その7
読んでくださっている方々へ
え~と、漸く書き上がりましたので、投稿させていただきます。
ほんと~に漸く涼しくなった、今日この頃であります。
体調も戻りつつ有るので、少しでも速いペースで投稿出来る様、鋭意努力する所存であります。
洛陽宮廷内大広間
3月、名目上は反董卓連合軍と銘打った、実質的には反乱軍であり、その反乱軍の首魁・袁紹の一族一門の殆どが、袁紹達の起こした「国家反逆罪」の連座により、老若男女の区別なく処刑され、袁紹・袁術の直系家族(しれっと脱出済み)以外は、悉く族滅の憂き目にあった。
これに因り「四世三公」と謳われた袁家は、「反逆者」の汚名を残すのみとなり、中央では枝葉(一族一門)が族滅したために政治基盤が消失。
同時に地元の汝南郡に有る本貫地も、当然没収されてこれも消失する事となり、後先を考えなかった袁紹の痴将っぷりのせいで、事実上袁家は滅亡状態になったのである。
こうして一時代を築いた大名家・袁家が、アッサリと没落した事は、婚姻関係を結んでいた縁戚も決して他人事ではなく、その筆頭格である楊家の楊彪も、例外ではなかった。
「・・・さて、それでは朝賊・袁紹の連座に関して、縁戚で有る司徒・楊彪の最終審議を始める。」
「「「「「ははっ!」」」」」
朝廷内最高位・相国(宰相)の董卓の宣言に、涼州に戻った糜芳と、当事者の楊彪以外の三公・九卿と軍部の重鎮が、拱手して恭しく頭を下げた。
董卓が行っている審議(裁判)は、連座制により有罪が確実である楊彪と楊家の、袁紹内通・袁術脱出の手引きの有無と、量刑を決める審議であり、どうにか重罪にしたい董卓と、少しでも軽くしたい楊彪との、せめぎ合いの場でもあった。
当然の事ながら、軍事には千軍万馬の古強者である董卓も、中央名家に比べて政治や弁舌にはからっきしであり、特に一日の長のある楊彪相手には分が悪く、のらりくらりと追及を躱されて、中々歯痒い思いをしていたのであった・・・今までは。
幾度も繰り返された質疑応答を、「存じ上げません」・「記憶に有りません」・「袁紹が勝手にした事で私とは無関係」の、何処ぞの国の政治家の如く、追及を今までと同じく躱し、董卓の追及のタネが尽きたのか沈黙したのを観て、楊彪が逃げ切ったのを確信した瞬間、糜芳の置き土産の策謀が始動する。
「・・・ふう、これ以上は不毛かのう・・・。
では最後に尋ねるが楊彪よ。」
「は、何でしょうか?」
「お主は漢の初代宰相である、蕭何公を文官としてどう評するかね?」
ちょっとした世間話をするかの様に、何気な~く楊彪に問いかける董卓。
(??・・・急になんの話だ?・・・解らん。
答えた内容で儂と蕭何を比較して、嫌味でも言って挑発する意図でも有るのか?
見当が付かぬ・・・が、しかしまぁ無難に、一般的な評価を答えれば問題ないであろう)
董卓の質問の意図が掴めず、内心首を傾げつつも、
「は?蕭何公を・・・ですか?
無論、漢高祖様の覇業を、陰日向に支えた傑物であり、後方の安全確保と、前線の物資補給を欠かさなかった、漢王朝最高の政治家であり、我々文官にとって手本とするべき御仁にございましょう。」
ペラペラと、一般的な人物評を述べた。
((そうだよな~・・・普通にそう答えるよなぁ。
フツーはそれが罠とは思わんわな))
模範的な回答を述べた楊彪に、一味同心の董卓と脇に控えている荀攸が、奇しくも内心で同じ感想を抱き、糜芳の策謀に老獪な楊彪が引っかかった事で、糜芳の悪辣さと読みに舌を巻く。
「ふむ、手本とするべき御仁とな?」
「はい、漢王朝の一臣として当然の事であり、私如き不明の者では、足元にも及びませぬ。」
さり気なく遜って自分を卑下する事で、わざと軽んじられる様にし、董卓の警戒心を緩めようと自然に装う楊彪。
「ふむふむ、成る程。
貴公が手本とする蕭何公は、奸臣の讒言を受けた漢高祖様により、度々疑心を持たれて難儀した事は知っているか?」
「ええ、それは勿論。」
「では漢高祖様の疑心に対し、どの様に対処して回避したのかも、当然知って居るよな?」
悪辣少年の手解きを受けた董卓は、徐々に質問を掘り下げていく。
「はい、蕭何公は己の潔白を表す為に、自身の一族一門の悉くを前線に送っ!?」
「た」と言う寸前、自分自身が蕭何と同じ境遇処か、より悪い立場に有る事にハッと気付き絶句、冷や汗が背中を流れて硬直する。
糜芳の策謀その1、「自言自縛の計」が発動。
董卓の誘導尋問(糜芳監修)に引っかかって、自身や一族一門のこれからの顛末を、他ならぬ自身で言って決めてしまったのである。
((えげつない、本当にえげつない・・・。
策謀を聞いて解説を受けた自分も、楊彪と同じ表情をしてたんだろうなぁ))
絶句する楊彪を観て、再び感想がシンクロし、糜芳のレクチャーを回想する2人。
~~~回想~~~
「さて、楊家ならびに楊彪を、衰退化させる策謀と言うのは、実に簡単でして・・・。
ちょっと荀攸殿、楊彪役をお願いします。
私は閣下の役を代行しますので。」
「はぁ・・・。」
「簡単て・・・儂は兎も角、蔡邕殿でもスルスル躱されとんのに・・・。」
あっけらかんと事も無げに言う糜芳に、何とも言えない表情を見せる董卓。
「え~と、質疑応答は長くなるので端折って、サッサと結論から行きますよ。
荀攸殿、蕭何公をどう思うか教えてください。」
「へ?蕭何公って、漢高祖様の宰相を務めた、あの蕭何の事ですよね?」
いきなりの思わぬ質問に、面を喰らう。
「ええ、そうです。」
「??それは当然・・・。」
概ね楊彪と同じ感想を述べる。
「成る程、大体の方は蕭何公を手本とか、文官の鑑と評する人物ですよね?」
「それは無論、漢に禄を食む文官は、彼に敬意を払わぬ者は居ないでしょう。」
至極当然と頷く。
「その蕭何公の人物評こそが、今回の策謀の要なんですよ。」
「はい?蕭何公の人物評が、どうしたら楊家衰退化に結び付くんですか?」
チンプンカンプンで理解不能と首を傾げて、頭上に幾つもクエスチョンマークを浮かべる筍2号。
「彼は後方支援に徹し、漢高祖様の領地である関中の統治を委任され、関中の民衆の信任は、漢高祖様を凌ぐ程でした。」
「ええ、故に蕭何を妬んだ者に讒訴されたりして、幾度も漢高祖様に疑心を抱かれて、投獄された事も有る程です。」
糜芳の説明を継いで、荀攸が続ける。
「ええ、そうですね。
その漢高祖様の疑心を晴らす為に、蕭何公は様々な事をしましたよね?一族一門の老若男の悉くを兵役に出したりとか・・・。」
「確かにその様な事もした様ですね。
結果的に蕭何公の一族一門は、兵役で殆ど戦死してしまったので、ほぼ直系しか残らずに先細りしてしまい、断絶と再興を繰り返していますけど。」
腕を組んで虚空を見つめながら、蕭何の家系の顛末の記憶を辿る。
「そう、そこですよ荀攸殿。
蕭何公を楊彪に置き換え、漢高祖様を董卓閣下に置き換えて考えてください。」
「はぁ・・・う~ん、う~ん・・・解りません。」
唸って思考するもピンと来ず、手を上げてお手上げと降参する荀攸。
「無実の冤罪だった蕭何公でさえ、一族一門を兵役に差し出して疑いを躱しました。
では蕭何公を手本とする楊彪の場合、連座で有罪が確定している上に、反乱軍に内通の疑いを躱すには、さあてどうするべきですかね~?」
ニチャアと、どす黒い笑みを浮かべる外道。
「あっ!!そう言う事ですか!?
蕭何公の逸話に託けて、楊彪の手足となって支えている、一族一門を強制的に兵役に就かせ、実質的に楊家内部をスカスカにし、領地経営も禄に出来なくして、衰退化に持って行く策謀ですね!?」
ポンッと手を打ち、コクコクと頷いて理解を示す。
何処の国の人物もそうだが近代以前は、基本的には自分の一族一門を家臣団の中核に据えて、領地経営や軍団形成を行い、それから規模を拡大していくのが定石であり、セオリーだった。
曹操には曹一族と夏侯一族が、孫堅には孫一族と呉一族が、それぞれ初期家臣団のメンバーとして名を連ね、両者の飛躍に多大な貢献した事は、歴史が証明している事である。
(逆に擬似的な兄弟分で家臣団を形成し、一族一門の血縁関係で、家臣団を形成出来なかった劉備は、かなり珍しい例外的な存在)
そして一族一門には、名を残さずに縁の下の力持ちポジションで、政治・軍事にと当主を支えた者達も、大勢いるのである。
その縁の下の力持ち連中を糜芳は、楊家から根刮ぎぶっこ抜く策謀を、立案したのであった。
「ええ、その通りです荀攸殿。
閣下にとって目障りな、名家閥の首領・楊彪の中核基盤をぶっ壊して袁家同様にし、中央から退場して貰いましょう。」
事も無げに言い放つ悪魔。
((((((鬼謀と言うか鬼だ・・・鬼が居る))))))
悪辣外道な策謀に、文字通り心情が一致して戦慄した、董卓達一同であった。
それはさておき、
「貴公が手本とする蕭何公でさえ、無実の冤罪を晴らす為に、それだけの事をしたのだ。
無論、貴公も蕭何公を見習って、行動で身の潔白を証明致すよのう?」
ヤーさん面でニタリと笑い掛ける。
「は・・・いえ、いや、その・・・。」
「他ならぬ自身で言ったのだ。
当然有言実行するであろうな?楊彪よ。
よもや拒否する事はあるまいな?もしするのであれば、内通や手引きを認めるに等しいと思えよ?」
戸惑いを見せる楊彪に畳み掛けて、言い逃れの逃げ道を塞ぐ。
「はは・・・承知しました。
我が楊家に対する容疑は、一族一門が命を懸ける事で、無実と潔白を証明致しましょうぞ。」
拱手して躊躇いがちに頭を下げる。
(クッ、なんて事だ!
まさかこんな迂遠で、嫌らしい論点を突かれるとは想定外だった!
辺境の田舎者に、こんな知恵が有るとは思えん。
荀攸の入れ知恵か?・・・いや、綺麗事を抜かすお坊っちゃんに、こんな悪辣な攻め口が思い付くとは、到底思えぬが・・・しかし、董卓に与する面子を考えても、他に思い当たらぬ・・・油断した!)
下げている頭の中で、嵌められた事に対する屈辱と、董卓を甘く見ていた事に歯軋りする。
残念ながら、自身も真正のお坊っちゃんである楊彪も、楊彪視点から観れば楽才で成り上がっただけで、たまたまラッキーが重なった羽虫程度の雑魚認識である、某少年の策謀とは偏見と思い込みで気付かず、明後日の方向に警戒心を抱くのであった。
そうして糜芳の策謀の罠に掛かった楊彪は、慌てて脳内で一族一門をピックアップし、誰を残して誰を切り捨てるか取捨選択をしようとした矢先、
「おお、左様か、身の潔白を証明致すか。
ならば老婆心ながら、儂も手助け致そうぞ
おい、荀攸、あれを楊彪に渡してやれ。」
「はっ、コレをどうぞ楊彪殿。」
顎をしゃっくって荀攸を促し、促された荀攸は袖口から竹簡を取り出して、楊彪に渡す。
「はっ、何でしょう?・・・こ、コレは!?」
竹簡に記された内容を観て、再び硬直する楊彪。
コンボ「赤紙の計」が連動。
竹簡に記されている内容は、百名近い楊家の15~60歳近くの、老若男の名前が記されており、要するに強制徴集の命令書=赤紙に等しいモノだった。
「お待ちを相国閣下!?
この名簿の中には年端もいかぬ年少の者や、マトモに軍務をこなせるとは思えぬ、年老いた者まで含まれております!
幾ら何でも無茶苦茶過ぎですコレは!?」
今までの茫洋とした表情から一転、必死な表情で言い募るが、
「は?貴公は何を言っているのだ?
15歳ぐらいで戦場に出るのは、珍しくなかろう?
それに年老いたと言うが、儂も貴公も60の声が聞こえる歳で有るが、現役で働いているだろうに。」
軍務経験豊富で古強者な魔王に、バッサリと意見を一刀両断される。
「それに経験の浅い若造だけでは、戦場で生き延びるのは難しかろうが?
老練な指揮官(年配)や経験豊富な校尉(中年)が居れば、生存率も上がるというもの。
世に知られた、「四世太尉(4代に渡って軍最高司令官を務めた家柄)」と謳われる貴家なら、軍務に長けた人材に事欠く事は、先ず有るまい?」
ついでに皮肉混じりの追撃を入れて。
「うぐ・・・くくっ。」
軍務に関しては、一日の長のある董卓には敵わず、主張を封じられてしまう。
(うぬ、おのれ~!我が楊家も、袁家同様にするつもりか董卓めは!?
くそっ!抜かったわ!こんな事なら、儂も洛陽を脱出しておけば良かったものを!)
外部で袁紹達が騒いでいるのに託けて、双方の仲介役・交渉人として権力を高め様とした、自身の目論見が裏目に出た事を悔やむ。
「な、為ればせめて軍監(軍使)を、コチラ(名家閥)から付けさせてくだされ!」
董卓(糜芳)の意図が読めた楊彪は、何とかして一族被害を最小限に抑えようと、咄嗟の機転を利かす。
自分の息の掛かった者を軍監として派遣し、あーだこーだと口や横槍を挟んだりして、どうにか一族一門の生存率を上げる様、持って行こうとするも、
「うん?軍監とな。
構わんが・・・但し!戦場に赴く以上、軍務遂行に支障を来した場合は、容赦なく処断するし、流れ矢に当たっても自己責任だぞ?
それで良ければ好きにせよ。
ああ後、儂や軍部に事前通達無しで、勝手に軍監を派遣した場合、「敵」と見做して討ち取るからな。」
きっちりと楊彪の企みを潰していく。
コンボその2「誤射ったらメンゴねの計」が連動。
楊家衰退化の策謀会議に於いて、荀攸が「糜芳殿の策謀で、強制的に楊家一族一門を徴兵して、実質上の族滅を目論んでも、軍監を派遣されて上手くいかないのでは?」という、極々当然の対策をされるのを予測し、懸念を呈したのだが糜芳は、
「・・・戦場って流れ矢が怖いですよね~。」
フッと顔を逸らし、明かり取りで開いている窓の景色を眺めつつ、ポツリと何故だか不思議と良く通る独り言を、アンニュイな表情で呟いた。
「ちょい!皇甫嵩殿、朱儁殿こっちゃへ!」
手招きして軍人コンビを呼び寄せると、
(なぁ、アレって、軍監を殺れって事だよな!?)
(確かに儂もそう感じたが・・・)
(う~ん・・・穿ち過ぎかも知れんぞ?)
ヒソヒソとトリオが確認しあう。
「え~と糜芳殿?それはどういう・・・?」
代表して董卓がおずおずと意図を尋ねると、
「いや~どんな弓の名手でも、手許が狂って誤射をする事って、普通にありますよね~?」
うっかりミスを示唆する糜芳。
(((や、やっぱり、殺れって言っとるぅ~!?)))
糜芳の意図を理解した軍人トリオだった。
「そもそも軍監とは、軍内部で軍律違反が無いかを見張り、軍の規律維持や問題発生を防ぐ為のモノであり、横槍を入れたり賄賂を要求したりといった、不正をする為に有るわけでは有りません。」
「そりゃそうやが・・・。」
糜芳の正論に頷くも、イマイチ納得していない表情を浮かべる董卓。
「しかも今回は、最上位の相国である閣下が、直々に総指揮を執っている軍です。
下位の者に閣下が阿る必要性は無いと言うか、立場上してはいけませんし、唯一閣下に掣肘出来るのは陛下のみです。
そして陛下が、閣下の指揮を執る軍に軍監を送る事は、先ずあり得ませんし。」
はっきりと言い切る。
何進に従っていた連中が董卓に引き継がれた後、献帝の周りに纏わり付いていた名家閥関係者を、董卓は何進亡き後にキッチリと排除して、ガッチリと親董卓で固めており、名家閥が入り込む余地を、徹底的に潰していたのである。
「あ、言われてみれば、儂って相国だったわ。
下っ端に阿る必要性が無いわ、そういや。」
ポンと手を打って、自分の立場を自覚する董卓。
「そう言う事です閣下。
それに今回は今までの民衆反乱と違い、敵に多数の名家閥や元宦官閥の連中が混じっています。
前線の将兵からすれば、敵の細作(スパイ・工作員)なのか、味方の軍監なのか区別が付きますまい。
なのでうっかり間違えるのは、自然の成り行きでしょうねぇ。」
清々しい笑みで、さりげな~く教唆する外道。
「うん?という事はだ・・・ノコノコと派遣されて、戦場にやってきたアホを・・・?」
「遠慮会釈ナシに、腐れ軍監を殺れる?」
朱儁・皇甫嵩の軍人コンビが、顎に手を当てつつ糜芳の話に理解を示すと、
「「ヨッシャあ!!董卓殿!
是非とも儂を前線に、派遣して頂きたく!」」
異口同音に歓喜の雄叫びを上げ、董卓に詰め寄る。
「おい・・・お主ら・「待たれい御両人!」
董卓が呆れ顔で苦言を呈そうとすると、盧植が割り込んできて遮り、
「某が行くに決まっておろうが!?」
己を指差して、自分が行くと言い張った。
「いやいや何言ってんの!?ちょっと盧植殿!?」
止める所か参加して、「自分が殺りに行く」と譲らず、三つ巴になった状況に頭を抱える。
「馬鹿を申されるな盧植殿!貴殿が被害に遭ったのは、たった一回だけでござろうが!?
しかもやられたのは、宦官閥の方でござろうに。」
「左様左様!朱儁殿や儂なんぞ数え切れん程の、両派閥の腐れ軍監の被害に遭っているのですぞ!?」
軍人コンビがブーブー文句を垂れるも、
「そのたった一回の被害で、罪人として都まで囚人車に積まれ、虜囚の辱めを受けた上に入獄されとるのだがな某は!?
貴殿らとは一回の被害の重みが、違い過ぎると思わんかいくら何でも!?
それに腐れ者に、名家も宦官もないわい!!」
猛然と言い返す盧植。
良い歳扱いたオッサン達(還暦近し)が三つ巴戦を展開し、言い争いを始めたので有った。
「・・・いや~、大人気っすね~軍監は?」
「まぁなぁ・・・涼州軍閥だけやのうて、中央軍部連中でさえ、「腐れ軍監を殺りたい奴は手を挙げろ」って言うたら、ほぼ全員が目の色変えて挙手するぐらいは、嫌悪と憎悪の対象やけんなぁ・・・。」
言い争いから、肉体言語に移行しつつある3人を尻目に、深~い理解を示す魔王。
因みにオッサン達の争いの結果は、糜芳の「そんな死地に、他家の為に逝くアホはいない」という、極々当たり前の理論に因り、「チッ!」と舌打ちして終わったので有った。
それはさておき、
「そんな・・・!」
董卓の容赦のない軍監誅殺宣言に絶句し、慌てて周囲を見渡すも、楊彪の視線を合わさない様に、露骨に視線を逸らす同志達が居るだけで有った。
「さて、それでは袁家の謀反に関しては、連座制に依り有罪とし、当主・楊彪の無期限の蟄居と、楊家全員の官職剥奪とする。
又、袁紹への内通疑惑と、袁術の洛内からの脱走の手引きの嫌疑については、楊家の一族一門が兵役に就き、反乱軍と対峙して剣を振るって戦う事で、疑惑と嫌疑の払拭を果たしたとする。
・・・それで良いな?楊彪?お主が良ければこれにて結審とするが?」
ニタリと悪党面を歪ませて問い掛ける。
「・・・判り申した。
急ぎ地元・弘農郡に戻り、記載されている一族一門を、私が責任を以て引き連れて参ります故、暫しの猶予を頂きたい。」
約束された返答を述べつつ、牛歩戦術で時間を稼ぐのと、裏工作を咄嗟の思い付きで目論むも、
「いや、それには及ばん。
洛陽と弘農は指呼の間だから、手空きの軍部に護衛を兼ねて向かわせる。
幸いにして貴家程の大家だと、連枝(一族一門)でも見知っている者がゴロゴロおる故に、見誤って別人を連れてくる事も、そうそう無かろうからな。」
しっかりと糜芳にレクチャーされた魔王に依って、脱走阻止と替え玉工作を封じられるので有った。
「安心致せい、貴公の一族一門はちゃんと軍部と儂が、責任を以て戦地(と言う名のあの世)に送ってやるからのう?ハ~ハッハッハッ!」
怖いくらい似合う悪どい表情で、さも嬉しそうに呵々大笑する。
こうしてこれ以上ない、非情な悪役に徹した董卓は、実質上とある悪辣少年の策謀に因り、自滅状態に持って行かれ、直系以外ほぼ族滅が確定し、袁家と同じ末路を辿った政敵を見送った後、
「さて、そういう訳で此処にいる名家の諸卿も、在らぬ嫌疑や疑惑が掛かる事の無いよう、身を引き締めてくれよ?
そう何度も此度の楊家の様な、面倒くさい始末をしたくないのでな?」
周囲を笑顔で牽制し、見せしめを兼ねて生かしている形の楊彪が、半ば茫然自失状態で去った後を顎でしゃくり、ブッスリと太い釘を刺す。
「「「「「ヒィッ!?ハ、ハハァ!!」」」」」
残った三公と九卿は恐怖で震え上がり、拱手処か拝礼して董卓に、恭順の意を示すので有った。
(よ~解るぞ、オノレらの心情は痛い程。
儂も気持ちはツイ(同じ)やけんのう・・・)
自分もとある悪辣少年の策謀に恐れ戦き、思わず拝礼しそうになった事を思い出すので有った。
(閣下、まだ終わりではありませんぞ?
念には念を入れて徹底しろと、糜芳殿が言っていたでしょう?)
(あ~そうだったわ~・・・何でこんな悪辣な策謀を、ポンポン思い付くんやろうなぁ・・・)
荀攸に袖を引っ張られて囁かれ、しぶしぶ策謀の続きをし始める。
「ふ~む、しかしコレにて袁家に楊家と、名家を束ねていた大家が消失した訳か・・・。
儂は地方の出でよく解らんのだが、今後は名家閥の誰が窓口になるのだ?」
次代の名家閥の盟主と言う、名家閥連中にとっては「甘い果実」を投下する魔王。
「「「「「!?」」」」」
董卓の言葉を聞いた途端、ギラリと目を光らせて、周囲の同僚に視線を巡らせ、牽制し始める。
コンボその3「餓鬼道の計」が連動。
地獄に居ると云われ、常に飢えて亡者を喰らうとされる餓鬼を名家閥連中に見立てて、オニギリならぬ「盟主」という果実を、権力欲に飢えた餓鬼達に放り投げ、醜い食い争い(派閥内抗争)を誘発。
名家閥を仕切っていた、楊彪を中央から失脚させ、残った連中を潰し合いに持って行き、内部分裂を引き起こす策謀である。
こうして糜芳の策謀で、実質的に名家閥の蠢動を封じ込め、政敵の楊家没落に成功した董卓で有った。
洛陽相国府執務室
「うぁ~~・・・大儀ぃ(疲れた)、ようやっと大儀ぃ(面倒くさい)事が済んだわ~~。」
豪奢な椅子に持たれ掛かり、心底疲れた表情を浮かべて、独り言を呟く董卓。
「心中お察しします閣下。
まぁ、後は軍部の者達が、楊家連中を袁紹と袁術のいる戦地へ、自動的に移送してくれますので、これ以上の面倒事は有りますまい。」
「ほんならええんやがのう・・・。」
糜芳の策謀を聞いて手筈を整えた当人から、ミッションコンプリートを告げられるも、懐疑的な返答を返した。
「ホンマに遺漏はないか?」
「大丈夫です、抜かりは有りません。
移送部隊は名家閥、特に楊家に対して恨み辛みが有る者を、軍部から厳選しております。
連座に因って罪人となり囚人兵に等しい楊家連中を、ちょっとした反抗や態度で、遠慮なく斬り殺せる好機ですので、躊躇いも躊躇も有りますまい。」
淡々と説明し、
「そして移送した楊家連中を、袁紹・袁術の軍に突撃させて戦死させれば、糜芳殿の策謀通り、袁家は楊家の仇敵になります。
これにて閣下の内憂も、かなり軽減されるかと。」
淡々と締めくくった。
「ああ、糜芳殿が言うとった、「相疑相殺の計」か・・・ようもまぁ悪辣な策謀を、練れるモンやわ恐ろしい。」
ブルリと身震いする董卓。
「確かに恐るべき策謀ですが、間違いなく閣下には利益のある事です。
内憂の楊家と外患の袁家を噛み合わせ、両家に埋めようの無い深い溝を掘り、互いが互いに相手を疑い、殺し合うしかなくなるのですから。」
董卓とは逆に、感心した表情を浮かべる荀攸。
「楊家連中は最早「死」あるのみです。
袁紹・袁術と戦って、両家の因縁を作って死ぬか、敵前逃亡をして、自分の一族毎巻き込んで死ぬか、
袁紹達に投降しても、袁紹達に細作と思われて誅殺されて、殺されるしか有りません。」
「結局どがいに転んでも、身内が死ぬ羽目になる元々の原因が袁紹達に有る以上、楊家連中は袁家を怨むやろうけんなぁ。」
ふぅと嘆息して頭を振る。
「ええ、それ故に遺された子弟は袁家を深く恨み、先ず袁紹達と組する事は無くなります。
例え当主の楊彪が和解を画策しても、子弟は到底容認しませんし、納得しません。
寧ろ報仇雪恨を楊彪は掲げないと、遺族の身内から激しい糾弾を受け、当主の座すら失いかねません。」
「・・・おおう、曲がりなりにも名家閥の盟主を務めた奴が、其処まで追い詰められるんかいな。」
えげつねーなぁとボヤく。
「かたや袁家は袁家で、図らずも楊家連中を討つ事で恨みを買ってしまうので、負い目や猜疑心に苛まれて楊家を疑い、楊彪からの情報提供が有っても、まず信用しなくなるでしょうね。」
「そりゃそうだ。
縁戚からでなく、仇敵になった者からの情報提供なんぞ、信用出来る筈無いわいな。」
コクコクと頷く。
「そして投降しても、「楊家は袁家を深く恨んでおり、袁家達を暗殺しようとしている」だの、「楊家存続の為に、袁紹達を暗殺する事を引き受けた」だのと、それらしい流言飛語をバラまけば、身に覚えが有り過ぎる袁紹達には、投降して来た楊家連中を誅殺する事に、躊躇いは有りますまい。」
糜芳からのレクチャーを語る荀攸。
「ついでに逃亡や投降の場合、楊彪に連座を被せられるけん、一石二鳥にもなるしのう・・・ホンマに糜芳殿が味方で良かったわ、ホンマに・・・。」
しみじみと味方で良かったと呟く。
「ええ、本当に良かったですね閣下。
後は劉岱を皇族から除名すると同時に、兗州刺史も解任し、揚州刺史の実弟・劉繇に目代を付ければ、糜芳殿の策謀は完成します。」
軽く流して続きを述べて、
「今回の策謀に因り、反乱軍に積極性が失われる以上、戦線が停滞して食糧を浪費し、時期的に補給も侭ならず、軍の維持もマトモに出来なくなり、自然崩壊するのも時間の問題かと。」
糜芳の策謀に因る、今後の展開を予測する。
「確か麦の収穫期は、6月ぐらいだったか?
行き当たりばったりで結託しとる反乱軍に、マトモな備蓄が有るとは思えんし、後3ヶ月も保つとは、とても思えんしのう・・・。」
確かにと頷いた後、
「しかしのう・・・劉岱も皇族の中では名の知れた、「二龍」の二つ名を持つ奴やけん、兗州の奴らに袁紹の如く、担がれはせんやろか?」
一抹の懸念材料を述べる董卓。
「心配有りませんよ閣下。
皇族の肩書きと徳行を称えられていたからこそ、劉岱は兗州刺史に成れたのです。
そんな恩義や徳義を忘れて庶民に落とされる処か、正式に朝敵認定された挙げ句、劉一族の当主である主上に刃を向けるといった、大悪行を為した劉岱を担ぐ愚者は居ません。
はっきり言って、その辺に転がっている属尽を担いだ方が、遥かにマシでしょうな。」
一刀両断で容赦なく断じる。
「お、おう・・・。」
「まぁ、「二龍」処か己が立場や後先を弁えない、目暗の「土竜」なのを自ら証明した以上、愚か者に相応しい末路を遂げる事は確実でしょう。」
「・・・お主もお主で、中々に辛辣やな・・・。」
冷や汗を一筋流して返答する。
「我らが漢王朝に仇なす者に、遠慮する必要性が有りませんので。
さて、戦略的には劉岱が失脚する事で、兗州に滞留している鮑信・曹操の両軍は、大口の物資供給源を失って弱体化するのが確実な為、閣下が積極的な攻勢に出れば、撃ち破るのも難しくなくなります。」
董卓のボヤきを流して、今後の戦略を述べる荀攸。
「ふむふむ、なる程。
兗州の統轄者である劉岱の、後方支援を受けれなくなるんやけん、当然の話やな。
劉岱失脚にはそういった利点も有ったか・・・。」
一体、一石何鳥を狙っとるんや?と舌を巻く。
因みに糜芳の練った策謀は、曹操が自分にちょっかいを掛けて来ない様、劉岱失脚から物心両面に掛けて曹操を追い詰め、ちょっかいを掛ける余裕を無くしていく事を画策したモノであり、楊彪・袁紹周りの策謀は、自分の真の狙いに喜んで協力してくれる董卓に、お礼ついでで練った策謀で有った。
それはさておき、
「ええ、正しく恐るべき策謀ですな。
鮑信・曹操軍を破って兗州から黄河を渡れば、冀州経由で河内に居る、反乱軍の首魁・袁紹の後背を突いて、挟み撃ちが出来ますし、兗州から豫州経由で荊州に入れば南陽に居る、袁術・孫堅の側面を突く事も可能です。」
戦術的な選択肢が増える事を示唆する。
「そしてそれとは真逆に、敢えて攻勢を控え専守防衛に徹する事で、反乱軍の物資不足を徹底的に突き、自壊を誘発するのも一手で有ります。」
「ふむ、積極的に打って出るか、消極的に守勢に努めるかか・・・荀攸、それぞれの利点・欠点をお主はどう観るぞ?」
顎に手を当て、思案顔で荀攸に尋ねた。
「は、私見では積極策の最大の利点は、短期間で決着が着くことでしょう。
反乱軍と閣下麾下の軍の戦力差を鑑みれば、早期に鎮静化が可能かと。
但し欠点としては鎮静化するまでの間、拠点の確保や維持、場合によっては城郭に籠もった反乱軍を討伐する為に、軍部を攻城戦及び拠点防衛に参加させ、各地域に展開する必要性が有り、諸侯の危機感を刺激する危険性を伴います。」
積極策の良し悪しを述べて、
「次に消極策の利点は、自壊を促す事で反乱軍の討伐が容易になる事と、無用な犠牲を抑える事が出来る事でしょうか。
反乱軍の兵士は元々漢王朝の兵士であり、民でも有ります。
大半の者は袁紹達の手前勝手な話や噂に、踊らされて参加しているに過ぎませんし、兵士を討てば討つ程、漢王朝の国力衰退に繋がるので、避けたい所で有りますね。
そして欠点としては、反乱に参加した主だった者達が、逃亡や潜伏する機会を与えてしまい、場合によっては第2・第3の張純を、アチコチに生み出しかねない危険性が有る事です。」
消極策の良し悪しも述べた。
「ふぅ~むぅ・・・積極策の場合は短期決着にはなるが、軍部を展開する事で「親征」の下準備や監視役と誤認され、目の当たりの脅威として皇族・王族や、地域有力者の危機感を煽る事になるか。
う~ん・・・ホンマに一長一短やなぁ。」
唸り声を上げ、
「かといって消極策の場合は、袁紹達に逃げられる可能性大で、長期化する可能性が高いと来た。
しかしながら荀攸の言う通り、犠牲を抑えて国力衰退を防ぐには、確かに有効なんだよな~・・・。
う~ん、う~ん・・・どがいしよ?」
頭を抱えて悩み続ける魔王。
結局董卓は自身で決断が出来ず、盧植や朱儁に諮ってみるも、軍人コンビは積極策を推し、文官コンビは消極策を推して、意見が真っ二つに割れただけで、振り出しに戻っただけで有った。
(荀攸は立場上中立)
「・・・う~ん・・・あっ、コレも糜芳殿に諮問すればええやんけ!
荀攸!急いで糜芳殿に書状を送ってくれや!」
「承知しました。
閣下のお名前で、糜芳殿の許に送っておきます。」
意味深な発言をする荀攸。
「・・・何でや?我が(荀攸)の名前で、コソッと聞いてくれたらええやろがい?」
「いえいえとんでもない。
明らかに中央の揉め事に関わりたくないと、プンプン匂わしていた糜芳殿の、逆鱗に触れかねない事柄に手を出す事など、私には到底出来かねます。」
手を突き出して、どうぞどうぞご勝手にとジェスチャーをした後、スススと数歩引いて突き放した。
「いやちょい待てや!?
お前知恵者なんじゃけん、知恵足らずの儂と違て、糜芳殿の対策が出来るやろ!?」
「無茶を言わんでください!?
舌先三寸で一切の労力も使わず、老獪で強大だった楊彪をいとも簡単に、鼻歌混じりに滅亡寸前にまで追い込む、奇想天外でえげつない糜芳殿の策謀を、防げる知恵なんぞ有りませんよ!!
ど~してもと言うなれば、蘇秦・張儀級の説客を連れて来てください!」
楊彪の二の舞はイヤだと、猛然と言い返す。
「そんな伝説級の説客の宛てが有るんなら、ハナっから其奴に頼んどるわい!
あっ、そや、岳父(義父)であるさ・「断固としてお断りしまするぞ相国閣下!もしも強要されるのなら、閣下に強要されたと明記致します故に!」
董卓の発言を遮って、拒否を言い放つ蔡邕。
「そがいにいけずな事言わんと、頼むわ蔡邕殿。」
「・・・婿殿と万一揉めた場合、ウチの娘達が怒ってヘソを曲げるのが確実です。
ヘソを曲げた厄介な娘達を、閣下が宥めすかしてくれるのなら、一考致しますが?」
愛しい娘達(特に末娘)から、非難囂々に曝される自分を想像したのか、泣き笑いに近い表情で、悲しい交換条件を提示する父親。
「・・・うん、スマン。
貴殿もそう言やあ、やんちゃい(活発・面倒な=お転婆)娘さんを、抱えとったんやったっけ・・・。」
牛輔の嫁さんになった娘と、同類の娘達を持つ蔡邕に、無理強いをしたことを謝罪する魔王。
「・・・ヤッパリ自分で決めるわ。」
「それが宜しいかと閣下。
特に糜芳殿の様な、極悪策謀家のクセして野心がカケラも無い、清廉潔白(?)な人物は掴み所が無い為、何処に逆鱗が有るのか判らず、下手に利用しようとするのは危険ですぞ。」
真顔で諭す。
「まぁなぁ・・・あんだけ真っ黒けっけな策謀を練る頭を持っとって、州牧としてやっとる事は真っ白つう、詐欺みたいな存在やからなぁ糜芳殿は。」
「ええ、本当に・・・。
本来ならあそこまで真っ黒な策謀家は、大体は野心も比例していて高く、危険視されて処断されるのが常ですが、糜芳殿は見返りを自身から求めず又、協力した恩恵が大きいという、味方には豊穣神の如く、敵には鬼神の如くな御仁ですからね~。」
董卓の言葉に、しみじみと同調する。
「敵に回して楊家の様な「ご褒美」は、間違っても貰いたく無いわいな~・・・。」
「ええ、数十・数百万銭もの大金を、無罪を勝ち取る為にバラまいて、家の財政を傾かせた挙げ句、百人近い一族一門を犠牲にして得るものは・・・。」
「「たった一通の書状だけ、だからなぁ。」」
董卓・荀攸の台詞がシンクロする。
蕭何の場合は、劉邦から罪に問われる前の段階で、財貨供出や一族一門を兵役に就かせており、あくまでも滅私奉公の精神で、義勇兵等を送り出したのであり、それ故に後世に於いて評価されていた。
しかし楊彪の場合は、初期段階で既に連座制で罪人となっているのを、これ以上加罪にならない様、無実を証明する為に、財貨供出や一族一門を兵役に就かせているに過ぎず、当然評価などはされる筈もなく、只単にマイナスがゼロに戻っただけで有る。
それに依って囚人兵扱いの、一族一門が全滅しても一銭の恩賞も、万一活躍しても一片の名誉も得られず、唯一楊彪の許に渡されるのは、「貴家の無実・無罪は、一族一門が全滅した事で証明されました。おめでとさん、良かったね♡」的な、たった一通の書状のみで有った。
「糜芳殿の蕭何との比較論を聴いた時、目の前が真っ暗になったわ儂。」
「ええ、私も清々しい笑顔で語る糜芳殿を観て、この人だけは、敵に回したらダメだと悟りました。」
悪辣少年の恐怖に震える2人。
「糜芳殿は「楊彪が泣いて喜ぶ」って言ってたけどが、絶対に卒倒するやろな楊彪は・・・。」
「いやいやそれ以上に、憤死(ショック死)しても不思議ではないのでは?」
えげつないと異口同音に呟いたので有った。
そうして、とある悪辣少年と敵対しない事を、再確認・再認識を2人でしていると、
ダダダッ!!
「オヤッさ・・・じゃなくて殿!
南部戦線を仕切っているカシラ・・・じゃなくて牛輔将軍から、急報が届きやした!」
董卓直属の部下である、伝令兵が駆け込んで来た。
「どがいしたんじゃ!?」
「はっ、カ、牛輔将軍の連絡に依ると、袁術軍を撃破した後に、孫堅軍とバッタリと遭遇して交戦。
交戦の初っ端に無数の矢を射られて、先鋒を務めていた華雄の兄さんが戦死!
又、華雄兄さんの戦死を聴いた胡軫の兄貴が憤慨して暴走、孫堅軍に突っ込んで巧みに誘引されて撃破され、生死不明になっているとの事です!」
「なぁ~にぃ!?華雄が戦死しただぁ!?」
想像以上の凶報に、耳を疑う董卓。
「あれほど孫堅軍には用心して慎重に戦えと、何度も注意しとったろうが華雄めが!
それ以上に胡軫のボケがぁ!!
個人的な感情に囚われて、部下を死地に追いやる様な青臭い事を、指揮官がしてどがいすんじゃい!」
ダンッ!と机を叩いて憤慨する。
「ほんで後の始末はどがいした!?
現況はどうなっとんじゃ!?」
「はっ、華雄・胡軫軍の始末は、共に出陣していた呂布将軍が、殿を務めてくれた事で損耗は極めて軽微であり、残った副官に依って残兵は纏められ、無事撤兵に成功しているとの事!
又、軍の再編成も終了し、牛輔将軍が華雄・胡軫の残兵を編入し統括。
袁術・孫堅軍と正面から対峙し、呂布将軍と徐栄将軍率いる軍を遊軍化、後方・側面を突く機動戦に切り替えているとの事です!」
すらすらと淀みなく答える伝令兵。
「・・・ほうか、解った。
とりあえず孫堅軍を舐めて掛かるなと、もう一度念押しをしておけ!
機動戦はええが、戦線に穴を開けて洛陽に来る事が無いようにともな。」
「ははっ!しかと伝えまする!」
駆け去っていく伝令兵を見送る。
「・・・ハァ。一難去って又一難・・・か。」
ガックリと椅子に座り込む董卓。
こうして内部の事なんぞどこ吹く風と言わんばかりに、今度は外部から問題が発生するのであった。
続く
とりあえず2週間ベースで、投稿出来ればとは思うのですが、これから年末から年度末にかけて、繁忙期に入る業界に務めておりますので、多少ずれ込む事が少し・多少・多々有るかも知れませんが、寛容な御心でお許しください。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願い致します。




