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ゾンビの職業はテムの言ったとおり、軍人で間違いなかった。
衣服はもちろんのこと、首には認識票と、襟には階級章、腰には錆びた水筒と、拳銃を吊ったホルスターも確認できた。ただ、国境や国の概念すらなくなった今となっては、いつの時代の、どこの国の軍人なのかはわからなかった。国籍がわかるワッペンが肩に縫い付けられていたが、擦り切れていてもはや判別できない。
「ほら、こっちだよ!」
テムがゾンビの正面に立って手を叩くと、ゾンビはテムを捕まえようと両手を前に伸ばし、よたよたと歩き出した。テムが素早く身をかわして再び手を叩くと、ゾンビは一生懸命それを追いかけた。
『目隠し鬼』という遊びの様子によく似ていた。
はじめて感染者を目にするまで、こんな風にゾンビを捕まえ、眺めることが出来るなんて想像もしていなかった。
ゾンビとは――体中が腐り、人を見つけると気が狂ったように追いかけ回し、襲って噛み付き、感染者を増やしながら彷徨う怪物だ。町にある図書館でゾンビのことを調べると、古い資料にはたいてい想像図付きでそういう説明がされている。もっともそれは、フィクションがベースの資料で、創作の域を出ない。
八歳の頃にゾンビをやっつけると言い出したエルマーも、本物を見た時のあまりのギャップに拍子抜けし、相当戸惑っていた。今では感染者を見つめる眼差しや表情は穏やかで、どこか複雑そうだ。
ココロはカメラを構え、シャッターを切った。
モーターが駆動して、フィルムが排出された。
「おお、さすが新作」
フィルムに浮かび上がった画を見ても、子供と大人が遊んでいるようにしか見えなかった。
「いい写真じゃないか」エルマーが言った。
「リガーさんには見せられないけどね」
「そのうち写真集にして、みんなをびっくりさせたらどうだ?」
「そのうちね」
ココロが言うと、エルマーは「そうしろ」と言ってテムを呼んだ。
実験が始まる。
ココロ達にとって、感染者、ゾンビは『死者』ではなかった。
彼等には記憶があり、個性があり、魂がある。
一見、目的もなく彷徨っているように見える彼等にも個体差があることを、三人は知っていた。




