+第Ⅰ幕+──AND-0《002》
──その世界は、活気に満ち溢れていた。
「……珍しいな」
ケロイドがぽつりと呟く。
「そうですね。……歪みの影響が少ないのかも知れません」
ユイがそれに答えた。
見ると、道は石畳で舗装されており、魚や果物などの店も軒を連ねている。また、建物は木造でありながら、どこか異国の雰囲気が漂う不思議な外観である。
「お前たち、旅人さんかい?」
不意に後ろから声を掛けらた。
振り向くと、そこには、白髪混じりの眼鏡を掛けた男性が立っていた。
「はい、そうですが……、貴方は?」
ユイが聞き返すと、男性は慌てた様子で、
「俺ぁ、この国で木こりをやってるリュウドってんだ」
と頭を掻きながら答えた。
「私はユイ、彼はケロイドです。何か御用ですか?」
「ああ。『この国に訪れた旅人には丁重にもてなす』っていうシキタリがあってよ。見ねえ顔だったからもしかしたら、と思ってな」
「そうですか」
「見て分かると思うが、この国は森に囲まれた田舎な国でね。何にもないんだが、まぁ、ゆっくりしてきな──」
ぎゅるるる……
突如、鳴り響いた奇妙な音が、リュウドの言葉を遮った。
「……?何だ、ユイ」
急に、ケロイドの外套の裾を引っ張ったユイに訊く。だが、ユイは答えることなく裾を引っ張り続ける。
見れば、ユイは頬を赤く染めながら、ケロイドを見上げていた。
首を傾げるケロイドに対し、ユイは何かを伝えようと口をぱくぱくとさせるが、それは言葉になる前にユイの口の中で消えていく。
苦悩した結果、ケロイドはある結論に至った。
「すまないが、ユイは空腹のようだ。肉か何かを売っている店に案内して欲しい」
それを聞いたリュウドは、一瞬、きょとんとしたような顔をしてから、
「あ、あぁ。……食べ物か、良いぞ。着いて来い」
と再び笑顔になり、歩き始めた。
「……良いようだ。俺たちも行こう。──ユイ?」
うつ向いたままのユイを心配して、ケロイドは声を掛ける。
ユイは、深呼吸してから、応じる。
「あの、一言、良いですか」
ケロイドは無言で頷く。
「では、一言だけ」
ユイはケロイドに詰め寄り、そして、こう言い放った。
「「貴方はバカですか!?」」
──ケロイドは再び首を傾げた。