+第Ⅰ幕+──AND-0《001》
“誰かが呼んでいるような、そんな気がした”
─001─
辺りは鬱蒼とした木々に囲まれていた。
鳥の囀りが木霊し、風が木の葉を揺らす。
その真ん中で赤い屋根の小さな家がぽつりと建てられている。
「此処のようです」
水色のワンピース姿の少女、ユイが呟く。
「ああ」
傍らに立つ、黒い外套を羽織った青年、ケロイドは無愛想な返事をする。
ユイは、家の扉の前まで歩み寄り、戸を叩いた。
コンコン……。
軽く、乾いた音がする──と、同時に家の中からドタバタと慌ただしい音が響く。
やがて、慌ただしい音が止むと、ギィィと木を軋ませながら扉が少し開かれた。
隙間から顔を覗かせたのは、まだ、年端もいかない少女だった。
「こんにちは。貴方が、ローレンさんですか?」
ユイが、笑みを浮かべながら問い掛けた。
扉の影に隠れていた少女は、少し考えてから、ゆっくりと頷いた。
「怪しい者ではありません。“呪い”を解く方法を教えに来ました」
「ほんと!?」
ローレンは、戸を思い切り開き、目を輝かせた。
「本当です。──だから、私たちの話を聞いてくれませんか」
今度は、ローレンは大きく首を縦に振った。
「わたしはローレン。お姉さんたちは?」
ユイの手を引きながら、ローレンは訊いた。
すると、ユイは少し淋しいような顔を浮かべて、それからはっきりとこう答えた。
「私はユイ、彼はケロイド。──ただの偽善者ですよ」