プロローグ 不自然な『順序(シークエンス)』
久々の投稿。
『輪廻』という言葉をご存知だろうか。
それは人類を含めた動物や昆虫、木々や草花など大小様々な形の『魂』が世界のシステムによって循環する事を意味し、このシステムには必ずそれぞれが決められた寿命という流れで生死する『順序』が決められている。
そして、それを管理するのが最高神の一神である七つの世界を管理する神、デミュールゴスであった。
「ふぅ、終わったのぅ。今月のノルマまであと二億六千の魂か」
頭上にふわふわと浮かぶ電光掲示板を見ながらため息を吐く。
それぞれの世界を管理するデミュールゴスは、そこに浮かび上がる大小様々な惑星を指でタップし情報を開示する。
まるで最先端の3Dシアターのようにそれらが独立してゆっくりと動いており、その横に大まかな情報が浮かび上がっている。
「今日の作業も終わったしのう……。さて、あやつはどうしておるか……」
デミュールゴスは最近、管理作業の合間に一人の少年を観察することが日課になっていた。
惑星名は自身が管理する第三の惑星『地球』。
指でクイッと引っ張るような動作をすれば、まるで引っ張られるように地球が移動してくる。
「ふむ、ちょいと覗いてみるかのぅ」
右手を輪にして地球の小さな島国を覗いてみると、その輪の内側にはまるで望遠鏡で地上を覗いているかのような映像が浮かび上がった。
『ふあぁぁ……ねみぃ……』
現在、授業の真っ最中。世界史などまるで興味がないとばかりに大きく欠伸をする少年がそうだ。
彼の名は『根岸裕也』。どこにでもいる一般的な人間で、日本という国に住まう普通の高校生だ。
特に秀でる趣味も特技も得意分野もなく、このまま卒業すればいずれ自宅で警備員でもしそうな学生である。
そんな見ててもつまらなそうな彼を観察対象にする、ひとつの切欠があった。
それは、『魂』に刻まれた不自然な『順序』。
これを見つけたのは偶然だ。地球時間で数年前、たまたま気分で惑星の情報を整頓しようと『魂と惑星のデータ』を確認していた時だ。
膨大な数の生と死の魂を整頓していると、なぜか一件のエラーが浮かび上がったのである。
『~~億件の魂より、一件、該当なし『不一致』』
世界神が管理する惑星は現在七つ。それぞれ違う世界……もとい違う宇宙に存在するのだが、それらの魂は必ず固定された魂数が輪廻し、それぞれが『順序』に従い循環される。
元々それぞれの世界には魂数の許容値が存在し、それ以上またはそれ以下にならないよう自動的に管理されるのだが、ある時、デミュールゴスは『これ、他の惑星と循環させたら面白いんじゃね?』的な流れで循環させたことがある。
結果は驚きの大事件に発展した。
彼が管理する第一惑星から第七惑星までそれぞれ大小大きさが違うのだが、なんと世界間に優劣が存在したのだ。
よって、まるで気圧が高い空間から気圧の低い空間に流れる気流のように、魂の流出が始まった。
それに気づいたデミュールゴスは直ちに停止を指示したが、流れ出た数億もの魂は戻ることなく、その場で再び循環を開始した。
そしてその優れた魂が劣った世界で肉体を持った時、異常事態が発生する。
まるで怪物のような幼児が生まれたり、怪力の幼児が誕生したり、生まれもって特殊な異能を持った幼児が生まれたりなどなど。それらが成長し大人になれば、まるで終わりの見えない世界戦争が始まった。
結果、その惑星は住める環境を失い人類は滅亡、他の生き物たちも緩やかに減少・後退していった。
また、優れた世界から魂が流出したせいで、保っていた魂の数が極端に少なくなり、魂の循環が少なくなったことで緩やかな人口減少が始まった。
言わば出生率低下だ。徐々に少なくなっていくその世界の人口は、瞬く間に少数高齢化の一途を辿り、文化を保つことができなくなった。
後にとうとうその世界は白紙の劣った世界(惑星)として再び再興されていくのであるが。
「んん? なんじゃこれは……」
最高神はこの失敗を機に、現在七つの世界に惑星内固定魂数を設定し管理しているのであるが、なぜかその『不一致』の魂には、死亡するまでの『順序』が違う形で刻まれていた。
これは、ありえないことである。
この七つの世界には世界間移動はおろか魂の流出を防ぐ、ある種の『結界』で覆われている。
その『結界』を超えるなど、まず有り得ない事実なのだ。
だが、その少年の魂は有り得ない形でこう刻まれていたのである。
『異世界転生までの残り日数:485日(地球時間)』