動き出しそうな探偵部
暇だ。
とにかく暇だ。
こんな行動が無茶苦茶な美少女たちと一緒にいて何暇とかほざいてんだよ、だと?
まあ、とりあえず聞いてくれ。
依頼が来ないんだよ――――――ッ!!
平和だと言ったらそれでおしまいだ。依頼がないほうが面倒ごとが少なくって済む。
だけどな、やっぱり何か味気なさを感じる。
なんつーか、心にぽっかり穴が開いた感じ。
入部してから二週間たつが、全く依頼が来ない。
毎日が超薄味なんだよ。調味料かけてくれよ。
…………いる奴らは濃いけどな。まあ、どちらかといえばスパイスだ。
「あら、稜くん何してるのかしら?」
部室で個人持ちのノートパソコンに向かっていると、由亜さんが声を掛けてきた。
「えっと、日記ですね。日課なんです」
「へー。そうだわ。お菓子食べる?」
「唐突ですね。食べますよ」
「お茶も入れるから、大きなテーブルの方にいってね」
「はい、分かりました」
PCの電源を落としてさっさと指示されたテーブルの方へ行く。
この部屋、無駄に広いんだよな。
会議室ぐらいの広さがあるんだ。
「コーヒーと紅茶、どっちが良いかしら?」
「紅茶で」
「ミルクとかは?どう」
「ストレートでいいです」
しばらくすると由亜さんが紅茶を持って来てくれた。
「そう言えば、他の皆はどこに言ったんですか?」
「ん? ちょっと風紀委員といざこざがあってね。はぁ……。困ったものよ。ちょっと大きな行動するだけであいつ等飛んで来るんだもの。融通がきかないったらありゃしないわ。一度お仕置きが必要ね……」
最後の言葉は聞かなかったことにしよう。俺はそう胸に誓った。
そんなことを誓いながら出されたクッキーを口に運ぶ。
「あ、美味い……。ちょっとオレンジ入れてるところがいいな」
「それね、飛鳥が作ったのよ」
「へえ、飛鳥が」
「そうよ。あの子、けっこう料理とか得意なの」
口調とか硬くて何となく不器用な印象があったので、俺としては意外だった。
「由亜さんはよく料理とかするんですか?」
「え、私? 普段のご飯はコックに任せっきりだけど、趣味ではたまにするわね」
コック?
何? もしかして由亜さんリアルお嬢様?
「あ、あの……コックって……」
「ああ……私の家、結構お金持ちなのよね」
あっさり言われると逆に悪い気がしない。
動揺して渇いた口を潤すために紅茶を一口飲む。
仄かな甘みと苦味の中に何か異質なものを感じた。
「ん……? 何か入れましたか?」
ほんの少しだけ、ほんの少しだけ紅茶っぽくない味がする。
「これって……」
「どうしたの?」
心配そうに俺の顔を覗き込む由亜さん。
「すい……み……ん……やく……です……か?」
やっぱりだ。
兄貴仕込みの、わけの分からない能力その一。
くそ、こんな所で発揮されるとは。いや、発揮されていない。飲む前に気付かなければならないよな。くそっ、だからいつまでたっても中途半端なんだよ。
そして俺の意識は途切れた。
目覚めるとそこは例の応接室っぽいところだった。
俺が探偵部に入部するきっかけになった忌々しき部屋。心の傷は簡単には直らないのだ。
正式には探偵部の事務所らしい。じゃあ、いつもいるあのだだっ広い部屋は何なんだよ。
「おはよう、稜。ふふふ、私が仕掛けたのだ!」
「飛鳥、お前の仕業か」
やっぱりこいつか。
予想通りすぎてため息が出る。
「飛鳥、あなたじゃないしょ。ごめんね稜くん私がやったのよ」
由亜さんか。まあ、飛鳥ならクッキーに混入させられるしな。
「どうだ? なんか探偵っぽくないか?」
飛鳥が腰に手を当て、大きく笑ってそう言った。
ポニーテールがゆらゆら揺れている。
「それは探偵に事件を解決される側だろ?」
飛鳥ってバカか?
「飛鳥ってバカか?」
「私はバカじゃない!」
おっと、思わず口に出ていた。
「確かにね、飛鳥普段バカっぽいからねぇ。でも、入学後の試験の成績は学年二位よ」
マジか!?
「それに特待生だものね」
え!? すごッ!?
「因みに、一位は渚ね」
まあ、それは分かる。なにせ「探偵部」の部長だし。
「あ、みんな来てたんだ。早いね」
噂をすれば何とやら。渚が花音ちゃんと見慣れない男子生徒を連れて、事務所に入ってきた。
「渚と、花音ちゃん、それと……誰だ」
「ん? 依頼者だよ」
やっと依頼者が来たのか。
「さあ、座って座って」
渚が男子生徒に椅子に座るように促した。
「じゃあ、依頼の説明お願いね」
渚から言うんじゃないんだな。
そして、男子生徒は話し始めた。
「えっと、テニス部の者で石丸彰孝っていいます。あ、一年三組です。探偵部さんに依頼がありましてやってきたっす。あ、みなさん一年生ですか? そうっすか。
ええと、実は部長にとある噂がありまして……あの……実は……
――――――部長が小学生と交際しているかもしれないんです。
詳しくは分からないんですけど、小学生ぐらいの女の子と一緒に手をつないで歩いていたとか、そんな噂がありまして……。
え? 妹の可能性ですか? お兄さんはいますが妹はいないので、それはありえないっす。
探偵部さん、隠密に調べてください! 隠密に」
さーて、入部一発目の依頼がテニス部部長のロリコン疑惑か。
「大丈夫! 私たちに任せて。絶対に真相を確かめてみせるから」
自信満々に言い放った渚。
「あ、情報の漏洩は絶対にないから安心してね」
そして笑顔。
おい、石丸、顔赤くなってるぞ。
まあ、分かるよ。
反則だよな、渚の笑顔は。
その後、契約書などを書いたりし、石丸は事務所を去っ行った。
「みんないい? 今年度初めての依頼、頑張るよ!」
俺たち『探偵部』の初依頼が始まった。
お久しぶりです。久々の投稿すみません。まだバトルには入りません。もう少しゆるゆるさせたかったなあ。