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ココロぞんび  作者: キタビ
第二話 15歳のファインダー
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【勤労チケット】通貨の概念が失われた現代において、娯楽品に当たる物品と交換する為に必要なチケット。生活必需品には使われない。


 ココロが暮らす『第0056コロニー』の規模は大きく、十万人近い住民が暮らしている。

 集合住宅が並ぶ日中の居住区の通りには、畑仕事やコロニーのライフライン、施設の設備点検整備、管理等に向かう男達や、畑で取れた野菜や果物、穀物等をリヤカーに積んで、近隣一帯に配り歩く婦人達、配給食料や、発電機を動かすガソリンを車から降ろす青年達の姿などで溢れ、賑わっていた。


 活発になった町は、たくさんの生活音と匂い、活気のある声で満たされる。


 ココロは頬で風を切りながら、そんな道中ですれ違う大人達の姿を目で追った。

 荷馬車を追い越し、縦列駐車したトラックをかわしながら、忙しなく動く眼球が探しているのは未来の自分の姿だった。けれどそこに、自分の姿は見つからなかった。


 漠然とした不安が、胸にある。


 コロニーに暮らす人々は、六歳になると『掃除屋ブラウニー』という職に就く。

 ブラウニーはこのコロニーに生まれた子供達が立派な大人へ成長する為に訓練を積む場所で、町の清掃を通して助け合うことや、教え教わること、礼儀を学び、コロニーという限られた生活空間の中で、何かしらの『役割』を担う事の大切さを学ぶ。

 子供といえど、コロニーで暮らす以上は助け合っていかなければならず、例外はない。

 ココロもそこで七年間働いて沢山のことを学びながら、友人や知人を得た。

 子供達は、ブラウニーの仕事を通して大人達と触れ合い、観察しながら将来の道を決めていく。


 そして十三歳になると、今度は『大人』として、自分の好きな仕事に就くことができる権利を得る。年齢での制限を除けば就けない仕事はなく、本当に自分がやりたいことを職に出来るわけだが、幅が広いだけに、これを決めるのに難儀する子は少なくなかった。

 仕事に求められることはシンプルで、「好き」か「嫌い」か、「合う」か「合わない」かだけだ。

 今は昔の人たちがそうしていたように、労働に見合う対価を得る、という考え方がない。

 強いて言うなら、「やりがい」を見出せるかどうかだ。

 仕事を終える度に『勤労チケット』という券をもらえるが、基本的な衣食住は確保されていて、チケットがなくても生活には困らない。それが欲しくて働くという人はあまり多くない。働いたついでにもらったチケットで、娯楽品や趣向品、ちょっと特別なサービスと交換する程度だ。


 ココロの場合、それはたいていカメラに消える。


 一部の子を除いて、大半の子供は大人の仕事をいちいち観察してはああでもないこうでもないと話し合う。やりたいことを見つけられた子はすんなりその道を行くが、そうでない子は暫く職を転転とすることもある。もちろん、そうなったとしてもとがめられることはない。

 重要なのは、自分が没頭できるものを探し続け、見つけ出すことだ。

 自分はこれだと思う生き方を見つけられれば、自然と誰かの役に立てるようになる。

 問題は、それをどう見つけるかだ。

 迷っていれば大人が声をかけて導いてくれることもあるそうで、実際にブラウニー時代怠け者だった太った男の子も、その導きでパン屋さんという天職を見つけた。

 女の子だと早々に結婚して、子供を産み育てるという選択肢もあるが、恋愛もままならないココロには想像できない世界だった。

 ココロは辺りを見渡し、嫌な顔一つせずにせっせと働き、キラキラとすがすがしい汗を流す大人達を見て小さく息を吐いた。


 小さい頃は、この世界のどこかにいるお父さんとお母さんを探しだして、家族みんなで一緒に暮らすんだ、と夢を見ることに迷いはなかった。


 でもそれは、まだ自分が両親の墓を暴き、世界に感染者なんてモノが存在することを知らなかった時分の話だ。

 今でも時々、そんな小さな頃の自分に対してどこか後ろめたさを感じて、少し落ち込むことがある。


 そんなときは、現実的じゃないんだよ。


 と、幼い頃の自分に大人っぽく言い聞かせたりする。


 するとたいてい、幼い頃の自分はこう言い返してくる。


 本当にそれでいいの――?


 ココロはモペッドのブレーキを握り、甲高い音を響かせ、飛び出してきた子供達を避けた。


「ごめんココロ!」


 ブラウニーの子供達だった。もう帰るところだったのか、仕事道具は持っていなかった。

 ちょっと前までは自分もエミリもあんな感じだったのだと思うと、時間が経つのは速い。


「気をつけて帰りなねえ!」


 子供達は手を大きく振って走っていった。

 ココロはほっと息を吐き、再び走り出した。


 わかってるよ、とココロは幼い自分に返事をする。


 自分の気持ちは誰よりもわかってる。


 もっと遠くに、もっともっと自由に――そう叫んでる。


 相も変わらず、あの頃のあたしは我侭だ、とココロは笑んだ。

 リガーの誘いが頭に浮かぶ。

 コロニー専属のカメラマンか、メカニックか。はたまた、それ以外の道か。


 道の分岐を、左へとそれた。


 どっちへ行ってもそれなりに楽しめる気がするけれど、自分の場合、目指す場所に行き止まりがあるような気がしてならなかった。かといって、どっちへハンドルを切るかを迷ったまま、ブレーキをかけずにペダルを漕ぐ勇気なんて流石にない。

 子供の頃はわりと家の壁に激突していたものだが、もう大人だ。

 そんなココロの気持ちを形にするかのように、運転に不慣れな青年が転がすトラックが、集合住宅の鉄柵に突っ込んだ。速度が乗る前だったので怪我人はないようだったが、青年は放心し、周りの人たちは慌てていた。


「きっと、ああなるわけよ」


 ココロはそう呟き、ハンドルを握り直した。

 自分の道を真っ直ぐ歩く人たちに囲まれて、迷子のように不安な気持ちがふくらんでいった。

 けれど、居住区を離れて顔を上げれば、景色は変わる。

 賑わう人の声と入れ変わるように、風が鳥や農家の牛や馬の声を運んでくる。

 並木の葉が揺れる音、木漏れ日が踊る景色、柔らかい風に撫でられて心が和んだ。

 根拠もない自信が不意に胸に湧き、なんだって出来るような気がしてくる。

 緩やかな下り坂で、モペッドの速度も上がっていった。

 この感覚が、ココロは堪らなく好きだった。


「ぎゅいぃいいん!」


 ココロは掛け声をかけながら、モペッドの速度を上げた。

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