第6話 「黒と白、そして黒塚先輩の偏愛」
放課後、校舎裏のベンチ。黒塚先輩が黒タイツに包まれた足を組み替えながら、缶コーヒーを片手にふと問いかけた。
「座白君」
「……なんですか」
「黒と白、どっちが好き?」
座白は少しだけ考え込む。黒塚先輩の質問はいつも突然で、その意図が分かりにくい。今回も例外ではなさそうだ。
「黒と白……ですか」
「そう、どっち?」
黒塚先輩は真剣な目でこちらを見ている。その視線に促されるように、座白は答えた。
「……強いて言えば、白ですかね」
その答えを聞いた途端、黒塚先輩は少しだけ眉を上げ、そして意味深に微笑んだ。
「そうなんだ」
「何か問題でも?」
「ううん。座白君って名前のせいかしら。『白』が含まれてるし、なんとなくそっちが似合う気がする」
「……まあ、名前で言われるなら納得しますけど」
座白がそう言うと、黒塚は少し黙り込んだ。そして、缶コーヒーを口に運びながら、ぽつりとつぶやくように言った。
「私はね、黒が好き」
「……それは、なんとなく予想してました」
黒塚は小さく笑い、足を組み替えながら続けた。
「黒って、なんでも包み込むの。どんな色も隠せるし、逆に引き立てることもできる。不思議な色だと思わない?」
「……確かに、そう言われるとそうですね」
「でもね、黒が好きだからこそ――白がちょっと羨ましいと思うときもある。」
「……どうしてですか?」
黒塚は座白をじっと見つめながら言った。
「だって、黒は何かを隠してしまうけど、白は全部を見せてくれるでしょ? 私にはできないことだから、ちょっとだけ憧れる」
その言葉に、座白は少しだけ考え込んだ。そして、静かに答える。
「……でも、黒も白もお互いがあるからこそ成り立つんじゃないですか?」
「え?」
「例えば、白だけの世界だったら、きっと眩しすぎて疲れるし、黒だけだったら何も見えなくなる。だから、どっちが好きかなんてあまり関係ない気がします」
その答えに、黒塚はしばらく黙っていたが、やがて柔らかく笑った。
「ふふ、座白君、意外とロマンチックなこと言うのね」
「……別にロマンチックでもなんでもないですよ」
照れるでもなく、淡々と答える座白を見て、黒塚は立ち上がる。
「じゃあ、次はもう少し白に近づいてみる努力をしようかしら」
「……それ、どういう意味ですか?」
黒塚は答えず、夕陽に向かって歩き出した。その後ろ姿を見ながら、座白は苦笑いを浮かべてつぶやいた。
「……やっぱり、意味が分からない人だ」
でも、どこか気になってしまうのが、黒塚という存在だった。




