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doppel  作者: ataru
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Chapter 8

 翌日。

「おお、すげぇーっ! ハイテクだーっ!」

 僕は、CGに写されているヒーローや怪獣を見て大興奮していた。

「落ち着け、桂君。大人げないぞ。というか、君は、わしの姪に会うためにここに来たんじゃないのかね?」

「あ、そうでしたね……」

 大志摩さんになだめられ、僕は大人しくする。

 僕と大志摩さんは、大志摩さんの姪さん、つまり、僕の求めている大澤さんが働いているという、ゲーム会社の建物に来ている。今回、特別に大澤さんから許可をもらったため、はるばるやってきた、ということだ。

 僕一人で来てもいいのだが、まだまだ未成年なので、大志摩さんに付き添いとしてついてきてもらうことにしたのである。

 それにしても、さすが大手ゲーム会社だ。心が躍るようなCGやゲームがたくさんある。

「今のゲームはここまで進化したのか。まさに脱帽だな。昔はこんなゲームなんぞ無かったもんだ」

 大志摩さんも感心している。

 そのとき、どこからか聞き覚えのある声がした。

「あ、いた! 大志摩叔父さん~っ!」

 このよく通る高い声は・・・・・・大澤さんだ!

 声のしたほうを振り返ると、思ったとおり、大澤さんがこちらに走ってくる。

 僕らのところに走りつくと、こちらに向かってにこりと微笑みかけた。

「大志摩叔父さん、久しぶりです! お体は大丈夫でしたか?」

「わしはこの通りじゃ。――ああ、そうそう。この高校生が、昨日紹介した桂遥翔君じゃ」

「あ、どうも、桂です。先日はお世話になりました」

 僕は大澤さんに向かって頭を下げる。大澤さんはにこりと微笑みかけた。

「桂君、久しぶり! あれからどう? 神保君たちにはいじめられていない?」

「あ、はい。今のところは」

「そう。それは良かった」

 大澤さんは優しく微笑んだ。

 !

 僕は思わず胸が熱くなった。

 今までに見たことの無い笑顔だ。愛情というにはあまりにも温かく、正義というにはあまりにも切ない。見る人の心を撃ち抜き、その反面、(たと)えがたい温もりで心を包んでくれる。そんな笑顔だ。

 ・・・・・・って、何変な想像を膨らませているんだ、僕は!

 僕が我に返ると、大澤さんと大志摩さんは、ニヤニヤした目で僕を見つめていた。何だその目は。僕をからかっているのか?

「どうした、桂君? 顔がやけに赤いぞ。そうか、美貌の光代に一目惚れしたのだな!」

「そんなこといわないで下さい!!」

 僕がそういうと、大志摩さんはいきなり高笑いし始めた。大澤さんも意地悪そうに笑う。なんなんだ、全く。人をからかうのもたいがいにして欲しい。

 ただでさえ赤い頬をさらに赤らめていると、大澤さんが僕に耳打ちした。

「大志摩叔父さんは、ああ見えて、結構な楽天家なの。奥さんの話によると、酒を飲んで泥酔した大志摩さんが、頭にネクタイを巻いて腹踊りする、なんて事がたまにあるんだって」

 あの厳格そうな大志摩さんが!? しかも、頭にネクタイをつけて腹踊りなんて・・・・・・何年前の話だろう。

 僕は、頭にネクタイをつけて腹踊りする大志摩さんの姿を想像してみる。

 ・・・・・・だめだ、どうにも想像できない。

「さて! 立ち話もなんだから、早く応接室に行きましょう。私が案内するから!」

 大澤さんが元気そうに言った。


 大澤さんの話によると、彼女の勤務している「IMAGINE(イマジン) ENTERTAINMENTエンターテインメント 株式会社」の本社は、なんと31階まである。何に使うのかと思ったら、10階までは、会社のゲームを楽しめるゲームセンターや、デパートにホテルが構える商業棟になっているらしい。オフィスは11階から。そのうち、社長室が31階にあって、大澤さんの仕事場は21階にある。応接室は社長室に隣接しており、室内のドアから直接いけるそうだ。

「しかし、ここの建物は立派な外観だのう。31階だなんて、建設費用はさぞかしかかっただろうに」

「まあ、多少の揉め事はあったみたいなんですけどね。社長が反対意見を押し切って、ビルの建設を取り決めたんですよ」

 大澤さんが苦笑いしながら言う。

 僕は、目の前の景色に、何もいえない。

「あれ、どうしたの、桂君? 顔色が悪いよ?」

 大澤さんが、僕の顔を覗き込んで言う。

 僕は、「はい、大丈夫です・・・・・・」という言葉を言うのが精一杯だった。

 大志摩さんが笑いながら言う。

「そういえば、桂君は高所恐怖症だったのう。嫌ならエレベーターに乗らなければ良かったのに」

「い、い・・・・・・言わないで下さい」

 僕の掠れたような声に、二人がどっと笑った。

「あら、高所恐怖症だったの? ごめん、桂君~っ! ははは! だから桂君、さっきから口数が少なかったのね!」

 大澤さんが腹を抱えて笑っている。

 二人とも、そんなに笑わないで欲しい・・・・・・聞いていて、とても恥ずかしい。

 僕は、笑っている二人を見てため息をついた。


 そんなことがあって、やっとエレベーターは31階に着いた。

「桂君、本当に大丈夫? なんだったら、帰りは向かいの一般用のやつ使う?」

 大澤さんが、落ち込んでいる僕に訊いてくる。

 僕は、返事ができない。

 僕等は、大澤さんに案内されて、奥の応接室に着いた。

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