表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

忘却の令嬢と記憶の書

作者: 結光


この世界には世界中の一人一人の記憶を保管する「記憶図書館」が存在する。

そこには絶対に誰にも読まれてはいけない「禁書」が存在した。

令嬢エトワールはここの記憶管理者の一人として「記憶図書館」を守っている。


「リリリー。緊急。緊急。侵入者が発見されました。直ちに職員は目的の場所へ移動してください。」

そんな音とともに職員がドタバタと駆け出す音がする。


「侵入者なんて珍しい。っていうかおかしい。なにがあったんだろう。」とエトワールは右手でのんきに紅茶を飲みながらながら思っていた。


10年以上働いているエトワールが思うのも当たり前。なぜなら記憶図書館の防犯は『世界一』だといわれているからだ。窓がなくドアも10個以上開けられないとこの場所にたどり着くことはできない。その多数のドアにも一つずつ暗号があり毎日、毎時間、毎分に暗号が変わる。規則性はなく不規則に変化するのである。そしてこのドア以外侵入はありえないつくりになっているのだ。


「レオニスの記憶の書がなくなった。」エトワールがこの知らせを聞いたのは警報が鳴ってからに20分後のことだった。一応同期であるオルカが慌てて教えてくれた。


「今は上司たちの会議が行われているらしいよ。ってエトワール!警告なったときに定位置にいなかったでしょう。」オルカがあきれた様子で苦笑いする。


「もちろん。私が行っても意味がないでしょ。それよりもごちゃごちゃになっている記憶の書を片付けていたほうがいいもの。早く帰れるし…」エトワールはお茶目な表情をしながらベロをだした。


「はあ。報告しますからね。」それだけをオルカは告げて振り向かずに会議が行われているあろうで場所へ向かっていった。


その様子をエトワールは片目でちらって確認する。

オルカはエトワールの数少ない男友達だ。エトワールよりしっかりしてて頼りになる。

しかし、厄介なのだ。エトワールのさぼりをいつも報告する。オルカのせいで残業になったことは数知らす…



エトワールは紅茶を飲み干すと静かに立ち上がった。


「それにしてもレオニスの記憶の書が…なくなったとはね…」


彼女は書架を抜け出し禁書のある入口へと向かう。


その時だった。突然目の前に青い物体が現れた。


「初めまして。いや、お久しぶりというべきかな。エトワール。」


初めてみた青い物体は。図鑑で見たことがある。「記憶の精霊ノクス」が私の肩に止まる。


「なにか、用があるのですか?ノクスさん。」


お久しぶりという言葉がこころに引っかかったがあえてスルーする。


「相変わらず、冷たいな。でも、それは今日は関係ない。君は知っているだろうか。あんたの書が空白であることを。」


立ち止まって、エトワールは目を細めた。


「え…それはしってるわ…」


「レオニスの記憶の中に君が映っていた。多分、君の過去だろう。君は王家の血をひくものだ。」


「…冗談はやめて。私はただの管理菅よ。」

 

ノクスは静かに羽ばたき彼女の前に一冊の本を差し出す。

それは盗まれたはずのレオニスの記憶書だった。


「犯人は、君に読ませるために盗んだんだ。君のためにね。」


エトワールは震える手で本を開いた。


文字が光に変わり彼女の脳裏に映像が流れ込む。


______彼が生まれた瞬間。


___彼が友達と遊んでる姿。


___彼が英雄になったとき。



彼の人生が次々とストーリーになって表れてくる。



そして…


___王室の一室で幼い少女が泣いている。


___その少女は確かにエトワールだった。


「この子は神の落とし子だ。そのこは存在してはならない。」


「すべて消せ。記憶もの名もすべてだ。」


レオニスは王に命じられたようだ。しかし、「彼女は僕が守る。命に代えても。」


レオニスの声が響いた。


脳裏から映像が消え現実にもどってくるとエトワールは膝をついた。


「私が…王族…。」



エトワールは記憶の書の前に立ち尽くしていた。

それは、英雄レオニスの記憶の書──そして、彼女自身の過去が記された禁忌の書でもあった。


記憶の精霊ノクスが、彼女に語りかける。


「君は、王族の血を引く者。記憶を戻せば、王位を継ぐことができる。

だが、図書館を離れ、過去に縛られることになる。」


エトワールは、記憶の書を見つめた。

その表紙は、黒に近い深い青。彼女の瞳と同じ色だった。


「……私が、王族……」

もう一度口にした言葉は、口にした瞬間、重く胸に沈んだ。


心が痛む気がした。


彼女の心に、幼い頃の断片的な記憶がよぎる。

誰かの腕の中で泣いていたこと。

名前を呼ばれたこと。

そして、突然すべてが消えたこと。


ノクスが言う。

「君が望めば、記憶は戻る。君の人生は、変わる。」


エトワールは、静かに目を閉じた。

記憶を取り戻せば、王族としての人生が待っている。 けど、それは“誰かが決めた自分”を生きることになる。そして、今まで積み上げてきたことをすべて失うことになる。


今の自分は、記憶図書館の管理官。 記憶を守り、記憶に仕える者。 誰かの過去を読み、未来を選ぶ手助けをする者。


今の環境がいい。権力争いなどには巻き込まれたくない。安心して暮らせる場所がいい。


彼女は目を開き、記憶の書に手を伸ばした。

だが、開くのではなく、そっと閉じた。



「私は今の自分がいい。今の私も過去の私も自分なんだ。けど、一から作り上げてきた自分方が好きだから。」


その言葉は、図書館の空気を震わせた。

ノクスは微笑み、彼女の肩から離れ、宙に舞った。そして、一冊の本を私の手から奪っていく。


「その選択は、君だけのものだ。」 と告げた。



その夜、彼女は自室の書架に一冊の新しい本が現れたことに気づいた。 それは、エトワールがこれまでの人生の記憶が描かれている本だった。幼いころから最近のものまでしかし一番最初に書いてある言葉はこうだった。



> 「エトワールは、私を選んだ。」そこから始まった。


その瞬間、図書館の天井に浮かぶ魔法の星が、一つだけ強く輝いた。

それは、エトワールという名の令嬢が、自分の記憶を超えて生きることを選んだ証だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ