あなたは私の‥‥‥
「御影蓮、あなたは私の宿敵よ」
放課後の教室。さながらバトル系漫画のような言葉を、俺は浴びせられていた。
「‥‥‥身に覚えが無いんだが?」
「でしょうね。あなたにとってはその程度の認識なのよね。ああ腹立たしい。隣の席なのも腹立たしい」
ひたすらに言葉責めをしてくる相手の中は、小鳥遊朔。
「‥‥‥なに髪と胸を見てるの? 見るならもっと控えめに見なさいよ」
「そんなに視線泳いでないと思うけど!? ていうか見るなって言えよ!」
綺麗で長い真っ直ぐな黒髪に、目鼻立ちが整った容姿。10人がすれ違えば、10人全員が振り返りそうなほど整っている。
『学内美少女ランキング』というものがあれば、間違いなく上位に入ると思う。あったらな。
何より、目線を引き寄せて離さない豊かな胸。男なら、誰でも勝手に吸い寄せられます。俺も男ですから。
「こんな感じよ。まるで‥‥‥なんて例えようかしら?」
「再現しなくていい!! ていうか絶対に誇張してるだろ!?」
「その方が面白いでしょ?」
「‥‥‥」
「ほら、客観視して自分の行いを反省しなさい」
そして見ての通り、かなりの変人。2、3年生なら皆が認知しているほどの個性の尖りっぷり。俺が止めても、小鳥遊は暫く上下運動を繰り返していた。
「‥‥‥首が疲れたわ。話が逸れたじゃない」
「逸らしたの誰だよ‥‥‥」
こんな感じで、小鳥遊朔と話す時は体調が良いときに限定しましょう。頭とか痛い時に話したら、たぶん保健室行きです。まあ最初から行けって感じか。
「手段を選ばなければ、私の黄金の右手の人差し指が炸裂するんだけど」
「ちょっと説明が長いな!? すげえ分かりづらいし手段選べもっと!!」
「うるさいわね。ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんじゃないわよ」
「それ、お前が言う‥‥‥?」
ほら、勝手に口が言葉を返してしまうからね。これはもう小鳥遊の才能かもしれない。
「ぇ‥‥‥あなたから見て、私って可愛い?」
「なんで驚いてんだよ‥‥‥俺でなくても皆がそう思ってるだろ」
こいつ、もしかして意外と褒められてないのか? 驚いてるの初めて見たな。いや、そもそもそんなに知らないけど。
「‥‥‥逃げたわね。このチキン野郎」
「お前、ほんとに2週間前に来た転校生か‥‥‥? 俺じゃなかったら泣いてるわ‥‥‥」
「だって宿敵だから」
「さっきも思ったんだけど、宿敵って書いてライバルみたいな言い方やめてくれないか? なんでライバルって言う時そんなに熱が籠ってるんだよ」
「‥‥‥宿敵、だからよ」
「俺の話聞かないのは充分に分かった‥‥‥それで、話ってなんだよ」
もうさすがに喉が渇いてきた。そろそろ切り上げてオレンジジュースでも飲みたい。
「オレンジジュース売ってる自販機は昼に売り切れてたわ。諦める事ね」
「エスパー!?」
「倒すには、情報収集は常識」
「俺から見たら非常識そのものなんだが‥‥‥?」
あかん。やっぱり小鳥遊に対して口が自然に動いてしまう。普段動かしてないから少し頬が痛い。
「要が無いなら、もう帰るからな」
「待ちなさい。用ならあるわ」
帰ろうと踵を返す前に止められ、仕方なく小鳥遊の方を見つめる。
そして、彼女が右手で持っていたものに驚いた。
「今日の小テスト‥‥‥私の点数見て鼻で笑ったでしょ!?」
ーーー点数欄に0と記載されていた、漢字の小テスト用紙。
「いや‥‥‥絶対に笑ってない。というより笑えない」
「なんですって!?」
正直に答えただけなのに、声を荒げてくる小鳥遊朔。小テストの採点は隣の席と交換して行う。つまり、小鳥遊が今もっている用紙を授業中に採点したのは俺自身。
「まあ‥‥‥仕方ないんじゃないか? 転校してきて日が浅いし、次頑張れよ」
「そうじゃないわよ!! あなたは見せつけるように全て記入した用紙を私に渡してっ‥‥‥!!」
「いやそういう決まりだからな?」
「それに満点だと私に採点させてっ‥‥‥どれだけ私を侮辱すれば気が済むの!?」
「むしろ今それを掘り返すのお前だからな? むしろその語彙力で漢字0点って何なの‥‥‥?」
前々から思ってたけど、小鳥遊って‥‥‥まあ、うん。
「私は決めたのっ。私の目の前で満点を取っていたあなたを超えてみせる!!」
「そのモチベーションは素直に良いと思う」
「っ、余裕ぶって‥‥‥学力試験で勝ってみせるから!!
「じゃあねっ、御影‥‥‥蓮くん!」
小鳥遊は嵐のように早歩きで去っていく。途中なんで言い淀んだし。
「ーーーあいたッ!?」
机の足に盛大にぶつかり、前のめりに倒れ込んで。なんとなく、俺は視線を逸らす。
「ざっ、残念でした〜!! 私の純白はそう簡単に見られないからね!!」
そして墓穴を掘った事にも気付かず、小鳥遊は顔を真っ赤にして教室を出ていく。一瞬振り返って、無言で自分の鞄を回収してから。
「‥‥‥なんだったんだ、あいつ」
俺は思わず息を吐いて笑っていた。ごく一般的で『普通』と呼ばれる黒崎高校に現れた、普通じゃないやつ。
「でも、誰かと話したの久々だな‥‥‥」
『普通』な俺と、『普通』じゃない彼女の物語。
「〜〜〜学生証忘れたっ!!」
‥‥‥うん。たぶん起きないわ、そんなの。




