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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
93/111

その7

読んでくださっている方々へ


え~と、漸く書き上がりましたので、投稿させていただきます。


ほんと~に漸く涼しくなった、今日この頃であります。


体調も戻りつつ有るので、少しでも速いペースで投稿出来る様、鋭意努力する所存であります。




        洛陽宮廷内大広間


3月、名目上は反董卓連合軍と銘打った、実質的には反乱軍であり、その反乱軍の首魁・袁紹の一族一門の殆どが、袁紹達の起こした「国家反逆罪」の連座により、老若男女の区別なく処刑され、袁紹・袁術の直系家族(しれっと脱出済み)以外は、悉く族滅の憂き目にあった。


これに因り「四世三公」と謳われた袁家は、「反逆者」の汚名を残すのみとなり、中央では枝葉(一族一門)が族滅したために政治基盤が消失。


同時に地元の汝南郡に有る本貫地も、当然没収されてこれも消失する事となり、後先を考えなかった袁紹の痴将っぷりのせいで、事実上袁家は滅亡状態になったのである。


こうして一時代を築いた大名家・袁家が、アッサリと没落した事は、婚姻関係を結んでいた縁戚も決して他人事ではなく、その筆頭格である楊家の楊彪も、例外ではなかった。


「・・・さて、それでは朝賊・袁紹の連座に関して、縁戚で有る司徒・楊彪の最終審議を始める。」

「「「「「ははっ!」」」」」

朝廷内最高位・相国(宰相)の董卓の宣言に、涼州に戻った糜芳と、当事者の楊彪以外の三公・九卿と軍部の重鎮が、拱手して恭しく頭を下げた。


董卓が行っている審議(裁判)は、連座制により有罪が確実である楊彪と楊家の、袁紹内通・袁術脱出の手引きの有無と、量刑を決める審議であり、どうにか重罪にしたい董卓と、少しでも軽くしたい楊彪との、せめぎ合いの場でもあった。


当然の事ながら、軍事には千軍万馬の古強者である董卓も、中央名家に比べて政治や弁舌にはからっきしであり、特に一日の長のある楊彪相手には分が悪く、のらりくらりと追及を躱されて、中々歯(がゆ)い思いをしていたのであった・・・今までは。


幾度も繰り返された質疑応答を、「存じ上げません」・「記憶に有りません」・「袁紹が勝手にした事で私とは無関係」の、何処ぞの国の政治家の如く、追及を今までと同じく躱し、董卓の追及のタネが尽きたのか沈黙したのを観て、楊彪が逃げ切ったのを確信した瞬間、糜芳の置き土産の策謀が始動する。


「・・・ふう、これ以上は不毛かのう・・・。

では最後に尋ねるが楊彪よ。」

「は、何でしょうか?」

「お主は漢の初代宰相である、蕭何(しょうか)公を文官としてどう評するかね?」

ちょっとした世間話をするかの様に、何気な~く楊彪に問いかける董卓。


(??・・・急になんの話だ?・・・解らん。

答えた内容で儂と蕭何を比較して、嫌味でも言って挑発する意図でも有るのか?

見当が付かぬ・・・が、しかしまぁ無難に、一般的な評価を答えれば問題ないであろう)

董卓の質問の意図が掴めず、内心首を傾げつつも、


「は?蕭何公を・・・ですか?

無論、漢高祖様の覇業を、陰日向に支えた傑物であり、後方の安全確保と、前線の物資補給を欠かさなかった、漢王朝最高の政治家であり、我々文官にとって手本とするべき御仁にございましょう。」

ペラペラと、一般的な人物評を述べた。


((そうだよな~・・・普通にそう答えるよなぁ。

フツーはそれが()とは思わんわな))

模範的な回答を述べた楊彪に、一味同心の董卓と脇に控えている荀攸が、奇しくも内心で同じ感想を抱き、糜芳の策謀に老獪な楊彪が()()()()()()事で、糜芳の悪辣さと読みに舌を巻く。


「ふむ、手本とするべき御仁とな?」

「はい、漢王朝の一臣として当然の事であり、私如き不明の者では、足元にも及びませぬ。」

さり気なく(へりくだ)って自分を卑下する事で、わざと軽んじられる様にし、董卓の警戒心を緩めようと自然に装う楊彪。


「ふむふむ、成る程。

貴公が手本とする蕭何公は、奸臣の讒言(ざんげん)を受けた漢高祖様により、度々疑心を持たれて難儀した事は知っているか?」

「ええ、それは勿論。」

「では漢高祖様の疑心に対し、どの様に対処して回避したのかも、当然知って居るよな?」

悪辣少年の手解きを受けた董卓は、徐々に質問を掘り下げていく。


「はい、蕭何公は己の潔白を表す為に、自身の一族一門の悉くを前線に送っ!?」

「た」と言う寸前、自分自身が蕭何と同じ境遇処か、より悪い立場に有る事にハッと気付き絶句、冷や汗が背中を流れて硬直する。


糜芳の策謀その1、「自言自縛(じげんじばく)の計」が発動。


董卓の誘導尋問(糜芳監修)に引っかかって、自身や一族一門のこれからの顛末を、他ならぬ自身で言って決めてしまったのである。


((えげつない、本当にえげつない・・・。

策謀を聞いて解説を受けた自分も、楊彪と同じ表情をしてたんだろうなぁ))

絶句する楊彪を観て、再び感想がシンクロし、糜芳のレクチャーを回想する2人。


~~~回想~~~


「さて、楊家ならびに楊彪を、衰退化させる策謀と言うのは、実に簡単でして・・・。

ちょっと荀攸殿、楊彪役をお願いします。

私は閣下の役を代行しますので。」

「はぁ・・・。」

「簡単て・・・儂は兎も角、蔡邕殿でもスルスル躱されとんのに・・・。」

あっけらかんと事も無げに言う糜芳に、何とも言えない表情を見せる董卓。


「え~と、質疑応答は長くなるので端折(はしょ)って、サッサと結論から行きますよ。

荀攸殿、蕭何公をどう思うか教えてください。」

「へ?蕭何公って、漢高祖様の宰相を務めた、あの蕭何の事ですよね?」

いきなりの思わぬ質問に、面を喰らう。


「ええ、そうです。」

「??それは当然・・・。」

概ね楊彪と同じ感想を述べる。


「成る程、大体の方は蕭何公を手本とか、文官の鑑と評する人物ですよね?」

「それは無論、漢に禄を食む文官は、彼に敬意を払わぬ者は居ないでしょう。」

至極当然と頷く。


「その蕭何公の人物評こそが、今回の策謀の()なんですよ。」

「はい?蕭何公の人物評が、どうしたら楊家衰退化に結び付くんですか?」

チンプンカンプンで理解不能と首を傾げて、頭上に幾つもクエスチョンマークを浮かべる筍2号。


「彼は後方支援に徹し、漢高祖様の領地である関中の統治を委任され、関中の民衆の信任は、漢高祖様を凌ぐ程でした。」

「ええ、故に蕭何を妬んだ者に讒訴されたりして、幾度も漢高祖様に疑心を抱かれて、投獄された事も有る程です。」

糜芳の説明を継いで、荀攸が続ける。


「ええ、そうですね。

その漢高祖様の疑心を晴らす為に、蕭何公は様々な事をしましたよね?一族一門の老若男の悉くを兵役に出したりとか・・・。」

「確かにその様な事もした様ですね。

結果的に蕭何公の一族一門は、兵役で殆ど戦死してしまったので、ほぼ直系しか残らずに先細りしてしまい、断絶と再興を繰り返していますけど。」

腕を組んで虚空を見つめながら、蕭何の家系の顛末の記憶を辿る。


「そう、そこですよ荀攸殿。

蕭何公を楊彪に置き換え、漢高祖様を董卓閣下に置き換えて考えてください。」

「はぁ・・・う~ん、う~ん・・・解りません。」

唸って思考するもピンと来ず、手を上げてお手上げと降参する荀攸。


()()()()()だった蕭何公でさえ、一族一門を兵役に差し出して疑いを躱しました。

では蕭何公を()()とする楊彪の場合、連座で有罪が確定している上に、()()()()()()()()()を躱すには、さあてどうするべきですかね~?」

ニチャアと、どす黒い笑みを浮かべる外道。


「あっ!!そう言う事ですか!?

蕭何公の逸話に(かこつ)けて、楊彪の()()となって支えている、一族一門を強制的に兵役に就かせ、実質的に楊家内部をスカスカにし、領地経営も禄に出来なくして、衰退化に持って行く策謀ですね!?」

ポンッと手を打ち、コクコクと頷いて理解を示す。


何処の国の人物もそうだが近代以前は、基本的には自分の一族一門を家臣団の中核に据えて、領地経営や軍団形成を行い、それから規模を拡大していくのが定石であり、セオリーだった。


曹操には曹一族と夏侯一族が、孫堅には孫一族と呉一族が、それぞれ初期家臣団のメンバーとして名を連ね、両者の飛躍に多大な貢献した事は、歴史が証明している事である。


(逆に擬似的な兄弟分で家臣団を形成し、一族一門の血縁関係で、家臣団を形成出来なかった劉備は、かなり珍しい例外的な存在)


そして一族一門には、名を残さずに縁の下の力持ちポジションで、政治・軍事にと当主を支えた者達も、大勢いるのである。


その縁の下の力持ち連中を糜芳は、楊家から根刮(ねこそ)ぎぶっこ抜く策謀を、立案したのであった。


「ええ、その通りです荀攸殿。

閣下にとって目障りな、名家閥の首領・楊彪の中核基盤をぶっ壊して袁家同様にし、中央から退場して貰いましょう。」

事も無げに言い放つ悪魔。


((((((鬼謀と言うか鬼だ・・・鬼が居る))))))

悪辣外道な策謀に、文字通り心情が一致して戦慄した、董卓達一同であった。


それはさておき、


「貴公が()()とする蕭何公でさえ、無実の冤罪を晴らす為に、それだけの事をしたのだ。

無論、貴公も蕭何公を()()()()、行動で身の潔白を証明致すよのう?」

ヤーさん面でニタリと笑い掛ける。


「は・・・いえ、いや、その・・・。」

「他ならぬ自身で言ったのだ。

当然有言実行するであろうな?楊彪よ。

よもや拒否する事はあるまいな?もしするのであれば、内通や手引きを認めるに等しいと思えよ?」

戸惑いを見せる楊彪に畳み掛けて、言い逃れの逃げ道を塞ぐ。


「はは・・・承知しました。

我が楊家に対する容疑は、一族一門が命を懸ける事で、無実と潔白を証明致しましょうぞ。」

拱手して躊躇いがちに頭を下げる。


(クッ、なんて事だ!

まさかこんな迂遠で、嫌らしい論点を突かれるとは想定外だった!

辺境の田舎者に、こんな知恵が有るとは思えん。

荀攸の入れ知恵か?・・・いや、綺麗事を抜かすお坊っちゃんに、こんな悪辣な攻め口が思い付くとは、到底思えぬが・・・しかし、董卓に与する面子を考えても、他に思い当たらぬ・・・油断した!)

下げている頭の中で、嵌められた事に対する屈辱と、董卓を甘く見ていた事に歯軋りする。


残念ながら、自身も真正のお坊っちゃんである楊彪も、楊彪視点から観れば楽才で成り上がった()()で、たまたまラッキーが重なった羽虫程度の雑魚認識である、某少年の策謀とは偏見と思い込みで気付かず、明後日(あさって)の方向に警戒心を抱くのであった。


そうして糜芳の策謀の罠に掛かった楊彪は、慌てて脳内で一族一門をピックアップし、誰を残して誰を()()()()()()取捨選択をしようとした矢先、


「おお、左様か、身の潔白を証明致すか。

ならば老婆心ながら、儂も()()()致そうぞ

おい、荀攸、あれを楊彪に渡してやれ。」

「はっ、コレをどうぞ楊彪殿。」

顎をしゃっくって荀攸を促し、促された荀攸は袖口から竹簡を取り出して、楊彪に渡す。


「はっ、何でしょう?・・・こ、コレは!?」

竹簡に記された内容を観て、再び硬直する楊彪。


コンボ「赤紙の計」が連動。


竹簡に記されている内容は、百名近い楊家の15~60歳近くの、老若男の名前が記されており、要するに()()()()の命令書=赤紙に等しいモノだった。


「お待ちを相国閣下!?

この名簿の中には年端もいかぬ年少の者や、マトモに軍務をこなせるとは思えぬ、年老いた者まで含まれております!

幾ら何でも無茶苦茶過ぎですコレは!?」

今までの茫洋(ぼうよう)とした表情から一転、必死な表情で言い募るが、


「は?貴公は何を言っているのだ?

15歳ぐらいで戦場に出るのは、珍しくなかろう?

それに年老いたと言うが、儂も貴公も60の声が聞こえる歳で有るが、現役で働いているだろうに。」

軍務経験豊富で古強者な魔王に、バッサリと意見を一刀両断される。


「それに経験の浅い若造だけでは、戦場で生き延びるのは難しかろうが?

老練な指揮官(年配)や経験豊富な校尉(中年)が居れば、生存率も上がるというもの。

世に知られた、「()()()()(4代に渡って軍最高司令官を務めた家柄)」と謳われる貴家(きか)なら、軍務に長けた人材に事欠く事は、先ず有るまい?」

ついでに皮肉混じりの追撃を入れて。


「うぐ・・・くくっ。」

軍務に関しては、一日の長のある董卓には(かな)わず、主張を封じられてしまう。


(うぬ、おのれ~!我が楊家も、袁家同様にするつもりか董卓めは!?

くそっ!抜かったわ!こんな事なら、儂も洛陽を脱出しておけば良かったものを!)

外部で袁紹達が騒いでいるのに託けて、双方の仲介役・交渉人として権力を高め様とした、自身の目論見が裏目に出た事を悔やむ。


「な、為ればせめて軍監(軍使)を、コチラ(名家閥)から付けさせてくだされ!」

董卓(糜芳)の意図が読めた楊彪は、何とかして一族被害を最小限に抑えようと、咄嗟の機転を利かす。


自分の息の掛かった者を軍監として派遣し、あーだこーだと口や横槍を挟んだりして、どうにか一族一門の生存率を上げる様、持って行こうとするも、


「うん?軍監とな。

構わんが・・・但し!戦場に赴く以上、軍務遂行に支障を来した場合は、容赦なく処断するし、()()()に当たっても自己責任だぞ?

それで良ければ好きにせよ。

ああ後、儂や軍部に事前通達無しで、勝手に軍監を派遣した場合、「敵」と見做して討ち取るからな。」

きっちりと楊彪の企みを潰していく。


コンボその2「誤射(ごしゃ)ったらメンゴねの計」が連動。


楊家衰退化の策謀会議に於いて、荀攸が「糜芳殿の策謀で、強制的に楊家一族一門を徴兵して、実質上の族滅を目論んでも、軍監を派遣されて上手くいかないのでは?」という、極々当然の対策をされるのを予測し、懸念を呈したのだが糜芳は、


「・・・戦場って流れ矢が怖いですよね~。」

フッと顔を逸らし、明かり取りで開いている窓の景色を眺めつつ、ポツリと何故だか不思議と良く通る独り言を、アンニュイな表情で呟いた。


「ちょい!皇甫嵩殿、朱儁殿こっちゃへ!」

手招きして軍人コンビを呼び寄せると、


(なぁ、アレって、軍監を()()って事だよな!?)

(確かに儂もそう感じたが・・・)

(う~ん・・・穿ち過ぎかも知れんぞ?)

ヒソヒソとトリオが確認しあう。


「え~と糜芳殿?それはどういう・・・?」

代表して董卓がおずおずと意図を尋ねると、


「いや~どんな弓の名手でも、手許が狂って誤射をする事って、普通にありますよね~?」

うっかりミスを示唆する糜芳。


(((や、やっぱり、殺れって言っとるぅ~!?)))

糜芳の意図を理解した軍人トリオだった。


「そもそも軍監とは、軍内部で軍律違反が無いかを見張り、軍の規律維持や問題発生を防ぐ為のモノであり、横槍を入れたり賄賂を要求したりといった、不正をする為に有るわけでは有りません。」

「そりゃそうやが・・・。」

糜芳の正論に頷くも、イマイチ納得していない表情を浮かべる董卓。


「しかも今回は、最上位の相国である閣下が、直々に総指揮を執っている軍です。

下位の者に閣下が(おもね)る必要性は無いと言うか、立場上してはいけませんし、唯一閣下に掣肘出来るのは陛下のみです。

そして陛下が、閣下の指揮を執る軍に軍監を送る事は、先ず()()()()()()()。」

はっきりと言い切る。


何進に従っていた連中が董卓に引き継がれた後、献帝の周りに纏わり付いていた名家閥関係者を、董卓は何進亡き後にキッチリと排除して、ガッチリと親董卓で固めており、名家閥が入り込む余地を、徹底的に潰していたのである。


「あ、言われてみれば、儂って相国だったわ。

下っ端に(おもね)る必要性が無いわ、そういや。」

ポンと手を打って、自分の立場を自覚する董卓。


「そう言う事です閣下。

それに今回は今までの民衆反乱と違い、敵に多数の名家閥や元宦官閥の連中が混じっています。

前線の将兵からすれば、敵の細作(さいさく)(スパイ・工作員)なのか、味方の軍監なのか区別が付きますまい。

なので()()()()間違えるのは、()()()()()()()でしょうねぇ。」

清々しい笑みで、さりげな~く教唆する外道。


「うん?という事はだ・・・ノコノコと派遣されて、戦場にやってきたアホを・・・?」

「遠慮会釈ナシに、腐れ軍監を殺れる?」

朱儁・皇甫嵩の軍人コンビが、顎に手を当てつつ糜芳の話に理解を示すと、


「「ヨッシャあ!!董卓殿!

是非とも儂を前線に、派遣して頂きたく!」」

異口同音に歓喜の雄叫びを上げ、董卓に詰め寄る。


「おい・・・お主ら・「待たれい御両人!」

董卓が呆れ顔で苦言を呈そうとすると、盧植が割り込んできて遮り、  


「某が行くに決まっておろうが!?」

己を指差して、自分が行くと言い張った。


「いやいや何言ってんの!?ちょっと盧植殿!?」

止める所か参加して、「自分が殺りに行く」と譲らず、三つ巴になった状況に頭を抱える。


「馬鹿を申されるな盧植殿!貴殿が被害に遭ったのは、たった一回だけでござろうが!?

しかもやられたのは、宦官閥の方でござろうに。」

「左様左様!朱儁殿や儂なんぞ数え切れん程の、両派閥の腐れ軍監の被害に遭っているのですぞ!?」

軍人コンビがブーブー文句を垂れるも、


「そのたった一回の被害で、罪人として都まで囚人車に積まれ、虜囚(りょしゅう)の辱めを受けた上に入獄されとるのだがな某は!?

貴殿らとは一回の被害の重みが、違い過ぎると思わんかいくら何でも!?

それに腐れ者に、名家も宦官もないわい!!」

猛然と言い返す盧植。


良い歳扱いたオッサン達(還暦近し)が三つ巴戦を展開し、言い争いを始めたので有った。


「・・・いや~、大人気っすね~軍監は?」

「まぁなぁ・・・涼州軍閥だけやのうて、中央軍部連中でさえ、「腐れ軍監を殺りたい奴は手を挙げろ」って言うたら、ほぼ全員が目の色変えて挙手するぐらいは、嫌悪と憎悪の対象やけんなぁ・・・。」

言い争いから、肉体言語に移行しつつある3人を尻目に、深~い理解を示す魔王。


因みにオッサン達の争いの結果は、糜芳の「そんな死地に、他家(楊家)の為に逝くアホ(名家)はいない」という、極々当たり前の理論に因り、「チッ!」と舌打ちして終わったので有った。


それはさておき、


「そんな・・・!」

董卓の容赦のない軍監誅殺宣言に絶句し、慌てて周囲を見渡すも、楊彪の視線を合わさない様に、露骨に視線を逸らす同志達が居るだけで有った。


「さて、それでは袁家の謀反に関しては、連座制に依り有罪とし、当主・楊彪の無期限の蟄居と、楊家全員の官職剥奪とする。

又、袁紹への内通疑惑と、袁術の洛内からの脱走の手引きの嫌疑については、楊家の一族一門が兵役に就き、反乱軍と対峙して剣を振るって戦う事で、疑惑と嫌疑の払拭(ふっしょく)を果たしたとする。

・・・それで良いな?楊彪?お主が良ければこれにて結審とするが?」

ニタリと悪党面を歪ませて問い掛ける。


「・・・判り申した。

急ぎ地元・弘農(こうのう)郡に戻り、記載されている一族一門を、私が責任を以て引き連れて参ります故、暫しの猶予を頂きたい。」

約束された返答を述べつつ、牛歩戦術で時間を稼ぐのと、裏工作を咄嗟の思い付きで目論むも、


「いや、それには及ばん。

洛陽と弘農は指呼(しこ)の間だから、手空きの軍部に()()()()()()向かわせる。

幸いにして貴家程の大家だと、連枝(れんし)(一族一門)でも見知っている者がゴロゴロおる故に、()()()()()()を連れてくる事も、そうそう無かろうからな。」

しっかりと糜芳にレクチャーされた魔王に依って、()()()()()()()()()()を封じられるので有った。


「安心致せい、貴公の一族一門はちゃんと軍部と儂が、責任を以て戦地(と言う名のあの世)に送ってやるからのう?ハ~ハッハッハッ!」

怖いくらい似合う悪どい表情で、さも嬉しそうに呵々大笑する。


こうしてこれ以上ない、非情な悪役に徹した董卓は、実質上とある悪辣少年の策謀に因り、自滅状態に持って行かれ、直系以外ほぼ族滅が確定し、袁家と同じ末路を辿った政敵を見送った後、


「さて、そういう訳で此処にいる名家の諸卿も、()()()嫌疑や疑惑が掛かる事の無いよう、身を引き締めてくれよ?

そう何度も此度の楊家の様な、面倒くさい()()をしたくないのでな?」

周囲を笑顔で牽制し、見せしめを兼ねて生かしている形の楊彪が、半ば茫然自失状態で去った後を顎でしゃくり、ブッスリと太い釘を刺す。


「「「「「ヒィッ!?ハ、ハハァ!!」」」」」

残った三公と九卿は恐怖で震え上がり、拱手処か拝礼して董卓に、恭順の意を示すので有った。


(よ~解るぞ、オノレらの心情は痛い程。

儂も気持ちはツイ(同じ)やけんのう・・・)

自分もとある悪辣少年の策謀に恐れ(おのの)き、思わず拝礼しそうになった事を思い出すので有った。


(閣下、まだ終わりではありませんぞ?

念には念を入れて徹底しろと、糜芳殿が言っていたでしょう?)

(あ~そうだったわ~・・・何でこんな悪辣な策謀を、ポンポン思い付くんやろうなぁ・・・)

荀攸に袖を引っ張られて囁かれ、しぶしぶ策謀の続きをし始める。


「ふ~む、しかしコレにて袁家に楊家と、()()()()()()いた大家が消失した訳か・・・。

儂は地方の出でよく解らんのだが、今後は名家閥の()が窓口になるのだ?」

()()()()()()()()()と言う、名家閥連中にとっては「甘い果実」を投下する魔王。


「「「「「!?」」」」」

董卓の言葉を聞いた途端、ギラリと目を光らせて、周囲の同僚に視線を巡らせ、牽制し始める。


コンボその3「餓鬼道(がきどう)の計」が連動。


地獄に居ると云われ、常に飢えて亡者を喰らうとされる餓鬼を名家閥連中に見立てて、オニギリならぬ「盟主」という果実を、権力欲に飢えた餓鬼達に放り投げ、醜い食い争い(派閥内抗争)を誘発。


名家閥を仕切っていた、楊彪を中央から失脚させ、残った連中を潰し合いに持って行き、内部分裂を引き起こす策謀である。


こうして糜芳の策謀で、実質的に名家閥の蠢動を封じ込め、政敵の楊家没落に成功した董卓で有った。


        洛陽相国府執務室


「うぁ~~・・・大儀(たいぎ)ぃ(疲れた)、ようやっと大儀ぃ(面倒くさい)事が済んだわ~~。」

豪奢な椅子に持たれ掛かり、心底疲れた表情を浮かべて、独り言を呟く董卓。


「心中お察しします閣下。

まぁ、後は軍部の者達が、楊家連中を袁紹と袁術のいる戦地へ、自動的に移送してくれますので、これ以上の面倒事は有りますまい。」

「ほんならええんやがのう・・・。」

糜芳の策謀を聞いて手筈を整えた当人から、ミッションコンプリートを告げられるも、懐疑的な返答を返した。


「ホンマに遺漏はないか?」

「大丈夫です、抜かりは有りません。

移送部隊は名家閥、特に楊家に対して恨み辛みが有る者を、軍部から厳選しております。

連座に因って罪人となり()()()に等しい楊家連中を、ちょっとした反抗や態度で、遠慮なく斬り殺せる好機ですので、躊躇(ためら)いも躊躇(ちゅうちょ)も有りますまい。」

淡々と説明し、


「そして移送した楊家連中を、袁紹・袁術の軍に突撃させて戦死させれば、糜芳殿の策謀通り、袁家は楊家の()()になります。

これにて閣下の内憂も、かなり軽減されるかと。」

淡々と締めくくった。


「ああ、糜芳殿が言うとった、「相疑相殺(そうぎそうさつ)の計」か・・・ようもまぁ悪辣な策謀を、練れるモンやわ恐ろしい。」

ブルリと身震いする董卓。


「確かに恐るべき策謀ですが、間違いなく閣下には利益のある事です。

内憂の楊家と外患の袁家を噛み合わせ、両家に埋めようの無い深い溝を掘り、互いが互いに相手を疑い、殺し合うしかなくなるのですから。」

董卓とは逆に、感心した表情を浮かべる荀攸。


「楊家連中は最早「死」あるのみです。

袁紹・袁術と戦って、両家の因縁を作って死ぬか、敵前逃亡をして、自分の一族毎巻き込んで死ぬか、

袁紹達に投降しても、袁紹達に()()()()()()()()()されて、殺されるしか有りません。」

「結局どがいに転んでも、身内が死ぬ羽目になる元々の原因が袁紹達に有る以上、楊家連中は袁家を怨むやろうけんなぁ。」

ふぅと嘆息して頭を振る。


「ええ、それ故に遺された子弟は袁家を深く恨み、先ず袁紹達と組する事は無くなります。

例え当主の楊彪が和解を画策しても、子弟は到底容認しませんし、納得しません。

寧ろ報仇雪恨(ほうきゅうせっこん)を楊彪は掲げないと、遺族の身内から激しい糾弾を受け、当主の座すら失いかねません。」

「・・・おおう、曲がりなりにも名家閥の盟主を務めた奴が、其処まで追い詰められるんかいな。」

えげつねーなぁとボヤく。


「かたや袁家は袁家で、図らずも楊家連中を討つ事で恨みを買ってしまうので、負い目や猜疑心に苛まれて楊家を疑い、楊彪からの情報提供が有っても、まず信用しなくなるでしょうね。」

「そりゃそうだ。

縁戚からでなく、()()()()()()()からの情報提供なんぞ、信用出来る筈無いわいな。」

コクコクと頷く。


「そして投降しても、「楊家は袁家を深く恨んでおり、袁家達を暗殺しようとしている」だの、「楊家存続の為に、袁紹達を暗殺する事を引き受けた」だのと、それらしい流言飛語をバラまけば、()()()()()()()()()()袁紹達には、投降して来た楊家連中を誅殺する事に、躊躇いは有りますまい。」

糜芳からのレクチャーを語る荀攸。


「ついでに逃亡や投降の場合、楊彪に連座を被せられるけん、一石二鳥にもなるしのう・・・ホンマに糜芳殿が味方で良かったわ、ホンマに・・・。」

しみじみと味方で良かったと呟く。


「ええ、本当に良かったですね閣下。

後は劉岱を皇族から除名すると同時に、兗州刺史も解任し、揚州刺史の実弟・劉繇に目代を付ければ、糜芳殿の策謀は完成します。」

軽く流して続きを述べて、


「今回の策謀に因り、反乱軍に積極性が失われる以上、戦線が停滞して食糧を浪費し、時期的に補給も(まま)ならず、軍の維持もマトモに出来なくなり、自然崩壊するのも時間の問題かと。」

糜芳の策謀に因る、今後の展開を予測する。


「確か麦の収穫期は、6月ぐらいだったか?

行き当たりばったりで結託しとる反乱軍に、マトモな備蓄が有るとは思えんし、後3ヶ月も保つとは、とても思えんしのう・・・。」

確かにと頷いた後、


「しかしのう・・・劉岱も皇族の中では名の知れた、「二龍」の二つ名を持つ奴やけん、兗州の奴らに袁紹の如く、担がれはせんやろか?」

一抹の懸念材料を述べる董卓。


「心配有りませんよ閣下。

()()()()()()と徳行を称えられて()()からこそ、劉岱は兗州刺史に成れたのです。

そんな恩義や徳義を忘れて庶民に落とされる処か、正式に朝敵認定された挙げ句、劉一族の当主である主上に刃を向けるといった、大悪行を為した劉岱を担ぐ愚者は居ません。

はっきり言って、その辺に転がっている属尽を担いだ方が、遥かにマシでしょうな。」

一刀両断で容赦なく断じる。


「お、おう・・・。」

「まぁ、「二龍」処か己が立場や後先を(わきま)えない、目暗の「土竜(モグラ)」なのを自ら証明した以上、愚か者に相応しい末路を遂げる事は確実でしょう。」

「・・・お主もお主で、中々に辛辣やな・・・。」

冷や汗を一筋流して返答する。


「我らが漢王朝に仇なす者に、遠慮する必要性が有りませんので。

さて、戦略的には劉岱が失脚する事で、兗州に滞留している鮑信・曹操の両軍は、大口の()()()()()を失って弱体化するのが確実な為、閣下が積極的な攻勢に出れば、撃ち破るのも難しくなくなります。」

董卓のボヤきを流して、今後の戦略を述べる荀攸。


「ふむふむ、なる程。

兗州の統轄者である劉岱の、後方支援を受けれなくなるんやけん、当然の話やな。  

劉岱失脚にはそういった利点も有ったか・・・。」

一体、一石何鳥を狙っとるんや?と舌を巻く。


因みに糜芳の練った策謀は、曹操が自分にちょっかいを掛けて来ない様、劉岱失脚から物心両面に掛けて曹操を追い詰め、ちょっかいを掛ける余裕を無くしていく事を画策したモノであり、楊彪・袁紹周りの策謀は、自分の真の狙いに()()()()()()()()()()董卓に、お礼ついでで練った策謀で有った。


それはさておき、


「ええ、正しく恐るべき策謀ですな。

鮑信・曹操軍を破って兗州から黄河を渡れば、冀州経由で河内に居る、反乱軍の首魁・袁紹の後背を突いて、挟み撃ちが出来ますし、兗州から豫州経由で荊州に入れば南陽に居る、袁術・孫堅の側面を突く事も可能です。」

戦術的な選択肢が増える事を示唆する。


「そしてそれとは真逆に、敢えて攻勢を控え専守防衛に徹する事で、反乱軍の物資不足を徹底的に突き、自壊を誘発するのも一手で有ります。」

「ふむ、積極的に打って出るか、消極的に守勢に努めるかか・・・荀攸、それぞれの利点・欠点をお主はどう観るぞ?」

顎に手を当て、思案顔で荀攸に尋ねた。


「は、私見では積極策の最大の利点は、短期間で決着が着くことでしょう。

反乱軍と閣下麾下の軍の戦力差を(かんが)みれば、早期に鎮静化が可能かと。

但し欠点としては鎮静化するまでの間、拠点の確保や維持、場合によっては城郭に籠もった反乱軍を討伐する為に、軍部を攻城戦及び拠点防衛に参加させ、各地域に展開する必要性が有り、諸侯の危機感を刺激する危険性を伴います。」

積極策の良し悪しを述べて、


「次に消極策の利点は、自壊を促す事で反乱軍の討伐が容易になる事と、無用な犠牲を抑える事が出来る事でしょうか。

反乱軍の兵士は元々漢王朝の兵士であり、民でも有ります。

大半の者は袁紹達の手前勝手な話や噂に、踊らされて参加しているに過ぎませんし、兵士を討てば討つ程、漢王朝の国力衰退に繋がるので、避けたい所で有りますね。

そして欠点としては、反乱に参加した主だった者達が、逃亡や潜伏する機会を与えてしまい、場合によっては第2・第3の張純を、アチコチに生み出しかねない危険性が有る事です。」

消極策の良し悪しも述べた。


「ふぅ~むぅ・・・積極策の場合は短期決着にはなるが、軍部を展開する事で「親征」の下準備や監視役と誤認され、目の当たりの脅威として皇族・王族や、地域有力者の危機感を煽る事になるか。

う~ん・・・ホンマに一長一短やなぁ。」

唸り声を上げ、


「かといって消極策の場合は、袁紹達に逃げられる可能性大で、長期化する可能性が高いと来た。

しかしながら荀攸の言う通り、犠牲を抑えて国力衰退を防ぐには、確かに有効なんだよな~・・・。

う~ん、う~ん・・・どがいしよ?」

頭を抱えて悩み続ける魔王。


結局董卓は自身で決断が出来ず、盧植や朱儁に諮ってみるも、軍人コンビは積極策を推し、文官コンビは消極策を推して、意見が真っ二つに割れただけで、振り出しに戻っただけで有った。

(荀攸は立場上中立)


「・・・う~ん・・・あっ、コレも糜芳殿に諮問すればええやんけ!

荀攸!急いで糜芳殿に書状を送ってくれや!」

「承知しました。

()()()()()()で、糜芳殿の許に送っておきます。」

意味深な発言をする荀攸。


「・・・何でや?我が(荀攸)の名前で、コソッと聞いてくれたらええやろがい?」

「いえいえとんでもない。

明らかに中央の揉め事に関わりたくないと、プンプン匂わしていた糜芳殿の、()()に触れかねない事柄に手を出す事など、私には到底出来かねます。」

手を突き出して、どうぞどうぞご勝手にとジェスチャーをした後、スススと数歩引いて突き放した。


「いやちょい待てや!?

お前知恵者なんじゃけん、知恵足らずの儂と違て、糜芳殿の対策が出来るやろ!?」

「無茶を言わんでください!?

舌先三寸で一切の労力も使わず、老獪で強大だった楊彪をいとも簡単に、鼻歌混じりに滅亡寸前にまで追い込む、奇想天外でえげつない糜芳殿の策謀を、防げる知恵なんぞ有りませんよ!!

ど~してもと言うなれば、蘇秦(そしん)張儀(ちょうぎ)級の説客(ぜいかく)を連れて来てください!」

楊彪の二の舞はイヤだと、猛然と言い返す。


「そんな伝説級の説客の宛てが有るんなら、ハナっから其奴に頼んどるわい!

あっ、そや、岳父(義父)であるさ・「断固としてお断りしまするぞ相国閣下!もしも強要されるのなら、閣下に強要されたと明記致します故に!」

董卓の発言を遮って、拒否を言い放つ蔡邕。


「そがいにいけずな事言わんと、頼むわ蔡邕殿。」

「・・・婿殿と万一揉めた場合、ウチの娘達が怒ってヘソを曲げるのが確実です。

ヘソを曲げた厄介な娘達を、閣下が宥めすかしてくれるのなら、一考致しますが?」

愛しい娘達(特に末娘)から、非難囂々に曝される自分を想像したのか、泣き笑いに近い表情で、悲しい交換条件を提示する父親。


「・・・うん、スマン。

貴殿もそう言やあ、やんちゃい(活発・面倒な=お転婆)娘さんを、抱えとったんやったっけ・・・。」

牛輔の嫁さんになった娘と、同類の娘達を持つ蔡邕に、無理強いをしたことを謝罪する魔王。


「・・・ヤッパリ自分で決めるわ。」

「それが宜しいかと閣下。

特に糜芳殿の様な、極悪策謀家のクセして野心がカケラも無い、清廉潔白(?)な人物は掴み所が無い為、何処に逆鱗が有るのか判らず、下手に利用しようとするのは危険ですぞ。」

真顔で諭す。


「まぁなぁ・・・あんだけ真っ黒けっけな策謀を練る頭を持っとって、州牧としてやっとる事は真っ白つう、詐欺みたいな存在やからなぁ糜芳殿は。」

「ええ、本当に・・・。

本来ならあそこまで真っ黒な策謀家は、大体は野心も比例していて高く、危険視されて処断されるのが常ですが、糜芳殿は見返りを自身から求めず又、協力した恩恵が大きいという、味方には豊穣神の如く、敵には鬼神の如くな御仁ですからね~。」

董卓の言葉に、しみじみと同調する。


「敵に回して楊家の様な「ご褒美」は、間違っても貰いたく無いわいな~・・・。」

「ええ、数十・数百万銭もの大金を、無罪を勝ち取る為にバラまいて、家の財政を傾かせた挙げ句、百人近い一族一門を犠牲にして得るものは・・・。」

「「たった一通の書状だけ、だからなぁ。」」

董卓・荀攸の台詞がシンクロする。


蕭何の場合は、劉邦から罪に問われる前の段階で、財貨供出や一族一門を兵役に就かせており、あくまでも滅私奉公の精神で、義勇兵等を送り出したのであり、それ故に後世に於いて評価されていた。


しかし楊彪の場合は、初期段階で既に連座制で罪人となっているのを、これ以上加罪にならない様、無実を証明する為に、財貨供出や一族一門を兵役に就かせているに過ぎず、当然評価などはされる筈もなく、只単にマイナスがゼロに戻っただけで有る。


それに依って囚人兵扱いの、一族一門が全滅しても一銭の恩賞も、万一活躍しても一片の名誉も得られず、唯一楊彪の許に渡されるのは、「貴家の無実・無罪は、一族一門が全滅した事で証明されました。おめでとさん、良かったね♡」的な、たった一通の書状のみで有った。


「糜芳殿の蕭何との比較論を聴いた時、目の前が真っ暗になったわ儂。」

「ええ、私も清々しい笑顔で語る糜芳殿を観て、この人だけは、敵に回したらダメだと悟りました。」

悪辣少年の恐怖に震える2人。


「糜芳殿は「楊彪が泣いて喜ぶ」って言ってたけどが、絶対に卒倒するやろな楊彪は・・・。」

「いやいやそれ以上に、憤死(ショック死)しても不思議ではないのでは?」

えげつないと異口同音に呟いたので有った。


そうして、とある悪辣少年と敵対しない事を、再確認・再認識を2人でしていると、


ダダダッ!!


「オヤッさ・・・じゃなくて殿!

南部戦線を仕切っているカシラ・・・じゃなくて牛輔将軍から、急報が届きやした!」 

董卓直属の部下である、伝令兵が駆け込んで来た。


「どがいしたんじゃ!?」

「はっ、カ、牛輔将軍の連絡に依ると、袁術軍を撃破した後に、孫堅軍とバッタリと遭遇して交戦。

交戦の初っ端に無数の矢を射られて、先鋒を務めていた華雄(かゆう)(あに)さんが戦死!

又、華雄兄さんの戦死を聴いた胡軫(こしん)の兄貴が憤慨して暴走、孫堅軍に突っ込んで巧みに誘引されて撃破され、生死不明になっているとの事です!」

「なぁ~にぃ!?華雄が戦死しただぁ!?」

想像以上の凶報に、耳を疑う董卓。


「あれほど孫堅軍には用心して慎重に戦えと、何度も注意しとったろうが華雄めが!

それ以上に胡軫のボケがぁ!!

個人的な感情に囚われて、部下を死地に追いやる様な青臭い事を、指揮官がしてどがいすんじゃい!」

ダンッ!と机を叩いて憤慨する。


「ほんで後の始末はどがいした!?

現況はどうなっとんじゃ!?」

「はっ、華雄・胡軫軍の始末は、共に出陣していた呂布将軍が、殿(しんがり)を務めてくれた事で損耗は極めて軽微であり、残った副官に依って残兵は纏められ、無事撤兵に成功しているとの事!

又、軍の再編成も終了し、牛輔将軍が華雄・胡軫の残兵を編入し統括。

袁術・孫堅軍と正面から対峙し、呂布将軍と徐栄将軍率いる軍を遊軍化、後方・側面を突く機動戦に切り替えているとの事です!」

すらすらと淀みなく答える伝令兵。


「・・・ほうか、解った。

とりあえず孫堅軍を舐めて掛かるなと、もう一度念押しをしておけ!

機動戦はええが、戦線に穴を開けて洛陽に来る事が無いようにともな。」

「ははっ!しかと伝えまする!」

駆け去っていく伝令兵を見送る。


「・・・ハァ。一難去って又一難・・・か。」

ガックリと椅子に座り込む董卓。


こうして内部の事なんぞどこ吹く風と言わんばかりに、今度は外部から問題が発生するのであった。


                    続く

とりあえず2週間ベースで、投稿出来ればとは思うのですが、これから年末から年度末にかけて、繁忙期に入る業界に務めておりますので、多少ずれ込む事が少し・多少・多々有るかも知れませんが、寛容な御心でお許しください。


楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しい作品をありがとうございます。 今回は真っ黒クロスケな策謀が炸裂して香ばしかったです。 いやー、この作品の歴史でも無事三国志出来るのか? それとも出来ないのか楽しみになってきてます…
[良い点] 今回も面白かったです。 お仕事大変でだとおもいますが、次も期待させていただきます。
[一言] 楊彪みたいな御公家様タイプは根刮ぎしないと亡命政権作って対抗してくるだろうから先手打つ必要があったのですね
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