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05,オタ活は心の栄養補給


「さ、さっきの、なに…?」


コーネリアが未確認生命物体を目撃したかのような表情を浮かべ、わたしに話しかけてくる。一方わたしは尊さで天を仰いでいた意識を引き戻し「聞いた。」と冷静に返事をする。わたしたちのアベコベな反応は、さきほど通りかかったクラージュ・レイニーブルーに「ご苦労。」と声を掛けられたのが原因だ。人に厳しくを理念にしていたクラージュ・レイニーブルーが掃除中の下っ端メイドに労いの声を掛けるだなんて、彼を知る人間からしたらそりゃもう天地がひっくり返るがごとく衝撃的な出来事なのだ。


「あのひきつった顔はもしかして怒ってた!?うぅ、どうしよう、クビになっちゃう……!!」


コーネリアはよっぽどクラージュのことが怖いのか、顔を青ざめてぷるぷると震えている。そんなに怯えなくても大丈夫。クラージュは決して怒っているわけではないし、天変地異が起きたわけでもない。きっかけは先日のわたしの言葉だろう。クラージュはきっと今、厳格さと優しさのバランスを図る練習をしているのだ。頑張る推し、えらすぎ。はやくコーネリアにもクラージュ・レイニーブルーの不器用な魅力に気づいて欲しい。顔がひきつっていて妙に怖いのは分かるが。


「アリエッタ、なんで腕組みしてドヤ顔してるの?」

「これは後方腕組みメイド面ってやつだよ。それより、クラージュ様は怒ってるわけじゃないと思う。きっとなにか心境の変化があったんじゃないかな。」

「あの地獄に住む鬼のようなクラージュ様に心境の変化が?そんなの、そんなことが起きるなんて……まさか恋!?」


違う。正解はオタ活だ。同志と推し作品への愛を語り合うオタ活は心の栄養補給なのだ。が、ガゼボのトークタイムのことは今のところわたしとクラージュとメイド長と庭師の老人しか知らない秘密なので適当に相槌を打っておく。ちなみになんで庭師の老人が知っているのかと言うと、


「あ、そろそろ11時だ。わたし行くね。」

「アリエッタも大変だねぇ。でもすごい才能だってメイド長が言ってたわ。将来は本格的に庭師になるの?」

「う、うーん、分かんない……。」


他の人たちにはわたしが庭師の老人に気に入られて庭仕事を手伝っているということになっているらしい。メイド長、ちょっと誤魔化すの雑じゃない?



「さっき、お声を掛けていただいてコーネリアが驚いてました。」

「…間抜け面が見えたからな。」

「わたしですか?ありがとうございます!クラージュ様にお声掛けしてもらえると嬉しいです!!」


クラージュは手で口元を覆ってなにか考えこむ。わたしはクラージュ・レイニーブルーに気のおける同志と認定されていると思っているが、時折こんな風に微妙な表情で考えこまれる時がある。こういう時、推しに対して失礼なことを言ってしまったのではないかと少し不安になってしまう。それでもクラージュがすぐに小説の話をし始めるものだから不安な気持ちはすぐに吹き飛ぶ。なんとも単純なオタクである。そんなこんなで本日のオタトークタイムもみっちり語り合い、あっと言う間に時計の長針が一周してしまった。そういえば、解散する前に今日はクラージュ・レイニーブルーに伝えなければならないことがある。


「明日なのですが、休暇日なので晴れててもこちらには来られません。なんと、あの『黒獣の王』の作者さんの待望の新作の発売日に休暇をいただいて受け取り即カフェで読書する予定なのです、いいでしょう?」

「そうか。下働きの休暇など粗末で、いや、違う……。」


てっきりクラージュ語で「楽しんできてくださいね。」という内容の蔑みの言葉を頂戴すると思っていたが、クラージュは途中で言い淀み、言葉を止めた。なにかを考えこんでいるようで、かつてなく眉間にしわを寄せている。なんだろう、わたしがネタバレするとでも思っているのだろうか?オタクの魂に誓ってそんなことはしない。そしてしばらくして意を決したように言った。


「俺も付いて行く。」

「なんて?」


思わず声に出してしまった。ちょっと待って。今、なんて言った???


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