第14話 「好きな食べ物と座白君の答え」
昼休み、校舎裏のベンチで。穏やかな秋風が吹き、黒塚先輩が缶コーヒーを片手に座白に問いかけた。
「座白君」
「……なんですか」
「好きな食べ物ってある?」
唐突な質問に、座白は一瞬だけ考え込み、淡々と答える。
「……特にこれといったものはありませんね」
「え、まったくないの?」
「そうですね。強いて言えば、シンプルなものが好きです。例えば、焼き魚とか卵焼きとか」
黒塚は少し驚いたような顔をしてから、満足げに頷く。
「ふむ、健康的ね。でも、それじゃあちょっと地味じゃない?」
「……地味ですか」
「だって、好きな食べ物って聞かれて『焼き魚』って答える高校生、なかなかいないと思うわ」
その指摘に、座白は少しだけ肩をすくめた。
「まあ、派手さを求めてるわけじゃないので」
「じゃあ、甘いものとかスパイシーなものは?」
「甘いものは嫌いじゃないですけど、食べすぎるとくどく感じます。スパイシーなものは……気分次第ですね」
黒塚はその冷静すぎる答えに、少しだけ困ったような表情を浮かべる。
「ふふ、なんだか意外ね。座白君って、もっと無難なことしか言わないかと思ったけど、案外こだわりがあるのね」
「いや、こだわりってほどのものでもないですけど」
黒塚は缶コーヒーを飲みながら、ふと思いついたように尋ねる。
「じゃあ、誰かと一緒にご飯を食べるとしたら、何を選ぶ?」
「……そうですね。その人が好きそうなものを選びます」
その答えに、黒塚は少しだけ目を見開いた。
「へえ、意外と気を遣うのね」
「先輩と一緒だったら、何を選んでも文句を言いそうですけど」
「ひどいわね。でも、そういう座白君と食べるなら……私も気を遣わずに楽しめそう」
黒塚は微笑みながら、座白をじっと見つめる。その視線に気づいた座白は、軽くため息をつきながら言った。
「……先輩の好きな食べ物を聞く流れなんですか、これは」
「え? 私は、好きなものならなんでも好きよ」
「それ、好きなものが多すぎて逆に分かりませんね」
二人のやり取りはいつも通り、どこか噛み合っているようで噛み合わないまま続いていく。それでも、そこには不思議と穏やかな空気が流れていた。




