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doppel  作者: ataru
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Chapter 1

どうも、このサイトに初めて小説を投稿させていただきます、ataruと申します。

まだ新米で、書き方もあまりうまくありませんが、宜しくお願いします。

小説は、1週間ほどのペースで投稿させていただきます。

午前6時過ぎ。

まだ朝日が出ていないからか、早朝の住宅街は、とても暗い。家々はどこも明かりがついておらず、街灯の白い光が、寒々しい。そして、吹き付けてくる風の冷たさが、秋から冬の変わり目だということを教えてくれる。

タッ、タッ、タッ、タッーー。

人通りのない静かな住宅街に、僕のリズミカルな靴音が響く。

朝のジョギングは、僕の昔からの趣味だ。いや、趣味というよりも、心の安らぎという方が正確かも知れない。誰もいない住宅街を一人走っていると、過去の忌々(いまいま)しい思い出を、全て忘れられる。何もかも忘れて、昨日の自分を、"ただの自分"にリセットすることができるのだ。それが僕にとって唯一の心の癒しであり、一種の楽しみでもあった。

さて、今は何時だろう?

僕は、腕時計で時間を確認する。

6時20分か。ジョギングを始めたのが、だいたい6時ちょうどくらいだから、約20分間も走り続けていたことになる。20分となると、かなりの距離だ。多分、相当疲れていることだろう。駅前に行って、少し休憩しよう。

「ーーと、おわっ! すいません!」

腕時計に気を取られて、前を見ていなかった僕は、横から走ってきた人にぶつかってしまった。しかも運の悪いことに、ぶつかった相手は、近所に住んでいる大志摩規則おおしまただのりさんだった。

「何よそ見しながら走っているんだ!! ちゃんと前を向いて走らなければダメだろう!! うっかりよそ見して、車にでもかれたら、どうする!!」

「....は、はい、すいません」

大志摩さんの勢いに気圧けおされ、自然と声が小さくなる。

大志摩さんは、前述の通り、僕の家の近所に住んでいる、初老の男性だ。足の速さと持久力に優れており、今まで数々のマラソン大会で優勝してきた、筋金入りの体力自慢である。そして、一番の特徴はーー怒るととても怖いということ。

「まったく....近頃の若者は、携帯だのスマホだのに気を取られて、前を見ないで歩く。けしからん!」

そう言って、大志摩さんはふと僕の方を向いた。

「しかし、君に怪我がなかったのが幸いだった。もし怪我でもさせたら、どうなっていたことかーー」

「......」

「とにかく、今後は気をつけることだな。あまりよそ見しながら走っていると、危ないぞ」

「あ、はい。そうします」

僕がそう言うと、大志摩さんは「うむ、よかろう」と言って、何事もなかったかのように走り去っていった。

そう、大志摩さんはこういう人だ。厳しい面もあるけど、とても心優しい一面もある。大志摩さんの厳しさには、毎度困らされているけど、大志摩さんの優しさのおかげで、毎度助かっていることもある。とてもいい人だ。

「....さて、そろそろ行きますか」

大志摩さんの後ろ姿を見送った僕は、駅へ向かって走り出した。


尾山台駅西口。

朝の駅前は、今日もいつもの喧騒けんそうと、聞き慣れた電車の音で彩られていた。

朝のこの時間帯は、電車を使うサラリーマンや学生たちで溢れている。僕もよく駅前に来るのだけど、その理由は、5分おきにやってくる、東急大井町線の電車の音を聞くためだった。

僕は自動販売機で、ミネラルウォーターを一本買う。そして、近くの店の壁に寄っ掛かり、ミネラルーウォーターを飲んだ。カラカラに渇いた喉を、冷たく潤いを持った液体が流れていく感覚がする。

うん、たくさん走った後の水は美味しい。僕は毎日、この快感を求めるために、汗を流して走っているのかも知れない。

と、その時、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おう、かつらじゃねえか。学校休んで何してんのかと思ったら、楽しくジョギングかい?」

へへっ、と嘲笑あざわらうような声に、僕は顔を上げた。声のした方を見ると、そこには、クラスメイトの神保喜多じんぼうきたが立っている。

まずいな。あまり会いたくない人に会ってしまった。

「あ、ああ、神保....おはよう。何で分かったの?」

僕は動揺を悟られないように、できるだけ平静を装って言う。神保はまた、へへっ、と嘲笑うようにして言った。

「だって、その服装見たら、誰だってジョギングしてるって分かるだろ」

まあ、そうだろう。言われてみれば、当たり前のことだ。

僕が今着ているのは、先週買ったばかりの青いスポーツウェアだ。特殊な保温材でできていて、とても温かい。僕の服装を見て、ジョギングをしていると思うのは、当然のことだろう。

「そういう神保だって、学校の運動着着ているじゃないか。お前もジョギング?」

「まあな。最近、運動量が落ちてるみたいでさ。ジョギングでもして、体力つけとかないと」

「ふーん、そうなんだ....」

僕は神保の話を、曖昧に受け取って聞く。

「じゃ、じゃあ僕、そろそろ帰らないと。じゃあね」

こういうやつとは、出来ればあまり一緒にいたくない。可能な限り、離れているのが得策だ。

僕は、なんとかその場から逃げるために、家に帰ろうとする。

でも、帰れなかった。

理由は、神保がーー、

「おい、待てよ。お前に帰る場所なんてあるのか?」

と言ったから。

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