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探偵部のみなさんこんにちは

 探偵部入部の次の日――つまり入学式の翌日、教室に入るなりとんでもない光景を見てしまった。

 東堂さんと飛鳥と女子二人(花音と由亜か)が教室の後ろで話している。

 四人とも『探偵部』と書かれた緑色の腕章を付けていた。

 クラスにいるやつらがみんな見てるぞ。

 目立つな、これは。

 って、俺も付けなきゃいけないんじゃないのか。

 精神的にきついかも。

 そういえば、『探偵部』って中等部にもあるということを昨日聞いたんだよな。俺の親友の翔平に訊いてみると、実は学園の変人集団として名が通っているとか。

 自分の席に行くには、どうしても教室の後ろの黒板の前を通らなければならない。

 無視を心に決め、さりげなく四人の後ろを通る。

 結構気付かないものだな。あとちょっとで通り過ぎれるぞ。

 自分の席に到着し、一息つく。

 よし、ミッションコンプリー――

「あ、成宮くん!おはよう」

 ――ト出来ませんでした。

 でも東堂さんに話しかけられてまだよかった。ああ、癒される。

 なんかいいね、甘めだけど澄んだこの声。

「ああ、おはよう成宮」

「あなたが成宮さん?よろしく」

「ん?お前が稜?よろしくな」

 はい。全員に話しかけられました。

 その瞬間、教室の空気が変わった。周りの視線が一斉に集まる。

――ねえ、あの四人って『探偵部』じゃない?

――じゃあ、あの男子は?

――さあ?依頼人か?

 ザワザワ。

 あちこちからヒソヒソ声が聞こえる。

 うわあ、凄い知名度。

 これで俺も有名人だね。

 じゃないよ!

「あ、そうだ。部長さんからのプレゼントだよ。はい」

 例の腕章を渡してくる。

「部長もほかにいるの?」

「やだなあ。私が部長さんだよ。それはそうと、はいこれ。腕章」

「へえ、東堂さんが部長なんだね」

「東堂さんじゃなくて、渚って呼んでね。他人行儀なんて水臭いじゃないかぁ。それはそうと、はい、腕章」

 誤魔化しきれませんでした。

 うーん。受け取るしかないのか。

 渋々と受け取り鞄にしまおうとするや否や、飛鳥が声をかけてきた。

「ん?どうした。付けないのか?部員は着用義務があるんだぞ」

「校長先生にも許可を取っているのよ」

「まじかっ!すごいな」

 くそ、逃げ道がなくなった。

 緑色の腕章を腕に通す。

 うちの学校の制服って白色だからなあ。色があるだけで目立つんだよ。

 安全ピンを外し、ブレザーの袖に止める。

 エナメル質の緑色って結構目を引くな。

 おお。でかでかと『探偵部』と書いてある。

 これで依頼もアップだね。じゃねえよ……。

 後ろを振り返ると皆がこちらを見ていた。憧れの視線や奇異の視線が織り交じっている。

 へえ、憧れるんだこの腕章……。

 ぼーっとしていると、後ろから声が聞こえてきた。

「みんな、聞いてっ!」

 渚が急に教室に居る皆に向かって大声で呼びかけていた。おっとりしている印象があるけど、その声は大きく張りがあった。

 教室がしんとなる。

 大きく息を吸い込み、話を続けた。

「今、ここに『探偵部』メンバーが揃いました。学園の平和を守るため、全力で花活動していきます。みなさんよろしくお願いします」

『うぉぉぉぉぉーーーー!』

 歓声が教室を揺らした。


 なんだよこの人気……


 放課後、俺は部室に来ていた。

 しかし昨日拉致られてきた応接室みたいな所とは大分違う。中央に長机があり、まるで会議室のようだ。

 だが、棚にはたくさんの本が所狭しと並んでいる。ざっと見たところ、探偵小説や百科事典が大半を占めている。

 そういえば『ミステリー研究部』とか言ってたな。おそらく仮の名前だろうだが。『探偵部』じゃ承認されなかったりでもしたのだろう。

 でも、腕章にどうどうと『探偵部』って書いてるしな。兄貴の杞憂だったのだろう。

 部室に入るなり、俺は椅子に座らされた。

「では、まずは自己紹介をしたいと思います。じゃあ、飛鳥からよろしく」

 ホワイトボードの前に立った渚はそう言い、俺の前の席に座る飛鳥の方を見た。

「私は桐笠飛鳥。って、みんなもう名前知ってるじゃないか。まあいいや。よろしく」

「次は由亜さんね」

 俺の左斜め前の女子――飛鳥の右隣の女子が立ち上がった。

「私は十文字(じゅうもんじ)由亜。一年間頑張っていきましょう。よろしくね」

 物腰の良さから『お姉さん』といった感じを受けた。

 背は結構高いようだ。ちなみに、渚も飛鳥も背は普通。

 髪型も黒のロング。

 だが、渚はともかく、飛鳥とは全く違うところがある!

 胸だッ!

 飛鳥はかなりボリュームが足りない感がある。

 って、俺は何を考えているんだーッ!

「次は、花音ちゃんお願い」

 俺の隣の席の女子が立ち上がった。

 第一印象は小柄だ。よくて中学生、もしかしたら小学生にも間違われるかも。

 そしてめっちゃラブリー。

 ふわふわなブラウンめの髪と、真っ白に透き通った肌、触れただけで折れてしまいそうなガラス細工のように細く華奢な肢体。全てが重なり人形のように思えた同時に存在感の希薄さを覚えた――

榊原(さかきばら)花音。創始者の弟だからって私は手加減しねえぞ。せいぜいあたし達の足をひっぱんねぇようにしな、新人。よろしくな」

かに思えた。

 ニッと八重歯を出して笑う彼女には、儚さなんて微塵も感じられない。

 おい、腰に手を当てるな。せっかくの可愛らしさがもったいないだろ。

「じゃあ、次は成宮くん」

 とうとう俺の番が来た。ゆっくりと席から立ち上がる。

「ゆっくり立つな。もっとしゃきっとしろ!」

 花音が茶々を入れてくる。ああ、静かに出来ないのか。

「こら、花音。静かにしろ」

 以外にも、飛鳥が花音のことを叱った。

 へえ、結構いいやつかも。

「今からこいつがと――――――っても面白いことを言うからな」

 ニヤッ。

「へえ、そうか。と――――――っても面白い自己紹介をしてくれるんだな」

 ニヤッ。

「へえ。と――――――っても面白い話をねえ」

 ニヤッ。

「え? と――――――っても面白い話をしてくれるの?」

 キラキラ。

 …………こいつら……。

 まあ、いい。やってやるよ。男を見せてやるよ!

 ふふふ……見てろよ……俺の、勇姿を!!

「はーい、みんなぁ! お☆ま☆た☆せ! ワタシ、魔法少女プリズム稜たん。悪い子にはワタシの魔法でお仕置きしちゃうぞ!…………」

 死亡。

「…………」

 これは飛鳥。

「…………」

 十文字さんも。

「…………」

 渚も。

「…………」

 花音まで。

 

 誰か、笑ってくれ――――――っ!!


「ごめん。私がハードル上げ過ぎた。本当にごめん」

「謝られるとキツイからさ、お互い、忘れよう」

「そうね……みんな、良いかしら?」

「うん。そうしよう」

「ああ。そうだな。花音、さっきの動画アップしといて」

 動画撮んなッ!!

「え? あたし、パソコン使えないよ?」

 やる気かよ。

「もう!! そんなことしたらいけないでしょ! 成宮くん、ごめんね」

「いや、いいよ。では気を取り直して……」

 改めて全員を見回す。

「成宮稜です。趣味は特にありません。兄が一人いますが旅をしていて連絡は偶にしか取れません。よろしお願いします」

「フツー。面白くねーぞ」

 花音が本当に面白くなさそうな声で言う。非常にうるさい。

「確かに普通ね。さっきのは何だったの?」

「いや、十文字さん。こっちが素ですから」

「由亜。名前で呼んでね。稜くん」

 来ました!

 高校生離れした色気に俺は瞬殺された。

「じゃあ、新入部員の稜くんも自己紹介をしたことだし、今日やることはもうないね」

 さりげなく『稜くん』と呼ぶ渚。少しドキッとした。

「おい、稜。お前まだこの学園来たばかりだよな。私が案内してやろうか?」 

「うふふ。飛鳥。抜け駆けはずるいわよ?」

「ぬ、抜け駆けじゃない! べ、別にこんな魔法少女……」

 顔を真っ赤にして抗議する飛鳥。

 へえ。こんな表情できるんだ。

 あと、俺は魔法少女じゃないからな。

 廊下に出る美少女四人の後ろについて俺も部室を出る。


 まあ、こんな感じでいいのかな?

 厄介ごとが無限に見えるけれど、楽しもうじゃないか。

 いまいる状況を、さ。

 

 この後、花音が動画を挙げようと四苦八苦してたので全力で止めにかかりました。

 …………噛み付かれました。痛かったです。

 なんであんなこと言ったんだろうな。 

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