20,オタク女子の転生先は推しのメイドで充分
誘拐事件から半月が経った。事件直後は騎士隊による事情聴取に呼び出されたりして大変だったのだが、今ではすっかり過去の出来事になっている。いつの間にか雨季も去り、本日は爽やかな晴天。初夏の香りに包まれた庭園のガゼボではクラージュとの日課が穏やかに行われる。訂正。恋心を自覚してしまったせいで内心あまり穏やかではない。クラージュの一挙一動にドキドキしてしまう自分がいる。今日も挙動不審にならないように強い気持ちで平常心を保たねばならない。気合い入れの深呼吸をしているとクラージュの姿が見えた。うぅ、今日も直視できないくらいカッコいい。
「昨日はすまなかった。」
「いいえ、モネさんとの約束ですから。それで、どうでした?モネさんとペルルドール王子は無事に出会えましたか?」
「ああ。モネは喜んでいた。ペルルドールもかなり興味を持っている様子だった。」
「良かったあ。でも、せっかくならわたしもモネさんと王子が出会うところを拝見したかったです。」
「それは駄目だ。」
「もちろん、分かっています。下っ端のメイドと王子が同席するわけにはいきませんからね。」
「…違う。ペルルドールがお前に…その、……俺が個人的にお前とペルルドールを会わせたくないだけだ。」
ペルルドール王子と会わせたくないだなんて、まるで恋愛シナリオが進んだ時の言動みたいだな。………え?まさか、もしかして。いやいや、そんな馬鹿な。自意識過剰だ。いや、でも、なんか、自分、ここは攻めの一手を良いですか!?
「相手が誰だろうと、わたしはクラージュ様ひとすじですけど。」
ガタンッ。クラージュが持っていた本を落とす。ああ、変に攻めすぎただろうか。慌てて本を拾うために手を伸ばす。クラージュも手を伸ばしたことに気が付かず、互いの指先が触れる。
「す、すみません!」
すぐに手を引っ込めるが、時すでに遅し。頬が熱い。心臓がわけわからないくらいうるさい。こんなんじゃ恋心がバレてしまうんじゃないかと心配で、ゆっくりクラージュを覗き見る。口元を片手で覆ってそっぽを向いている。一年前から相変わらず、クラージュは時折この反応をする。きっと不快とか迷惑とかを表しているのだ、と思っていたが、今、やっと気が付いた。
「クラージュ様、お顔が赤いです。」
「…見るな。」
クラージュが顔を隠すように後ろを向くが、もはや耳まで赤くなっている。まさか、口元を覆うポーズは照れ隠しだったということ!?今までずっと!!?思わずこちらまで顔が熱くなる。クラージュがちらりとこちらに視線を向ける。
「お前も赤い。」
「こ、これは!クラージュ様につられただけです!!」
「…俺は、今日は気温が少し高くて……いや……その、……………。」
いつもより口ごもる時間が長い。さすがにわたしもそこまで鈍感ではない。心臓が口から飛び出そうなのを抑えてクラージュの言葉を待つ。クラージュもまた、わたしが待っているのに気が付いたのか、口元もとの手を外してまっすぐ私に向き直る。顔が真っ赤なせいで瞳の青色が美しく鮮やかに見える。とても、とても長い沈黙。心臓の音は自分のものなのか、クラージュのものなのかも分からない。きっと二人の心臓の音に違いない。その時、クラージュが大きく息を吐き、口を開いた。
「アリエッタ、愛している。」
ああ、もう。どうしよう。オタク女子の転生先は推しのメイドで充分、ではなかったようだ。
「わたしも愛しています。クラージュ様。」
ここまでお読み下さった皆様、最後まで見守っていただき誠に有難うございます。
唐突に降って来たネタを勢いで書き始めたものですが無事に完結までもっていけて大満足です。
最後まで筆がノっていたので一日一話以上更新するという目標も達成することができ、楽しい二週間になりました。
一応完結しておりますが、あまりに勢いで書いているのでちょくちょく修正や加筆をするかもしれません。ご了承ください。
宣伝になりますが普段はフリーゲームを制作しております。
このお話が気に入って下さった方は育成ADVの『白豚令嬢育成計画 ~転生メイドは死亡エンドを回避したい~』もお気に召してもらえるかなと思いますのでもし興味がありましたら宜しくお願いします。同じ転生メイドもので同じ味付けですが転生先ガチャをハズしたパターンになっています(NOT恋愛)
小説はまた唐突に降って来たネタを書き殴りたくなったら投稿したいと思っています。
またどこかでお会いできましたら幸いです。有難うございました。




