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ココロは食器を片付け、マリオの夕飯の支度を済ませると、持ち帰った黒いビニール袋とゴミを掻き集めて家の裏へ運び、焼却炉に突っ込んでマッチで火を点けた。洗濯機のゴンゴンと回る音を聞きながら、火が大きくなっていくのを確認してから、蓋を閉じて部屋へ戻った。
「今日は忙しいな」
ココロはリュックから取り出したノートと、撮影した写真を机に広げ、内容を整理した。
引き出しからノリを取り出し、ノートに写真を貼り付ける。
軍服さん、『ジョン』の習性、個性、興味を示すもの、示さないもの、特異な行動、記述したものに合わせて写真を選び、使わない物は全てアタッシュケースに放り込んだ。
ココロはページをぱらぱらと捲り、過去の実験を軽く振り返った。
野球ボールとグローブに執着した『野球おじさん』に始まり、農具の鍬に執着した『畑おじさん』、フライパンでエアクッキングをして見せた『エア料理おばさん』、物に執着は見せないものの、仲良しで互いの姿が認識できる範囲でのみ行動を共にする『迷子の双子』、どの写真も、ぱっと見ただけでは感染者だとわからないほど人間らしい。
けれど結局、コミュニケーションを取ることは一度も出来なかった。
それでも最初の頃は面白かったし、両親と出会うことが叶うかもしれないと期待もした。
しかし、実験を重ねる度に実感したのは、結局彼等は『死者』でもなければ、自分達の言うところの『生者』でもない、ということだ。彼等が感染者になる前の記憶や個性の片鱗を実験の中で見つけても、そこから先へ踏み込む方法を見つけることはできなかった。
なんにしても、ノート一冊分、これが七年の集大成だ。
「あー、疲れた」
ココロは閉じたノートを引き出しにしまってベッドに寝転がった。
するとミートが枕元にやってきて体を伏せた。
ココロはミートのお腹に顔をくっつけ、カモミールの香りに胸を満たし、瞼を閉じた。




