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私は大丈夫

作者: 佐藤則彦

私の名前は未来(みくる)

未来が来るんだと。

物心ついた頃からお父さんがコロコロ変わった。

タバコ臭かったり、酒飲んで暴れる人ばっかりだった。

小学生五年の時に襲われた。

お母さんは見てみぬふりだった。

そんな生活だったから何度か児相に預けられた。


中学2年の時 新しいお父さん だよ、と連れてきた人見た時は ❓️ なんで? しか思い浮かばなかった。

どう見ても 冴えないおじいちゃん にしか見えなかった。

しかもお母さんは 養子縁組しろ と言い出し、私が抗議しても籍をいれてしまった。


その理由はすぐわかった。

籍を入れて3ヶ月後お母さんはサインした離婚届と私を置いて消えた。

私をお父さんに押しつけて身軽になって消えた。

お父さんは どうする? 行くとすれば児相になると思うけど と言った。

私はもう児相は嫌だった。

私はお父さんに ここに居たい と言った。

お父さんは わかったよ と言った。


中2女子と初老の奇妙な同居が始まった。


私は学校にも居場所が無くて行ってなかった。

お父さんは何も言わなかった。


お父さんとお母さんが出会ったのは、お母さんの店にたまたま飲みに来たから。

どうしてそうなったかは知らない。


お父さんは払い下げられた自転車の修理を請け負ったり廃品回収をやっている。

あと食べる分だけ畑をやっている。

船を持っていて大型のユニックに積んで魚も釣ってくる。

夏になると木を伐採している所にトラックで原木を買いに行く。

それをチェーンソーで玉切りにして斧で割って積んで乾かして置く。


私も気を遣っているが、お父さんは明らかに困惑して どうやって接したら良いか分からず時々 困ったな と言う顔をしている。


ここでブラック未来が この人怒らせたらどうなるんだろう? と言う考えが浮かんだ。

普段そんなヘマは絶対しないが、わざと見つかるように万引きした。

店を出る時に、店員に お客さんちょっと と言われ事務所に連れて行かれた。

口を割らない私に警察が呼ばれた。

頑として身元を言わない私は警察署に連行された。

警察署で知っている刑事が 未来またお前か? と言われたが、名字変わったのか?と聞かれお母さんが再婚した事と養子縁組の経緯を話した。


お父さんが呼ばれた。


慌ただしくやって来たお父さんは刑事達に頭を下げていた。


未来

ほら来た

殴るぞ


未来

すまなかった

こんなになるまで放って置いて すまなかった。

目に涙をいっぱいためて。

私の目をまっすぐ見て。

未来 すまなかった。


いやいやいやいやいやいや

なんで私に謝るの

なじりなさいよ

怒鳴りなさいよ

お前みたいなクズ見たこと無いって蔑みなさいよ

殴りなさいよ


なんで私なんかに謝るの?


担当刑事に こんなにしたのは親である私の責任です。

出来るかどうかわかりませんが良く言って聞かせます。

そう言ってまた頭を下げた。

警察署を出てから万引きした店へ行き 親の責任です申し訳ありません と、また頭を下げた。

小さくなって親子程歳の違う店長に頭を下げている。


私なんて事したんだろう。


お父さんは 未来悪いことをしたのだから詫びなさい と言った。

今までのお父さんで

警察では頭下げるけど店に謝りに行く人はいなかった。


私なんて事したんだろう。


すいません

ごめんなさい

もうしません

店の人にあやまった。


家に帰ってからもお父さんは怒らなかった。


いつもは私が先にお風呂に入る が私は 入らない と言った。

お父さんは念を押してからお風呂に入った。


私の中で何かが変わった。


お父さんやっぱり入る‼️

一緒に入る‼️

お父さんは悲鳴を上げた 乙女か(笑)。

それでも一緒に入ってくれた。

水面に渦巻き作ってくれたり、タオルでタコ作ってくれたりした。

本気でゾウさんのじょうろが欲しかった。


私は完全に赤ちゃん帰りしていた。

夜は一緒に寝る と言って枕もって押し掛けた。

犬やネコが なんだなんだ? と言う顔をしていた。

その子たちを押しのけて寝るとこ作った。


ねぇお父さん昔々やって。

えっ?お父さん子供いた事ないからやったこと無いんだよなぁ。

と言いながら 昔々〰️ と話してくれた。 

今度は子守唄歌って

だからやったこと無いって

て言いながら歌ってくれた。


やがて言いようのない安心感に包まれた私は眠りについた。

ふと夜中に気配で目が覚めた。

お父さんが毛布から飛び出している私を起こさないよ様に直していた。

寝ぼけたふりして抱きついた。



ねえお父さん

高い高いやって

何言ってんだ 上がるわけないべ。

だめかぁ

じゃあおんぶして

おんぶなら良いよ。とおんぶしてくれた。

ねえ外歩いて

やだよ木っ恥ずかしい。

そう言いながら暗くなってから歩いてくれた。

公園で友達と遊んでいるとお母さんやたまにお父さんも一緒に迎えに来て、お父さんにおんぶしてもらって帰る友達が死ぬほど羨ましかった。

お父さんは何も言わすにしばらく歩いてくれた。

年齢的には 孫とおじいちゃん に近いけど

全部子供の頃にやって欲しかったことだ。


私は偏食がひどかった。

箸の持ち方も出来ていなかった。

お父さんとスーパーに買い物に行くようになり、お父さんは私に料理を教え始めた。

私は少しずついろんな物が食べれるようになった。

畑で採れたては こんなに美味しいの?

お父さんが釣ってくる魚もこんなに美味しいの?

私はちゃんとした物食べていないのと食わず嫌いが判明した。

私の偏食は劇的に改善した。

箸の持ち方も根気強く教えてくれ、今はマスターした。

お父さんに勧められてフリースクールに通うようになった。

嫌になったら辞めりゃ良いさ て言ってくれるお父さん大好き。


夏になり我が家の暖房用の薪を用意しないとならない時期になった。

私も横に乗って原木を取りに行く。

帰ってきてからが大変だけど、私は体を動かすことは嫌いじゃないとわかった。

その後は小さいトラックに乗り換えて焚き付けを拾いに行く。

これまた積んで乾かして置く。

秋になって今度はキノコ採り。

落葉キノコ

ハタケシメジ

野生の椎茸

知らないキノコは絶対取るな と くどい位言われた。


冬になり犬の散歩で歩いていると、色々な足跡がある。

大概はきつね。たまに これなんの足跡?て言うのもある。

これは内緒だが、カラスにエサをあげている。

お父さんを見つけると大概してやってくる。

お父さんは かわいいねぇ かわいいねぇ を連発する。

最初少し嫉妬した。


春になり学校から呼び出しが来た。

登校してもらえませんか?だった。

お父さんは私を連れて学校へ。

校長教頭学年主任を前に 娘を未来をどうやって守ってくれるのか? とお父さん。

先生たち口籠る。

お父さんは諦めたように 未来もうここには帰ってこないからさようならしなさい と言った。

お父さんは先生たちに あなた方のお子さんをこの学校に通わせる事は出来ますか?と言った。

未来帰るよ

お父さんの背中からは 未来心配するな、何がなんでも守るぞ の気迫が伝わってくる。

今ならわかる。

万引きした時もお父さんなりに全力で守ってくれてた。

お父さんカッコ良い‼️


この頃になると私はパニック発作をあまり起こさなくなっていた。


その後私は通信制の高校に進学した。

お父さんに付いて山歩きする様になって、私はフィールドワークが好きな事がわかった。

虫が平気な事も強味。

お父さんはあんなに生き物が好きなのに虫は逃げ出す。

私が虫平気だとわかると 未来ゲジゲジ 未来蜘蛛 と呼ばれる。

一度ワラジ虫を お父さんこれっ と言って手のひらに乗せたら、人が嫌がる事やったらだめ‼️と珍しく怒られた。


大学は自然観察関係がある大学を選んだ。

そしてレンジャーの会社に就職した。

そこで私はお父さんよりさらに朴訥とした人に惹かれた。

投げ出さず他の方法を模索する人にお父さんが重なった。

全てを話し こんな私でよければ と言ったら

お父さんに是非会いたいと言ってくれた。

休みの日お父さんに挨拶に行った。


3人で山を歩いてお父さんは彼から鳥の見分け方を教えてもらい、子供の様に嬉しそうだった。


未来を娘をよろしく とお父さんは言った。


その後妊娠がわかった時 お父さん私親になれるかわからない、親になる自信なんか無い。

ちゃんと育てる自信なんか無い。

と言ったら 自分がされて嫌だったことをしなければ良いんだよ。

いつまでも、いつでも守るから心配しないで

未来なら出来るよ。


家を離れてから お父さんも歳だから心配 と言って毎日電話していた。

すぐ出れなくても折り返しかかって来た。

その日も出なかった。

胸騒ぎがして娘をチャイルドシートに縛り付け道を急いだ。

途中また電話したが 出ない。

心臓を鷲掴みされたような気がした。


落ち着け 落ち着け未来 これはパニックを起こすたびにお父さんが私を抱きしめてかけてくれた言葉。


落ち着け 落ち着け未来 はなす術ないお父さんが お願いだから落ちつかせてください と天に祈っているようだった。


今は自分に言う 落ち着け 落ち着け未来


遠い昔お母さんに半分本気で置いてけぼりにされた時感じた腰がダルくなるあの感覚。

あの感覚だ。

私はまたお父さんの魔法の言葉 落ち着け 落ち着け未来 を口にして、脂汗を浮かべながら車を走らせた。

やっと家が見えた。

ああ、ごめん電話出れんかった。

そう言ってくれるかと思ったが、それは叶わない事だとすぐにわかった。

お父さんの顔はとても穏やかで、やり切ったように見えた。


慌ただしくお父さんの葬儀が終わり、動物達がたくさんいるので、私は娘とここに残る事になった。


お父さん帰って来たよ。


しばらく夫は単身赴任になる が行く行くは夫もここに来る事になった。


ふと気づくとカラスがいっぱい居る。

外に出た。

私はお父さんがやっていたようにカラスにエサをあげた。

一羽も降りて来ない。

私をみている。

いや、私の心をみている。

お父さん、私間違ってなかったよ。

お父さんと養子縁組した事も、児相に行かない、と言った事も間違ってなかったよ。

お父さんの子どもで良かったし間違ってなかったよ。

お父さんの娘で幸せだよ。

お父さんが私を全力で守ってくれた様に、これからは私が全力で守る。

お父さん 安心して。

私は大丈夫。


誰かに合図でもされたように、カラスが一斉に飛び去った。


家へ入るとさっきまで濃密にそこに居たお父さんが消えてしまっていた。

カラスがお父さん連れて行っちゃった。


私はカラスが飛び去った方を見つめていた。


終わり



最後までお読みいただきありがとうございました。



この作品はフィクションです。

登場人物は全て仮名です。

また野生生物の餌付けなどは禁止されています。


最後までお読みいただきありがとうございます。

私の最初の作品です。

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