第25話 「冬の寒さと黒塚先輩の雑学」
昼休み、渡り廊下を歩く座白冬。寒空の下、校舎を繋ぐ窓ガラスが薄っすらと曇っている。手袋をしていない彼の指先は冷たく、ポケットに突っ込みながら歩いていると、前方に見慣れた黒髪の後ろ姿があった。
「座白くん、寒いわね」
振り返ると、そこには黒塚夏先輩。いつもの制服姿に黒いタイツと革靴、寒さなど意に介さない涼しげな表情で立っている。
「……まあ、冬ですしね」
あくまでそっけなく返す座白。黒塚先輩は気にする様子もなく、ふわりと微笑んだ。
「冬の寒さは、心臓発作のリスクが上がるのよ。知ってた?」
「……いえ、知らないですけど。別に今知る必要もないですよね」
「そう?じゃあ、例えばだけど……今この渡り廊下で突然倒れたらどうする?」
「……いや、どうするとかじゃなくて、何を聞いてるんですか」
彼女の突飛な発言に眉間を軽く押さえる。
「その時は……心臓マッサージか人工呼吸、する?」
「しません。というか、そもそも倒れないでください」
「冷たいわね、座白くん。でも……君に助けられるなら、悪くないかも」
淡々としながらも、妙に響く言葉を口にする黒塚。座白は面倒だと感じつつ、顔には出さずに肩をすくめた。
「先輩がそんなことで倒れるタイプだとは思えませんけど」
「ふふ、どうかしらね?」
彼女は意味深な笑みを浮かべた後、冷え切った窓に指で「❄」の形を描く。
その後ろ姿を眺めながら、座白は小さくため息をついた。
「……本当にわけがわからない人だ」
彼女の奇妙な雑学と突拍子もない発言に振り回されつつも、気がつけばそのペースに巻き込まれている自分に気づき、微かに苦笑する。
冷たいはずの廊下に、どこかぬくもりが漂っていた。




