ノルンとたいせつなお買いもの
ノルンは、いっしょに住んでいるマイヤーおばさんが大すき。
おばさんは、町にひとつしかないお店をいとなんでいます。
食べるものや、生活にひつようなたくさんのものを、マイヤーおばさんのお店で買うことができます。
そんなおばさんのお店の前で、赤ちゃんだったノルンは、ニコニコとすわっていたそうです。
それから、ノルンとマイヤーおばさんは、いっしょに住んでいます。
ある日、マイヤーおばさんが、カゼを引いてしまいました。
「おばさん……だいじょうぶ?」
ベッドでは、おばさんがよこになっています。
ノルンは、へやのドアにちかくで、しんぱいしていました。
うつってしまうから、近くに来てはダメと、おばさんが言ったのです。
「ごめんね、ノルン。パンが、テーブルの上にあるから、食べてね」
そう言ったおばさんは、ゴホゴホとせきをしました。
ノルンは、あわてて、おばさんにかけよりました。
ノルンがせきをする時、いつもおばさんがしてくれているように、やさしくさすりました。
「ありがとう、ノルン」
「おばさん、お店におくすりはある?」
いつもなら、お店にくすりもあります。
「それが……売り切れてしまっているの……」
どうやら、町でカゼがはやってしまって、くすりも売り切れていたのです。
「お店におくすりがないと、町のみんながこまってしまうわね……それに、みんなのために、はやくお店を開けないと……」
町には、マイヤーおばさんのお店しかありません。
でも、おばさんは、苦しそうに、またゴホゴホとせきをします。
ノルンは、おばさんのせなかをさすりながら、決めました。
「マイヤーおばさん、わたしがおくすりを買ってくるわ!」
「えっ⁉」
「おとなりの町なら、おばさんとなんどもいっしょに行ったもの」
「ひとりではあぶないわ」
マイヤーおばさんは、しんぱいそうに言いました。
ノルンとおばさんがすむ町からとなり町まで、歩いて三十分くらいです。
「なら、ジャックといっしょに行くわ!」
ジャックのお家は、となり町との間にあります。
それでも、おばさんは、しんぱいそうです。
「知らない人には、ついていってはダメよ?」
「分かったわ!」
「お金は、これね。おとさないように」
「うん!」
おばさんとやくそくをしたノルンは、お気に入りのポシェットにお金を入れました。
ぼうけんに出かけるような気分です。
「気をつけてね、ノルン」
「うん。いってきます、マイヤーおばさん!」
「いってらっしゃい」
ノルンは、まずジャックのお家にむかいました。
いつも通る道ですが、今日は少しちがって見えます。
どこかほこらしいような、ちょっと心ぼそいような気もちです。
「あら、ノルンちゃん。いらっしゃい」
「こんにちは」
ドアをノックすると、ジャックのママが笑顔で出てきてくれました。
「ジャックと、あそぶやくそくしているのかしら?」
「いいえ、ジャックのママ。マイヤーおばさんが、カゼを引いてしまったの。
「それはたいへん!」
「ええ。だから、ジャックといっしょに、おとなりの町へおくすりを買い行きたいと思っているんだけど、いいかしら……?」
「おくすりなら、うちの分を分けてあげるわ」
「ありがとう。でも、お店におく分もないの」
「そうなのね……今、カゼがはやっているから、マイヤーおばさんのお店にないのは、たしかにこまるわね……」
ジャックのママは、少し考えていました。
マイヤーおばさんと同じように、子どもたちだけではあぶない、と思っているようです。
そこに、ジャックがやってきました。
「ママ、ボクもノルンといっしょにくすりを買いに行くよ!」
「ジャック」
ジャックのママは、おどろきました。
「友だちがこまっているんだ。ほうっておけないよ!」
ジャックのキリッとした顔に、ママはゆっくりほほえみました。
「ふたりとも、いいわね? あぶないと思ったら、すぐに帰ってくるのよ?」
「うん!」
ノルンとジャックは、ジャックのママに手をふって、となり町にむかって歩き出しました。
「ボク、子どもだけでとなり町に行くのははじめてだ」
「わたしもよ」
いつもならば、あっちこっちとより道をしてしまうふたり。
きれいなお花をさがしてみたり。
小川のお魚さんをながめたり。
ワクワクすることが、ふたりにはいっぱいです。
でも、今日はより道をしてはいけません。
「はやく、マイヤーおばさんにおくすりをとどけなくっちゃ」
ノルンは、歩きながら言いました。
マイヤーおばさんといっしょの時は、となり町は近く思いましたが、ふたりで歩く道は、どこまでもつづいているようでした。
ジャックは、そんなノルンの手をギュッとにぎりました。
「マイヤーおばさんは、きっとだいじょうぶさ」
「うん、ありがとう」
ジャックのやさしさに、ノルンのふあんが、少しきえました。
歩いていると、とちゅうで、学校のクラスメイトのアーロンと会いました。
「ふたりで、どこに行くんだ?」
アーロンは、ふしぎそうです。
「マイヤーおばさんのために、となり町におくすりを買いに行くのよ」
「えっ⁉ キミらだけで⁉」
「うん、そうだよ」
「ねぇねぇ! ぼくもいっしょに行っていいかい?」
うでっぷしの強いアーロンがいてくれると、心強いです。
「もちろんよ!」
「いっしょに行こう!」
「やった! ありがと!」
アーロンは、うれしそうにジャックのよこにならびました。
すると、こんどは、ターニャがお家のまどから顔を出しました。
「あれ? みんな、どこへ行くの?」
「となり町さ」
「ノルンのおばさんのくすりを買いに行くんだ」
それを聞いたターニャが、顔をかがやかせます。
「それって、わたしもいっしょに行っていい⁉」
学校で一番頭のいいターニャが来てくれたら、さらに心強いです。
「ええ! いっしょに行こう!」
「ありがとう! ノルン」
ターニャは、ノルンのよこにならび、歩きました。
とちゅう、じてんしゃに乗ったゆうびんやさんが、ノルンたちに声をかけました。
「こんにちは。子どもたちだけで、どこへ行くんだい?」
「おとなりの町よ。みんなと、マイヤーおばさんのために、おくすりを買いに行くの」
ゆうびんやさんは、やさしくほほえんでいます。
「そうか、より道しないように、気をつけて行くんだよ」
「はい!」
ゆうびんやさんは、またじてんしゃを走らせました。
あっという間に、見えなくなってしまいます。
「ゆうびんやさんって、かっこいいね」
「うん。毎日、いろんな人のお手紙をはこんでいるんだもんね」
ノルンたちは、見えなくなったゆうびんやさんと同じ道をまた歩きます。
ついに、となり町とのさかいの大きな川までやってきました。
そこには、赤レンガのりっぱなはしがあります。
「川の向こうがわが、おとなりの町」
はじめて、子どもたちだけではしをわたります。
「ねぇ、みんなで手をつないで、おとなりの町に入ろう!」
ノルンのことばに、みんなうなずきました。
四人で手をつないで、みんなでとなり町に一歩をふみ出した時です。
「やっときたかぁ!」
前から、こわい顔のおじさんが、大きな声を上げて、やってきました。
「ジャック! 女の子たちを守れ!」
「えっ⁉ アーロンはどうするのさ⁉」
「ぼっ、ぼくは、あ、あいつをぶっとばしってやる!」
「えっ⁉」
アーロンが、ノルンたちの前に立って、ふるえます。
どんどんと近よってくる、顔がこわくて、声の大きいおじさん。
「アーロン、あの人はだいじょうぶ!」
「えっ?」
三人がビクビクしている中、ノルンはかばってくれたアーロンの前に立ちました。
「ちょっ……!」
「ノルン!」
「あぶないわ!」
アーロンとジャック、ターニャがおどろきました。
「もう! ミッキーおじさん、声が大きいよ!」
おじさんの声よりも大きく、ノルンは言いました。
「それに、顔もこわい!」
「ガハハハッ! すまんすまん! 顔がこわいのはどうしようもない!」
そう言って、ミッキーおじさんは、またガハハハッとわらいました。
「ミッキーおじさんは、となり町のお店の人なの」
ノルンは、ミッキーおじさんをお友だちにしょうかいしました。
そして、ジャックと、アーロンと、ターニャをおじさんにしょうかいしました。
「はじめまして、みんな」
「ミッキーおじさん、どうしてわたしたちが来るって分かったの?」
そう、ここはまだ、となり町のはじまり。
「お手紙を出す時間、なかったし」
「教えてもらったんだよ」
「え? だれに?」
ミッキーおじさんは、ジャックにウィンクをしました。
ノルンは、ジャックを見ました。
でも、ジャックもノルンを見て、ふしぎそうな顔をします。
「そんなことよりも、ノルン。はい、マイヤーおばさんとお店におく分のくすりだよ」
ミッキーおじさんは、ノルンにくすりをわたしました。
「お金は、もってきたかい?」
「うん!」
ノルンは、ポシェットに入れていたお金を、手のひらにのせました。
でも、ノルンはこまってしまいました。
いつもは、おばさんがお金を出しています。
自分でくすりを買うことは、はじめてです。
「えっ、っと……ど、どれが、どのくらい、なんだっけ?」
「ノルン、ちょっと見せて」
ターニャが、ノルンの上のお金を見ました。
「ミッキーおじさん、おくすりは、いくらですか?」
「これだよ」
ミッキーおじさんは、ターニャにねふだを見せました。
「これとこれ。うん、ノルン、これで買えるわ」
「ありがとう! ターニャ!」
ミッキーおじさんにお金をわたし、ノルンたちはくすりとキャンディーをもらいます。
「ここまでありがとうな! マイヤーおばさんやみんなが、はやくよくなることを祈ってるよ!」
おじさんは、こわい顔でガハハハッとわらいながら、大きく手をふっていました。
四人は、ミッキーおじさんからもらったキャディーを食べながら、自分たちの町にもどりました。
行く時には、ふあんで長くかんじた道。
でも、今はどこかほこらしい気分で歩いていました。
ターニャが、先に帰っていきました。
「今日はありがとう! またね!」
そのつぎに、アーロンが帰りました。
「つれてってくれて、ありがとな! またな!」
ジャックのお家が見えてきます。
「今日はありがとう、ジャック」
「ううん、いいって。それに、ぼくは、アーロンみたいに守ったり、ターニャみたいにけいさんできなかったし」
「そんなことないわ。ジャックがいてくれたから、ぼうけんに出られた」
はじめてのことにふあんな時、ジャックはいつもそこにいてくれます。
ジャックは、にっこりとわらいました。
「また、ぼうけんに出かけよう!」
「うん! 出かけよう!」
ジャックのママが、見えました。
ジャックのママは、ふたりをやさしくだきしめました。
「おかえりなさい、ジャック、ノルン」
「ただいま!」
「とちゅうで、ゆうびんやさんに会った?」
「え?」
「うん、行く時に会ったよ」
ノルンとジャックがうなずくと、ジャックのママはホッとしたようでした。
そんなママのようすに、ふたりは、またおたがいの顔を見ました。
じつは、ジャックのママが、ゆうびんやさんにノルンとジャックのことを教えたのです。
その後、ゆうびんやさんが、ミッキーおじさんに、子どもたちがやって来ることを伝えたのでした。
「さあ、ノルン、マイヤーおばさんも待っているわよ」
「ええ、ありがとう、ジャックのママ」
ジャックとジャックのママに手をふり、ノルンはマイヤーおばさんがまつお家に走ります。
マイヤーおばさんに、はやく元気になってもらいたいから。
だきしめてもらいたいから。
そして、見てもらいたいから。
少しなみだが出そうでしたが、泣きません。
「マイヤーおばさん、ただいま!」
ノルンは、わらいました。
そして、たいせつなお買いものをかかえて、おばさんのへやのドアを開けたのでした。
~おわり~
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