表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
doppel  作者: ataru
3/22

Chapter 3

こ、この声は....!?

声のした方を振り向くと、そこには、制服に着替えた神保が立っていた。その顔は、何とも言えない怒りで溢れていた。後ろには、神保の仲間らしき人たちが5人ほど立っている。

なぜ神保たちがここにいるのだろう!? というか、どうやってここに来たのだろう!?

「じ、神保!? どうしてここにーー」

「どうしたもこうしたもねぇよ!!」

神保は般若はんにゃのような形相でそう叫ぶと、背負っていたリュックから何かを取り出し、僕の目の前に突き付けた。

それを見て、僕はとても驚いた。

「!! そ、それ....」

それは、僕が今朝会ったときに神保が着ていた運動着だった。

「そうだよ。お前がペットボトルの水でびしょ濡れにしやがった、俺の運動着だよ!! ったく、もう、俺の運動着に何てことしてくれるんだよ。今日の三時間目体育なのに、これがないと授業受けられないじゃないか!! とにかく、このことで俺は機嫌が悪いんだ。きっちり謝ってもらおうか」

神保の凄むような言葉に、後ろの仲間たちが、「そうだ、そうだ!」「神保の名誉 毀損きそんだ!」などと続く。

「さあ、謝れ!!」

神保が僕に迫ってくる。

僕はもう訳が分からない。一体ここがどこなのか? なぜ神保たちがここにいるのか? 分からないことが多すぎて、頭の整理がついていない。

僕は、振り絞るような声で言った。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! ストップ、ストップ!! 僕は今、展開が早すぎて頭がついていけていないんだ。少し頭を整理させてくれ」

神保を黙らせたあと、僕は頭の中を必死に整理する。

まず、僕らが今いる場所は、巨大なドームのような部屋。

現在地がどこかは、まったく分からない。

ーー今の状況について言えるのは、これだけだ。

僕は、ふぅーっと息を吐く。

とりあえず、今は情報が必要だ。部屋の中を少し調べてみることにしよう。

僕は、部屋の中を調べてみる。

壁には、ドアのようなものはついていない。一面、真っ黒に染まった壁が続いている。壁は、コンクリートで出来ているのか、とても固い。

照明器具のようなものはついていない。だが、不思議なことに、部屋の中は明るい。蛍光灯の明るさ程度の光で部屋は満ちている。温度も適温で、熱くも寒くもない。

そして部屋には――何もない。

この状況は、一体なんだろう。誘拐されて、どこかに監禁されているのか? あるいは神保たちによって、どこかに閉じ込められているのか? ――でも、どちらにしても、難点が多すぎる。

「おい、桂~っ。調べるのまだ終わんねぇのかよ。俺らもうすぐ学校なんだけどさ~っ」

ヤバい。神保たちを待たせてしまった。奴らが待ちくたびれた目で僕を見ている。

そうだな。奴らときっちり決着をつけないといけないようだ。

僕は息を深く吐き、気持ちを整える。そして、神保たちのもとに歩み寄り、

「今回は、神保の運動着をびしょ濡れにしてしまって、本当にすまなかった。この通りだ!」

と言って、深々と頭を下げた。それを見た神保たちは、満足そうな笑みを浮かべる。

「ただ....一つ、頼みがあるんだ」

「頼みぃ? なんだそりゃ」

神保が軽蔑の目で僕を見る。その顔は明らかに「お前なんかに、人に頼み事ができる権利なんかあるのか?」と言わんばかりの表情をしていた。僕はその顔にむっとなりながらも、我慢して続きを言う。

「今朝会ったとき、僕に言っただろ? ーー「お前に帰る場所などあるのか?」って。あれを、取り消してくれないか?」

「はぁっ!?」

神保たちが、とても怪訝けげんそうな顔をした。

神保が言う。

「何で俺らが、そんなチンケな願いを聞いてやんなきゃなんねぇんだよ!! 言っておくけどな、俺らは真実しか言ってないんだよ。お前みたいに真実から目を背けたがる奴とは違うんだよ!! だからさっさと認めやがれ」

「!!」

自分の願いを"チンケ"と言われたことに、僕はとてつもない衝撃を受けた。続いて僕の心の中には、たとえようもない怒りが湧いて来た。

皆、あまりにも好き勝手言い過ぎだ。これ以上そんな戯言・・を言うのは、勘弁して欲しい。

帰る場所などないだって? 生き方を間違えているだって?

そんなはずはない。僕は、お前らと同じ人間だ。平等に生まれて来たのだ。そんな僕の生き方や流儀を、お前らにとやかく批判されたくはない。

だいたい、なぜびしょ濡れになった運動着ごときに、謝らなければならないのだ。余計なお世話だ。

「お前は昔からそうだよな。何かあるとすぐ逃げ出して、味方に泣きついてーー」

「ごちゃごちゃいい加減にしろよ!」

僕はそう叫んで、ぐだぐだ言っている神保を黙らせる。

「お前らに僕のことをごちゃごちゃ批判する権利なんかねぇんだよ!! こっちだって必死に生きてるんだ! 確かに、自分の生きざまを後悔したり、自責の念にかられることはあるよ。でもそれを、いちいちお前らにぐだぐだ言われたくはない!! 自分の今までの生き方まで否定されたら、僕はやってられないんだよ!!」

「じゃあ、今までの人生は誰のせいでめちゃくちゃになったんだよ。全部自分がまいた種だろ!? 自分の犯した過ちから目を逸らすんじゃねぇ!!」

「そんなの全部運だよ!! 偶然起こったことに決まっているだろ。僕のせいではないーー」

「ここまで言わせておいて、まだ逃げるつもり!?」

よく通る女の子の声が響く。この声は....。

僕の前に、髪を後ろで結んだ女の子が現れる。そうだ。この子は、クラスメイトで頭がいい富永とみなが紗央莉さおりだ。

富永が言う。

「あなたにも分かるでしょう? "偶然"なんて存在しないって。この世にあるものは皆、状況と状況の組み合わせで起こる必然で成り立っているのよ。あなたの人生の場合、その状況・・を作っているのは誰?」

「......」

「....あなたよ」

富永は、僕の周りを歩きながら説明する。

「自分の人生は、自分の生き方次第。――それくらい、あなたも分かっているでしょう? だったらなぜ、自分の過ちを運のせいにするの? なぜ自分の過ちから逃げるの? 神保君の言う通り、全ては自分がまいた種――言い換えれば、"自業自得"なのに」

自業自得....!?

「じょ....冗談じゃねぇよ!! 何で自業自得になるんだよ。先のことなんか分かる訳ないだろ!! 僕だって、こんな目に遭いたくて生きてる訳じゃない!!」

自分でもかなり筋違いなことを言っていることに気づく。だが、今更軌道修正できない。

「だいたい、こうなったのも全部お前らのせいだろ!! 人の気持ちも考えずに言いたい放題言いやがって!! 言われる方の身にもなれってんだ!!」

「おいおい、何言ってんだよ。俺らに責任を押し付ける気か!?」

そう言ったのは、神保の右隣にいた法倉のりくら雄高おたかだった。

法倉が言う。

「お前ってさぁ、何でそう何でもかんでも人のせいにするんだよ。原因は全て自分にあるんだからさ、いい加減認めろよ。知ってるか? そういうの"卑怯"っていうんだぞ」

ひ、卑怯....!?

「止めろ....止めてくれないか!!」

「ほら、見ろ。俺らがなんか言えばすぐお前はそうなる。お前って本当に弱虫・・だよな」

止めろ。止めてくれ。それ以上言われたら、僕は発狂してしまう。どうか"僕"を壊さないでくれ!!


 気付いたら、僕は頭を抱えてうずくまっていた。それが僕にできる、せめてもの防衛策だった。神保たちの言葉は、本当に拷問だ。ナイフやかなづちなどの武器と同じなのだ。人にダメージを与え、苦しませる。そういう意味では、言葉は最凶の武器だ。考えさえすれば、いくらでも考えられる。そして、一つ一つが、恐ろしい破壊力をもたらす。神保たちの言った、「自業自得」や「卑怯」や「弱虫」も、それらの一種だ。

 僕は今、神保たちに武器で攻撃され、これ以上ない苦しみを味わっている。

 誰か、僕を助けてくれ。罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせられている僕を守り、神保たちを倒してくれ。僕をこの苦しみから、救い出してくれ――!

「おい、何俺らに背を向けてんだよ。ほら、立てよ」

止めろーー!

「あらら、どうしたんだよ。そんなところでうずくまって。俺らのことが怖くなったか?」

止めろ、止めろ、止めろーー!

「まったく、桂くんも地に落ちたものね。こちらがちょっと言ったぐらいで怖じ気づいて、地面にうずくまっちゃうなんて。まあ所詮しょせん、口で私達に勝てるわけないものね」

止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろーー!


どうか、

"僕"を、

壊さないでくれーー!!


「止めろ、止めてくれ!! あああああああああああああああああああああっ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ