始動編・・・その1
この物語はフィクションで有ります。
実在する人物・場所・団体とは無関係ですよ。
とりあえず新章です。
?????
「うぁぁぁぁぁ・・・。」
不気味で奇妙な呻き声が響き渡る。
「なんで、こんなことに・・・何でや~。」
三国志のユダこと、糜芳は文机にぐで~と突っ伏し、ブツブツ愚痴っていた。
その原因は遡ること・・・
糜家・居間
文明の利器、電気・ガスが発明、利用されるまでの人類の活動時間は、現代からすれば異常に早く、短かった。
基本的に、日の出前に起きて、身支度(食事込み)を整えて出勤し、日没前には帰宅して夕食を摂り、暗くなると共に就寝していた。
電気・ガスを使った照明器具・装置が無いのは勿論、油が高く、それなりの裕福な人でないと勿体なくて買えないという事情もあったからだ。
基本的に太陽が昇っている間に仕事や用事を済ませるのが当たり前であり、如何に裕福と言えども、糜芳の実家=糜家も例外ではない。
「さぁ、食べるとしようか。」
糜家の当主、糜董の音頭で朝食が始まる。
はい、ええ、と思い思いの返事をして、卓に並べられた料理に箸をつける。
「さて、皆何か伝える事、言いたい事はないかい?」
糜董が卓に座っている家族を見回し、確認する。
これは糜家独自の習慣で、朝はできる限り全員が集まって伝達・連絡・報告を行う。
そうしないと皆が仕事や用事の時間がバラバラであり、朝以外集まるのが困難だからだ。
「あ、父上、義母上、今日私は夜に職場の宴に参加するので、遅くなります。夕食は要りませんので・・・。」
「あら、そう。お付き合いも大変ですね、竺殿。飲み過ぎない様にしなさいね。」
「あ~、私も寄り合いが有るから遅くなるかも・・・」
「あ、そう。ふ~ん。」
「・・・ねぇ何か竺と対応が違いすぎてないかい!?」
そこはかとなく糜家に置けるヒエラルキーが見え隠れする会話を聞きながら、糜芳は昨夜考えた事を言うべく声を上げる。
「父上、お話があるのですが・・・。」
「うん?何だい、芳?」
(よし、これより俺の大商人に成る為の最初の一歩の始まりだ!)
内心意気込み、自分の思いを告げる。
「はい、僕は父上を見習って商人に成りたいと思うので、是非とも父上に商売のイロハを伝授していただけたら、とお願いし・・・って・・どうしました?」
シィ・・・・・・ィン
気が付いたら周りの音が死んでいた。
(え、何何??)
見れば全員が、鳩が豆鉄砲を喰らったの様に唖然・呆然とした表情で自分を見ていた。
やがて、糜香が恐る恐るといった風に、
「芳・・・・・・アナタ・・・正気?」
と言われ本気度を測るどころか、病気かキ○ガイ扱いされる。
「ハイ?ええ、母上より余程おぉぉ!?」
失礼な発言を受けて、昨日の母の痴態を思い出し、前世の癖で素でツッコミを入れてしまった糜芳は、容赦のないライトニ○グボルトを朝一番に喰らう。
経過は思い出しても、結果を綺麗に忘れているアホであった。
「うん?聞こえないわね~。・・・もう一発いっとく?」
どこぞの民族名みたいな世紀末の獄長に近い台詞と同時に、栄養ドリンクの販促キャッチフレーズみたいな感じで追撃を示唆する世紀末母、糜香。
「スンマセンした!只、商人に成りたいのは正気で、本気なんス!信じて下さい!」
昨日と同じく命の危機を察知した糜芳は、前世の下っ端根性丸出しで謝罪、助命嘆願をしつつも、自分の主張を続ける。
「まぁまぁ、2人共落ち着きなさい。」
親子のコミュニケーション(?)を見かねた糜董が2人と言うか糜香を宥める。
「しかし、芳、急にどうしたんだい?前はあれほど商人は嫌だ。
竺と同じく名士になって竺が文官なら、自分は武官になって将軍になるんだって散々言ってたのに・・・。」
(え、そうなの?まぁ、自分の未来を知らないから単純にそう考えたんだろうけど・・・。
このままいけば破滅フラグまっしぐらになっちまうからな~)
慌ててフラグ回避の為に、軌道修正を図る糜芳。
「はい、僕も最近までそう思っていたのですが・・・。
もし武官になって大きな失敗や、過ちを犯してしまったら、兄上に多大な迷惑をかけてしまうのでは、と思い至りまして・・・。」
「う~ん、確かにその可能性は無きにしもあらずだね。」
糜芳の言い分を聞いて、頷いて納得顔の糜董。
この時代は(だけではないが)連座制であり、身内が(特に親子・兄弟)何らかの罪(冤罪込み)を犯したと見做されると、親兄弟も同罪にされて、大概は自白(罪を認める)するまで延々と拷問に掛けられる上、全くの無関係でも偶々親戚だっただけで巻き込まれて、一族族滅になることも珍しく無いのである。
(万単位の人が処刑された実例あり)
糜芳の場合は、ガチで将来やらかして糜竺とその家族(子供・孫がいたけど糜芳の所業の所為で出世出来なかった)を巻き込み、人生をパーにするわけだから、洒落にならない。
「ええ、ですから父上と同様に商人になって、兄上の足を引っ張らない様、堅実に生きていこうと思っています。」
「う~ん、それもアリだと思うけど、家の将来を考えたら、芳が武官になるのは竺の助けになるし、悪い訳でも無いと思うけどねぇ。」
糜芳の言い分に一定の理解を示すものの、それでも尚逡巡する糜董。
糜董達からすれば、名家としては新参者である糜竺が文官になった以上、糜芳が武官として仕官出来れば文武共に繋がりを持つことが出来る為、将来的(子孫の事を考えれば)に観れば伝手やコネが多いに越した事は無いのである。
又、比較的に武官の方が出世・栄達し易いという明確なメリット(盗賊討伐・国境付近なら異民族討伐)があり、元々糜竺は武官として仕官する予定だったのだが、武術師範から、
「才能はあるが、性格が致命的に不向きで、必ず大きな失敗を犯す。」
と駄目出しされ、文官に転向した経緯がある為、糜芳が代わりに武官になって欲しいという願いも捨て切れないようだ。
「まぁ、今直ぐに決める必要も無いだろう。
今はとりあえずどうなるにせよ、勉学に励み、稽古を付けて将来に備えるべきだね。」
「私も父上の言う通りだと思うよ。
世の中何が起こるか分からないのだから、どうなっても良いように自己鍛錬を怠らない様にするのが今は肝要だよ。」
「は、はい、そうですね。」
糜董、糜竺親子に諭され、これ以上言い募るのは難しいと判断して、素直に引き下がる糜芳。
(う~ん、急に言っても渋られるのは当然か・・・しゃあない、武術系の稽古は適当に手を抜いて、武官に仕官することを諦めて貰おう)
当然糜芳は、悲惨な将来を回避する為に、なんとか仕官をしないように決意を改めて固めるのだが、この後考え無しの行動を取ったため思いも寄らない事態を招く事になるのであった。
続く
え~と、新章を始めました。
引き続き楽しんで読んで頂ける様頑張ります。
楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
優しい評価をお願いします。