Chapter 17
その夜。
僕はシトラスを頭に取り付け、布団に入る。
いよいよ今夜、二重人格と戦う。
戦う覚悟はできているが、僕の心の中には、まだ少しだけ迷いがあった。
理由は、先月"夢"であった出来事があり、同じようなことが繰り返さないかと、恐れているからである。
あの時の僕は……狂気に満ちていた。
恐ろしい暴言を吐き、神保に苛烈な暴力を加え、挙げ句の果てには殺しかけた。普段の僕と同一の人間とは思えないほど、変わり果てていた。
あれと同じことが、今回も起こるのではないだろうか……。
二重人格にちょっとした怨念を抱いているのは事実だが、出来れば人を殺すなんてことはしたくない。でも、もしもあんなことが起きたら、二重人格を殺してしまうかも知れない。
その時、僕はどうすれば……。
あれこれ考えているうちに、強烈な眠気が、僕を襲った。
うう、眠気が……。
僕は目を閉じた。
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うう……頭が重い。
重い瞼をこすりながら、僕は目を開けた。
あれからどれくらい眠ったのだろうか。よく覚えていない。
う……それにしても、何故かとても眩しい……。
僕はしばらく目を光に慣れさせる。
僕は、あの真っ白な空間に立っていた。
これって、前に"FANTASY ANOTHER"にログインした時と似ている。
ということは……。
考えていると、突然、目の前にログイン画面が現れた。
やっぱりそうだ。
僕の心の奥に、緊張感が走る。
僕は一回深呼吸したあと、キーを操作し、"FANTASY ANOTHER"にログインした。
二重人格と戦うことに、恐れはある。でも、今更後戻りする気はない。正々堂々と戦って、二重人格とけりをつけるのだ。
だが、パスワードを入力する時、僕の右手は震えていた。迷いだ。今ここで二重人格と戦おうか、ほんの少しだけ迷っていた。でも、パスワードを入力し終えたことで、その迷いは消えた。
僕は、戦う。
光が大きくなっていく。
『ゲームスクエア』に着いた。
『ゲームスクエア』は、相変わらず、たくさんのプレイヤー達手で賑わっている。小学生くらいの小さな子供から、大志摩さんぐらいの年齢と思われる老人の方まで、様々だ。まるで、本物のゲームセンターにいるような気分になる。
取り敢えず、二重人格を探さないと!
僕はスクエアの中を走り回って探したものの、それらしきものは見つからなかった。
おかしいな。どこかにあるはずだけど……。
もしかして。
僕はナビゲーションをいじってみる。すると、画面の右下に「友達のマイルームへ行く」と書かれてあるアイコンを見つけた。
これか!
僕はそのアイコンをタップし、「桂遥翔」で検索を掛けてみる。数秒たって、2つのマイルームが表示された。
1つは僕のマイルームだったが、もう1つは、知らないマイルームだった。恐らくこれが、二重人格のマイルームだろう。ただ、1つ気に食わないことは、マイルームの名前が、僕と同じ「桂遥翔」だったことだ。いくらなんでも、僕と同じ名前にするのは止めてほしい。
しかし、今はそんなことを考えている暇はない。
僕はボタンを押して入室を図るが、突然僕の目の前に、白い四角形が現れた。
パスワード
合言葉を入力して下さい。
Q. あなたの一番大切な人は?
[ | ]
合言葉を入力しろ、ってことらしい。
って、「あなたの大切な人は?」って……。なんか、どこかの映画で同じようなものを見たような気がする。二重人格って、一体どういう性格をしているんだ?
でも、仕方ない。
僕は考える。
あの性根腐った自己中殺人鬼の大切な人は……。
ズバリ、おのれだ!
僕は入力欄に「桂遥翔」と入力する。
だが、すぐに「ビーーッ」というブザーが鳴った。
え?
戸惑う僕の目の前に、画面が表示された。
間違っています。あなたの大切な人は「桂遥翔」ではありません。
次に間違えると、あなたはこのマイルームに入室することができなくなります。ご注意下さい。
「嘘だろ……」
思わずそんな言葉が漏れた。
二重人格の大切な人が「桂遥翔」ではないだと? では、二重人格の大切な人って、一体誰なんだ?
もしかして、二重人格にも本名があるのか? ……でも、わざわざマイルームの名前を「桂遥翔」にしているくらいだから、違う名前にしているのは、考えにくい。
では、一体誰だ?
僕は考えてみる。
しばらくして、僕はあることに思い当たった。
もしかして……。
僕は意を決して、合言葉を入力した。
「大澤光代」
ピンポンピンポンーーッ
正解です。おめでとうございます。
ただいま、このマイルームの管理者から入室の許可がおりました。ご入室を希望する場合は「YES」を、ご入室を希望しない場合は「NO」をタップして下さい。
YES NO
これで僕は、マイルームに入室できるようだ。
ついに僕は、二重人格と戦う。
僕は深呼吸して気持ちを整えたあと、「YES」をタップした。
「YES」がタップされました。これから、マイルームにワープします。
僕の身体が、突然光った。琥珀色の光を放って、身体を少しずつ包んでいく。どうやらワープが始まっているようだ。
いよいよだ。
胸の奥で何かが燃えるのを感じながら、僕は目を閉じた。
僕は、暗闇の中を歩いていた。
上も、下も、右も、左も、前も、後ろも、すべてが真っ黒だ。絵の具や墨汁で塗りたくったかのように、果てしない単調の黒が、世界を覆っている。そこに芸術的な色彩こそ無いが、僕はその黒に、何か重々しく、圧力のあるものを感じた。
地面の上を歩いているという感覚は無い。まるで、水の中にいるような、不快な浮遊感がある。なんだか酔いそうだ。それに、なんだか少し息苦しい。とても居心地が悪い場所だ。
これが、二重人格のマイルームなのか。
僕は、このどす黒い世界に、二重人格の性格すらも表れているような気がして、思わず顔を顰めた。
終わりの見えない暗闇の中を、僕はただただ歩く。
ふと、はるか向こうに、一筋の光が見えた。
それは、光というにはあまりにも弱い、風前の灯火のような光だった。注意深く見ないと気付かないような、小さな光だ。でも、今の僕にとっては、それで十分だった。
光だ!
僕は光に向かって走った。わずかに抵抗があって、走りにくかったが、ぜんぜん気にならない。
あの光の向こうに、二重人格がいるのかどうかは、分からない。でも、あそこに行けば、何か収穫が得られる。そんな気がした。
徐々に光が大きくなっていく。
僕は、光の中に溶け込んだ。
『そこ』は、大きなホールのような部屋だった。
部屋は、濃い灰色の壁で覆われている。固さや肌触りは普通の壁と同じだが、表面に少し光沢がある。その無機質な質感は、以前見たあのドーム型の部屋を思い起こさせた。
部屋の中には、何もない。いや……人だ。人が倒れている。
死体だ。殺された、神保達6人の死体だ。
死体からはまだ血が出ており、金属が錆びたような、生臭い臭いを発していた。そして、ひとつひとつの猟奇的な死に様が、事件の凄惨さを物語っていた。
二重人格は、ここまで凄惨に、殺人を繰り返していたのだろうか……。
それより、二重人格は?
「よう、桂。初めまして」
「!」
初めてだがどこか聞き覚えのある声に、僕は驚いた。
声のした方を見ると、そこにはいつの間にか、一人の少年が立っていた。
服装は、紺色のブレザーに、黄色のシャツとカーキ&オレンジのパーカーを着ている。よく見ると、僕と全く同じ服装だ。ただ、1つ違うのは……全身が返り血で汚れているということ。
こいつが二重人格なのか?
「おい、お、お前……」
僕は怯えた声を出す。少年は口元をゆがませて、へへっ、と笑った。
「へへへ。どうだ、俺の赤き芸術は。かっこいいだろ? まあ、平凡な桂には、おれのよさなんかわかんねぇよな。ヒヒヒヒ」
自分のことを「平凡な桂」と名指しされて、僕は少しムッとする。こいつは、どこまでも性根が腐ったやつのようだ。
「でも馬鹿にするんじゃねぇぞ? この返り血は、こいつら六人の返り血でできた、勇者の勲章だぜ? はっはっは。地面にひざまずいて拝んでほしいもんだよ」
どうやら、今回の一連の事件の犯人が、あの二重人格だということは、ほぼ疑いようがなくなったようだ。
「……誰が、お前のことを」
「んん? なんか言った? いうならもっとはっきり言ってほしいもんだねぇ。それとも、この正義の勇者様に歯向かおうとでも?」
そこで、僕の平常心はぶちっと切れた。
「黙れっ!!」
僕は声を荒げる。
「誰がお前みたいな小悪魔に頭を下げるか! 冗談じゃない! お前はただ、やってはいけない殺人を繰り返して、自己満足でへらへらしてるだけじゃないか。調子に乗るなよ! お前のやったことがどれほどのものか、分かっているのか?」
「それはこっちのセリフだよ!」
二重人格が声を低くして怒鳴る。そして、驚くべき速さで、僕の目の前に近づくと、小声で言った。
「もとはといえば、お前が望んだことなんだぜ?」
「何?」
僕は少し驚く。二重人格は、僕の周りをまわりながら言った。
「お前は神保達のことが嫌だった。自分は何もしてないのに、遊び目的でこんな酷い仕打ちを受けるなんて、理不尽だって思った。許せない。でも、神保達に立ち向かう勇気なんてない。そこでお前は、二重人格の俺を生み出して、俺に殺人という復讐を行わせるっていう妙案を思いついた。違うか?」
「違う……違う」
「嘘なんかついたって無駄だぜ? 今更弁解したって、俺をお前が生み出したのが、その証拠さ。お前は結局、自分で立ち向かうのが嫌だったから、全部人任せにして逃げたんだよ!」
「僕は……僕は……」
「だいたい、殺人がどれだけいけないことなのか、分かってんのか? それを分かっていて、わざわざ俺にやらせたのなら、とんでもねぇ悪者だなぁ! ――ま、せっかくここまで足を運んできたから、特別に俺が、強さって何なのか教えてやるよ。――おらっ!!」
そういって、二重人格が僕に襲い掛かってきた。
「くっ!」
僕は何とかその攻撃をよける。
「おいおい、やけに反応が鈍いじゃねぇか。お前は自分に対しても弱いのかい?」
二重人格はさらにポケットから、あの血まみれの果物ナイフを取り出し、攻撃を仕掛けてくる。
「おらおら、よけてみろよ、おい!」
僕は、僕は……。
「お前、本当に弱いなぁ。心も体も、ガラスみてぇ」
僕は……、
「強いんだーーっ!!」
僕はそう叫ぶと、自分でも驚くほどの速さで、二重人格に突進した。
「おお……っと、危ねぇ」
二重人格は慣れた動作で、それでも間一髪でよけた。
「ああああああああっ!!」
僕はあり得ない速さで突進し、二重人格の腹をついた。
「うぐっ!」
奇妙な悲鳴を上げて、二重人格はその場に倒れる。
そのすきに僕は果物ナイフを奪い、二重人格に馬乗りになって、二重人格の首にナイフを突きつけた。神保と対決した時とは、比べ物にならないほど強い力だ。
「!」
「僕を見くびるなよ……僕は強いんだ。お前ぐらい簡単に倒せるんだぞ」
そう言っていた僕の目は、一体どんな目をしていたのだろう。
怖くて想像もできない。
「……へっ、これで終わりかよ」
二重人格はニヒルに笑った。その笑顔が、僕の鼻についたようだ。
頭に血が昇る。
「死ね――っ!!」
ナイフを振りかぶったその時。
「止めて!!」
聞き覚えのある声が聞こえた。そのやけに大きい声に、僕は我に返る。
この声は……大澤さん?
そう考えている暇はなかった。
後ろから何かに体を押さえられ、ナイフを奪われる。そして、体を壁に向かって投げ出された。
「痛っ!!」
壁に強く体をぶつけ、全身に痛みが走る。
何かは、次に二重人格の腹に鋭いパンチを食らわせ、気絶させる。
そして、倒れている僕のもとに歩み寄ると、大声で怒鳴った。
「だめ! 人を殺すのはだめ!!」
その声に、僕は顔を上げる。
声の主は……大澤さんだった。
大澤さんは声を張り上げる。
「何でこんな無茶をするの! 凶悪殺人犯と対決するだなんて、危険に決まっているでしょ!? 何の準備も相談もなしに生身で戦おうだなんて、無謀すぎる!」
「………」
「それに、人を殺すのはもっとだめ!! 悪いことを正そうとするあなたが、人を殺してどうするの! そんなことをしたら……あなたが悪者になってしまうのよ」
大澤さんは、僕の事を静かに諭した。
「いい? あなたのやっている事は、間違ってもいない。でも正しくも無いの。分かるでしょ? こんな事やったって誰も幸せにできないし、自分も得をしないという事を――。はっきり言うと、あなたのやっている事は、結局は困難を面倒だからって乗り越えようとせず、楽な方法で解決しようとしているだけなの。分かる?」
「………」
「だから、他人の理論が頭にくるからって、暴力で解決しようとするのはだめ。それだけはいえる。あなたも、自分のしていることが、いけないことだということは、分かっているんでしょう?」
「……はい」
僕はゆっくりと立ち上がり、大澤さんに頭を下げる。
「確かに、しょうもない理由で感情的になり、手を出してしまった僕が間違っていました。人を殺してはいけないと言った反面、人の悪事を正すために殺人という手を使うだなんてことは、間違っています」
そして、僕は顔を上げ、大澤さんの顔を見た。
「僕は……強くなりたかったんです」
「強くなりたかった?」
「はい。二重人格が僕に、お前は立ち向かうのが嫌で、全部人任せにして逃げているだけだって言ったんです。はじめは、ただの屁理屈だと思ったんですけど。今になって考えてみれば、その通りのような気がして。僕って、自分のことすらも目を背けて、他人に押し付ける、無責任で心の弱い人間なんだって」
気付いたら、僕は大粒の涙を流して、泣いていた。その涙が誰に向けられたものなのかは、分からなかった。
「だから、僕は、強くなりたいんです。自分や人のことをよく知り、認めて、弱さに打ち勝てる強い人間になりたいって。でも僕は、弱さを認められるかどうかわからない……」
「………」
「僕は、自分に強くなれないかもしれない……」
「弱気にならないで!」
大澤さんが言う。
「弱さに打ち勝てる人間になりたいのなら、まず、『知る』ことから逃げちゃだめ。そして、知る努力をしないと、そこから進歩することはできない。強くなりたいって言っておいて、そんなところで弱気になってどうするの!」
「でも……僕にできるかどうか……」
「あなたならできる!」
大澤さんは強くそう言った。
「自分に強くなる努力をすれば、きっとできる! 自分や他人の弱さと向き合って、知る努力をすれば、あなたはその分強くなれるわ。それに」
大澤さんは一呼吸置いて言った。
「自分の弱さは、自分が一番よくわかる。だから大丈夫よ」
そう言って、大澤さんは少し微笑んだ。
「一緒に戦いましょう。必ず強くなれるから」
僕はその言葉に、無言でうなずいた。
その時。さっきまで気を失っていた二重人格が、ゆっくりと起き上がるのが見えた。
「ったく……恋人ごっこもいい加減にしてほしいぜ」
そう言って、二重人格はゆっくりと立ち上がり、僕等のほうを見た。
「そろそろカタをつけなきゃいけないみたいだない」
僕と大澤さんの顔が、自然と引き締まる。二重人格は口元をゆがませてにやりと笑った。
「二人いっぺんに地獄に突き落としてやるぜ!」
そういって、二重人格はこちらに向かって迫ってきた。僕等はその攻撃をよける。
戦いながら考える。
僕は……いつも、大事なことから逃げていた。
「おらおらおら~っ!!」
神保たちの時も、二重人格の時もそうだ。僕は、いつも大事なところで、変に感情的になり、怒りに任せて暴力を振るっていた。
「これならどうだ‼」
「うぐっ!」
僕は二重人格に鋭い蹴りを食らって、その場に倒れる。だが、すぐに立ち上がり、攻撃を続けた。
今考えれば、人間は強くならないとだめだって思い込んでいた僕自身が、一番弱い人間だったんだ。
そして、自分自身で何とかしなければならない重要な問題は、いつも人任せにしていた。
「ていっ!」
大澤さんが右ストレートを入れた。二重人格が飛ばされる。
僕の弱さは……、
「桂君!」
大事なものから目を逸らすということだ……!
「っっ‼」
僕は二重人格のもとを振り返ると、右足で腹に蹴りを入れた。
「があっ!」
飛ばされた二重人格は、向こう側の壁にぶつかり、倒れこむ。
僕はゆっくりと二重人格に近づき、二重人格を見下ろして言った。
「お前、この殺人は、僕が望んだ事だって言ったな。でもそれなら、なぜお前は殺人を犯したんだ? やってはいけないはずの殺人を、なぜ犯した?」
「だから言っただろ? お前が望んだことなんだよ。お前が神保達を殺したいと望んだから、俺がお前の代わりに殺したのさ」
「じゃあお前は、自分が殺人を犯したことを人のせいにするのか。自分は悪くないって言い張るつもりかよ!」
「そうだよ! 何度も言うが、俺はお前の望んだことを仕方なくやってやっただけだ。悪いのは、俺に殺人を犯させたお前のほうだ!」
「ふざけるなよ!!」
僕は声を張り上げた。
「誰がどう思おうが、結果的にはやった奴が悪いんだ! お前は結局は、やってはいけないと分かっていながら殺人を犯して、その罪を他人に擦り付けてるじゃないかよ。僕が望んでいるから仕方なくやってやっただって? 善人ぶったこと言うんじゃねぇよ!」
僕は二重人格に一歩近づいた。
「言っておくが」
僕は一呼吸置いていった。
「自分の弱さに勝てないやつに、他人の弱さを笑う権利などない。まずは自分が強くなれ!」
その声は、空気分子の間を縫って、部屋中にこだました。
「………」
部屋に染み渡る余韻を耳で感じながら、僕の心の中には、達成感がみなぎっていた。
――やっと言えた。
僕は大澤さんのほうを見る。大沢さんはぐっと親指を立てた。
僕も同じポーズを返す。
その時。部屋中に奇妙な笑い声が響いた。
「へへへへへへへへ……」
二重人格の笑い声だ。
「いやあ、素晴らしい説明だったよ。身に染みたね。心からの拍手を送るよ」
そう言って二重人格は、心のこもっていない拍手を送る。
「……お前らを生かしておくのは危険なようだな」
「!?」
二重人格の口調が一変したのがわかった。
「最後の苦しみだ」
二重人格が、パチンと指を鳴らしたかと思うと、いきなり部屋の壁が崩れだした。
「!? い、一体、何が起こっているんだ!?」
「〝消去〟よ! 二重人格は、この部屋を消去しようとしているのよ!」
何だって!?
二重人格の不気味な笑い声が聞こえる。
「はははは! どうだ、参ったか! 俺の死に道連れだあっ! ハハハハハハハハっ‼」
まずいことになったぞ。早く脱出しないと!
そう思ったが、なぜか体が動かない。まるで、何かに体を束縛されているようだ。
「誰か助けてーっ!」
僕の決死の叫び声は、何よりも深い闇に吸い込まれていった。




