その6
読んでくださっている方達へ。
いつも読んで頂き、誠にありがとうございます!
又、誤字脱字報告・いいね・感想をして頂き、感謝であります。
連休も終わりに近づいておりますが、少しでもこの作品が、読者様の娯楽に為れば幸甚の至りであります。
洛陽大将軍府執務室
189年2月、この月は珍しく目立った騒乱が無く、わりかし平穏と呼べる月だったのだが、実は此処洛陽に於いて水面下では、とんでもない大きな事態が発生していた。
「ふ~む・・・なんたる事だ・・・まさか主上が、いきなりお倒れになられるとは・・・。」
眉間に皺を寄せて唸る何進。
1月の末に、霊帝が突如として倒れて病を発し、床に伏せるという事態が発生し、倒れた後宮にて大騒ぎになった。
時を置かずにして、上奏(報告書)の決裁が滞った事で、宮廷内でも周知の事実となり、各府に勤務する者・官吏達も騒然となり、緊張が走った。
何せ今まで良くも悪くも安全弁の機能を果たしていた、霊帝が病に倒れ不在になった事で、何進・名家閥・宦官閥の3つ巴の権力抗争が激化するのは、火を見るより明らかだったからだ。
「・・・して閣下、主上の御容体の程は?」
恐る恐る経過を尋ねる荀攸。
「妹(何皇后)・宮廷方士・息の掛かった宦官という、3者の連絡・報告を聴く限りではかなり悪い。
現状では起き上がる事も、ままならない様だ。」
「何と・・・おいたわしや主上陛下・・・。」
何進の話を聞いて、沈痛な面持ちで顔を伏せる。
「ああ、誠にな・・・しかし如何に痛ましい出来事でも、我々臣下は漢帝国の為に、嘆いているばかりでは済まされんし、前を見据えていかねばいかん。
陛下の為にも、より一層奮起せねばならんのだ。」
「確かに、左様でございますな。」
何進の言に頷く。
「さて、それを踏まえて皆の者、意見を述べてこれからの方策を考えてくれ。」
「あ~では儂から。」
「うん?盧植殿、何かお有りか?」
挙手した盧植に耳を傾ける。
「うむ、宦官閥の張譲や趙忠や蹇碩といった腐れ者達の筆頭格が、主上に侍っているのを悪用して、ここぞとばかりに蠢動を行っておる。
早めに対処した方が良かろうかと。」
「ほう蠢動とは一体何を?」
首を傾げて盧植に尋ねる何進。
「あやつ等上奏された報告書を、自分達の都合の良い内容に改変・捏造し、勝手に玉璽を用いて濫用しておるわ。」
「なんと不敬な!高が使用人風情の分際で!!
それで盧植殿は、どうなされたのだ!?」
碌でもない悪事に憤慨する皇甫嵩。
「無論、尚書の立場として突っぱねたわい!
それであやつ等が、不敬だのとあーだこーだゴネて来たので、「主上陛下に直接お会いして確認する!」と言ったら、「主上陛下は床に伏せっておられ、面会出来る状態ではない」とほざいたので、「面会も叶わない程の重篤の状態で、どうして決裁や内容を改変が出来るのだ、たわけ者共が!」と一喝したら、すごすご引き下がったわ!
後で慌てて、「此奴等が勝手にしていた」と捨て駒を突き出して来たから、そやつ等を獄(牢屋)に落としてやったがの。」
ふん、と鼻息荒く事の顛末を話し、
「と言う訳で閣下。
このまま放置すれば、害悪になるのは必至であり、最悪の場合は偽勅を濫発しかねませぬ。」
即時の対策を訴えた。
「それは由々しき話だな。
一刻も早く対処せねばならん・・・荀攸、何か良い策はないか?」
盧植の話を聞いて、有害性と緊急性を理解した何進は、参謀長の荀攸に対策を尋ねる。
「はっ、畏れ多い事ですが、主上の重篤を利用して法的に、趙忠達腐れ者を排除しましょう。」
「うん?主上が病気になったら、腐れ者共を排除出来る法律が有るのか?」
政治感覚(金銭出納等)は昔取った杵柄で抜群でも、商業的と刑法的な法律以外は、出自柄疎い何進は、荀攸の策に首を傾げた。
「はい、まぁと言っても、趙忠達を直接処断(処刑)出来るという類いのモノではなく、政治的に排除出来る、という類いですが。」
「政治的に・・・なぁ。」
「ええ、コレは漢帝国だけでなく、古今の中国歴代王朝では当然の様に定められいる、ごく当たり前の法ですけどね。」
「ふ~ん、どんな法律なんだ?」
荀攸に問い質す。
「漢帝国に於いては、主上(皇帝)が何らかの理由(病気・出征等)で政務が執れない場合は、皇太子及び長子又は他の皇子が代行するとし、皇太子等が幼少にてコレも不可の場合は、相国・丞相・三公の何れかを主上の快復・帰還までの間、代行人にするとあります。
又、万一に御隠れ(死去)になった場合は、次代の後継者が決まるまでの間、前述の者達を代行人として、政務を一時的に委任するとしております。」
指を代行人候補者の2通りの部分と、皇帝の生死の部分で、それぞれ2本立てつつ説明する。
「ふむふむ、確かにごく当然の事だな。
商家で当主が病気中で跡取りが幼い時に、番頭や手代達に業務を委託するようなモンか。」
成る程と頷く。
「ええ、概ねその認識で宜しいかと。
それで今回の場合、立太子(皇太子の指名)こそされていませんが、長子である弁皇子殿下が代行する仕儀と相成りましょう。」
「いや、弁皇子殿下って14歳だぞ?
成人とも言えない微妙な歳だから、前例だの秩序だのを建て前に、名家閥連中のアホ共がピーチクパーチク騒ぎ立てないか?
彼奴等からして観たら、自分達が三公を独占しているから、権力を握る千載一遇の好機に成る訳だし。」
素朴な疑問を呈す。
「全く問題有りません。
前例で言えば現主上は12歳で皇帝に成られ、以降の政務を執ってお出でです。
故に14歳の弁皇子殿下が、政務代行を務めると言っても文句が言えませんし、言えばそれこそ不敬の極みとして、容赦なく処断出来ましょう。」
「あ、そりゃそうだ。
そう言えば主上が前に、そんな事仰ってたな。
それに文句を言えば、「弁皇子殿下は政務能力が無い」と暗に言っているのに等しく、直系皇族に対する侮辱として、不敬の罪に問える訳だ。」
ポンと手を叩く。
「左様にございます。
故に名家閥連中は、弁皇子殿下が政務代行を務める事に、反対出来ません。」
「確かにな・・・しかしそれだけでは、腐れ者共を排除出来る事にはなるまい?」
「いえいえ十分可能ですぞ?
今現在、成人前となった弁皇子殿下は、何処で起居為されておられますか?」
「うん?何処ってそりゃあ後宮から出て離宮・・・ああ!?そういう事か!!」
ガバッと立ち上がって、
「離宮に居られる弁皇子殿下が、政務代行を務める場合、当然上奏文は離宮にしか届かん!」
そう言って、顎に手を当てつつ机の周りを彷徨き、
「つまり、主上に随行する時以外は、後宮にしか出入り出来ない趙忠達は、主上が快癒されない限り上奏文に、一切関わる処か触る事も出来なく成り、自動的に排除出来る訳か!!」
興奮気味にまくし立てた。
「ご名答にございます。
ついでに言えば弁皇子殿下も、後宮に入る事は出来ませんので、趙忠達腐れ者共が接触するのは、事実上不可能ですので、害悪を招く事も有りません。」
何進の答え合わせに頷き、他の利点も述べる。
基本的に歴代王朝に於ける後宮の掟として、「精通=生殖可能」になった皇子は、皇帝の血統と後宮の秩序を乱す要因になるとされ、例え皇太子であっても後宮から出されて、再び入る事は許されず、別宮(離宮)にて生活をするのが慣習であった。
「うむうむ、趙忠達を後宮という檻に押し込めて、主上快癒に専念させつつ、あやつ等の蠢動を断つわけか・・・見事な策だな荀攸。」
椅子に座り直し、荀攸を褒め讃える。
「恐れ入ります。
早速にも明日の朝議の議題に上げて、一刻も早く政治の場から、趙忠達を引っ剥がすべきです。」
「ああ、そうするとしよう。
名家閥連中達も、宿敵が失脚に等しい状況に成る訳だから、反対はするまいしな。」
コクリと頷く。
「恐れながら閣下、あやつ等を後宮に押し込めるのは妙案かと某も思いますが、それでヤケになった趙忠達が、主上に害を為す危険性も有るのでは?」
朱儁が挙手して意見を述べる。
「朱儁将軍それは逆だ逆、寧ろ趙忠達は必死で主上快癒を目指し、金に糸目をつけずに全力で行うだろうな間違いなく。」
手を左右に振って、それはないと否定する何進。
「なんと・・・それは如何なる理由で?」
「あやつ等の地位と立場は、主上が後ろ盾となっているからこそのモノであり、言わば主上は趙忠達の保証人的存在な訳だ。」
「ふむふむ、確かにそうなりますな。」
確かにと頷く。
「つまり万一主上が御隠れになった場合、自分達を保証してくれる、後ろ盾が消失する訳だ。
そうなった場合、次代の御方が後ろ盾になってくれる保証なぞ、欠片も無いからな。
特に蹇碩は、何処ぞの外戚紛いの董何某と同じく、確実に未来が無いしな。」
「な、成る程・・・それは必死になりますな。」
若干身震いしながら頷く朱儁。
何進は暗に、霊帝が死去して弁皇子の代になれば、趙忠達の政治基盤の消失に拠る失脚と、蹇碩と董重の政治的且つ、物理的な処断を示唆しているので、朱儁が恐れ戦くのは無理はなかった。
「ふむ、やはり董何某もですか?」
「当然だろう?あの2人は弁皇子殿下の、次代皇帝即位に反対している最先鋒だし、全振りで協皇子殿下を推す代表格な訳だしな。
残して置いても後々の禍根となり、百害有っても一理も無い奴等だからな。」
はっきりと言い切る何進。
「確かに左様ですが、董重の叔母の董太后が、黙って見過ごすとは思えませんが?」
「ふん、主上のお情けで後宮に居座っている、恥知らずの居候如きがギャアギャア騒いだ処で、主上が万一御隠れの後に、董重以外に誰があのババァの言う事を聞くんだよ?
妹を散々阿婆擦れ(厚かましい・卑しい)だの端女(女性召使い)だのと、虚仮にしやがってからに。
自分だって家が没落してて、身売り同然に妾になったクセに、どの口が言ってやがるんだつうの。」
私怨ありありでボヤく。
「まぁ、言わんとする事は理解出来ます。」
自身も密かに董太后に対して、嫌悪感を抱いていたので、何進の言い分に理解を示す荀攸。
後漢時代の概念で言えば、董太后はかなりの非常識人であり、世間的にはアウトな存在だった。
実子の霊帝から捨て扶持を貰って亡夫を弔いつつ、ひっそりと余生を過ごしていたなら、未だ世間的には受け入れられて納得され、節度の有る婦人として称えられただろう。
しかし董太后は臆面もなく、子の養家(養子先)・皇室に堂々と居座り(例え実子に勧められても、養家を憚って断るのが常識)、居候先の皇室でも母親面してイキっている輩=毒親なので、特に礼儀・形式を重んじる名家・名士連中達からは、十常侍並みに嫌悪されていた。
まぁ、それ以上に田舎からノコノコ洛陽にやって来て、その非常識な居候の叔母に頼って寄生し、のうのうと外戚面している董重の方が、よっぽど毛嫌いされてはいるが。
実際に去年から何進の大将軍位に次ぐ、驃騎将軍位に中郎将位から一気に出世して就任し、将軍府を開いて人材を集めているが全く集まらず、閑古鳥が鳴いているのがその証左だった。
曲がりなりにも名家閥に属し、九卿の1つ・衛尉(宮廷内の衛兵・近衛兵の統括責任者)兼驃騎将軍という、肩書きだけ観れば何進を上回る地位なのに、悲しいぐらい中身が伴っていないのである。
皮肉にも政敵の何進が出世したお陰で、董重も対何進の捨て駒としての利用価値が発生し、名家閥のヨイショで今の地位に就けただけであり、俗に言う「豚も煽てりゃナントやら」を、リアルに体現しているのであった。
まぁ、当の本人はそんな自覚が全く無く、「何進ではなく、自分こそが外戚筆頭だ!」と、実際の関係上、外戚にも当てはまらないのに気付かず、意気揚々としている、脳内が幸せな者であった。
後年に登場する人物で、董重の従兄弟と謂われる董承も、全くの同タイプで同じ末路を辿っている事から、「図々しい&脳内お花畑に無自覚にして、無神経」というのは、董太后を始めとする家系的なモノかも知れないが。
それはさておき、
「まぁ、今は董一族の始末云々は後にして、先に趙忠達を始末する事が先決だな。
早速明日の朝議で図るとしよう。」
「は、如何にもその通りでございます。
一応趙忠達がゴネる様でしたら、「主上陛下に、朝議に御出席為される様に上奏せよ。出来ぬなら法に従って、御快癒為されるまで、弁皇子殿下代行の下、政を臨時に行う」とでも言えば、反論が出来なくなるでしょうから、そんな感じで言ってください。」
対趙忠達の方策をアドバイスする。
「ああ、分かったそうしよう。
しかしながら年始めに会った、糜芳君の預言通りになってしまったか・・・恐ろしいなぁ。」
「閣下、縁起でもない発言は控えなさいませ。」
ポツリと呟いた何進を、皇甫嵩が窘めた。
「いや済まない・・・うん?
そ~言えば糜芳君って、仙術が使えるんだっけ?
もしかしたら主上の病も、快癒出来るんじゃ?」
「糜道人(仙術を修めた者の呼称)には、とっくの昔に連絡済みです。
残念ながら、治療関係はからっきしだそうで。」
しょんぼりと残念そうに、肩を落とす荀攸。
「・・・そうか、残念だな・・・。
しかし荀攸よ、糜芳君を道人呼ばわりとは、もう最早崇拝の域に達してないか?」
「そりゃあもう、目の前で何も入って無い曹操殿の冠から、水仙を取り出した仙術を観たのですから、当然にございましょう。」
何進の疑問を、しっかりと肯定する。
「まぁお前だけでなく、朱儁・皇甫嵩両将軍や盧植殿達も観ていた様だから、嘘とは思わんが・・・。
ぶっちゃけ曹操がグルだったとかじゃないのか?」
疑心暗鬼な目で見つめる。
「それはないですね。」
「ほう・・・何故だ?」
「先ず曹操殿自身が我々の目前で、糜道人に返却された冠を、下から覗いたり手で振ったり床に叩いたりして確認しています。」
「う~ん、自作自演の可能性が有ると思うが。」
訝しげに反論する何進。
「ええ無論、我々出席者もそう思いましたので、宝貝(宝物の事、現代中国では赤ちゃんの事を指す)の如く大事そうに冠を懐に入れて、式場を抜け出そうとした曹操殿を全員で拘束、確認の為に我々に引き渡す様、論理的に要求しました。」
「ふむふむ、そうだろうな。」
コクコクと頷いて相槌を打つ。
「頑として応じませんでしたので、物理的に我々で説得した所、漸く確認可能となりました。」
「いやそれって、集団暴行じゃねーかおい!?」
バイオレンスな発言を淡々と述べる荀攸に、お前ら何してんの!?と何進が突っ込む。
「素直に応じない曹操殿が悪いのですよ。」
「いや・・・あのな?言っている事が、まんま悪党の台詞なのを自覚してるか、お前・・・?
・・・道理で半月前にひょっこり見掛けた時に、ズタボロだった訳だ。」
憐れみを湛えた声音で呟いた。
偶々見掛けた際、ヨロヨロと片杖らしきモノを突いて動く様相を観て、咄嗟に曹操と気付かず、「何で敗残兵が宮中を彷徨いているんだ?」と、ギョッとした記憶を掘り返したのであった。
「と言う訳で、間違いなくあれは仙術と、確認がとれております。」
「ああ、うん、もうそれでいいや・・・。」
荀攸にどアップに迫まれて、投げやりに返答する何進であったという。
そうして洛陽では表向き平穏であったが、裏で色々な思惑が錯綜している中、荀攸達に仙人扱いをされている、とある少年州牧は・・・
涼州漢陽郡隴県州牧執務室
(0h、no・・・なんてこったい・・・只の宴会芸レベルの手品が、仙術(魔法)扱いされるなんて)
思っても観なかった事態に、頭を抱えていた。
1月、年始早々に蔡琰と結婚をして、パートナーとして徐州に於ける、「曹操徐州虐殺」防止計画を、前世知識に拠るものとは言わず、適当にぼかしつつ蔡琰に話し、浮浪児対策と教育も併せて全権委任し、徐州に送り出した。
(ど~も笮融は浮屠が絡むと、色んな事をうっちゃって放り出す、アホになる傾向が強いからな~。
そんなら蔡琰に委任した方が、安パイだわな)
12歳の蔡琰に任せる方が、強面のオッサンよりもマシという、悲しい現実に泣きそうになる糜芳。
父・糜董と徐州の顔役・丁老師に、手紙で結婚等の報告をしつつ、蔡琰の後見をくれぐれも宜しくと頼み込み、笮融には蔡琰が管理上位者になる事を通達し、補佐役に務める事を念押しする。
当の蔡琰は、
「そんな家の一大事を、私に一任して任せてくれるなんて・・・旦那様!私頑張りますね!!」
ぐっと両手で握り拳を作り、ふんすと鼻息荒く息巻いていたが。
「児童労働兼ブラック労働」という単語が、スッと頭に過った糜芳は、引きつった笑みで「ヨロシク」と幼妻に頼んだのであった。
そうして、徐州の始末を蔡琰を一任して送った後、涼州に帰還する際に見送りに来た、
「糜芳道人に父弟を弔って頂き、子兄として、これ程有り難い事はありません!
泉下の客(あの世の住人)となった父弟も、道人に導いて貰えたと、さぞや名誉ある事と自慢しておりましょう・・・うう、うぉ~ん!」
泣いて感謝の意を現す夏侯淵と、
「あの~良かったら、もう一度水仙を取り出した仙術を、見せて貰えないだろうか?」
痩身短躯のアン○ンマンと化した、曹操らしき(判別不能)人物?に、足元に縋り付かれて困惑した糜芳。
「はぁ、どうも?
え~と、じゃあちょっとしたモノで良ければ。
何方か銅銭を一枚貸してくれますか?」
「どうぞコレを!」
にこやかに即座に渡す曹洪。
銭ゲバらしく、常に銭を持っている様だった。
「あ、どうも。
え~では・・・此処にあります一枚の銅銭。
ちちんぷいぷいのぷい!・・・はい、手の平から消えましたぁ~。」
「「「「「き、消えた、本当に目の前で・・・」」」」」
唖然とするギャラリーに今度は、
「では~?ちちんぷいぷいのぷい!・・・はい、今度は元に戻りました~。」
「「「「「消えた筈の銅銭が、手の平に戻ったぁ!?
す、スゴい・・・本物だ・・・。」」」」」
所謂コイン消失・出現マジックに、驚嘆の声を上げて、愕然とする曹操達。
すると、ガバッと荀攸が突然いきなり跪き、
「糜芳殿!いえ、道人様!!
是非とも私を弟子にして頂けないでしょうか!?
何卒、何卒お願いします!どうか!」
「「「「「私も、私もお願い致します!」」」」」
弟子入りを懇願し、何人もの人達も荀攸に同調して、糜芳に弟子入りを懇願して来た。
「はい?何言ってんの?」
突拍子もない出来事に、目が点になる糜芳。
(何で親方的職業(国家公務員)に就いているのに、わざわざ手品師つーピンキリの、ヤクザな職業に転職したがるの此奴等?バカじゃねーの?
・・・いや待てよ?ちゅうか何か荀攸達と俺との間に、どでかい認識の齟齬が有るような?)
背中にぞわぞわ悪寒が走る。
「ちょっとつかぬ事を聞くんですけども・・・。」
当初は呆れていた糜芳だったが、なんとなく違和感を覚え、荀攸達に探りを入れたのであった。
結果・・・
(Ohス・・・なんてこったい、手品を魔法と勘違いしとる・・・どないしょー?どないしょー!?)
あわわと内心で、ジタバタ狼狽える。
聞けば綱渡りとかジャグリング(お手玉)といった、軽業や曲芸みたいなのは、普通に存在するようだが、糜芳が見せた手品の類いは、どうやら未知の存在であり、端から観たら魔法=仙術と見えていた事に、漸く理解する糜芳。
残念ながらこの時代には、プリンセスな方やミスターなグラサン、西洋花札的男処か、スプーン曲げの方も存在しないのであった。
「え~とですね、残念ながら仙骨?が無い人には、習得は不可能なんスよ~。」
いや~と頭に後ろ手を置きつつ、どっかの神様を封じるフィクション話に、出て来そうな設定を告げ、テキトーに誤魔化す方向に舵を切る男・糜芳。
「仙骨・・・ですか?」
「はい、先天的に仙人に成れる素質を持つ者が、持っている骨相(骨の構成)の事ですね。
コレは本当に出自や血筋に関係無く、突然変異的に生まれる類いのモノらしく又、仙骨が有る者は蓬莱(神仙界)の仙人から勧誘が来ます。」
ダラダラと背筋に冷や汗を流しつつ、嘘に嘘を塗り重ねて乗り切ろうとする。
「な、なんと・・・その様な事が。
では道人様は、仙人様に勧誘された上にお会いした事が有ると!?」
「え、ええ、夢の中でですが・・・へへへ。」
前世の親父経由で知った、ミスターなグラサンマジシャンを思い浮かべる。
「只私の場合は、仙骨こそ持っていましたが素質に乏しかった様で、夢の中で指導を授かりましたが、基礎的な術しか会得出来ず、蓬莱には行けなかった落ち零れですけど。」
だから自分にホ○ミとかケ○ルとか、ライ○ィンとかサ○ダーとかは無理よ!?と、予防線を張る。
「左様ですか・・・では仙人様から勧誘が無い者は、素質が無いと言う事ですか・・・。」
「まぁ、そうなりますね。」
ガックリと肩を落とす荀攸達に頷いた。
「但し長年の修行を経て、後天的に仙骨が出来る方も、極々稀にいらっしゃる様ですけどね。
その辺の修行方法は知りませんので、道教の道士殿にでも確認してください・・・では失礼します。」
テキトーな理由をでっち上げ、そそくさと逃げ出してその場を離れたのであった。
直後に返却した銅銭を巡って、「寄越せテメエ!」「元々俺のだろうが!?」「ふざけんな!その仙具は皆の物、私が代表して預かる!」「結局お前が独占する腹積もりじゃねーか!?」だのと、地獄の餓鬼もかくやと言わんばかりの浅ましくも醜くい、壮絶な争奪戦を観えていないフリをしながら。
そうして追求を振り切った糜芳だったが、しつこく付いて来る強者がいた。
「どうかお待ちを道人様!
是非に私めを弟子にして頂きたく存じます!」
道着らしき服装を装い、何処となく気品が有る、4人程の供を連れた20歳前後の青年が、追いすがって来た。
念の為、同行している護衛の知人かどうか確認しても、全員が首を横に振ったので、「無理」と素気なく突っぱねて拒否するも、執拗に付いて来てさり気なく糜芳達に溶け込み、何時の間にか護衛達と親しくなったりと、中々の人たらしであった。
「ふぅ・・・念押しするけど、仙骨が無い者は仙術は修得出来ないぞ?
そもそも仙人から勧誘が来ていない時点で、端っから論外だけど。」
根負けした形で、移動中の休憩時間に面接擬きを行い、無駄だと諭す。
「はい、それは重々承知しております。
例え仙術を修得出来ずとも、道人様と都に轟いている、「貴方様の弟子」というのが重要なのです。」
「ふ~ん・・・肩書きが重要ねぇ・・・。
なんか訳ありかな?・・・というか名前は?」
即物的な答えに、警戒心を強める。
「あ、コレは失礼しました。
私、豫州沛国豊県出身で名は張魯、字は公稘と申します・・・お見知り置きを。」
「へっ?張魯?五斗米道の教祖が、何で私に弟子入りすんの?」
思ってもみなかった人物の名前に、ついポロっと前世の栄光的ゲーム知識を漏らす。
「!?な、何故その事をご存知なのですか!?
まさか千里眼の仙術!?お、お見逸れしました!」
驚いて後退った後、平伏する張魯。
糜芳の護衛達は素姓を隠していた張魯に、警戒心を改めて抱いて取り囲み、張魯の供達(護衛)は張魯に倣って平伏した。
(マジかいな!?有る意味曹操・劉備・孫権の3英雄よりも大物やんけ此奴!)
とんでもない大物との邂逅に、糜芳も驚く。
張魯・・・道教の一派・五斗米道の3代目教祖であり、益州漢中郡に根を張って独立勢力を形成、益州牧の劉焉の子・劉璋と敵対して抗争を繰り広げ、最終的には曹操に敗れて降伏した人物である。
パッと略歴を聞いた感じは、何処が大物やねんと言われるかも知れないが、宗教的に観た場合には滅茶クソ超重要人物であった。
何せこの張魯さん、現代中国に現存する道教の祖であり、日本では飛鳥期から平安期に渡来して伝わり、独自に変化を遂げて発展した陰陽道の大元にして、修験道にも影響を及ぼしている人物である。
分かり易く言えば、前鬼・後鬼を召喚する事で有名な修験道の開祖・役小角や、妖狐のハーフイケメン(?)陰陽師・安倍晴明らは、張魯さんが居なければ存在しなかったのだ。
(他に某中華風ゾンビオカルト映画とか、とある格闘技ゲームのキャラクターとか、巫女さんとか)
つまりマニア層からライト層といった幅広く、漫画やら二次やら腐やらR指定やらと、色んなジャンルで様々な人々がお世話になっている元を創った、有る意味仙人的人物なのである!!(断言)
それはさておき、
聞けば修行中に父が死去、直後に他宗派に拠って弾圧されて壊滅状態であり、五斗米道を急ぎ立て直すべく、活動拠点の益州に戻る途中だったようだ。
その最中に糜芳の仙術騒ぎを、偶々通りがかった洛陽で耳に挟み、「仙人の弟子」という箔づけをして、多少なりとも格を上げようと画策した模様。
(・・・うん、無理無理ムリムリリムリム!!
こんな宗教界の手塚治○みたいな奴を、弟子なんぞにしたら、七代処か末代まで祟られるわい!!)
生けるレジェンドに、宴会芸レベルのバッタ者が弟子入りを乞われるという、現在進行形で未知の恐怖を味わっている、バッタ者・糜芳。
「え、えっとね張魯さん?私如きではちょっ~と役不足なので、他を当たってくれるかな?」
愛想笑いで逃げを打つ。
「そ、そんな・・・他と言われても・・・。」
「いやいやいるじゃん、太上老君とか太上道君とか、元始天尊とかそのへん。」
「神仙界の最高位の方々じゃないですか!
どうやって知り合って当たれと!?」
糜芳の無茶振りに突っ込む張魯。
そうこう押し問答をしていると、
「う~ん・・・五斗米道・・・五斗米道、あ!?
五斗米道って云ったら、黄巾賊に次ぐ危険宗派で警戒されていた、「米賊」じゃないか!」
腕を組んで繰り言を言って唸っていた、正式に糜芳の副官として、別駕従事に就任した蔡邕の婿養子・蔡良が、素っ頓狂な声を上げた。
「者共!急いでほ・「セイヤ!」・ばくぁわ!?」
護衛達に捕縛を命じかけた蔡良に、咄嗟に鳩尾に正拳突きをカマして悶絶させ、
「さぁ、今の内に逃げるんだ張魯さん!」
「ギャアアア!?痛い、痛いぃい!?」
「へ?え?その?」
「私が抑えている今の内に早く!!」
いらん事言いに、キャメルクラッチの追撃をしつつ、臨場感を出して逃亡を促す。
「え、え、え?はい!ありがとうございます?
では失礼します!恩義は忘れませんので!?」
混乱状態になっている張魯を、張魯の供達が無理やり馬に乗せて、一目散に逃げ出したのであった。
(ふぃ~何とか乗り切ったぁ~。
コレで未来の紳士・淑女に、怨まれなくて済んだ)
咄嗟の機転で厄介事を回避し、未来の怨磋も受けずに済んで安堵の息を吐き、額の汗を拭いつつやり切った感の笑顔を浮かべる。
鳩尾と背骨をやられて、ジタバタもがいている蔡良と、筆頭官と次官のあべこべな行動に、混乱している護衛達を余所にして。
そうしたドタバタ劇の後に涼州に帰る途中、ブツブツ恨み節を呟く蔡良を、「窮鳥懐に入らずんば、猟師之を撃たず」と言っていなしつつ、司隷京兆尹の郡治所・長安県=長安の都に立ち寄り、「とある人材」をスカウトするべく、京兆尹(太守に相当)に面会をする。
訝しがる京兆尹に、霊帝が発布してくれた勅状を印籠の如く見せつけると効果覿面、即座に部下を呼んで糜芳が告げた人物の所在部署を、迅速に調べてくれた上、自ら進んで案内を買って出てくれたのであった。
そうして京兆尹を伴って案内された部署に入ると、
「お~いコレ後頼むわ~。」
「ハイッス、お任せを!」
「筆が折れちまった。」
「ハイッス、どうぞコレを使ってくださいっス。」
「あ、竹簡が足んねー。」
「ハイッスぅ!どうぞ!」
ちょろちょろと独楽鼠の様に、部署中を動き回る青年が目に付いた。
「・・・あの一本当にあやつですかな?
寒門且つ無名もいい所の、使い走りの様ですが?」
正式な案内人である部下の話を聞き、動き回っている青年を指差し、「ホンマにアイツかいな?」と困惑顔の中年京兆尹。
「ああ、間違いなく。」
(いや、ちょっと州牧様?
あんな使い走り登用してどうするんです?
もしかして小姓(側近兼連絡役)にでも、抜擢するつもりですか?)
観兼ねた蔡良が、ヒソヒソと苦言を呈していると、
「あ!これはこれは京兆尹様!
ご苦労様にございます。」
「「「「「ご苦労様にございます!!」」」」」
1人が京兆尹の存在に気付き拱手すると、皆が一斉に立ち上がって拱手する。
「京兆尹様が我々を呼ばずに、わざわざ此方にお越しとは、一体何事にございましょうや?」
部署の代表者が中年太守に問い掛けた。
「いや、私が用事が有る訳ではなく、此方に居られる糜涼州牧様が、用事が有って参られたのだ。」
「なんと!?州牧様が?
これはこれは知らずとは言えご無礼の段、平にご容赦の程を・・・。」
慌てて拝礼する代表者。
部署内の役人も右へ倣えをして、拝礼する。
「あ~楽にしてくれ、用事が済み次第、直ぐにでも出立する故に。」
「「「「「はは!!」」」」」
「え~この度主上陛下の勅許(許可)を得て、召し上げる事となった・・・張既、此方へ参れ。」
憚る様に隅っこの方で拝礼している張既を、チョイチョイと手招きする糜芳。
「「「「「ええ~!!??」」」」」
「はい?え、わ、わわわ私でスかぁ!?」
思いも拠らないぶっ飛んだ内容に、素っ頓狂な大声を上げる役人達と、まさかの自分の指名に、盛大にどもってガタガタ震える張既。
張既・・・今現在は小間使い待遇の使い走りという、下下下の下っ端役人だが、後世曹魏に於ける涼州統治に多大な功績を残し、「ミスター涼州」と言っても過言ではない程、難解な涼州民を曹魏に帰属させた傑物である。
最初は能筆家(達筆)で有名な鍾繇の部下として、涼州統治に携わり、名家出身で名士であった鍾繇とは違い、寒門出身ならではの気安さと、庶民的な理解力で以て馬騰を始めとする涼州軍閥と接し、上辺だけの付き合いではなく、真の信頼関係を構築した。
決して無能ではなかったが、出身柄上から目線で統治しようとして、度々問題を起こす鍾繇(馬超達が反乱を起こす、きっかけを作ったのはこの人です)や涼州刺史・韋康と、軍閥達の緩衝役を務めたりしている苦労人でもあった。
因みに孫娘は、曹魏の皇帝・曹芳の正妻となり、皇后になっている。
それはさておき、
「その通り張既、此方へ参れ。」
「は、ははいっス!」
嫉妬や羨望といった、複雑な感情が渦巻く上司・先輩・同僚達の間をすり抜け、糜芳の前で拝礼する。
「うむ、改めて張既に命ず!
今この場を以て、貴君を涼州漢陽郡は隴県の県令に任命致す!」
「へ?えぇぇぇ!?私が県令っスか!?」
「「「「「はぁぁぁぁぁ!!!???」」」」」
またまたぶっ飛んだ話に、部署内に役人達処か京兆尹までもが、怒号の様な大声を上げる。
下下下の下っ端が、一瞬にして部署内の人達を追い越したのだから、無理はなかった・・・。
(本当は本来の州牧・刺史だった、韋親子もスカウトしたかったけど、名家出身みたいなんで、現状相性最悪だからな~。
まぁ馬超の時に殺されてるし、後年でも揉めてるから元々軍閥とは、相性が悪かったんだろうけど)
内心ため息を吐いて諦める糜芳。
「この命は勅許を得て言っている事であり、貴君に拒否権は無い・・・と言うか、よもや断ったりしないよな無論?」
「ヒ、ひぃぃ当然でございまス!
よ、喜んで・・・いえ、謹んでお受けしまっス!」
約束された返答を返す。
「うむ、宜しい、今後は宜しく頼むぞ。
あ、そうそう、働き次第では郡太守、いや州刺史に推挙する事も辞さないから、頑張ってくれ。」
「刺史ぃいぃ!?・・・・・・ヒグッ。」
引きつけを起こしてバタンと倒れた張既。
「あれ?おーい・・・気絶してる。
しゃーないなぁ、お前達張既を担いで運んでくれ。
それと張既の家族に通達した後、張既んちの家財も運び出して、一緒に涼州に帰還するから、そのつもりで手配を頼むね、別駕従事殿?」
「「「「「ははぁ!!」」」」」
「いや、正気ですかちょっと州牧様!?」
拱手して気絶している張既を、担ぎ上げる護衛達と、幾ら何でもと抗議する蔡良。
「どーいう基準で、彼の者を抜擢したんです!?」
「う~ん・・・勘、かなぁ?」
前世知識とは言えず、テキトーに誤魔化す。
「か、勘・・・?」
「うん、勘。
駄目で元々だし、責任は私が持つから!」
ドンッと胸を叩く。
「こっちにも連座で累が及ぶんですけど義弟殿!?
理解してますか?ねぇ、ちょっと!?」
「うん、そうならない様に、キチンと張既の支援を宜しくね?義兄殿?」
「もうやだ~~!?お家に帰るぅ・・・。」
糜芳の発言に、幼児退行する蔡良であった。
こうして有能な人材兼、非常時の身替わりにする腹積もりで、張既という名の人身御供を手に入れた、糜芳なのであったのだが・・・現在・・・。
「州牧様!益州から道士が、大量に押し掛けて来て騒いでいます!」
「司隷方面か・「并州からも同じく!」
「た、大変です!荊州から大勢の道士が、接近中との急報が入りましたぁ!?」
次々とやらかしたツケの、しっぺ返しの凶報がどんどんと舞い込み、
「もうやだ~~!?お家に帰るぅ~!?」
きっちり因果応報を受ける糜芳であった。
続く
え~と、ちょっと・・・多少・・・大分前話の名残がありますかね?
まぁ、張魯と張既の2張が、登場した回になりました。
ガチで張魯さんは、日本にも間接的にではありますが、影響を及ぼしている人物です。
後の張既さんは糜芳の涼州脱出後の、丸投げ要員として登場させました。
蔡良さんは、張既さんの将来的な、補佐役といった感じですかね。
これ以上の適任者は居ないでしょうし。
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら、幸いであります。
優しい評価を1つ、宜しくお願いします。




