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悪魔リュウトと境界の美少女生活  作者: おかゆか
悪魔リュウトと裸の女子高生
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悪魔リュウトと裸の女子高生

「ホント笑えるんだけどー!」


若い女の笑い声で、起こされた。遊具に揺られ、眠りの淵を心地良く漂っていたというのに、不愉快な現実に戻されたのだ。思わず出た大きな吐息は深呼吸にも似ていた。

人間界の不味い空気が肺を満たしていく。最悪だ。


「ふぁぁあ……あ?」


違和感を覚え、手を開くと現れたのはホズミの角だ。ずっと握りしめていたせいで、手のひらに角の形に赤い痕を残している。

手の中で転がるその角は、痩せた土のような貧相な色で、無理やり引きちぎるように折られたその根本は尖り、表皮が不自然に剥けささくれ立ち、部分的に血が滲み痛々しい。

角を折ることなく生涯を終える事こそ、小鬼族最大の名誉。この手の中に角があるという事はホズミの夢は潰えたと言う意味だ。

ホズミは無事だろうか。

願う事しか出来ないこの身が憎らしく不甲斐ない。が、まぁ、ホズミの事だ。なんとか上手くやるだろう。

他人の心配より、まずは己の身が大切。

思わず目をやった白く長い指は艶やかで清潔な爪先は光を灯している。

手形をグーパーと開いてみるが、自分の指とはまるで思えない貧弱な指だ。


「七瀬が逃げた!」

「ギャハハ」


若い女の雄叫びにも似たはしゃぎ声が近づいてくる。数人いるようだ。夜明け前の静寂を裂くような喧騒が気に障る。

小さなため息を一つ吐き出すと、つられて大きなあくびがこぼれ出た。


「さっきのオヤジから金貰ってるんだけど、ヤバくない?」

「貰っとこうよ、パクられるの、ウチらじゃねーしー」

「ねぇ、七瀬、服着てなかったよね?マジ笑えるんだけど」

「ウチラもここ居ない方が良いって!オッサンがラブホから出てきたらウザイし」


女達の姿は見えないが、俺の右手の植栽の外を歩いているようだ「笑えるー」と、笑い声も上げず抑揚の無い声を出しながら、パンパンと手を叩く音が通り過ぎていく。


「キャハハ」

「もういいよ、七瀬置いて帰ろうよ」

「ギャハハ!マジ酷い」


喧騒が去った所で、再び遊具を揺らし瞳を閉じ舟を漕ぐ。思えば岩窟に降りてから丸一日眠っていない。

悪魔であった頃ならば、どうと言う事は無かったが、この体では眠気からくる倦怠感に抗えそうもない。俺の上のまぶたと下のまぶたはこんなにも仲が良かっただろうか。

陽が昇ったら装飾品を売り払い宿を取ろう……。

そして魔界に戻る方法を探すのだ。

魔界に由縁する者もこの人間界にはいるはずだ。

考えなくてはならない事が山のようにある。が、今は何も考えられないし、考えない。再び眠りの淵を覗き闇へと降りて行こう……と思った矢先。

ガサガサと枯葉が踏まれる音が走り、目の前に人の気配を感じ、顔を上げる。


「あ、あの……助けて……」


下着姿の女が、遊具に腰掛けた俺を見下ろし、蚊の鳴くような声で訴えた。

伸び放題の長い黒髪が顔を隠し、僅かに見えた瞳は涙で濡れている。

しかし、その肉体は喝采を挙げたくなるほどに良く、その体に目は釘付けとなった。ホズミなどと比べれば天と地ほど差のある。肉感的だ。

豊かな胸ははちきれそうな程で、腰には少し肉が乗ってはいるがそれもまた良い!

そして、その肌を見れば、まだ少女と呼べる歳だろう。

これは罠だろうか、しかし俺は今は女のはずだ。

人間というのは男でも女でも見境の無い生き物なのだろうか……。


「……悪いが、俺に女を買う趣味は無い」

「え……?」

「貧しい女は体を売るのが世の常なのかね……。お前、まだ若いだろ。路上の女など……」

「そ、そんなのじゃありません!私、私……」

「ああ、娼館から逃げてきたのか」


少女の背後から不自然に着衣が乱れた中年の男が息を切らせて走ってくるのが見えた。

背が低く太った中年男は清潔には見えずまるで邪悪な小人のようだ。


「もう金は払ったんだ!」


その声に目の前の少女の顔が凍りつく。


「許してください!お金は返しますから!無理矢理言われて……えっぐ、私には無理です、え、援助交際なんて、うっぐ……きゃっ」


中年の男が少女の手首を掴む。少女は体を怯えたように跳ねさせた。

目の前でこの肢体に逃げられたのだ、相当惜しかったのだろう。男としての気持ちは良く分かる。

しかし、男が力で女を押さえ込むやり方は気に食わない。


「おい、オッサンこの女にいくら払ったか知らねぇが、男らしく手を引いてやれよ、泣いている女を犯すなんて悪い趣味だねぇ」

「な、なんだお前……!さっきの女子高生とグルなのか!」

「ジョシコウセイ?知らないねぇ」

「俺は処女を大金で買ったんだよ!外野は黙ってろ」

「そりゃ大層だ。さぞ、逃がすのは惜しいだろう」

「ちがっ……!クラスの子が勝手に……うぐ…無理やり……私そんな事、したくない……ひっく、やっ、やめて」


鼻息の荒い男が、少女をぐいぐいと引っ張り、抵抗のあまり少女が倒れ込むが、構わずに少女を引き摺る。


「警察に駆け込むか?俺には失うものは無い!困るのはお前の方だ!親にもバレるぞ!学校にも、もう行けなくなっても良いのか!一生追い回してやるからな」

「ごめんなさい、ごめんなさい……うっく、許して下さい」


突然、目の前で起こった人間同士の痴情のもつれは、物目ずらしく愉快でもあったが胸糞悪い。

少女を立ち上がらせようと、覆いかぶさるように屈んだ中年の、尻をめがけ、おもむろに一蹴り入れる。が、男の体を揺らしただけで、まったくと言っていい程、手ごたえが無かった。

ため息が一つ漏れ出た。力が無いという事はなんと虚しい事だろう。


「オッサン、その薄汚れた手を放し女を解放してやるんだな」

「さっきから何だお前は!関係ないだろ!」


激高した男が今度は俺の手首を掴んだ。その力は思ったよりも強く、とても振りほどけない。そして俺を睨みつけていた瞳は嫌悪から歓喜へと変わり、下種な笑みを浮かべさせた。


「美人だな。なんならお前が相手をしても良いんだぞ?」

「そ……その人は関係ないじゃないですか!」


少女が非難の声を上げた。


「ふん、この俺を売淫と愚弄するつもりか?」

「ぎゃっ」


急所を蹴り上げると男は体を硬直させ、その手を離した。


「お、おい止めろ!」

「さぁ、どうしてやろうか」


男は俺の手の中で光る刃を見ると顔色を変えたのだ。


「こんな小刀だけじゃねぇよ。まだ良いのがあるんだ」


外套をめくり帯剣用のベルトにくくりつけた長剣を見せる。


「そ、そんな物、偽物にきまってる」

「試してみるか?」


鞘から剣を抜き取り、剣先を喉元に突きつけゆっくりと横にスライドさせる。薄い皮膚からは血がじわりと滲み、男は息を飲み喉を鳴らす。


「この剣は血を吸うのが好きなんだ。怪我をしたくなければ早く立ち去れ」

「ハッ……ハッ……ひ」


男は短い呼吸を繰り返し、何度か転がりながら声も出さずに一目散に逃げ出した。

男の背が見えなくなるのを確認すると、ガチャンと大きな音を立て剣を地面に突き立てる。

その音に少女がびくりと体を弾ませた。


「重てぇー!くそ!この体には恐ろしく筋力がねぇ!」


今の俺の力では、剣を片手で持ち振るう事もままならない!

一分と立たない内に二の腕はぷるぷると震えだし、その疲労は癒えずにいる。


「ったく。まぁ、ハッタリでも使えりゃ充分か」


安堵から放心している少女の背に外套を掛けると、少女は肩を寄せ顔を上げた。


「風邪ひくぞ」

「ありがとう……本当にありがとうございました」


礼の言葉は大きく震えていた。


「初売りの客から逃げちまって良かったのか?」

「え?」

「お前、娼婦なんだろ?」

「ち、違います!騙されたんです……」

「ああ?騙されて売られちまったのか……?おい、俺の名はリュウトだ。お前は?」

「七瀬……七瀬穂積ななせほずみ


その名前に意識せずとも赤毛の小鬼の姿が目に浮かぶ。姿や形、雰囲気はまるで違うが親近感が沸いてくる。


「お前もホズミなのか……!ふはは、では人間の穂積よ、助けた礼をして貰おうか?」



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