックPC。窓の脇には高級そうなコンポにソファーにベッドにと、とくにこれといったものはない……ないのだ。

 

 「相変わらずスゲー部屋だわ」

 「これしかないからね」

 毎度毎度関心する彼に、僕は自傷気味にそう言って笑った。

 そんな僕の態度に大地はハッとしたのか、話題を変えようと部屋のソファーにドカッと沈み込む。


 「んー、まぁ……あれだ、さ……さっそくやろうかー」

 

 「アッハイ、ソダネー」

 

 僕達は自宅の無線ネットに接続、まるでヘルメットのような脳波干渉型VRギアを装着し、VR世界にダイブした。

 

 僕がVR世界にダイブすると、五分ほど遅れて大地もやってきた。

 ここは各個人の所有するギヤに内蔵するいわば個室、友達登録することで扉が生成され、相互間の行き来ができるようになる……のだが。

 

 『相変わらずなんもねー部屋だな』


 『うるさいよ だって買ったのついこの間だよ?』


 そう、このVRギヤが発売したのがついこの間のこと。僕はまだ数回しかこのゲームをやったことがないのでずぶの素人なのだ。

 したがって個人部屋を持ってはいるが、その内装の仕様やらなにやらは全くといって手をつけていない。

 そんな訳で現在、部屋という名の真っ白い空間に僕たちは浮遊しています。


 『とりあえずよ、空間固定だけはしとこうぜ? 俺、猛烈に今気持ち悪いわ』


 『うん。えっと……こうやって……ああやって……』


 めまぐるしく変わる周囲の空間を気にすることなく、ああだこうだと大地は支持を出す。

 そのおかげもあってか、数時間を要し、ようやく部屋と言えるまでの空間となった。


 『なんということでしょう。なにも無かったあの白い空間に、八畳程の畳部屋が生成されたのです』


 『大地、そのモノマネぜんぜん似て無いから……しかも何故和室……』

 

 『さて、部屋も出来たことだし、いざ行かん! モンスターテイムの世界へ!』


 『はいはい』


 という訳で、僕たちはゲーム『モンスターテイム』の世界へとダイブしたのである。



 毎度おなじみのあの曲からゲームが始まり、僕たちは『始まりの村』に出現した。

 一応、これは裕也のデータということもあって、プロローグ終了後からのスタートという訳だ。

 現在村が物凄い勢いで燃えてます。


 『わわわわ! どうしよう!』


 『いや、落ち着けって。これ消せないから。取りあえずてきとーにモンスターテイムするぞー』


 『え、あ、うん』


 と、いきなり赤いボールを裕也に渡し、大地は森へと駆ける。

 どうしたんだろ? と、その様子を伺っていると……。


 ドドッドドドドドドドド


 まるで地震の予兆のような地響きが裕也の耳に聞こえてくる。


 『おーい! つーれーてーきーたーぞー!』 


 軽い感じで笑いながら手を振る大地の後ろには、ウジャウジャといるわいるわモンスターの群れだ。

 これぞ伝家の宝刀、モンスタートレイン。

 

 『う……うわぁ、わぁああああああ!』

  

 『あ! こら! 裕也! 逃げないでソイツ捕まえろって!』


 『無理無理無理!! 怖いってー!』


 『バッ! お前! 俺にスーパーテイムボール投げんな!』


 『ムーリー!』


 そんなこんなでなんとか裕也は奮闘し、ゲームを始めて早八時間。一旦ゲームを止めて休憩をとる事にしたのだが、昼をも忘れ、気づけばもう日が沈み始めている。


 「大地もう夕方だよー?」


 「早っ、まぁいっか。もうこの際だから今日泊まっていくわ」


 「ええっ、急だね!? なんも準備してないよ! もう……とりあえず晩ご飯電話してくるー!」


 「おう……ん? 電話?」


 なにやら不振な言葉を残し、裕也はリビングに向かっていった。

 そして、やってくる晩飯のお時間……。


 「なん……だ……この、シースーは……」


 「何って、ご飯?」


 「お前、俺シースーなんて回ってるとこしか行った事ないんだぞ!」


 「あ! 大地ー、僕のこと馬鹿にしてるでしょ?。寿司ってねー、食べ物なんだから回らないんだよ?」


 「くっそ、腹立つ……もういい! 食うぞ!」


 「うん!」


 僕達はそんな感じで、結局数日間に渡るゲーム三昧の日々を送ったのであった。





 [2050/8/1]

 それから半年をちょっとすぎて、真夏の暑さがピークに達した夏休み明け。






 休み明けというのもあって暑さでバテる憂鬱な授業から開放され、いそいそと帰り支度を整え下校する。

 登下校する際はいつも同じ道を通るのだが、この日は暑さもあってか日陰を求めて歩いているうちに、何故か気がついたら違う道を歩いていた。


 「あれ? ここ……どこ?」


 今まで育ってきた見慣れた町だから、迷うことなんてないと思っていたけど、まさか迷子になるとは思いもしなかった。

 なにやら不思議な感じがする古い商店街のような道。

 とぼとぼと汗を拭いつつ歩く。見覚えのある建物を探していると、ちょっと気になる建物を発見した。

 見た目は古めかしい建物で、壁に蔦が張っている。入り口の近くには様々な置物が置いてあり、ある種のリサイクルショップの骨董品店ような立ち振る舞い。

 そして、その入り口に掛けられている『オーぺン』の文字。


 「いや、オープンでしょ……」


 店先でズッコケつつ、なんとなく興味本位で僕は店内に入っていった。


 「おじゃましまーす……」

 

 店内はちょっと埃臭いが、嫌な感じはしない。

 様々な品々が置かれていて、『これ、なにに使うんだろ?』的なチューブが渦を巻いて刺さってる謎の容器やら、やたら凝った細工の短めな杖? のような物。更には古めかしい羊皮紙のような巻物が無造作に置かれている。

 何かに例えるなら……そう、ちょっと前に映画でやってた魔法使いが杖を買い物に行くようなお店だ。

 まぁ、僕は決して壁やふくろうに声なんてかけないけどね。

 店員さんも見当たらないので、適当に物色したら出て行こうと思った、その時だ。


 「若いの、人生楽しんでるかのぅ?」


 突然後ろから声をかけられ、僕は驚きのあまりその場で立ち尽くした。

 恐る恐る振り返ってみれば、そこには威厳溢れるおじいさんが腕を組んで立っていた。

 白を基調とした服装に黒の数珠が連なるネックレスをした、白髪で髭が立派な腰の曲がったおじいさんだ。

 こんな特徴的な知り合いなんていないし、ましてや、不審者って感じでもない。

 ……それにこの声……どこかで……。


 「えっと、おじゃましてます……」


 「かまわん、ゆっくりしていくがよい。それより、ここに来るのにずいぶん時間がかかったのぅ」


 「えっと…?」


 「お主の余命も一年をきったみたいだのぅ?」


 そう言われて僕はようやく気がついた。半年前のあの『言葉おつげ』と同じ声だ。


 「なんなんですか? おじいさん……失礼ですけど正月にも悪戯しませんでした?」


 ちょっと失礼な言い方をしてしまったかもしれないが、こういう悪戯はすごく嫌いなので、僕は少し強めにでた。


 「なんじゃい、ワシの言葉はそんなに信じられんかね? そんな考えだからお主は人生損するばかりなのじゃ。若いもんはもっと素直に受け取るべきぞ?」


 組んだ腕を解き、大げさにジェスチャーするおじいさんがゆっくりとこちらに近づいてくる。

 『って、いやいやいや信じられないから! だいだいなんなの? 僕になにか用がある訳?』

 と、目の前のおじいさんにそう問いかけようとした時だった。


 「そうじゃよ。ワシはお主に用があって第三惑星『地球』に参った」


 おい、地球……って、あれ?

 

 「僕、今声に出したっけ?」


 「ああ、別に声に出さんでも大丈夫じゃ。ワシ、心読めるし」


 「へぇ! それってすごく便利ですねぇ! ……って、そんな訳あるかぁー!」


 「おわっ! なんじゃい?」


 「『なんじゃい?』じゃないよっ! なんで聞こえてるの!? 声出してないし! つか、そもそもあなた誰!?」


 唐突に現れ、僕の心を読んで余命宣告してくるこの謎のおじいさんはなんなのだろうか。

 これはあれか。高齢の方々によく現れるあれか。更年期障が……って、なんかすごく睨まれた。


 「失礼なやつじゃのぅ。そこらの老いぼれと一緒にするでない」


 そう言って咳払いすると、再び話し出した。


 「ワシは七つの世界の惑星を統べる神、デミュールゴスであるぞ。まぁ、気軽に神様とでも呼ぶがいい」


 「……は?」


 末期だ……。これはいよいよ末期症状だ、このおじいさん。

 変な話をしてくると思えば今度は自分を『私は~神だ~』的なノリで使ってくるとは……。


 「おい、こら。ワシの話を聞かんかい」


 ちょっと、かわいそうだなぁ。更年期障害ってどこの病院紹介すればいいのかな……。

 ここは、あえて精神科にでも……。

 

 「ワシはトチ狂ったジジイか! この阿呆が! これだから若いもんは……って、そんな場合ではなかった」

  

 突然の自称神様によるマシンガントークに僕が驚いていると、ふと店内の雰囲気が変わった。


 「裕也よ。お主のこの世界での余命はもうすぐ終わりを迎える。今のうちに出来ることをせねば、後悔する」


 未だに信じられない話だと、僕は食って掛かる。

 

 「えっと……またそれですか……。そもそも僕、すごく元気ですよ? 病気とかかかったことないし。それになんでそんなことわかるんです? 大体、神様だとかって証拠でもあるんですか?」


 これがいけなかった。

 僕のその言葉を聞いた途端、やたら上機嫌にニヤニヤしだして自称神様は言った。


 「ある」


 心臓にズシンと響くその二文字に、僕は嫌な汗をかきつつも次の言葉を待つ事しかできなかった。



 それがかえっていけい対応だったんだと、この後さらに後悔することになるのだが……。


 「ついてくるがよい」


 「え? あ、ちょっと!」


 強引に僕の手を引っ張り移動する。そして、お店の古書コーナーに差し掛かったときだった。

 突然、目の前が真っ暗になったかと思えば、いきなり目の前に丸い球体が出現した。

 

 「うわっ!」


 ……出現した、という表現はおかしいか。

 冷静になってみれば、僕がこの不思議な部屋(空間)に移動したというのが正しい表現かもしれない。

 その球体から、まるでこの部屋に元々存在するかのような……なんとなく、ジリジリと伝わってくる気がする。

 そんな棒立ちの僕を余所に、自称神は不思議と響き渡る謎の音を指で鳴らす。


 パチンッ


 すると、大小様々な七つの球体がゆっくりとこちらの方へと集まってくる。

 

 「どうじゃ。これが、ワシの管理する惑星であり……」

 

 両手を広げながら紹介するその自称神は、誇らしげに語る。


 「……世界たちじゃ!」

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