解決した探偵部
やあ、探偵部の成宮稜だ。
第一回の部活はあんな悲惨な感じで終わったが、次の部活からは滞りなく進み、今は本格的な調査に乗り出している。
ようやく『探偵』っぽくなってきたな。
だが俺には一つ疑問がある。
「あれ……? 聞き込みとかできるのか、この部活?」
この部活『探偵部』は専ら武力で解決するのを得意としている。というよりも、それしかしない。
取り敢えず俺は出来る限りのことをしてみよう。
◇ ◇
「調査の結果をまとめると……テニス部部長は一人っ子。部員からの信望も厚い。成績は中の上。真面目。好きな動物はワニ。ってとこだな」
「ワニ……」
俺が報告を終えると、渚は何か気になることがあったらしく、何やら一人つぶやいていた。
「渚、どうしたんだ?」
渚のことを心配した飛鳥が声をかけた。
「え? ああ、うん。最後のワニのこと、もう少し聞かせてくれるかな?」
やはりワニが気になっていたようだ。
「テニス部部長は、通学鞄にワニのマスコットを付けているんですよね」
「ワニのマスコットかあ……」
「それが結構ファンシーなやつで、男子高校生が付けていたら目立つんだよ。それに気になって、部長のクラスメイトに聞き込みをしてみた結果、好きな動物はワニだから……という返事が返ってきたんだけど」
俺が知っている限りのことは全て話したが、渚はまだ腑に落ちないようだった。
「ねえ、ちょっといい?」
由亜さんもまた、神妙な面持ちで挙手をした。
「稜君、そのワニの写真はあるかしら?」
「すみません……ないです……」
「謝らなくてもいいんだけど……。まあいいわ。そのワニはかなりかわいいのよね?」
「はい」
由亜さんは美しい御御脚を組みなおした。黒いストッキングが高校生とは思えない色香を出している。お子様な花音ちゃんが穿いてもあまり意味は無いだろう。
「とってもラブリーでキュートなマスコットを鞄に付けて登校する男子高校生……。そのマスコット、彼の趣味じゃないんじゃないかしら」
よくよく考えてみたらそうかもしれない。ていうか、まずそれを考えるべきだった。
やはりこの部は肉体作業が得意なのだろう。
兄さんがいた頃と同じように。
◇ ◇
結局、初めての依頼は意外な程あっさりと片付いた。
テニス部長と一緒にいた小学生ぐらいの女の子は、やはりテニス部長の彼女だった。
でも、小学生ではないんだよなぁ。
なんと、その彼女さんは高校生だったのだ。
それも、彼氏さんと同じ高校三年生。
真面目な部長さんは、彼女がいるとばれるのが恥ずかしかったそうだ。だから誰にも彼女のことは話さなかった。
ワニのマスコットも、彼女さんからのプレゼント。
ほんとに、なんだよこれ。
あっさりと依頼が片付いてしまった俺は、今回の依頼の記録を部内のパソコンでまとめ終え、由亜さんが淹れてくれた紅茶をありがたく頂戴する。
「今回は睡眠薬とかは入ってませんよね?」
「うふふ」
え…………? 人間に残された生存本能の一つなのだろうか。背筋が凍り付いた。
「そんなに驚かなくても……。冗談よ。入ってないわ」
「なら安心して飲めます」
なんだろ……。注意力が増したっていうのか? それとも疑心暗鬼に陥ったのか?
どちらにしろ、実生活の難易度が上がることには変わりはないが。
「みんな聞いて!」
渚が勢いよくドアを開けて部室に入ってきた。
主に待機や会議(韻を踏んでみた)で使うこの部室は旧校舎にあり、古い感じのスライド式のドアなので、勢いよく閉めたりするとレールからドアが外れることが偶にある。
今回も例によってドアが外れる。
机の上にお行儀悪く足を乗っけて某週刊少年漫画誌を読んでいた花音ちゃんがドアを直しに行く。
この子、ミニマムサイズのボディの割に力持ちなのだ。
訂正しよう。馬鹿力の持ち主なのだ。
どれくらいすごいのかは、後に説明することにしよう。
「渚、どうしたんだ?」
飛鳥は、明日の数学の予習を一時中断して問いかけた。
「なんと、新しい依頼だよ!」
嬉しさが滲み出ている笑顔だ。
「内容を教えて頂戴」
ほわほわな渚とは対照的にクールビューティーな路線を行く由亜さんが落ち着いた声音で渚に聞いた。
「迷い猫の捜索依頼」
「じゃあ、私は迷いタチを探します」
渚の後ろから、小柄な少女がすっと現れた。
制服は中等部のものを着用している、ツインテールの少女だ。
……って、何てことを口走っていらっしゃるのだ。
「おい、桜。どうしたんだ?」
この少女、俺の妹である。
成宮桜。俺の兄成宮洸の実妹であり、俺の妹でもある。
「兄さんこそ」
「俺か? 俺は探偵部の部員だが……」
「私も」
「お前、中等部だろ?」
「稜は知らなかったんだなー」
飛鳥は何か秘密を知っているようなそぶりを見せてきた。
「知りたいか?」
「ああ」
「じゃあ、教えて進ぜよう!」
うれしそうだなー……。
「中等部にも探偵部があるのだ!」
「うん。だと思った」
「ところがどっこい。それだけじゃないんだぞ!」
ビシッ! と音がしそうな勢いで人差し指を俺に向けてくる。
「中等部の探偵部はシークレット。秘密裏に活動をしているんだ」
なるほど。所謂探偵っぽいことは中等部の管轄なのか。
まあ、高等部の方はうんざりするくらい目立ってるわけだし、尾行なんて不可能だろう。
「じゃあ、なんで俺たちはテニス部長の件を引き受けていたんだ?」
「ああ。それは中等部が大きな任務を引き受けていて、人手が足りなかったからよ」
由亜さんが代わりに説明をしてくれた。
「てことは、今回も中等部は忙しいのか?」
「猫の件は桜ちゃん達に引き受けてもらうよ」
今度は渚が答えた。
「じゃあ……俺は掲示板のまとめサイトでも巡回しておくよ」
「あ、ごめん。もう一個依頼があったんだった」
「ははは。渚は相変わらずそそっかしいな」
もっとそそっかしい飛鳥には言われたくないだろうな。
「十文字ホールディングスからの依頼」
「はぁ⁉ 十文字ホールディングスって……」
十文字ホールディングス。世界に名を轟かしている大グループ企業。一番規模の大きな社屋は東京にあるが、創始者はこの土地出身で、本社もこの土地にある。
社名から察するに、由亜さんは十文字ホールディングスに何か関係があるのだろう。社長令嬢とか。お嬢様らしいし。
「じゃあ、新探偵部、第二の依頼スタート!」
嫌な予感しかしないんだが……。
久々の投稿になりました。