19,対戦有難うございました
パニックになっている現場に轟音が響く。クラージュがドアを蹴り開けた音だ。くぅ、あの陰キャでオタク気質なクラージュの行儀が悪いところたまらねぇ。なによりヒロインを助けにくるクラージュ、カッコい…いや、なんか記憶より鬼の形相なんだが?モネさんのついでだとしてもやっぱ好きな人が助けに来てくれるシチュなんて絶対キュンとしちゃう!って思ってたけど、全然そんなことない。だって鬼が乗り込んできた感が半端ない。
「人 質 は 無 事 だ ろ う な。」
「ひぃっ!」
ほら、盗賊Bも怯えちゃってるじゃん!!!でも冷たい床に転がされてるのは結構ツラかったので同情はしない。
「クラージュ様!わたしたちは無事です!!やっちゃってください!!!」
「相手は丸腰だ!かかれ!!」
二つの声が届くや否や、クラージュが室内に踏み込む。まずは怯んでいる盗賊Bに速攻で近づき蹴り上げる。ワンキル。そのまま止まらずナイフを振りかざす盗賊Cの顎を蹴り上げる。ツーキル。そうそうそう、読書家でクールなクラージュが実は体術を極めていてめっちゃ強いってことが判明するシーンの衝撃たるや。推しの戦闘シーンありがてぇ。
「クソッ!止まれ!!」
盗賊Aの怒号。わたしの身体が引っ張り上げられる。クラージュはピタリと動きを止めた。勝てないと判断した途端、盗賊Aがわたしの首筋にナイフを突きつけたからだ。やっぱりわたしのせいでイレギュラーが起きてしまった。悔しくて情けなくて仕方がない。でも、クラージュの足を引っ張りたくない。
「クラージュ様!わたしは大丈夫です!!やっつけてください!!!」
「うるせぇっ!」
首筋のひやりとした感覚に身体が強張ってしまう。
「彼女を離せ!」
「良いぜ。テメェの手足を縛ってからナァ。…おい、白髪の女!解放してやるからアイツの手足を縛って来い!!」
「は、はい…。」
さきほどまで暴れていたモネさんも、すっかり顔を青くしている。この状況に怯えているのだろう。このまま言いなりになるしか出来ない。盗賊Aはモネさんの縄を切る。
「演技力カンスト舐めんなオラァッ!!!!」
途端、モネさんが盗賊の手を蹴り上げる。ナイフが宙を飛ぶ。
「今よ!」
「ああ。」
ナイフが地面に落ちる音と、打撃音が重なる。鬼の鉄拳が盗賊Aの顔面に突き刺さっていた。クラージュが乗り込んできてから3分。対戦有難うございました。まさか推しとヒロインの共闘が見れるなんて都合の良い夢かな?
◆
わたしの縄が解かれると、クラージュは頭を下げた。
「すまない。」
「謝らないで下さい!むしろわたしこそ足を引っ張ってしまって申し訳ございません。」
「いや、あの者たちに見覚えがある。俺が人に優しく出来ないせいで恨みを買った。お前にまでも被害が及ぶだなんて…。」
「悪いのは悪い事をしたあの人たちです!だからクラージュ様が謝ることなんてありません!!」
「しかし、」
「しかしもなにもありません!」
「…分かった。」
クラージュが頭を上げる。深い青い瞳にじっと見つめられる。それだけで心臓がドキドキとうるさくなってしまう。
「…お前が無事で良かった。お前になにかあると取り乱してしまうほど心配になる。」
「ひぇっ、そ、それはモネさんに言ってください!!!」
そんなに心配してもらえたのは嬉しいのだがこれ以上は許容範囲を超えてしまう。それにそのセリフはわたしじゃなくてヒロインに言うべきだ。クラージュから顔を背けてモネさんを見れば、手際よく盗賊たちの手足を縛っていた。話を振られたことに気づくと、大げさに呆れた表情をしてみせる。
「メイドさん。あなた、ここでそれはさすがに無いわよ。」
「ど、どうして!?」
「どうしてって、ねぇ?」
「…言わなくて良い。それより、お前も巻き込んでしまった。申し訳ない。」
「ホントにね。ていうか、今日なんでメイドさんと来たの!?お友達と見に来てって言ったのに!!」
「別に誰と来ようが関係ないだろう。」
「いいえ!モネさんはペルルドール王子のファンなんです!!今度、王子を観劇に連れて行ってあげてください!!!」
よし、上手く頼み込めた。モネからウインクが飛ぶ。くそ、散々強火フォロワームーブしてきたくせに顔面がヒロインちゃんなだけあって可愛いな。
「分かった。元々、ペルルドールには協力してもらったお礼を考えていた。観劇に連れて行くと約束しよう。」
「協力?」
「ああ、一刻を争う事態だったからペルルドールの……、まあ、協力してもらった。」
そ、それは、ペルルドール王子がこっそり従えている影の騎士隊を使ったということでは!?影の騎士隊はペルルドール王子の闇に迫る重要な要素。救出のために使われたなんて知ったら…!モネさんを横目で見る。天を仰いでいる!!!わかる、わかるよ。かくいう、わたしも今とても打ち震えている。
「クラージュ様が、ペルルドール王子にお願いをしたのですか?」
「他に誰がいる。」
まさかクラージュがペルルドール王子を頼るだなんて。ゲームのクラージュではありえないことだ。事実、ゲームでは独自の情報網で突き止めていたはず。そうか、だから乗り込んでくるのが早かったのか。モネさんが言う通り、このクラージュはゲームのクラージュとは違う。ゲームだからじゃなくて、ヒロインのついででもなくて、クラージュだから助けに来てくれた。だから心から伝えよう。
「クラージュ様、有難うございます。」
クラージュが微かなほほ笑みを向けた。深い青が美しく透き通っている。初めて目の前の『クラージュ』と目があった気がする。




