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14,待ちに待った恋愛イベント


「ではクラージュ様、いってらっしゃいませ。またお屋敷でお会いしましょう。」


ローズガーデン劇場を出ていく二人を見送る。それから気づかれないように距離を開けてこっそりついて行く。だって待ちに待った恋愛イベントだ。気になるに決まっている。雑な尾行ではあるが、案外バレないものだ。人が多いからだろうけど。二人は繁華街を離れ、高級店が並ぶエリアへと入っていく。この辺りは繁華街に比べると人の賑わいが少ないため、身を隠す道具として通りかかった新聞屋から新聞紙を買っておく。意味があるのか分からないけど無いよりマシだろう。わたしは雰囲気で尾行をしている。しばらく歩いて行くと、二人はガラス張りの落ち着いた雰囲気のカフェに入っていった。あれ、おかしいな。なんとなく見覚えがあるからゲームには出てきた場所のはずだが、クラージュシナリオのカフェはこんなカフェじゃなかった気がする。遠目で見た限りの情報だが、案内したのはモネだったように思う。カフェの違いなんてわたしの存在が関係することでは無いのに、いったい何故こんな違いが発生してしまったのだろうか。うーん、分からない。もしかしたら記憶違いかもしれないし、今は二人を見守ることに集中しよう。モネには見つかったとしても、きっとメイドの嫉妬だと思われるだけだろうと判断し、クラージュの背後側で隠れられる場所を探す。よし、このベンチに座って先ほど買っておいた新聞紙を広げてのぞき穴を開けて、これでバッチリだ。幸いなことにガラス張りのおかげでばっちり二人の様子を見ることが出来た。つまり向こうからもこっちが見えているわけだがモネが空気を読んでくれることを祈るしかない。クラージュとモネがドリンクを注文している。当然、声は聞こえない。しかしクラージュ関連のイベント会話は全てバッチリ記憶しているので問題ないだろう。わたしの話が出ない限り。


「おやおや、不審者発見。なにしてるの?」

「ぎゃっ!」


突然、背後から声を掛けられる。マジでビックリした。聞き覚えのある声は振り返らなくても誰か分かる。


「ペルルドール王子!」

「やほやほー。クラージュの彼女ちゃんじゃん。一年ぶり?」

「彼女ではありません。ただの下働きです。」

「えっ、まだ付き合ってないの?」

「まだもなにもありません。王子はどうしてここに?」

「お気にいりのカフェに行こうとしたら、その近くで知り合いが怪しい事してるんだもん。話しかけたくもなるでしょ。」


知り合い、かあ。知り合い認定されて話しかけられるのは困る。もし王子に失礼があったら教育不足だとレイニーブルー家がお叱りを受けてしまう。それに一年前にちょっと話しただけの相手だと言うのに良く覚えていたものだ。


「言っとくけど、ちょっと失礼なこと言われた程度でチクったりしないから安心して。プライベートのクラージュくらい雑にしていいよ。」

「それはさすがに無理です。」

「だよね。それで、なにしてたの?」

「ええっと…。」

「あ、あのカフェいいでしょ。今度クラージュとデートにつかっても良いよ。まあ、アイツの趣味じゃな、」


ペルルドール王子の言葉が止まる。カフェの中にいる二人とわたしを二度見、三度見。


「もしかして、修羅場?」

「楽しそうな顔で言わないでください。というか、バレるんで隠れてください!」

「あはは、はーい!」


ペルルドール王子が隣に座り、わたしの広げている新聞紙の影に入る。


「近い近い!同じ新聞紙を使わないでもらえません!?こっちの余ってるの使ってくださいよ!!」

「おや、残念だなあ。」


ペルルドール王子は笑いながら新聞紙を広げ、わたしと同じようにのぞき穴を開けた。これでやっと落ち着いて二人の様子を観察できる。クラージュとモネは棘の姫と思われる本を机の上に広げて真剣に話し合っている。カフェの外観こそ違うが、美男美女が真剣に話し合う姿はまさにスチルで見た光景と完全一致だ。泣いて喜ぶ光景のはずなのに落ち着かないのは隣にペルルドール王子がいるからに違いない。


「それで、これはどういう状況なの?」

「見てのとおりです。あの二人のデートを嫉妬に狂ったわたしが尾行しているのです。」

「その嘘は不愉快だなあ。」

「…劇団ローズガーデンの女性が、次回作の原作の解釈についてクラージュ様に相談しているところです。」

「なるほどねぇ。そんで、あの可愛い子ちゃんにクラージュが取られないか心配で監視してるんだ?」

「違います。わたしは二人が結ばれるところが見たくて見守っているのです。」

「んん?キミ、寝取られが趣味なの?」

「なんでそうなるんですか。違います。」

「じゃあ、自分とクラージュは身分違いで釣り合わないとでも思ってる?」

「そもそも、わたしはクラージュ様に恋愛感情を抱いていません。」

「ふーん?」


ペルルドール王子は開けたのぞき穴のことなどすっかり忘れ、わたしの顔ばかり見ている。表面こそ楽しそうに笑っているが、瞳はじっとこちらを捉えて見透かそうとしている。


「僕はね、他人の恋愛なんてこれっぽっちも興味がないけれど幼馴染のこととなれば別なんだよね。不器用な幼馴染には報われて欲しいからね。キミはどう思う?」

「わたしもそう思っています。」

「じゃあちょっと不正してもいいよね?」

「どういうことですか?」


ペルルドールという人物はゲームでも掴めない人物だったが、直接対話をすると余計に何を言っているのか分からない。


「キミ、あの二人に結ばれて欲しいんだよね。」

「そうですけど。」

「あの二人が結ばれたら、キミとクラージュはどうなるの?」


そんなの、……どうなるのだろう。わたしとクラージュの仲は男女のものではないけれど、恋人がいる異性と二人で出掛けることはもちろん、きっとガゼボで語り合うことも出来なくなるだろう。今まで考えたこともなかった。考えないようにしてきたのかもしれない。


「それじゃあさ、この場であの二人がキスしたら喜べる?想像してみてよ。」

「いきなりなんなんですか。それは当然、」


喜びます。分かりきった答え。それなのにザラりとした感情に苛まれて言葉が出なかった。前世ではあんなにクラージュとヒロインのキスシーンで盛り上がっていたはずなのに、今は上手く想像することも出来なくなっている。それどころかどうしてこんなに胸が苦しくなるのだろう。


「本当にあの二人が結ばれて欲しいと思っているのなら、そんな泣きそうな顔しないでしょ。」

「それは王子が変な事ばかり言うからです。」

「認めてしまえよ。キミはクラージュに恋しているんだ。」


全身がカッと熱くなる。恋?わたしが?クラージュに?ペルルドール王子が勝ち誇ったように笑った。


「それじゃ、僕の役目はここまでだ。また会おう。」


それからどうやってお屋敷に帰ったのか、記憶がない。ただ、丁寧に折りたたまれた新聞紙だけが逃げるなと言っている気がした。


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