その5
読んでくださっている皆様へ。
更新が遅れて大変申し訳ありません!
前回で話した様に夏バテが酷く、仕事が終わった後に執筆する気力が無く、少しずつチビチビと書き、漸く書き上げた次第でして。
暫くはこの調子になると思いますが、どうかご理解ご協力をお願いします。
洛陽楊家邸東屋
「殿のご指示通り、謹慎中の袁紹を逃がしました。
同時に、何時でも連絡が取れる様、配下の者達を侍らせております・・・。」
「そうか・・・ご苦労。」
使用人風の服装に、地味な顔付きの男からの報告を受けた、楊家当主・楊彪は淡々と答えて、袖口から袋と木簡を取り出し、そっと机に置く。
「ははっ、有り難く頂戴しまする。」
恭しい所作で、必要経費分が引き出せる旨が書かれた木簡と、報酬の砂金が入った袋を押し戴き、袖口に入れる。
地味な顔付きの男は、楊家が密かに抱えている、諜報活動を担う手の者で、楊家程の大家になれば、表立っての行動が取り難くなり、こういった裏組織的な部門を持つ事が多かった。
「それで袁紹は今何処にいるのだ?」
「は、青州は渤海郡に滞留して居ります。」
「青州?・・・ああ、確かアレの実姉が、冀州の高家に嫁いでいるのだったか?」
顎に手を添えて、うろ覚えの記憶を辿る。
「はい、その通りにございます。
姉の嫁ぎ先である高家を頼って、匿って貰う心積もりの様ですな。
只、どうやら董卓に察知された様で、黄河流域に手配書が素早く廻り、船を抑えられて身動きが取れぬ状態でありますが・・・。」
袁紹の現状を端的に伝える。
「ふむそうか・・・とりあえずは保留だな。
引き続き連絡役と監視役を頼む。
状況次第では我が家の為に、董卓に袁紹を売り飛ばす可能性も有る故にな。」
「はは、承知致しました。」
楊彪の指示に平伏する。
「して殿、袁紹は逃がしましたが、同じく謹慎中の袁術殿は放って置かれるので?」
「ああ、アレも現状では保留だな。
袁紹の場合は私が直接関わっているから、あやつの口から漏れてもマズいので、ワザと逃がして遠方に飛ばしただけだ。
ついでに次期当主を逃がした事で、袁家が董卓の標的になれば、一石二鳥だからな。」
「なる程、袁家を董卓にぶつける事で、名家閥の被害を多少は抑えれますか・・・。」
楊彪の考えを読む。
「そう言う事だ。
まぁ袁家と言うか袁逢と袁隗も、このまま本家筋の袁紹が罪に問われれば、連座で首が飛ぶのが確実になるので、必死になって庇うだろうから、結果的には袁術も助かるだろう。」
「確かに左様ですな。
四世三公の威勢は洛陽では兎も角、地方ではまだまだ根強いですから、董卓側も下手に処せば実情を知らぬ田舎者に、反発される危険性が有りますな。」
袁家の司隷地区以外の名声を察し、頷く地味男。
「流石に董卓もそれは理解しているだろうから、袁逢達の助命嘆願は、無下には出来まい。
それともし袁術を逃がせば、確実に我が家を頼って転がり込んで来るからな。
我が家に、とばっちりが飛んで来ては堪らん。」
嫌悪感を滲ませて呟く。
「まさしく洒落になりませぬなそれは。
では袁術殿の方は、連絡が付く様にするだけで留めておきまする。」
「ああ、それぐらいにしておいてくれ。」
コクリと頷くと、腕を組んで沈思する。
主がいつもの黙考に入ったのを観た地味男は、音を立てずにソッと東屋を後にする。
(さてさて・・・コレで袁家、と言うよりは袁紹がどう動くかだな。
袁逢・袁隗達に依る助命嘆願の、成果次第の所は有るが、あの自尊心に手足が生えている袁紹が、大人しく董卓に屈服するとは思えん)
袁紹の人柄を思い浮かべ、
(どちらにせよ今回に件で袁家は董卓から、要監視状態に晒されるで有ろうから、董卓の此方への注目が薄れるだろう。
その間に董卓の弱点や弱味を、嗅ぎ付ければ上々吉なのだが・・・焦る事はない。
四世に渡り袁家の下風に甘んじているのだ。
今更董卓の下風に甘んじるなど、容易い事よ)
楊家の歴史を思い浮かべる。
(とりあえず現状は成り行き次第。
ならば下手に動かず、「見」の一手のみか・・・。
状況に応じて動く様、心掛けるべしだな)
そう結論付けて、東屋を後にするのであった。
洛陽司空府改め相国府廊下
「はぁ・・・憂鬱だ・・・。」
天と地を交互に眺めつつ、トボトボと歩く曹操。
彼は今、太尉・司空を経て人臣の最高位・相国(丞相とも。日本に於ける太政大臣)となった、董卓からの呼び出しを受けて、相国府に赴いている。
11月、10月に謹慎中の袁紹が勝手に脱走して、それを知った董卓が激怒し大騒ぎとなったが、叔父の袁隗・袁逢だけでなく軍部からも伍瓊と何顒が、助命嘆願を董卓にして来たのである。
袁兄弟は兎も角、軍部の関係者を流石に董卓も無下に出来ず、司隷校尉(司隷方面の刺史クラス)からの降格として、潜伏先の渤海郡太守に任じる事で処分とし、辛うじて首の皮一枚繋げた袁家であった。
但し、袁紹を助命する代わりに、袁家は莫大な財貨を董卓やその周囲にバラまいた上、袁家の本貫地・豫州汝南郡に住む、袁逢を始め一族一門の殆どが、一種の人質・担保として洛陽に在京を命じられ、袁紹の郡太守としての行動1つで、現状は何時でも首が飛ぶ状況に陥っていた。
(それはあっちの都合だから、俺の知ったこっちゃないし、叔父共に因る袁紹の教育不足が原因だから、自業自得だろう・・・けどなぁ・・・)
ギリリと拳を握り締め、
(なんで洛陽を脱出する時、俺の名前を使って城門を突破してんだよ?あの野郎!?)
怒りで喉元まででかかった声を飲み込む。
洛陽の城門守備隊長を勤めていた関係で、各門の門兵や幹部に顔の広い曹操の名を騙り、文書を偽造までして袁紹は抜け出していた。
コ○ンにとって青天の霹靂、とんだとばっちりも良いとこであり、それを知った直後、死刑執行人に等しい董卓に呼び出され、生きた心地がしない心境なのであった。
一般的に曹操は王允と謀って、董卓暗殺を目論んだとされるが、清流派(名士・名家)を自負する王允と、モロに濁流派(宦官とその一族)に属する曹操は、云わば水と油の関係であり、特に宦官嫌いで有名な王允が、曹操と接点を持つとは考え難い。
又、史実でも曹操のバックボーンである、宦官閥自体が、トップの張讓や趙忠達十常侍の粛清に伴って消滅。
その為、万一暗殺を計画・実行して成功しても、曹操を支持する勢力基盤が無いので、只の鉄砲玉にしか成り得ず、それこそ名家閥連中にしか利益がない事を、機を見るに敏な曹操が、自身に何の利益も生み出さ無い、董卓暗殺に関与する筈もなかった。
では何故曹操は董卓の下から、逃げ出したかと言うと、
(多分、ここ最近不遇を託っている著名人を、半ば強引に配下にしているから、俺もその一環で呼び出しを受けたんだろうが・・・。
正直、自分を買ってくれる董卓に悪い気はせんが、かといって受けたら受けたで、ウチの曹家や惇達の夏侯家の立場が、益々地元で悪くなるし・・・)
相反する状況に頭を抱える。
自分の置かれている立場と、地元の実家の立場の板挟みに遭い、一族一門の安寧を取ったからである。
曹操の地元である沛国は、筍一家が居る穎川郡や袁家が居る汝南郡と同じ豫州に有り、豫州は云わば司隷と並ぶ、名家閥のメッカに近かった。
その為、バックボーンが消失した曹家は、現在進行形で地元での立場が、非常に悪くなっていた。
どれくらい悪いのか例えれば、こちらの世界線では糜芳と揉めて、早々と没落した許劭の実家で大家・許家も史実では、三公を解任されて失脚した後、名家閥を離反して宦官閥に鞍替えしたのだが、宦官閥消失後に名家閥主体の反董卓連合が発生した際、「裏切り者」として非難され、袁紹達に依る攻撃を受けて滅亡を遂げており、許劭も従兄の許靖も、辛うじて這々の体で逃げ延びたぐらいである。
許家という大家でさえ危険な状況に加えて、董卓は名家閥連中に蛇蝎の如く嫌悪されており、董卓に組すればどうなるか、自明の理であった。
(かといって下手に断ると、袁紹の件を蒸し返されたりとか、どうなるか予測がつかんしなぁ。
どう無難に断るべきか・・・弱った)
董卓の居る、執務室に続く廊下で懊悩していると、
「おい、貴公大丈夫か?体の調子でも悪いのか?」
「は?あ・・・気遣い忝く。
少々悩み事がありまして・・・大丈夫でござる。」
厳つい大男に気遣わしげな声を掛けられ、慌ててスッと立ち直った曹操。
「ふむ、そうか。大事無いなら良いが。」
「改めて忝い、私は董卓閣下に呼ばれております故、失礼致す。」
「ほう、貴公もか?俺も閣下に用事があるので、ならば共に参ろうではないか。」
そう言って曹操と横並びに、執務室に向かう。
見上げるぐらいの身長差が有る偉丈夫に、何者かを推測していると、執務室前にたどり着いて、
「呂布奉先が、閣下に罪人一家の始末の報告に参ったと、伝えてくれ。」
「うぃ!?・・・あ~私は曹操孟徳と申す。
董卓閣下の招きを受けて参った者だ。
閣下にお取り次ぎを。」
呂布の名を聞いて、素っ頓狂な声を上げた後に慌てて素に戻り、執務室前にいる警備兵に、やってきた用件を伝える。
(おいぃ!?コイツが率先して、名家共を粛清しまくっている、悪鬼羅刹の呂布か!?
や、ヤバい・・・死刑執行人に悪鬼羅刹が揃い踏みかよ・・・益々洒落にならん!)
戦々恐々としていると、
「おお、良く来てくれた曹操。
そして、任務ご苦労さんやな呂布よ。
今お茶を持ってこさせる故、楽にしてくれ。」
いつ見ても、ヤーさんの親分にしか見えない面構えで、ドスの利いた笑顔を浮かべて歓待する。
「「ははっ!有り難く!」」
呂布と曹操は揃って拱手し、呂布は護衛の如く董卓の左後ろに立ち、曹操は予め用意されていた椅子に着席する。
「ふむ・・・呂布の方は後で話すとしてだ曹操よ、結構来るのが遅かったな?何ぞ有ったのか?」
「は?あ!いえその乗ってきた馬が年老いており、その分到着が遅れ申した。
申し訳ありませぬ。」
まさか仕官を断る方策を考えて、時間を浪費したとは言えない曹操は、咄嗟の機転でごまかした。
「ほう、馬がのう・・・それはいかんな。
大宦官と呼ばれた曹騰殿の義孫で、先帝(霊帝)陛下の御代の折りには、莫大な財を国庫に供出した忠臣の、曹嵩殿の嫡男がそれでは面子が保てまい。」
気遣わしげに眉根を寄せて、
「折りよくつい先日涼州の糜芳殿から、数十頭の良馬・名馬が儂に贈答された所だ。
好きな馬を1~2頭見繕って、帰る時に乗って帰るが良い。」
にこやかに太っ腹な所を見せつける。
「はは!有り難く頂戴します。」
(やめろ~やめてくれ~!?情に絆されて断りにくくなるからぁ!?)
脳内で再び葛藤が始まるコ○ン。
そして曹操の脳内葛藤を余所に、お茶(超高級品)が運ばれ、いよいよ面談の時を迎えた瞬間、
「大変ですオヤっさん一大事です!大変「ゴスッ!!」痛ぇぇぇっっ!?」
銭投げを得意とする、どこぞの岡っ引きの子分の如く、大騒ぎして駆け寄って来る牛輔に、サッと帯剣(鞘入り)を投げつける親分。
「おい牛輔、てめえは何遍言えば判るんだ?おい?
人前でその言い方を、止めろっつてんだろうが?」
悶絶する牛輔に、優しく問いかける。
「す、ちびばせん殿。
それより一大事にございます!」
「あん?だから何だよ一体?
さっさと話さんかいや。」
はよ言えと催促する魔王。
「はっ、つい先日渤海郡太守に任じた袁紹が、郡兵を巧みに誑かして閣下討滅を掲げ、謀反の兵を挙げたとの急報が入りました!!
近隣郡の兵を徐々に吸収しつつ、兵力は今なお増大中との事です!」
カターン×2・・・・・・
「「なあにぃぃぃ~!?謀反だと~!?」」
茶の入った器を落とし、絶叫する董卓と曹操。
「あの野郎~やりやがったなぁボケが!?」
(あの野郎!なんて事をしてんだよ!?畜生め!)
内外で異口同音に袁紹を罵る2人。
特に曹操は袁紹の謀反により、逃亡幇助の容疑が掛けられて連座→処刑が濃厚となり、最早逃亡の一択しか無くなってしまったのであった。
「おのれ~あの恩知らずめがぁ!!
牛輔よ急ぎ袁逢達を捕らえい!伍瓊と何顒も連座で同じく拘束するようにせい!」
「はは!直ちに!」
董卓の指示を受け、駆け去っていく。
(まずいマズい不味い!・・・どうする曹操孟徳。
考えろ考えろ!?どうすれば逃げれる?・・・)
必死にポーカーフェイスを繕いながら、内心で高速演算していく。
「くそっ!・・・曹操よ、スマンが込み入った急用が出来たので、又後日に話しをするとしよう。
それでだ呂布よ。」
「はっ、何でしょうか?」
「曹操に先に馬を進呈するから、厩に案内して、適当に見繕ってやってくれ。」
「はは!承知しました!・・・では曹操殿、厩に案内致す故、付いて来て貰いたい。」
董卓の命令に拱手して了承すると、曹操を促して厩に向けて移動を始める。
「は、では有り難く頂戴致します閣下。
案内の程をよしなに呂布殿。」
(うん?コレってそのまま馬を貰って、洛陽から逃げる大好機では!?
親父殿と兄弟は徐州に行ってるし、嫁と子供は地元に避難させてるから、洛陽には親類は居らん。
躊躇する理由も無しだな・・・よし、逃げるか!)
鹿爪らしい顔で応答しつつ、咄嗟に逃亡プランを組み立て、腹を括ったのであった。
そうして袁紹謀反の報に慌てる、董卓を尻目に曹操は、1番丈夫そうな馬を貰い、「ちょっと試し駆けしてくる」と呂布に言って、そのまま洛陽から脱出。
逃亡を後に知って「曹操も袁紹に加担していやがったのか!」と激怒した、董卓の指名手配を潜り抜け、色々と紆余曲折を経て故郷に帰り、このままでは後の無い曹操は、実家の曹家と親族の夏侯家を糾合し、財産を叩いて兵をかき集めて軍隊を編成、後に反董卓連合に合流するのであった。
洛陽相国府執務室
「くそったれが!ドンドン問題が大きくなって行きやがる!腐れ名家共が!
我が等が悪事をやらかしたから、処罰されたのを棚に上げて、好き放題しやがって!!」
ドンッと机を叩いて怒鳴る董卓。
12月、当初は袁紹単独の謀反だったので、皇甫嵩か朱儁に国軍を預けて、討伐させる算段だった董卓だが、洛陽から元兗州の刺史を務め、兗州東郡太守に任じられていた橋瑁なる人物が、「帝から董卓討伐の勅を貰った!」と、偽勅を持ち出した事がキッカケで事態が急変。
董卓による名家・名士の粛清に、不満や危機感を抱いていた、孔伷・鮑信・張邈・袁遺といった名家閥の面々が、橋瑁の偽勅を奉じて挙兵。
又、幽州軍閥の雄・公孫讚や、実力で荊州長沙郡太守になった江東の虎・孫堅も、前述の挙兵に同調する気配を示していた。
「それでオヤッじゃなくて殿、如何なさいます?」
「即座に反乱を起こした、各郡太守の上司である州牧や刺史に、今上陛下からの謀反人討伐の勅命を奉じた勅使を送れ!
州の管理者としての管理責任を問うて、州内のもめ事として処理させろ!!
そして他州の州牧や刺史に、鎮定に協力する様に派兵の要請をしろ!
これ以上、謀反騒ぎを大きくさせるな!!」
事態の沈静化させるべく、奔走する董卓。
だが・・・
「二度に渡り勅使を送りましたが、当該の州牧や刺史に動く様子が有りません!
同じく派兵要請した、州牧や刺史も同様です!」
焦った表情で、董卓に報告する牛輔。
「くそったれがぁ~!!日和見に走ったな!?」
牛輔の報告を聞いて、憤怒の表情を浮かべる董卓。
「と、とりあえずもう一度、益州の劉焉様や幽州の劉虞様に・「無駄じゃあ朱儁殿!あやつ等、第2の光武帝を狙っとるんじゃけん!」
うろたえ気味に発言する朱儁を、怒声で遮る。
「は?第2の光武帝とは?」
「今の状況下で、袁紹共が儂を倒せば今上陛下は、廃位にされるだろう。
そして今現在、儂が擁立した今上陛下以外で、先日に弁殿下も亡くなられた為、霊帝陛下の直系の血筋が居られん。
そうなれば廃位された後は・・・?」
「・・・あ!選帝か!?今上陛下が廃位されれば、選帝になるな間違いなく!」
パンッと膝を叩いて理解する。
選帝とは西洋・東洋問わず、行われていた制度で、直系が居なくなった場合、傍系(分家)から国家元首(国王・皇帝)を、色々な方法で選出する事であり、光武帝の場合は普通の選帝とは、経緯が大分異なり、実力=武力で至尊の位に昇っていた。
それはさておき、
「おのれ~なんたる不遜!
皇室あっての皇族・王族で在ろうが!?
董卓殿!儂に先ずは袁紹共の討伐を任せてくれ!
不届き者達の首を取ってくれようぞ!」
あまりにも不遜な行動を示唆した、劉焉達皇族に激怒した皇甫嵩が、董卓に詰め寄る。
「いや、そうして貰いたいのは山々なんだが、今の状況下では無理だ。」
皇甫嵩の要望に、首を横に振って拒否する。
「何故に!?」
「貴殿は歴とした国軍の将軍で、率いる軍は当然陛下直属の軍だ。
それ故に貴殿や朱儁将軍を派遣したら、不届きな皇族らに、「親征」に近い印象と危機感を与え、最悪袁紹共に組みしかねん懸念が出るからだ。」
「う、く、くく、確かに・・・。」
謀反を助長しかねない可能性を言われ、口惜しげに切歯扼腕する。
「このまま皇族や王族が加われば、「呉楚七王の乱」の再来になりかねん。
とりあえず皇族・王族共の始末は、袁紹達を討伐した後の話だ。
皇族・王族と袁紹達は各個撃破をして、それぞれ分けて討つのが最上手だろう。」
「確かに左様だが・・・。」
渋々頷く朱儁。
「故に儂の直属軍・約2万と、涼州からの援軍・約4万の軍で、袁紹達を討ち果たすつもりだ。」
涼州軍閥のみで、袁紹達を倒す事を宣言する。
「しかしながら董卓閣下。
反乱軍は15万から20万に達しようとしている、かなりの大軍ですぞ?
誠に半分以下の兵力で袁紹達、反乱軍打倒が叶いましょうや?」
先日に董卓と揉めたが、事情を理解して和解し、再出仕を果たした盧植が疑問を呈した。
盧植からすれば、黄巾の乱の際に自分の後任に就いて、色々と失敗しているのを知っているので、当然と言えば当然の懸念であった。
「それに関しては無用な心配だ盧植殿。」
「ほう、心配ご無用とな皇甫嵩殿?」
首を傾げる盧植。
「歩兵の指揮に関してはイマイチでも、騎兵の指揮は千軍万馬の古強者じゃ董卓閣下は。
それに涼州軍も野戦では、儂が言うては不味いのだが、国軍の十倍は強いしのう・・・。」
「一言余計じゃい皇甫嵩殿・・・。」
眉間に皺を寄せてブツブツ呟く。
「朱儁殿はピンと来ぬかも知れんが、盧植殿なれば例えば幽州軍閥と黄巾賊が、野戦で相まみえたらどうなるか、予測がつきましょうが?」
「鎧袖一触ですな。」
両方の力量を知っている盧植は即答する。
「・・・なる程、幽州軍閥=涼州軍閥で、黄巾賊=袁紹達と当てはめれば解りやすいですな。
董卓閣下には失礼致した、平にご容赦を。」
ペコリと陳謝する。
「いや、気にせんでくれ盧植殿、貴殿の懸念も過去の立場上、尤もだからな。
それよりも陛下にこれ以上、名家閥の虫が付かんよう、儂が出征中の間を頼みたい。
蔡邕殿も同様に、うつけ者共が軽挙妄動しない様、侍中(皇帝の側近)として見張っておいてくれ。」
「「はは、承知しました!お任せあれ。」」
董卓の指示に拱手して頷く2人。
「皇甫嵩殿と朱儁殿も、袁紹達に内通する輩が出かねん状況なので、厳しく監視をしておいてくれ。」
「「一切承知した!武運を!」」
盧植達と同様に拱手する。
こうして「反董卓連合」という、反乱を起こした袁紹達を討伐すべく、反乱軍が結集するのを待ちつつ、準備を進めていく中・・・
「申し上げます閣下!
兗州刺史・劉岱が袁紹達反乱軍に与し、合流したと急報が届きました!」
最悪の報せが届いたのであった。
「なっ!?馬鹿が!!
自分から首を絞める処か、首をはねる行為をしやがってボケがぁ!!
何が「二龍」だ!蜥蜴にも劣る愚物が!!」
顔を真っ赤にして激怒し、怒りの余り机を剣で切り倒した後、
「・・・嗚呼、漢朝の衰退此処に極まり!
まさか寄りによって皇族が、漢朝を蔑ろにするのを世に示すとは・・・くく、うっう・・・。」
膝を折って座り込み、慟哭する董卓。
同じく盧植と蔡邕も、涙を流していた。
「???どういう事だ蔡邕殿?」
「??さっぱり解らん!」
政治的見解に疎い皇甫嵩・朱儁の両将軍が、蔡邕に確認をする。
「皇族が勅命を蔑ろにして、反乱に与する此即ち、陛下の威光が衰えた事を世に示した訳じゃ。
転じて劉一族の長である、陛下を敬わぬ・従わぬ一族共即ち、皇族・王族を誰が敬おうか?
そんな皇族・王族が、誰かに弑(殺)されたとしても、誰が咎め立て出来ようか?
寧ろ弑した者即ち反逆者を討った者を、陛下は褒め称えねばならん立場なのに。」
両将軍に、解りやすく解説する。
この劉岱の反乱軍加入に因り、皇帝の権威失墜が顕在化し又、勅命を受けた皇族・王族が、誰一人献帝に与しなかった事で、劉姓に対する敬意が庶民から士人の広い間で消失した上、ほとんどの劉姓が反逆者として、討伐される大義名分を与えてしまう。
以降は孫堅が皇族の劉表を、子の孫策が劉岱の実弟・劉繇を攻撃しても、孫一族が反逆者として咎め立てされる事は無く、劉虞を殺害した公孫瓚でさえ、劉虞に近い人物からは忌避されたが、幽州民からは支持を受けて群雄として君臨したのである。
(公孫瓚は劉虞を殺害した事で、幽州内の士人からの支持を失い、滅亡の道を歩んだとされているが、5年近くも袁紹と戦い続けた事を考えると、明らかに幽州内での支持を受けており、俄かには信じ難い話である)
同時に漢朝側も他の劉一族の特権の認証や、保護をする理由も消失した為、三国時代に入る前の過程で数多くの皇族・王族が、皇室を蔑ろにしたしっぺ返しを喰らい、戦乱の露に消え去ったのである。
当然の如く王族であるのに、宦官出の曹操に臣下の礼を執り、家臣になった劉曄よりも、下の属尽であるボ○ビーこと劉備も、劉姓の恩恵を失ってしまい、益々艱難辛苦の道を進む事となるのであった。
それはさておき、
「・・・何て軽率な事を・・・。」
「異民族侵入や内乱でもなく、身内に因ってそんな状況に追い込まれるとは・・・無念!」
董卓が慟哭する理由を理解し、頭を垂れて無念の感情を洩らす両将軍。
「して、如何致す董卓殿?」
「・・・どのみちやる事は変わらん。
但し、劉焉などの家族や他の皇族・王族の連中は、最早内通者に等しい存在故、洛外に放逐する。
業腹だが、霊帝陛下が決められた事を反故にすれば、益々今上陛下の鼎の軽重を問われかねんので、劉表や劉繇の赴任は避けられん。」
唇を噛んで、怒りを抑えつつ述べた。
最早足手纏い処か、獅子身中の虫に転化した皇族・王族抹殺の衝動を抑え、これ以上の問題拡大・悪化を考えて、理性的な判断を下したのである。
「とりあえず先ずは、袁紹達反乱軍を駆逐するのが、何よりも最優先だ。
そして落ち着いた後に今回の件で、皇族・王族共など何の役にもクソも立たん処か、害悪になる事も判ったから、今上陛下の系譜の者以外は、キッチリ族滅にしてくれるわ!」
最後は怒りを抑えきれず、吼えたのであった。
こうして董卓は、洛内にいた劉表を荊州刺史として追い出し、脱出しようと目論む劉焉の家族をワザと逃し、洛外に逃亡していた劉繇を、揚州刺史に不承不承任じたのであった。
その後、司隷・河内郡に駐屯した袁紹率いる反乱軍本軍、兗州・酸棗に駐屯した鮑信・曹操軍、荊州・南陽郡に駐屯した袁術・孫堅軍の三軍と対峙、袁紹・曹操軍には部下の徐栄を先鋒に、董卓自らが指揮を執り、袁術・孫堅軍に対しては、呂布と華雄を先鋒として胡軫を後詰めに、牛輔を大将として戦いを繰り広げたのであった。
そう言った開戦前夜の中央情勢とは別に、とある地方では・・・
涼州漢陽郡隴県執務室
「ふぃ~・・・なんとか落ち着いたか・・・。」
う~んと背筋を伸ばし、首をコキコキ鳴らす糜芳。
先日の董卓フィーバーの影響で、「オラさ都さに行くだ」現象が大量発生し、涼州内の防衛網がスカスカになる事態に瀕した為、州軍の地方分散配置や軍閥の繰り上げ徴兵により、質の低下は否めないが、なんとかかんとか形になった所であった。
「失礼します。
ご苦労様にございます閣下。
都在住の配下の者から、報せが届いております。」
神妙な顔で、執事兼秘書官のイーが入室してくる。
「うん?洛陽からの報せ?」
「はい、報せによりますと、四世三公の名門・袁家の袁紹が、「董卓打倒」を掲げて任地の青州・渤海郡にて挙兵。
それに兗州・豫州の刺史・各太守が呼応し、10万を越える軍勢となり、発起人の袁紹を旗頭に、洛陽へ向けて進軍中とのこと。
又、荊州南陽郡にて族弟の袁術も挙兵し、袁紹とは別に独自の動きをしているとのことです。」
わりかし大事な話なのに、淡々と述べるイー。
「あー・・・反董卓連合軍ってヤツか・・・。」
「ふむ、言い得て妙ですなその表現は。
・・・?あまり驚いた風でもありませんな、結構大事件と思うのですが・・・。」
「うん?あーまぁね~・・・。」
訝しげに見つめるイーに、ポリポリと頬を掻いて言葉を濁す糜芳。
(まさか前世の記憶で知ってます!とは言えねーしなぁ・・・。
う~ん、とりあえず史実通りに進んでる感じだな)
脳内思考しつつ、
「まぁ、イーが淡々と言ってるから、忽ちコッチには影響が無いんだろうと思ってさ。」
テキトーに誤魔化す。
「なる程、左様でしたか。
して、閣下は如何なさいますので?」
「へ?如何って何を?」
「無論、そのまま董卓様に与するか、袁紹の連合軍に加わるかの話ですが?」
「はいぃ!?」
いきなりの急展開に、素っ頓狂な声を上げる糜芳。
「実は配下の報せとは別に、館にこの様なモノが届きまして・・・。」
スッと糜芳に白布を差し出す。
「えっとナニナニ檄・・・ゲゲッ!?
コレって檄文という名の、連合軍へ勧誘のお知らせじゃねーか!」
袁紹と曹操の連名で書かれた、反董卓連合軍勧誘の書面を机に放り投げる。
「どうなさいます閣下?」
「どうもこうも・・・参加した途端に敵地のド真ん中になるのに、そんな状況下で参加するアホがいると思うか?」
「まずいないでしょうな、そんなアホは。」
糜芳のド正論にコクリと頷くイー。
現代で例えれば、野球の阪○対巨○戦が、阪○のホームグランド・甲子園で開催され、オール阪○ファンの大群の中で、ポツンと巨○のハッピを着て応援する様なモノである。
如何に糜芳が州牧という、州内の最高権力者だとしても、涼州人にとって同郷であり、実績も実力もある董卓に反してまで、州軍でさえ糜芳に付く可能性は低かった。
しかも涼州人が最も嫌悪している、中央名家の代表格・袁家の袁紹のお声掛けである。
どう考えても暴挙を通り越して、最早自殺行為に等しい所行であった。
「はい却下却下!
この厄文書を、大至急董卓閣下に送ってくれ!!」
「はぁ、宜しいのですか?コレを送れば却って疑われるのでは?」
心配げに問い掛けるイー。
「逆だ逆!急いで届けないとマズいんだよ!
一刻も早く届けて、身の潔白を証明しておかないと袁紹達に、「涼州の糜芳はこちらの味方。檄文を届けて返事を貰った」なんて騒がれたら、持ってても疑われるし、かといって棄てたら、無実の証明が不可能になるんだよ!」
「確かに!?急いで届けまする!!」
老齢とは思えない俊敏さで、姿を消す。
(クソ・・・最初から俺を捨て駒にする算段で、あんなモンを持って来やがったな。
俺が口車に乗って、涼州で騒ぎを起こせば上出来、失敗しても董卓に向背の不安を煽って、動揺させるって感じの策謀か・・・)
脳内思考で予測し、
(どう考えてもこの策謀って、バカ坊の袁紹じゃなくて、曹操辺りの策謀だよなぁ・・・。
面倒くせー!結果論的に敵に回った途端、クソ厄介な相手になってやがる!)
頭を抱えて容赦ない攻撃を嘆く。
(かといって前世の記憶を利用して、下手くそな策謀で仕返しすると、歴史が変わってもっと面倒くさい事になりかねねーし・・・つーことは、予防線を張る事しか出来んやんけ!?)
頭痛がガンガンとしてくる糜芳。
(こっちゃはタコ殴りされても防戦一方、あっちゃは殴りたい放題・・・チックショウ!!)
某太夫の如く脳内で吼える。
こうして間接的にコ○ンと、敵対関係になってしまった糜芳は、これ以上厄介事が起こらない事を祈りつつ、政務に勤しむのであった。
因みに檄文を送り届けた事で、唯一董卓支持を鮮明にした結果、官爵最高位の列侯に封じられ、九卿の1つ・大鴻臚に任じられたのは、余談である。
続く
とりあえず何とか書き上げました。
申し訳ありませんが、予定は未定です。




