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悪魔リュウトと境界の美少女生活  作者: おかゆか
悪魔リュウトと魔法少女
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悪魔リュウトと魔法少女-2

 俺は、アミが母親と別れたと言う店の前でベンチに座っている。


「スーパーでママとお買い物をしてたら、お姉ちゃんが猫ちゃんと遊んでるのが、見えたのー」

「お前が母親とはぐれたのは俺のせいだというか?」

「アミちゃん!」


 はいはい、アミちゃん。と、その小さな頭を撫でつけた。


「まぁ、ここで待ってりゃ、母親も来るだろう、俺も責任を取って一緒に待ってやるよ、アミちゃんは何歳だ?」

「これ」


 四本の指を突き出し、俺へと見せるその瞳は真剣だ。


「四歳か」

「五歳!」

「……」

「お姉ちゃんは?」

「俺は十八歳」


 カリガネと出会ったのは六歳。ちょうどこれくらいの頃だろう。

 こんな頃からアイツは俺に恋心を抱いていたと言うのか。


「お姉ちゃん!女の子は俺っていったら駄目だよ!女の子らしい言葉使わないと、みっともないよ!って、ママに言われなかったの?」

「……みっともない?この俺が……?」


 窓ガラスに写る鏡の君、確かに彼女にこの話し方は似合わない。

 女らしい仕草で動く鏡の君、さぞ魅力的だろう。だが中身は俺だ……。


「ママとのお約束守れないと、モモリンになれないんだよ?」

「モモリン?」


 アミは得意げに、肩からななめに掛けた丸い鞄から棒状の物を取り出した。

 先端に陳腐な星型の飾りが付き、柄にはカラフルな3つのボタン。


「魔法少女モモリン!」


 アミが叫び声を上げ、赤いボタンを押すと先端の星が力なく回り、緑のボタンを押すとシャララと音が鳴る。さらに青いボタンを押せば「ピーチビーム!」と甲高い声少女の声で喋った!


「凄いではないか!お前……アミちゃんは魔法が使えるのか!」

「そー!これモモリンの魔法の杖なの。もっと凄い魔法も使えるけど、内緒なんだー」

「なんだと!教えてくれ、何が出来る?その中に何か精霊でも閉じ込めてあるのか?」

「モモリンは魔法がいっぱい使えるんだよ、お姫様に変身して悪い怪物と戦うの!」


 微妙に話が噛み合わないが、どうやら「モモリン」と言う魔法使いの少女がこの人間界に存在し、アミはその魔法使いに憧れているようだった。


「アミちゃんはモモリンになりたいけど、アイリちゃんはミカリンでー、シオンくんはカニライダーになりたいんだよ」

「魔法使いは他にも居るのか?」

「いっぱいいるよ!リンリンでしょ、チェリリンでしょ、えーと」


 アミは胸を張り、両手をめいっぱい開いて「これぐらい」と言った。最低でも十人と言う事だ。

 穂積のヤツめ、子供でも知っているような事を何故隠していた!


「どこに行けば会える?」

「良い子にしてたら会えるんだよ」

「良い子?」

「リンリンはモモリンに酷い事を言ったから、ゼアスにネズミにされちゃったの」

「高度な術が使える者がいるのか……」

「でも、リンリンがごめんなさいしたから、モモリンが治したんだよ」


 子供に道徳を唱えるその姿勢に高度な術。モモリンは賢者の部類か?


「良い子にすれば、モモリンに会いに連れて行ってもらえるよー!お姉ちゃんも女の子らしくしないと駄目よ、分かった?あ!ママだ!」


 アミの目線の先に、小走りこちらに向って走る母親らしき女の姿があった。


「アミ!一人でどっか行かないで!って、いつも言ってるでしょ!」


 かなり探して歩いたのか疲弊した様子だ。アミが俺と一緒に待っていたと告げると、母親はさすがの俺でも恐縮してしまう程、何度も深く頭を下げてみせた。

 そして、時間に追われているらしく、慌しくアミを連れて去っていった。

 俺は母親からモモリンの事を聞く間もなかったのだ。

 しかし一つの重要なヒントを得た事に違いない。





 ***********






「やぁ、買い物?」


 声をかけて来たのは中森だ。女物の化粧品が並ぶその棚で、似たような二つの商品を手に取り俺は途方にくれていた。


「ああ、お前か。昨日は助かった、まだ傷は痛むか?」

「ほら、唾つけたら治ったよ」


 腕をまくり爽やかに笑って見せた。確かに傷は薄くなり目立たなくなっている。


「それなら良かった。後で治療費を請求されでもしたら堪らないからな。安心したよ」 


 獣人や鬼ならともかく、男を見上げるという感覚への違和感にはまだ慣れない。


「あはは、昔から頑丈なんだよね。その制服、君も清桜女子の子だったんだ?」

「いや、コスプレだ」

「ぷっ、ははは、そうなんだ、でも良く似合ってるよ」


 コスプレ。人間界で知った便利な言葉だ。


「ちょうど良かった、教えてくれ。眉を書くにはどちらが正しいと思う?穂積に頼まれたのだが正解が分からない」


 俺の手の中にあるのはアイブロウとアイライナーと書かれた化粧品だ。

 穂積と言うのは、紅の一つも持っていないような女で、眉を書く術は何も持ってはいなかった。試しに文字を綴る筆で眉を書き足してはみたが、悪目立ちする滑稽な物となってしまった。

 笑い転げた俺に「助けてくれるって言いましたよね」と、買い物を半ば強引に懇願した顔は無い眉のせいで、迫力があった。


「こっちかな」


 中森はアイブロウを指差し「妹がこれ使ってたから」と付け加えた。


「ねぇ君、七瀬さんの家に泊まってる?昨日お風呂場から賑やかな声が聞こえてたからさ」


 中森は少し照れたように、「良いね、女の子同士って」と、はにかんだ。

 そう、昨日は穂積の残った眉も全部剃り落としてやる。と、水場に誘い込み、そのままなし崩し的に穂積の服を脱がして、浴室に放り込み、少々弄んだのだ。


「聞き耳を立てるとは、いやらしいヤツだ」

「いや、そんな意味じゃ!聞こえてきただけだから……その、楽しそうだなって……七瀬さん、いつも一人だったし、高校生で一人暮らしなのも心配だったから。なんか安心したよ」


 物憂げな喋り方は少し気取って聞こえる。


「お姉ちゃん!」


 聞きなれた声に振り返る。アミだ。


「おい、また母親とはぐれたのか?」

「違うよー!ママはレジ!」

「早く母親の元へ戻れ、また迷子になるぞ、今度は助けてやらんからな」


 アミは俺の忠告も聞かず、俺へ駆け寄ると「もう!お姉ちゃん、女の子らしくしないとモモリンに会えないよ!」と大きな声で耳打ちした。

 そして、手にした魔法の杖を一振りすると「じゃあね!」と叫び嵐のように去ったのだ。


「随分小さい友達がいるんだね」

「迷子を保護したら懐かれたんだ」


 俺が言うと中森は「へえ」と、感心したように相槌を打ったので、俺は「たまたま」だ。と付け加えた。


「中森、モモリンと言う魔法使いを知っているか?」

「モモリン?あの位の年の子は好きだよね。僕も妹が小さい時は一緒に見たけど、もう新しいのは何がなにやら分かんないよ、人数も増えたみたいだし」


「…………」


 モモリンの事がますます分からなくなって来た。

 それとも人間というのは大人になるにつれ、魔法に対して興味が薄れていくものなのだろうか。

 これも秀でた科学力の弊害か……。


「どうしたの?難しい顔して」

「モモリンに会うにはどうしたら良い?」


 中森は少し考え「行っちゃおうか、遊園地」と、ポケットから何やら四角い手帳のような機械を取り出し指で操作を始めた。

 それを覗き込むと地図のようなものが表示されている。

 ふと、見上げれば中森と目が合う。


「ねぇ、名前。教えてくれないかな?モモリンに会いに行くでしょ?」


 悪戯っぽいその笑顔に、俺は服従した。



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