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06,異世界物の推しゲームの聖地を巡礼出来るのは転生者の特権


「お待たせしました!」


この日の待ち合わせはいつものガゼボ、ではなくお屋敷の門の外。衝撃の俺も付いて行く発言後、追撃のように「…邪魔になるなら別にいい。」と言われれば「邪魔なわけがありません!」と答えるしかないのは悲しきオタクの性。クラージュ・レイニーブルーの存在が邪魔になる時なんて、いつどんな時でもあるわけがない。そういうわけで推しと一緒にお出かけすることになりました。なんで。どうして。一緒にお出かけに行くと言ってもガゼボのトークタイムが秘密の会合である以上、二人一緒に屋敷を出るわけにはいかない。クラージュは先に正面玄関で使用人たちにお見送りをされ、わたしは少し遅れて裏口から出てきた、というわけである。


「…その服、間抜け面にしては悪くないな。」

「有難うございます!」


クラージュ語で「お洋服、素敵ですね」と褒められて、隣を歩いても大丈夫の基準をクリアできたことに安心する。ちなみに夢色ローズガーデンではデートの際、ダサいコーデをしていくと攻略対象がその場で帰ってしまう。推しとの待ち合わせ開口一番に服装にケチをつけられドタキャンされたら立ち直れる気がしない。それに推しとのグリーディングにダサい恰好をしていくなんてオタクの名が廃る。クラージュ・レイニーブルーのオタクって服装ダサいよねとか言われたくはないし。これは前世のネチネチ学級会の幻覚。ひとつ残念な点を挙げると推しカラーのアクセサリーを用意出来なかったこと。前世の記憶を思い出す前は推しカラーなんて概念はなかったし、給料は殆ど本に使っていてアクセサリー自体ほとんど持っていなかったので、致し方なし。


「行き先は街の本屋か?」

「いえ、今日は丸一日の休暇なので王都に出ようと思っていまして、……大丈夫でしょうか?」

「構わない。では、まずは駅だな。」

「はい!」


さて、前世の記憶が戻ってから初めての外出だ。この世界についておさらいしよう。今いる場所はクリアスカイ王国のレイニーブルー領。王都のすぐ隣にある自然豊かな土地。中心には、そこそこ栄えているけどパッとしない、田舎とも都会とも言えない『雨の街』があり、レイニーブルー家のお屋敷も『雨の街』に建っている。本日のお目当ての本は雨の街の本屋でも買うことは出来るのだが、今日はその後にカフェで買ったばかりの本を読みふけりたいと思っている。そういう時には知人と出くわす可能性が高い雨の街よりも、汽車にのって王都に出るのだ。もちろん王都のほうが断然お店が多いから、ついでにショッピングも出来るしね。片道約30分。お出掛けにはちょうど良い。そして実は今回、もうひとつ目的があるのだが……。


「クラージュ様は、王都にはよくお出かけなさるのですか?」

「そこまで頻繁では無いが、たまにな。王都にはレイニーブルーには無いような珍しい本を取り扱う店がある。」

「おお、良いですね!わたしにも教えてください!!」

「下働きには手が出せない値段だと思うが。」

「拝むだけでも価値があるってもんですよ。」


その通り。拝むだけで良いのだ。だって夢色ローズガーデンの舞台は王都であり、その店はクラージュのイベントに出てくる聖地なのだから。今回のお出掛けのもうひとつの目的はズバリ聖地巡礼。異世界物の推しゲームの聖地を巡礼出来るのは転生者の特権。第二の生に感謝。しかも推し本人が一緒…?やばい、冷静に考えると贅沢すぎてどうかしてる。


「随分浮かれているな。庶民にとっては王都に行くのも贅沢か。」

「浮かれたくもなりますよ。クラージュ様と王都を歩けるなんてすっごく楽しみです!」

「………そうか。」


クラージュが口元を手で覆って顔を背けた。あ、浮かれすぎたかも。馴れ馴れしすぎたかな。声が大きすぎたのかも。とにかく別の話題を振らないと。


「く、クラージュ様も今日は本を買いに行くのですよね。もし雨の街の本屋で予約をしているのなら先に寄って行きましょうか?」

「庶民と一緒にするな。件の本なら今朝屋敷に届いた。」

「新刊を朝一番に届けてもらっているんですか!?」

「ああ。今も持ってきている。」

「それなら、今日はどうしてお出掛けを?」

「それは……。」


クラージュがもごもごと口ごもる。この流れは、来るぞ。身構えろ。


「…間抜け面と本屋に行けたら楽しいと思ったからだ。」


あっぶねぇ、身構えていなかったら死んでいた。クラージュがもごもごしている時はクラージュ語を通常言語に変換している時だ。クラージュが素直になろうと頑張っているのはとてもえらいが、破壊力が半端ない。そしてなによりわたしと本屋に出かけたら楽しいかも、と思っていただいているなんて光栄すぎる。わかる、わかるよ。同志とお出掛け超楽しいもん。クラージュだって期待の新刊を思いっきり語り合いたいよね。


「そんな風に思っていただけて嬉しいです。今日はめいっぱい語り合いましょう!」


こうしてわたしたちは汽車に乗り、王都もとい夢色ローズガーデンの聖地へと足を踏み入れた。



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