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doppel  作者: ataru
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Chapter 13

 その夜。

 僕は夕飯を食べながら、何とはなしにテレビのニュース番組を見ていた。すると、驚くべきニュースが流れた。

「速報です。たった今、世田谷区田園調布の住宅で、女性と子供の遺体が発見されました。発見された遺体は、区内の学校に通う高校一年生の神保喜多君(17)と、その母の純麗(すみれ)さん(46)と見られます。二人にはそれぞれ、左胸、右脇腹に刺し傷があり、警察は、殺人事件として捜査を進めております――」

僕は唖然として、そのニュースを見ていた。


 ・・・・・・神保が殺された。


僕はすぐさま、神保の家へと走る。

あいつが、あいつが殺されたなんて、嘘に決まっている。きっと、発見した人が、何かと見間違えたのだ。

そうに決まっている・・・・・・。

だが、神保の家に着いたときには、そんなわずかな希望を完全に打ち砕いていた。

 神保の家には、あちこちに「KEEP OUT」のテープが張り巡らされており、野次馬たちが入れないようになっている。周辺には、こんな夜なのに、たくさんの野次馬たちがおり、警察官たちが応対している。パトカーや救急車の赤いサイレンが眩しい。

 そして神保の家からは――青いビニールが被せられた、二台の救急担架が運ばれてきた。

 まさか、あれが――!?

「神保!!」

 考える前に、体が動いていた。

 僕は叫びながら駆け寄り、青いビニールを剥ぎ取った。


 するとそこには。

 左胸から血を出している神保の姿があった。


 僕は、まだ信じることができていなかった。まだ息をしているのではないかだなんて、愚かな発想を巡らす自分がいた。あのときの思いは、ある意味の現実逃避といえるものだったのかもしれない。

「神保! しっかりしろよ、おい! おい!!」

 僕はその場にいた警察官たちに引き剥がされるまで、何度も何度も、神保の名前を連呼し続けた。しかし、神保が目を覚ます事はなかった。

「・・・・・・嘘だろ・・・・・・」

 思わず独り言が出た。

僕は今、言葉にできない感覚に囚われていた。

何て言えばいいのだろう。悲しいような、虚しいような・・・・・・とにかく、神保と一緒にいた時には感じたことのなかった、心に穴が開いたような感覚だ。そう、心の奥にあった何かが、すっぽりと抜けた感じ。

 神保……。

その時、どこからか力強そうな男の人の声が聞こえた。

「こらこら、君!死体を見ちゃダメだよ!」

声のした方を見ると、ベージュのコートを着た、刑事ドラマでよく見るような格好の刑事さんがこちらに駆け寄ってきて、僕を外へ誘導した。

そして、

「全く! 子供が死体なんてものを見るもんじゃないよ!! 少しは気をつけたまえ!!」

「うっ。す、すいません・・・・・・」

僕は激しく叱咤(しった)された。

 ん?でも、聞き覚えのある声だが……この声は?

「お……大志摩さん!?」

「おお、桂君か!」

 この声……やはり大志摩さんだ。

 でも、何でここに?

 色々訊きたいことがあるが、真っ先に訊きたいことを訊く。

「お、大志摩さん、刑事だったんですか!?」

「ああ、いかにもそうだが。言っていなかったか?」

 ……いえ、知りませんでした。

 僕は大志摩さんが刑事だったことに、驚きを通り越して感心してしまった。

「――それより、なぜ君がここに?」

「え? ああ、まあ……ニュースを見てたら、速報でいじめっ子が死んだって言うニュースが出たので、それで……」

「うむ……ん? 〝いじめっ子〟というのは?」

「え? ああ、いや……」

やばい。ぼろを吐いてしまった。

僕は大志摩さんの前でどう答えていいかわからず、口ごもる。

「何だ? 何かバレるとまずいことでもあるのか?」

「ああ、えーと……」

「正直に話しなさい!」

「は、はい! 分かりました……」

 大志摩さんにすごまれ、僕は仕方なく、詳細を話す。

 中学生のころから、神保たちにいじめられているということ、神保騒ぎで、今回大澤さんにお世話になったということ。

 そして最近、神保のいじめがさらに悪化しているということ……。

すべてを話し終えると、大志摩さんは腕組みした。

「ふむ……なるほど」

 そう言って、僕のほうをちらりと見た。

「少し無理はあるが、〝動機〟としては十分だな」

 その言葉に、僕はぞっとする。

「ど、動機って……まさか、僕のことを疑ってるんですか!?」

「そう言うわけではない。だが……、ただ、一つの〝可能性〟として言っとるのじゃ」

 可能性、ですか……つまり僕には、人殺しをする"可能性"があると。

 そんなこと言われても……。

そんな僕の気持ちに気づかず、大志摩さんが言う。

「さて、詳しいことはまた後日聴くことにして、今日はもう帰りなさい。こんな夜に学生が出歩いていちゃ、だめだろう」

「は、はい。わかりました。さようなら」

確かに、腕時計の時間はもう、9時を回っている。早く帰ろう。

僕は大志摩さんにお礼を言って、家に帰る。


鍵を開けて家の中へ入ると、僕は真っ先にリビングへ向かい、ソファに座ってテレビをつけた。

テレビでは、またあのニュースをやっていた。

もうこんなニュース、見るのはうんざりだ。

僕はテレビを消し、ソファに横たわる。

ソファならではの、硬いような、やわらかいような感触がした。

「………」

リビングに、時計の秒針の音が響く。

「……はあ」

僕はため息をついた。

いじめの首謀者は死に、ひとまず、大きないじめにあう心配はなくなった。

だが、僕の心の中には、(もや)がかかったような気持ちが、今でも渦巻いていた。

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