Chapter 14
だが、衝撃はこれに留まらなかった。
数日後。
朝起きてテレビをつけると、そこには、こんなニュースが流れていた。
「今日未明、世田谷区田園調布の住宅街で、遺体が発見されました。発見された遺体は、区内の学校に通う高校一年生の富永紗央莉さん(16)で、胸に複数の刺し傷がありました。警察は、殺人事件として捜査を進めるとともに、数日前の母子殺害事件も踏まえ、連続殺人事件として捜査を進めております――」
今度は富永が殺された?
僕は、あまりの衝撃に言葉が出なかった。
また数日前のような経験はしたくないため、今回は現場に行かなかった。
そしてそのまた数日後、今度は法倉が殺された。頸動脈を切られたことによる出血死だという。そしてその次の日には、さらに一人殺された。
僕は考えてみた。
なぜだ? なぜ僕のいじめっ子ばかりが殺されていく? そりゃあ、いじめられないならそれに越したことはないが、それでも、死んでほしいとまでは望んでいないはずだ。それなのに、なぜこんなにも都合のよく死んでいく?
まさか……僕の近くに、殺人鬼がいるのか?僕の為に殺人を犯し、僕を更に苦しめようとしているのだろうか。でも一体、誰が――?
僕は怖かった。こんな恐ろしい殺人鬼が、僕の近くにいるのかと思うと、怖かった。
いずれは自分も、殺人鬼の標的にされてしまうのではないだろうかという被害妄想も持つようになった。こんなにも都合よく、僕のクラスメイトが殺されていくということは、犯人は僕らのことをよく知っている人物ということになる。僕らのことを知っている誰かが、僕らのことを恨んで、この犯行に臨んだのだとしたら――考えるだけで恐ろしい。
男か? 女か? 老人か? 若者か? はたまた子供か?
誰だ?
しばらく僕は、家から出ることができなかった。ただただ目の前の恐怖におびえ、ニュースの情報を確認しながら、自分を守っていた。
神保たちにいじめられていた時とは、全く違う怖さを感じる。神保たちの時は、いじめる相手がわかっていたからまだ安心できたものの、今度は、全く得体のしれない殺人鬼によるものだ。誰が犯人なのかわからない恐怖に、僕は激しくおびえている。
なにせ、誰がやっているのか全く分からないから、対策の立てようがない。体力のない人で、衝動的に殺人を繰り返しているのなら、僕でも少しは対処できるかもしれないし――大澤さんに少し空手を教えてもらったのだ――体格がよくて、僕の力では到底かないそうもないなら、ひとまず警察に任せておけばいいかもしれない。でも今回は、そんな情報が全くない。犯人の情報が全く分からない。全く分からないから、どうにも身動きが取れず、ただ騒ぎが落ち着くのを待つしかない。
そんなのは嫌だ……。
ついに神保の一味が全員殺された。
最後のやつが殺されたニュースを見て、僕は思った。
この事件、僕が解いて見せよう。
このまま犯人の思う壺になるのは、腹立たしい。犯人を特定し、この手で決着をつけたい。もちろん、そんなことは危険すぎることはわかっている。でも、こんなところで殺人鬼に屈するなんて、僕の心とプライドというものが許せなかった。必ずこの手で、犯人の掌上から飛び出してやる。
そうだ。僕は弱くない。殺人鬼ごときに、僕は負ける訳にはいかないのだ。
それに、犯人に立ち向かおうと決めたもう一つの理由は、神保たちの仇を討ちたいという思いだった。
確かに神保たちのことは大嫌いだし、ましてや神保たちからいじめられるだなんてもってのほかだ。でもだからといって、神保たちが死んで良い理由などない。彼らのいじめを阻止し、仲直りする。ただそれだけなのだ。だから、神保たちを殺すことは、絶対に許せない。
そして、僕が神保たちの仇を討てば、神保たちも少しは幸せになれるかもしれない。
僕は、犯人に立ち向かい、必ず犯人を倒すのだ。
そう決めた。
僕は早速、事件の情報集めを始めた。
最初に僕が目を付けたのは、警視庁のホームページだった。警視庁のホームページには、もろもろの情報に加え、一か月分の事件ファイルが掲載されている。それをよく調べてみれば、何か収穫があるかもしれない。
調べてみるとやはり、例の連続殺人事件のことが掲載されていた。
田園調布高校生殺害事件
・田園調布高校生殺人事件とは、世田谷区田園調布の住宅街で、高校生が次々と殺害された事件である。 20xx年12月11日現在、六名の高校生の死亡が確認された。高校生の殺害は今後も続くとみられる。警察は、背格好がどれも同じことと、いずれも同じリュックを背負っていることから、同一犯による犯行とみて、調べている。
《殺害された高校生》
名前 死因 死亡推定時刻
・神保喜多(17) 心臓を一突きされたことによる失血死 11月29日 午後四時から五時前後
・富永紗央莉(16) 胸を複数カ所刺されたことによる失血死 12月1日 午前三時から三時半前後
・法倉雄高(16) 頸動脈を切られたことによる失血死 12月5日 午後二時から三時半前後
・室克章(17) 腕などを複数カ所切られたことによる失血死 12月6日 午後五時から六時前後
・照井翔宇(16) 心臓を一突きされたほか、腕などを複数個所刺されたことによる失血死 12月8日 午前五時から六時前後
・常松慶三(16) 頸動脈を切られたことによる失血死 12月11日 午後六時から七時前後
死因や死亡推定時刻には、これといった共通点はないか……。
次は、犯人の情報だ。
被疑者の特徴
◎性別 : 男性
◎身長 : 160cm~168cm
◎体格 : 普通
◎その他 : 服装は毎回異なる。一回目と四回目は、青いフードを被っていて、二回目と五回目は、黒いコートを着用。三回目は紺色のセーター、六回目は、こげ茶色のダッフルコートを着用。
被疑者の特徴にも、これといった特徴は見られないか……。
しかし、凶器となるものや、返り血を浴びた服が見当たらないのは気になる……。どこかに隠したり捨てたりしていれば、見つかってもいいはずなのだが……。
そうか。犯人は犯行時、いつも水色のリュックを背負っていた。あのリュックの中に、凶器のナイフや、返り血を浴びた服などを入れていたのか。だから現場周辺に、凶器とみられるものや、返り血を浴びた服が見つからないのも、納得できる。
他には、特に有力な情報はないか……。
よし、次は実踏調査だ。
僕は、メモ帳とペン、現場周辺の地図をポケットに入れ、玄関を出た。




