閑話・あの人はいま・・・
読んでくださっている方々へ
誤字脱字報告・感想を書いて頂き、誠にありがとうございます!
特に最近誤字脱字が多いみたいですみません。
気をつけている積もりですが、中々に・・・。
え~と漸く書き上がったので、早速投稿させて頂きます。
幽州右北平郡公孫瓚軍屯所
袁紹を盟主とする反董卓連合軍が、専横著しい(袁紹達名家視点。自分達を蔑ろにしている時点で専横扱い)董卓率いる涼州兵を相手に、一進一退の激戦を繰り広げている・・・訳でもなく、一方的にコテンパンにやられている頃・・・
「あんのクソ大将!又仕事をサボりやがって!
何処で油を売ってやがんだ一体!?」
プリプリと怒りつつ荒い足取りで、クソ大将こと主君の劉備を探し回る簡雍。
一度壊滅状態に陥った劉備軍一党は、再起を図るのと同時に戦力強化も兼ねて、廬植門下の先輩である公孫瓚を頼り、公孫瓚から客将として受け入れられていた。
基本的に客将と言うのは、傭兵や用心棒的な意味合いが強いのだが、劉備の場合は正直言って、居候的な立ち位置で有った。
しかしだからと言って、当然タダ飯にありつける訳でもなく、劉備達はお手伝いという名目の、無料奉仕を見返りに行っている。
関羽・張飛は騎兵団では対処し難い、山間に巣くう盗賊連中を、新規募集した新兵の実戦訓練を兼ねて討伐に赴き、簡雍と劉備は読み書き・四則演算が出来る部下達と、事務処理の手伝いをしていた。
地方軍閥の共通の特徴として、武を尊ぶ武尊気質な為、幽州軍閥も涼州や并州と変わらず、事務に長けた文官系の者が少ないので、関・張コンビよりも簡雍の方が重宝され、流石に機密情報(武具・兵糧の在庫数の詳細等)に携わる事は無いが、細々とした雑務にかり出されている、のだが・・・
「毎度毎度いつもかっつも、隙あらば抜け出しやがってあの野郎~!
今度は2~3日も一体、何処をウロウロほっつき歩いてやがんだ?」
念仏の如く、何度も呟いて歩く簡雍。
読み書き・四則演算は出来るが、事務処理がキライな劉備は、簡雍が劉備の下に付けた部下に仕事を押し付け、しょっちゅう抜け出すのが、もはやルーチン化していた。
簡雍が彼方此方の幕舎に顔を覗かせ、主君の所在を確認して回るのは、公孫瓚軍屯所の新たな風物詩と化し、簡雍は多分な同情を寄せられている。
公孫瓚軍将士からの目撃情報を収集しつつ、フラフラとうろついた先には、
「うん?何じゃありゃあ?」
公孫瓚軍の兵士達がちょくちょく出入りしている、一際大きい幕舎が姿を現した。
「は~い、いらっしゃいませ~旦那様~♡」
「どうか楽しんでいってくださいね~♡」
その幕舎の前では、軍施設内にしては似つかわしくない、妙齢の女性達が甘ったるい声で、呼び子の様な事をしていたので有った。
(・・・渡りの女衒(女性専門の人買い及び、風俗業を生業とする者)でも来てんのか?
つう事は、十中八九此処に居んだろうな~、ウチの大将のこったから・・・ハァ)
目の上に手を当て、溜め息を零す簡雍。
絶対的な確信を持って、「真っ昼間から女の所にしけこむんじゃねーよ呆け!」と、呪詛を吐きつつ幕舎に近付く。
「あら旦那様いらっしゃいませ~。
玄徳賭博場にようこそ♪」
「うん?・・・玄徳賭博場?玄徳賭博場だと!?」
遊女風の呼び子の口から紡がれた言葉に、思わずフリーズしてしまう。
「そうですよ~旦那様~。
札・双六・盆(賽子博打)と、色んな博打を楽しめる場所、玄徳賭博場ですよ~♪」
茫然自失とする簡雍に、不思議そうに首を傾げながらも、笑顔で告げる。
「お、お、おい姐さん?
此処の盆守り(賭場の開催者や後見人)って、背が高いノッポでやたら耳がデカくて、腑抜けたアホ面な奴じゃねーよな?な!?」
違うと言ってくれ!と縋る様に尋ねる。
「え~と・・・アホ面かどうかは私の口からは言えないけど~。
此処の開帳主さんは、確かにノッポで耳もデカい、属尽様ですよ~?」
若干困惑気味に眉を八の字にしつつ、愛想良く笑顔で答えた。
「・・・ッの野郎!!」
「あ、旦那様~!?」
猛ダッシュで幕舎に入る簡雍。
そして血走った眼で幕舎内を素早くサーチし、幕舎の奥で遊女風の女性に酌をされつつ、一枚服を肩に羽織って親分気取りをしている主君を発見。
ダダダッッ!!
「ん?お、憲和(簡雍)じゃねーブベェッ!?」
「お前は何をしとんじゃいコラ!?」
怒りのミサイルキックを色々とやっちゃってる、劉備にかますので有った。
~~~只今、99.9%の怒りと欠片程の忠義に依る鉄拳制裁を行っております、大変申し訳ありませんが、暫くお待ちください~~~
「おお~・・・痛つつ。
ナニしやがんだ憲和テメェ!?」
所々顔を腫らした劉備がキレる。
「喧しいわボケ!!ソレはコッチの台詞だわい!!
己の胸に手を当ててから、モノを言えや!!」
敢然とキレ返す簡雍。
「テメェこそ仕事ほっぽって、何を遊んでいやがるんだよ!?仕事しろ仕事をよ!
それにこんな所で賭場を開帳してんのを、留守居の関靖さんにバレたら叩き出されんぞ大将!?」
悲鳴じみた声音で怒鳴る。
どうしよう!?と頭を抱えて、融通の利かない堅物で公孫瓚軍のNo.2である、関靖に対する弁解をグルグルと脳内で考えていると、
「コレも歴とした仕事ですぅ。
それに関靖どんには、ちゃんと許可貰ってるつーか、関靖どんの要請でやってんだよ~ん。」
勝ち誇った様な表情で、ベロベロバァーをする、良い歳を扱いた一軍の将。
「嘘付けこの野郎!
あの堅物の関靖さんが、そんな事を認めねーだろうし、そもそも賭場を開帳する発想すら、思い浮かばないだろーが!?」
全く信用しない簡雍。
「嘘じゃねーよ・・・え~とコレ・・・じゃなくてコレ・・・でもねーな・・・あれ?」
乱雑に積まれた竹簡を、ピンチになるとポイポイと不要な道具をポケットから放り出す、某タヌキ型自動人形の如く放り投げ、
「ん~と・・・あ、コレだコレ!ホレよっと。」
1つの竹簡をポイッと簡雍に投げ渡した。
「・・・ウッソ、本当だ・・・信じらんねー。
あの堅物が、こんな賭場開帳を思い付いた上で、軍施設内に設立するなんてよ。」
訝しげな表情で受け取った簡雍は、ザッと竹簡を流し読みし、1番有り得ない組み合わせに驚く。
「まぁ、提言したのはオイラだけどな。」
「ああビックリした!!それなら納得出来るわ!」
劉備が一枚噛んでいた事に、安堵の息を洩らす。
公孫瓚軍No.2である関靖は、自他共に厳格な性格の持ち主で、「酷吏」と軍内では陰口を叩かれるぐらいの人物なので、そんな人物が博打を開帳したと思い込み、「天変地異の前触れか!?」と、真剣に焦った簡雍で有った。
「しかし何で又、そんな話になったんだ?」
「あ~ど~もなぁ、最近軍内部で鬱憤や不満が、大分溜まってるみたいでよ。
憂さ晴らしに何かねーかって、関靖どんに尋ねられたから、「いっそのこと賭事でもしたら、良いんじゃないか?」ったら、許可が下りたんだわ。」
後ろ手で頭をボリボリと掻きながら、苦笑いして経緯を説明する。
「鬱憤ねぇ・・・そこはかとなくは感じてはいるけどよ、何かあったんか?」
「アレだよアレ。
劉虞の爺さんの、「異民族宥和政策」の影響が、公孫瓚の兄ぃ達にモロに出ているんだよ。」
「ああ、腐れ儒者爺のアレか。
そりゃ鬱憤や不平不満も溜まるわ。」
嫌悪感丸出しで劉虞を評し、納得する簡雍。
現在の公孫瓚や軍閥は、トップで有る州牧の劉虞が提唱する、異民族(匈奴・烏丸族)に対する宥和政策の煽りを受け、劉虞に因って不当な扱いをされており、軍内部では怨嗟の声に満ち溢れていた。
なにせ何を思ったのか劉虞は、「過度の軍事力を持てば、異民族達が過敏に反応するし、有事の際は州軍が居るのだから問題ないだろう」と言い出し、突如として幽州軍閥の解散を命じたので有った。
当然公孫瓚達軍閥は猛抗議したし、州軍のトップや文官でさえ反対したのだが、結局張純討伐で活躍して世間に名を轟かした、公孫瓚以外の軍閥は解散させられてしまい、そして唯一残った公孫瓚軍も、手勢は1万までと厳しい制限を設けられたのである。
挙げ句の果てに軍事行動まで制限され、侵入して来た異民族達は追い払うのみ、略奪行為等の民衆に被害を及ぼした場合に、漸く攻撃して良しという、被害者や被害出てから対処する、泥縄的な行動をさせられるといった、オマケ付きで有った。
領土侵犯を犯した異民族を撃退出来ず、同郷の人々が被害に遭うか犠牲になるまで、指を咥えて見過ごすという状態で有り、此処まで蔑ろにされて鬱憤が溜まらない筈もなく、劉虞に対して怒り処か、殺意まで湧いている始末だった。
それはさておき、
「ま、そういう事で、ちゃあんと関靖どんから認可受けてっから、安心しろや憲和。」
「どっこも安心出来ねーよボケ!
本来の仕事はどうすんだ仕事は!?」
「え、オメエの部下に任せているけど?」
キョトンとした表情で首を傾げる。
「そのウチの部下が大将から、「押し付けられた」って泣きついて来たから、テメェを捜しにウロウロしたんだがな!?」
認識の違いをキッチリ告げる。
「んなこと言われてもよぉ・・・この仕事は関靖どんから受けてっから、ポイポイ放り投げる訳にゃいかねーだろが?
それこそマズい事になるぞ?」
「・・・うう~ん、それはそうだけどよ。」
一理あると納得してしまう簡雍。
「じゃあ何時までやるんだ?」
「関靖どんが「もういい」と言うまで。」
「オイ、大将?
オメエ遊びの延長上でやってんだろコラ?
もう一回逝っとくかテメェ?」
ボキボキと世紀末的救世主の如く、指を鳴らす。
「バカ、ちげーよ!」
そう言って簡雍の首に手を回し、
(この賭場の上がり(利益)を、ウチの軍資金に充てるんだよ憲和。
それに関靖どんに、賭場開帳資金を借りてるから、返さねーといけねーしな)
コソコソと耳打ちする。
(おまっ!?皮算用かよ!?
上がりって大将、まさか賭け金を青天井(無制限)にしてんじゃねーだろうな?オイ?)
怒りつつ耳打ちする簡雍。
(するわけねーだろ、そんなヤバい事。
確かに青天井にすれば、勝てば実入りは太いけど、その反面負けりゃとんでもない支払いに、なりかねねーモンだぜ?
客層的に飛ぶ(逃げる)事が出来ねーのに、そんな危ない橋なんざ渡れるかい)
コソコソと言い切る。
「逆に掛け金を低く設定しても、客が多いから塵も積もればってヤツでよ。
上がりもわりかし良いし酒場も併設してっから、バンバン銭を落としてくれるしよ。
結構デカいシノギ(商売)になるぜこりゃあ。」
賭場から少し離れた場所にある、簡素なテーブルと椅子が有る所を指差し、
「ついでにショバ(場所)代やカスリ(上納金)もねーから、開帳資金さえ返済しちまえば、後は続ければ続ける程、ガッポガッポ懐に入って、丸儲けってヤツだぜ?」
美味しくてたまんねぇわと、にやつく劉備。
「いや待て大将、シノギにすんだったら地元の親分が黙っちゃいねーだろ?
大丈夫なんかその辺はよ?」
後々のトラブルを危惧する。
「大丈夫、大丈夫。
その辺の事も、遊廓に姉ちゃん達を借りに行った際に、遊廓の楼主(オーナー)を通じて、ちゃーんとナシを入れってからよ。」
ポンと自信あり気に胸を叩く。
「あのよぅ大将・・・俺さぁ、がきんちょの頃から思ってんだがよ。
そういうやる気や情熱を、欠片でも普段から発揮してくんねーか?マジで・・・。」
げんなりと呟く、苦労人気質の簡雍。
「うるせえよ!ほっとけや!?」
ぷいとそっぽを向く。
劉備自身は決して頭が悪い訳でも無く、運動神経も良い方で、わりかしトータルバランスに優れた人物である。
そして興味関心が有る事柄に関しては、寝食を忘れて精力的に活動するのに、反面無い事柄に関しては、鼻をホジって寝っ転がりつつ尻を掻くぐらいに、全くやる気がゼロであり、他人任せにして逃げるタイプで有った。
分かり易い例で云えば、結構不義理をしているのに不思議と怨みを買わず、ダーティーな所も有るが男気も混在し、能力の高さと人間性の不一致で失敗を繰り返す、何処ぞの一本眉の某ポリスメンに、非常に近いタイプである。
「う~ん、軍資金調達かぁ・・・それを言われると否とは言えねーなぁ。
しゃーない、押し付けられたアイツにゃあ悪いが、泣いて貰うか・・・。」
劉備軍の軍政担当であり、金庫番でもある簡雍は、自軍の台所事情と部下の哀願を天秤に掛け、劉備軍の利益を取るのだった。
現状の劉備軍は居候状態であり、食い扶持こそ困ってはいないがその分、武具・兵糧の備蓄や軍資金調達がままならかった。
その為賊討伐で支給された武具は、コッソリちょろまかして残したり、貰った食糧は出来るだけ残し、野山の動物を討伐ついでに狩って賄ったり、張飛が生家(肉屋)のスキルで干し肉を作り、市場で売り捌いてコツコツ資金調達をしたりと、中々に苦労をしていたのである。
(そんな中で降って湧いた様な好機、か。
旗揚げ当初からそうだが、いざ窮地や困り事が発生すると、不思議と天佑みたいなモンに、助けられやがるんだよな。
持ってるモンを持ってるってこったかねぇ?)
「ほんじゃま、後は宜しく~」と能天気に酒を飲む、幼馴染み兼主君を観る。
「へ~へ~・・・殿の仰せのままに。」
形ばかりの拱手をした後、
「あ、おい、それオイラの酒・・・。」
「こちとら大将をウロウロ捜したせいで、カラッカラに喉が渇いていんだよ。
自分だけ飲んでねーで、俺にも飲ませろや。」
ドカッとテーブルを挟んだ、劉備の向かいの椅子に座り、横から酒をかっさらう。
そうして代わる代わる酒を飲み、お互いに無言で賭場の様子を眺めていると、
「ああ、そうだ憲和。
あっ、姉ちゃんは大分忙しそうな、酒場の手伝いをしてやってくんな。」
さり気なく酌女をしていた遊女を場から外し、簡雍に声を掛けた。
「・・・何だよ大将?」
「まぁ、今日明日の話しじゃね一とは思うが、何時でも幽州から離れる心構えでいてくれや。」
さらっと公孫瓚の下を離れる宣言をする。
「は?どういうこった大将?
まさかオメエ、隠れて何かやらかしたんか!?」
「オイラじゃねーよ!オイラじゃな。」
「じゃあ何なんだよ一体?」
理由が思い浮かばず、首を傾げる。
周囲をキョロキョロと見回した後、
「・・・実はよ、ど~も公孫瓚の兄ぃ達と劉虞の爺さんの間で、本格的な抗争が起こりそうな雰囲気なんだわコレが。」
「はぁ!?マジかそれ!?」
続く爆弾発言に素っ頓狂な声を上げ、立ち上がって劉備に詰め寄る簡雍。
「声がデケェよ憲和!!」
「・・・すまねー大将、本当かよそれ?
遂に堪忍袋の緒が切れた公孫瓚の兄さんや、解散させられて怨み骨髄の元軍閥連中が、とうとう爺を殺る為に蜂起するってか!?」
興奮状態になり、尻上がりに語気が強くなる。
「だからデケェって憲和!
・・・それがよ、逆なんだわ逆。
堪忍袋の緒が切れてんのは、爺さんの方。
寧ろ兄ぃ達の方が穏健なんだよコレが。」
肩を竦めて簡雍の予測を否定する。
「はい?何で爺の方がキレんだよ?」
「爺さんの言い分だと、「再三再四に渡って自分の政策の要である、異民族達の援助を妨害し、話し合いにも応じずに勝手ばかりしているから、反逆者として討伐する」らしいぞ?」
馬鹿馬鹿しいと呆れ顔の劉備。
「・・・それってナンも実状を知らねー連中から観れば、爺の方に大義が有って、兄さん達が一方的に悪く聞こえっけどよ・・・?」
信じられねーといった表情の簡雍。
「ああ、オイラ達幽州民からすりゃあ、再三再四に渡って敵対関係の異民族達に、援助しようとする爺の利敵行為を掣肘して兄ぃは、本来渡るべき民衆に分配しているだけにしか見えねー話だ。」
「そりゃそうだ。
幽州人から観たらそうだわな。」
コクリと頷く。
「それに話し合いに兄ぃが応じねーのも、爺が会談に託けて、兄ぃを暗殺するつもりなのが判ってるからだしな。」
「本当かよそれ!?・・・ゲス野郎が。
それが「有徳」の有る奴がする事かよ!」
胸糞悪いとばかりに吐き捨てる。
「本当に碌でもね一爺だわな。
兄ぃが幽州民の不平不満を代弁しているから、兄ぃだけに集約してんのに、そんな兄ぃを暗殺しちまったら、解散させられた軍閥を始め、幽州全土に反乱が広まるつーのを、全く理解してねーんだからよ。」
バカとしか言えねーと愚痴る劉備。
「しかし、良く暗殺される事を察知したな、公孫瓚の兄さんも。」
「どうやら爺に近い文官からの、機密漏洩が有ったらしいぜ?」
「オイオイ・・・ゲス爺は自分に近い高官にも人望がねーのかよ?」
呆れ半分侮蔑半分の簡雍。
「有る訳ねーだろ、んなもんはよ。
高官つっても幽州人には違いはねーんだから、表面上従っているだけだろうよ。
爺が居なくなっても困る、幽州の高官連中は居ない処か万歳三唱だろうが、兄ぃ達が居なくなりゃあ1番困るのは、間違いナシに高官連中なんだからよ。」
「まぁな、兄さん達が居なくなれば、「唇滅びて歯寒し」になって幽州全体が、異民族達に蹂躙されるのがオチだろうからな。」
そりゃ密告もするわと納得する。
「そう言うこった。
兄ぃが居なくなりゃあ、異民族達の襲撃に因って、明日は我が身だからな高官連中も。
大概の高官連中は、地元の名士だから家土地を持ってる訳だし、まさか蝸牛の如く、家を担いで逃げる事は出来ねーしよ。
・・・余所モンの劉虞の爺と違って。」
ハァと嘆息する。
「・・・碌でもねー事をやりたい放題しといて、当の本人だけはケツ捲って逃げれるって、納得いかねーわマジでや。」
簡雍は憤慨してボヤき、
「領民が異民族達に、タタキ(強盗)や殺害されても平然と赦す癖に、自分のやっている愚行を掣肘されるのは、我慢がならねえってか?
何処が「仁徳の人」なんだよ、劉虞の何処が?
只の自己中で我が儘な老害爺じゃねーかよ。」
ケッと唾を吐く。
幾ら地元の徐州や周辺で「有徳の仁」と敬われようと、幽州人から観れば何処までも、「自分達から徴収した税を、父祖代々の仇敵である異民族達に貢ぎ、国境守護の要で有る軍閥を解体し、侵略や略奪を誘発している、最低の売国奴爺」で有り、幽州人の劉虞に対する感情は、最早嫌悪を越えて憎悪になっていた。
「ホントになぁ・・・。」
「んで大将?そんなクソったれ爺と兄さんが、抗争になる前にガラを躱す(避ける)つーのは、一体どういう了見なんだよ?
まさかと思うが、兄さんに勝ち目が薄いってんで、尻を捲る算段じゃねーだろな?
流石にそれは、曲がりなりにも俺も幽州人の端くれとして、承服しかねるぜ?」
据わった目で睨み付ける。
「あのなぁ憲和、オメエはアホか?
どう転んだら爺に、勝ち目なんかが有るんだよ。
例え目を瞑ってても、兄ぃの勝ちは揺るがねーよ。」
ハッキリと言い切る。
「へ?え?そうなんか?
兄さんの軍勢は約1万居るけど、大半は各地域の守備に派遣されていて、手許の直卒は2千騎ぐらいなのに対し、爺の立場だったら簡単に州軍を2~3万は集めれんだろ?
張純の雑魚軍団と違って、結構な練度を持ってる奴らだから、流石にキツくね一か大将?」
目を点にして聞き返す。
「まぁ、数だけ観ればそうだけどよ。
州軍の奴らだって幽州民だぜ?同じ幽州民のオイラやオメエが、爺をクソミソに言っている様に、州軍連中も気持ちは一緒だろうよ。
そんなクソ爺の為に、命懸けで戦うアホなんぞいやしねーベ?」
苦笑混じりに感情論を述べ、
「ましてや相手は代々幽州民を、異民族達から守り続けてくれてる兄ぃ達軍閥ときた。
そんな恩も義理も有る同郷人達に、刃を向ける奴なんざぁ幽州民じゃねーよ。」
同郷人の仁義=同郷心を語る。
「なる程ねー・・・確かにそうだな。
張純の野郎は、手前勝手な理由で反乱を起こした挙げ句に、敵の烏丸と手ぇ組んだから、同郷からも愛想尽かされたが、兄さん達は幽州や幽州人の為に動いてる。
そんな人達相手に、刃は向けれねーわな。」
コクコクと頷く。
「そう言うこったな。
例え本格的に抗争になっても州軍連中は、良くて戦う振りして傍観、兄ぃ達を爺の許まで素通りさせるか、悪けりゃ爺の寝首をコッソリと掻いて、チョンパした首を兄ぃ達に渡すのがオチだろうよ。」
劉虞の末路を予測する。
「まぁ、売国奴に相応しい最期だな。
けどよぉ大将、其処まで結末を読んでんだったら、フツーに兄さんに組みすりゃいいじゃねーか。
ガラ躱す必要性がねーだろうが?」
「ソレが出来ねーから躱すんだよボケ!」
「?何でだよ?」
劉備の罵声をスルーして、首を傾げて尋ねる。
「オイラの出自が災いして、どっちに組してもえらい事になるんだっつーの!!」
「出自って・・・属尽だとマズいんか?」
ますます首を傾げる簡雍。
「あのなぁ・・・憲和はピンと来ねーかも知んねーけどよ、不本意ながらオイラも劉虞のクソ爺も、大きく一括りすりゃあ一門になる訳よ。」
「まぁそうだな。」
「んでだ、クソ爺は都に居わす主上の直系や近親者に次ぐピンの皇族で、オイラは末の末であるキリの属尽なんだわ。」
此処までは解るか?と、目線で問い掛ける。
「まぁそれぐらいは流石に・・・。」
「そんでな、年功序列の理屈で言やあよ、クソ爺は本家筋でオイラは分家筋になる。
つまり本来は本家筋の劉虞に、筋的には組みしなきゃいけねー立場の、分家のオイラが兄ぃに組したら、一門の上位者に反目したと見なされる訳だ。
そう観られると、オイラはどうなると思う?」
再度簡雍に問い掛ける。
「え~と・・・あ、劉一門から総スカンを喰うか、裏切り者扱いになる・・・?」
なんとなく察した簡雍。
「その通りだよコンチクショウ!!
地元の伯父貴や幽州の属尽連中は、クソ爺が最低の売国奴だと理解してっから、何も文句言わねーだろうが、余所の皇族・王族・属尽連中は、クソ爺を「有徳の仁」と認識してっから、尚の事反目したオイラを敵視するようになるんだよ!
つまりは大概の州に居て、わりと影響力を持ってる一門を、自動的に敵に回す事になるってこった!」
ダンッ!と卓を叩いて憤る。
「ヤバいなソレ・・・。」
深刻な悪影響を聞いて、冷や汗を流す。
「ヤバい処か、文字通り死活問題だよ!
かと言ってクソ爺に組してみろ。
今度はオイラは幽州人から、裏切り者扱いされて居場所を失うわ、伯父貴や他の属尽連中も同類と見なされて、石を持って逐われる羽目に成っちまう。
そうなったら、間違いなく伯父貴達が怒り狂って、オイラの命を殺りに来るんだぞ!?」
悲鳴じみた声を上げる。
「ま、マジでシャレになんねー・・・。」
「ホントにシャレじゃ済まねーんだよボケ!
ガラを躱す理由が判ったかよこの野郎!?」
血走った目で、襲って来る伯父を想像したのか、若干涙目で怒鳴る劉備。
「判った、判ったから、そう興奮すんな大将。
何時でもガラ躱せる様に、段取りしとくから。
因みにどれくらい猶予が有んだ?」
宥めつつ、準備期間を確認する。
「う~ん・・・結構流動的なんだけどよ。
早くて兄ぃがど、銅鐸?だっけか?を、討伐する集まりから帰って来てすぐか?」
「董卓な董卓、銅鐸討伐してどうすんだオメエ。」
「うっせぇ、茶化すなや憲和。
ほんで遅くても、魏攸の爺さんの天寿までって感じだな。」
言い間違いを指摘されて、機嫌を損ねつつ憮然とした表情で、大凡の期限を述べた。
「魏攸?・・・州の最長老文官だっけか?」
「そうそう幽州の筆頭文官で、クソ爺から別駕従事に任命されてる翁だよ。」
「何で魏攸の爺さんの、寿命が関係あんだ?」
意味が解らず首を傾げる簡雍。
「魏攸翁はクソ爺の補佐役として、爺の掲げる宥和政策に賛同して、協力している人物でな。」
「裏切り者の筆頭格じゃねーか!?」
「まぁ、表向きは、な。」
肩を竦めつつ、
「実態は裏で兄ぃ達に、異民族に贈る援助物資の日程や、道程を密告して奪わせたり、解散させられた元軍閥連中を陰から援助して、何時でも復活出来る様に、州の予算を遣り繰りしてコッソリ捻出したりと、幽州の為に奔走している爺さんだけどな。」
魏攸の実情を告げる。
「う~ん・・・幽州の為につうのは立派ちゃあ立派だけども、やっている事は面従腹背つーか、二股膏薬つーべきモンじゃねーか?」
渋面で魏攸を評する。
「バカ、翁のは老獪つーモンだよ憲和。
クソ爺に賛同した振りして懐に飛び込んだからこそ、クソ爺は翁を深く信頼して助言に耳を傾けるし、翁が反対する事は無下に出来ねえって、状況を作ってんだろうが。」
したり顔で魏攸を褒める。
「実際の話、1番兄ぃ達を擁護してんのは他ならぬ翁だし、翁が反対して抑えているからこそ、クソ爺は兄ぃ討伐に踏み切れずに留まっているからな。
云わば翁は、クソ爺暴走の歯止め石の役割を果たしている訳だ。」
「ふ~む、それぞれ立場が違えば、やり方も変わるってこったかね?」
劉備の話しを聞いて、なんとなしに理解を示す。
「そんなモンだろ。
兄ぃが剛なら翁は柔の対応で、それぞれ幽州民の為に動いてる感じだな。」
コクリと頷く。
「だから兄ぃも翁の助言に従って、董卓討伐軍に参加する事で幽州を離れ、カッカと血が上って討伐を叫んでいる、クソ爺との距離を置いて、ほとぼりを冷ましている訳だ。
不本意な抗争はクソ爺以外、兄ぃも翁も誰も望んじゃいねーからな。」
溜め息を吐く。
「じゃあ異民族の援助物資を強奪すんのは、有る意味悪手じゃねーのか?」
「あのなぁ憲和、そのまま放っとけば、クソ爺の利敵行為に怒り心頭の幽州民が、暴動を起こしかねねーから、兄ぃ達がわざと強奪する事で、幽州民の溜飲を下げてんだよ。」
「あ、なる程。強奪する方がマシって訳か。」
ポンと手を打って納得する。
「そう言う事。
ついでに討伐に自軍を引き連れずに、元軍閥連中でも特に血の気が多い奴らを、率先して引き連れてんのは、幽州から引き離す事で、元軍閥連中の暴発も抑える目論見らしいし。
その見返りに兄ぃ達の物資補給は、翁が劉虞を上手く言いくるめて、州から出てるしな。」
「はーん・・・色々と面倒くさいな。」
呆れ口調で感想を述べる。
「ああ、そんな気骨の折れる事を、翁は東奔西走してやっている訳だ。
歳も歳の上、心労の絶えねー事をやってるから、此処最近は病がちらしい。」
「マジか・・・じゃあ翁がぽっくり逝ったら?」
「もうクソ爺を止めれる奴が、居なくなる訳だ。
行くとこまで行っちまうだろうな。」
天を仰いで呟く。
「・・・あんまり時間がねーのは解った。
急ぎとなると先立つモンが不可欠だ。
つー事で大将、シノギをしっかりと頼むぜ?
オレも全面的に協力すっからよ。」
「おう、任せとけや!
ちゃーんと銭を稼いでみせるからよ!」
ドンと胸を叩いて、自信を覗かせる劉備。
そして暫くの後、
「ありゃ・・・もう夜か。」
話を終えて幕舎から出て初めて、とっくに日が落ちているのに気付いた簡雍。
色々と劉備と話している内に、時間を忘れていたのだった。
「はぁ~あ・・・「禍福は糾える縄の如し」つうけどよ、何もわざわざ一挙に来る事はねーだろうが、ホントによぉ・・・。」
満天の星空に向かってボヤく。
何せ思わぬ資金調達の目途が立った!と思った瞬間、ソレを全てペイにしかねない厄介事が湧いて出たのである。
簡雍が嘆きたくなるのも至極当然であった。
「あ~あ、さらば束の間の安息の日々、今日はクソったれの不測の日々ってか。」
深く深~く溜め息を零す。
「何時になったら根拠地を得て、腰を落ち着かせられるのやら・・・ハァ。」
再び溜め息を零す苦労人。
(嘆いても始まらねー、か。
やる事・やれる事を精一杯やって、天命を待つのみってヤツか・・・)
気を取り直して歩き出す。
「うん?アレ?銭箱はどこ?オイラの銭っ子は何処!?オイラの銭~!?」と騒ぐ、主君の悲痛な叫び声を背に、どっこいしょと銭箱を肩に担いで、劉備軍の金庫番の職務を全うする簡雍は、「ピッタリと大将に張り付いて、しっかりと締めねーとなぁ」と思いつつ、全面的な協力を惜しまない決意をするのであった。
終
とりあえず、作中の劉備の現状を書き終えたので、再び本編に戻ります。
年度末に差し掛かり始め、私と同じく多忙になられている方も居られるでしょうが、どうかお身体を大事に為さってくださいませ。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
出来れば優しい評価をお願いします。




