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携帯電話  作者: 黒田 彩
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ずっと見ていたいと思った。

「今日から中一のクラスなんだよねー。まだ小六なのに変な感じ」

「たしかに! でもなんか楽しみっ。新入生とかいるかなぁ」

 私が通っている塾は、学校で学年が変わる1ヶ月前から、次の学年のクラスに切り替わる。多分どこの塾もそうなんだろうけど、他の塾に行った事なんてないし、友達とも塾の話はあまりしないからよくわからない。それに、どこの塾よりも、この塾に通っている友達が一番多いから、たとえ塾の話をしても、結局、他の塾がどうなっているかなんてわからないのだ。今日、一緒に登校した真樹__私の親友も、きっと他の塾についてはほとんど知らないと思う。

 私と真樹は、新入生のこと、成績順に並ぶはずの席順のことなど、期待を胸に教室に入った。

「彩音と真樹おそーい!」

 教室に入ったとたん、聞き慣れた声が私たちに向かってきた。教室を見回すと、見慣れた顔ばかりが並んでいる。真樹と顔を見合わせ、言葉を発することなく「新入生は?」と目で会話をした。

「去年からやってる人はAクラス、新入生はBクラスでスタートなんだってー。Aクラスは、席順も変わってないみたいだよ」

 最初に声をかけてきた、愛莉が言った。真樹の「そうなんだぁ、なんか残念」という言葉にうなずきながら、自分の席へ向かった。私の席は、2列目の右から3番目。成績で言うと、Aクラスの中では十位だ。一クラスがだいたい三十人くらいなため、悪くはない成績である。ちなみに、真樹は八位、愛莉は十六位だ。

「先生って変わるのかなぁ。事務室に知らないおじさんがいたから、新しい人になるのかもねっ」

 後ろの席から、愛莉が言った。それを聞いた岡田__学校でも同じクラスの男子が、「そういえば、見た事ないハゲがいたよな!」と話に割り込んでくる。

「岡田も見たんだ! たしかにハゲてたよね! しかもバーコードハゲ! あははっ」

 私の右隣にの席に座っている岡田の肩を、大笑いしながら勢いよく叩く愛莉。私にも愛莉の手があたっていたが、それに気付くことはきっとないだろう。それくらい、愛莉は楽しそうに笑っていた。

 愛莉と岡田が爆笑しているところに、塾長の笹木先生がやってきた。

「お前らうるせぇー。はい、授業はじめまーす、起立!」

 先生がそう言うと、クラスの皆が立ち上がった。二人も、笑いをこらえながら立ち上がる。

「はじめます」

『お願いします』

 この塾では、教師が「はじめます」と言った後に生徒が「お願いします」と言うように教えられている。また、勉強の他に、挨拶などの人間として重要な部分も厳しく言われるため、挨拶がきちんと出来ないだけで、たまに説教されることもある。……あくまで、たまに。

「テキストの一番最初のページ開けー。っとその前に出欠とらないと」

 先生の言葉を聞いて、みんなが英語のテキストを開いた。塾長である笹木先生は、英語と国語を専門としている。ただ、国語も笹木先生が担当するかどうかはまだわからない。私は笹木先生の授業が好きで、国語の担任も笹木先生であってほしいのだが、もし違ったらしょうがないと諦める事に決めていた。

 ……それはさておき、先生が出欠を取っているのを聞いて不思議に思うことがあった。一番最後に、「アシダ カイ」という名前が出てきたのだ。愛莉の話では、Aクラスには去年からずっとこの塾にいた人しか入れないことになっている。去年、アシダカイなんて名前の人はいなかったはずだ。どんな人だろう、と後ろの席を見てみると、そのアシダカイという人物は来ていなかった。

「じゃあ授業を始める。えーっと…」

 先生が話し始めようとした時、教室の入口の扉が開いた。クラス中の視線が扉に集まる。

「すいません、遅れました」

 そこから入ってきたのは、見た事がない顔の男子だった。多分、アシダカイって人。慌てている様子もなく、笑いながら教室に入ってきた。服装は、県内ではかなり強いと言われているサッカーのクラブチームのロゴが入ったジャージに、エナメルバッグを持っていた。きっと、そのクラブチームに所属しているのだろう。同い年とは思えないほど大人びた雰囲気がしているのに、いたずらっぽい笑顔が不自然じゃない。しかも、普通以上……いや、かなり顔が整っている。いわゆるイケメンだった。

「芦田の席は……。あった、一番後ろだ」

 席順が記入された紙を見ながら先生が言った。アシダ君が、先生に言われた席の方へ歩いていく。それを目で追う私。なんでだろう。ずっと見ていたいと思った。

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