閑話・あの人は今・・・
読んでくださっている方々へ
え~と、前話の際に前書きと後書きを、うっかりすっ飛ばしたまま投稿してしまい、誠に申し訳有りませんでした!
本文を訂正すると、前書き等が消えちゃうのを忘れて、そのままにしてしまって・・・(汗)。
それはさておいて、何時もいいね・感想をありがとうございます!
しかも前前話の際には、レビューまで書いて頂きまして、恐悦至極に存じます。
とりあえずこの閑話で、この章は終わりにして次章に入ります。
蜀漢のボ○ビー、曹魏のコ○ンときたら、最後は勿論孫呉のド○ベーですね。
ではどうぞ・・・。
荊州長沙郡臨湘県郡太守執務室
三国志に於ける曹魏の祖・曹操が、義祖父の喪に服す名目で、故郷にてゆったりと過ごし、蜀漢の祖・劉備が何処とも知れぬ地で、望郷を募らせて過ごし、糜芳が漢陽郡太守から、涼州牧にランクアップして始末を押しつけられ、何進達に恨み辛みを募らせ、呪詛を吐いて過ごしている頃・・・
孫呉の祖・孫堅は長年の戦場での実績が買われ、荊州は長沙郡に於いて反乱を起こした、区星討伐を命じられ、その見返りに現地太守に任命されて、見事に区星を討伐。
ついでに郡境も越えて、零陵・武陵等の近隣の賊徒をも討伐し、荊州南部=荊南に於いて、「江東の虎」此処に有りと大々的に誇示、武名を轟かせていた・・・のだが、
「お~い兄や~ん、お代わり持ってきたで~・・・って策と周瑜君!?何でお前と周瑜君が此処におんねや!?
兄やんは何処行ったんや?」
決裁待ちの書類(竹簡)を、大量に抱えて持って執務室を訪れた、孫堅の実弟兼従事兼監視役の孫静は、居る筈の郡太守の兄・孫堅がおらず、居ない筈の甥・孫策と甥の友人・周瑜が居る事に、糸目を見開いて驚いた。
「どないしたんや策?一体・・・。」
「助けてや!?静おいちゃん~。
オトンが半時前(1時間前)に、「お前ちょっと座ってみ~へんか?太守の椅子は気分ええで~」って言いよってからに、ほんならて興味本位で座った後に、「厠(トイレ)に行ってくる」て言うて、それっきり帰ってきーへんのや・・・。
なんや決裁は俺に一任するって言われたゆうて、ドンドン書類を持ってくるし・・・。」
御歳数えで14歳になった、孫堅の嫡男にして軍閥次期後継者・孫策は、大量の書類の山に囲まれ、涙目でえっちらほっちら書類仕事をしていた。
因みに周瑜は、偶々遊びに来たのに巻き込まれたのに、文句1つ言わずに、孫策の倍以上の書類に囲まれながらも、サクサクと決裁をこなしている。
こうして、孫呉の祖・孫堅は、
「あんのクソ兄ぃ~!
又仕事ほっぽって脱走しよったなぁ!?
ええ加減にせいよ!?ホンマにボケがぁ!!」
書類仕事が嫌で嫌で、隙あらばしょっちゅう逃げ出す日々を過ごしていたのであった・・・。
「うん?あれ?策、祖茂は!?近衛兵長の祖茂は何処行ったんじゃ?!」
自分と監視役の双璧を成している、武人の不在に気付いて、甥に問い質す。
「え?祖茂なら、オトンと一緒に連れ立って、厠に行ったけど?」
孫策が首を傾げて答えると、
ダダダダ・・・!
「た、大変です!
祖茂隊長と近衛兵の1人が、厠で身包み剥がされた状態で、発見されました!」
「・・・おうス・・・打てば響く様な展開。」
額に手を当て、ガックリとうなだれる。
「それとコレが祖茂隊長の肩口に・・・。」
「ん?なんや?」
通報に来た近衛兵から、竹簡の一片と思しきモノを渡され見てみると、「この者達の持ち金○○銭と装備一式、確かに借用しました。後でちゃんと返金・返品します」と書かれており、商人の間で交わす、借用証みたいな内容が書かれていた。
「・・・ボケ兄がぁ!!
こんな細かい気遣いするんやったら、最初から脱走すなよアホかぁ!?」
こめかみに青筋を浮かべて絶叫し、竹簡の一片をボキリとへし折る。
「如何致しましょうや?」
「如何もクソもあらへんわ!
祖茂達をやったんは、ウチのアホ頭領様じゃい!
お前は急いで呉の義姉様に、アホ兄が脱走した事を報告し、捜索依頼を頼む様にせぇ!
後、厩に行って、馬を持って行っとらんか、確認も忘れなよ!」
「はは!直ちに!」
孫静の指示を受け、駆け去っていく。
「ふぅ、とりあえずこんなモンかいな。」
やれる事はやったと一息吐く。
「全く・・・ボケ兄やんが・・・此処長沙郡の統治の如何で、ウチら孫家と軍閥の将来の明暗が、決まるぐらいは理解しておるやろうに・・・。」
ブツブツ呟いて、頭を抱える苦労人・孫静。
僅か4年前に義勇軍を結成してから、短期間で軍閥化に成功して成り上がった、孫堅軍・孫家に取って次のステップは、拠って立つ地=根拠地を得て軍閥の定着化と、孫家の権力・勢力基盤の形成だった。
(幸いにもウチら孫家は、元々代々商人の家系のおかけで、読み書き暗算が出来るモンが殆どやから、文官には事欠かん。
いけ好かへん長沙郡の田舎名家に、頭を下げて頼らんでも、何とか政は回していける。
寧ろ反発して、反乱騒ぎを起こしてくれた方が、堂々と始末出来て、一族を後任に押し込めるから、ええぐらいやしな)
現状に於ける孫家の内政事情を、脳内で確認し、
(一代で豪商に成り上がった、オヤジが遺産を仰山遺してくれてるから、軍閥経営に関する軍資金に、今の所不足はない。
指揮能力・軍政・政務に優れた程普を陣代(孫堅不在・非常時に、代理で軍や政の指揮を執る、実質的な組織のナンバー2の事)に据えて、統括させとるから、不測の事態にも対処出来る様にしとるし・・・)
軍事的な事情も確認する。
(後は郡内の治安維持は、黄蓋と韓当に軍閥の軍事訓練も兼ねて、それぞれ定期的に、交代で警邏巡回させとるから良好や。
外交的なモンも、瑜君の実家・周家を始めとする、江東4家には1枚落ちるが、揚州有数の名家・呉家の、国太義姉様の弟・(呉)景はんが、兄やんの外交面での名代(交渉人)としておるから、上役の刺史や同位の郡太守、荊州の名家連中の折衝(交渉)に支障は有らへんし)
勢力の内外に対する事柄も、外部からの隙を突かれない様に対策をしていた。
(それに、荊州刺史に荊南方面に関する、面倒事を一任されとるよって、ウチら孫家と軍閥が実質的に、荊南方面の支配が可能になっとるしな)
大義名分を得て、都合良く荊南支配が出来る状況に、グッと拳を握り締める。
因みに現状の孫堅は、今回の長沙郡太守赴任から、反乱賊徒討伐に成功した後、江陵以北にしか関心の無い、荊州北部=荊北にある州都・襄陽に居る刺史に依り、軍事力を当てにされて、荊南の諸問題=特に反乱騒ぎを丸投げされていた。
孫堅達が、根拠地化を目指している長沙郡を始め、荊南方面は中央からは、「蛮族が蔓延る蛮地」として認識され忌み嫌われており、後に荊州を支配した劉表も、長江沿いの軍事と物流の重要拠点・江陵以南には殆ど関わりを持たず、南部4郡の太守に統治を、委任していた程であった。
(確かに中央のボンボンから観たら、荊南は武陵蛮や零陵蛮だのと蛮族のおる、中央の常識が通用せえへん厄介な土地かも知れん。
やけどがウチら揚州人にしたら、廬江蛮や山越族が居るんが普通やったから、全然気にならへん。
それに加えて江東4家みたいな、強い影響力を持った地元名家が、とんと居らへんのもええ。
ウチらの根拠地にすんのに最適や)
辺境ならばこその利点を、利用する事を画策している孫静と孫家。
実際に孫堅達が、根拠地化を目指している長沙郡は、西に武陵郡・南西に零陵郡・南に桂陽郡の3郡が隣接しており、それぞれ郡太守こそ居るものの、司令官としては無能で尚且つ、脆弱な郡兵とへっぽこ指揮官しか居らず、蛮族処か賊徒討伐すらマトモに、対処出来ない有り様であった。
そして北西には州都・襄陽がある南郡が有り、北東には江夏郡が有るが、実質的に長江によって隔てられており、隔絶した地理条件となっていた。
因みに東隣は揚州の豫章郡なので、基本的に荊州の問題には余所の事なので、中央からの指示が無い限り不干渉である。
つまり、長沙郡を始めとする荊南方面は、荊北みたいに※黄家・蔡家・龐家・蒯家といった、政治的影響力の有る名家(豪族)が存在せず又、軍事的にも貧弱な兵力と指揮官しか居らず、実質的に孫堅が持っている軍事力に、頼りっきりな状態であった。
その影響で荊南方面の民衆は、地元の県令・郡太守よりも、孫堅達を頼りにして慕っており、統治を望まれているという状況で、孫家にとって敵対勢力が存在せずに勢力拡大のし放題、俗に言う「一望千里の草刈り場」と化していたのであった。
※黄家=諸葛亮の奥さん、黄月英の実家。因みに当主は諸葛亮の義父、黄承彦。
蔡家=ボ○ビーの敵役、蔡冒の実家。因みに蔡冒は黄月英の母方の叔父さん。
龐家=鳳雛こと龐統の実家。因みに龐統の従兄弟は、諸葛亮の姉婿さん。
蒯家=後に荊州刺史に着任する劉表の軍師、蒯越・蒯良の実家。因みに祖先は、楚漢時代に国士無双と表された、韓信の軍師・蒯通。
因みの因みにこの蒯通さん、韓信に劉邦からの自立・独立を促して、「天下三分の計」を提唱していて、実は中国史上で最初に「天下三分の計」を発案した、発案者だった模様。
それはさておき、
(これ程の好機、天の時を得たと言ってもええぐらいやし、地の利も得とる。
堅兄やんの器量は底知れずやし人徳ぅ?・・・人徳も有る・・・多分。
実績で名声も得とるさかいに、信用・信頼も有る。
堅兄やんとウチら孫家が飛躍するんに、何の不足はない・・・んやけどなぁ~)
そんな孫静の、孫家繁栄=孫堅の立身出世を願う気持ちをお構いなしに、傍若無人に予測不能な行動をする実兄を思い浮かべ、上げた握り拳をヘナヘナと力無く降ろす。
そんな英傑の器量を持つ、実兄に対する尊敬と憧憬、脱走を繰り返すアホ兄に対する、怒りと殺意がせめぎ合い、知らず知らずの内に、しゃがんで懊悩していると、
「なぁなぁ静おいちゃん。
俺もうコレせんでええかな?
オトンが勝手に押し付けたヤツやし、俺はど~もこの手の処理が苦手やねん。」
甥の孫策が白い歯を見せて、書類決裁のお役目御免を強請ってきた。
どれくらい懊悩していたのかは計り知れないが、孫策を観ると書類決裁が、少ししか進んでおらず、比べて隣の周瑜は、孫策の倍近くあった書類を、孫策と変わらない量まで決裁している。
「・・・・・・・・・。」
兄の粗野な風貌に比べたら、母方の影響で風貌・所作共に粗野性が薄まり、そこはかとない気品が感じられ、ギリギリ俺様系美男子に見えなくもない風貌と、恐いくらい似た気質を持つ甥をジ~と眺めて、
ポンポン・・・
「策、ちゃんと最後まで頑張れや。」
「うぇ!?何でやねん!」
優しく肩を叩いて、任務続行を言い渡す。
(もう兄やんは今更矯正の仕様もないし、どうにもならんさかい諦めなしゃーないが、コイツだけは、コイツだけはどうにか今の内にしとかんと。
2代に渡って振り回されてたまるかい!)
自身と胃袋と孫家の未来の為、可愛い甥達(孫策の弟)の為に、心を鬼にする孫静。
「何でやねんて、※親父の兄やんの不始末は、子のお前が後始末すんのが筋やろがい。」
「そらそう言われると・・・。」
叔父に正論を吐かれ、黙り込む孫策。
(※当時の儒教的考えだと、普通に常識だった)
「ど~せ2・3年もせんうちに、やらなあかん様になるんやさかい、今の内に慣れ親しんどった方が、後々楽やぞ策?」
「イヤイヤおいちゃん?
おぎゃあな赤ん坊がハイハイから、大きゅう成長して、1人歩きして動き回ってるぐらいの、結構な差が有るやんけそれ!」
アルカイックスマイルを浮かべる孫静に、猛然と反論する。
「文句有るんやったら、脱走してお前に押し付けた兄やんに言わんかい。
それにお前は、偶々遊びに来た瑜君にまで、己の仕事を押し付けて、恥ずかしくないんか?」
「いえ、全然?全く。
「適材適所、使えるモンは猫でも使え」が、孫祖父ちゃんからの、孫家の家訓ですやんおいちゃん。」
少年期の子に対して、プライドを刺激して煽る発言をするも、あっけなくあっさりとかわされた。
「・・・ああ、そう言えば亡くなったオヤジが、そんな事言いよりおったな確かに。」
折角理詰めで孫策に仕事させようとした所に、亡父の家訓を持ち出され、話の腰を折られて亡父にいらん事しいが!と、脳内でぶつくさ罵る。
「それに俺と公瑾(周瑜)は義兄弟や!
義兄弟の悩みは義兄弟共通の悩み、義兄弟の困り事は義兄弟共通の困り事やさかい、一緒になって助けて解決するのが当然やろ?」
胸を張って、何処ぞのゴーダなタケシ君に近い、俺様な発言をする少年・孫策。
ゴスッ!!
「あいたぁ~!?」
孫静に頭を強くシバかれ、頭を押さえる孫堅ザ・セカンド。
「・・・ゴメンなぁ瑜君、こんな身勝手な自己中でアホな甥で・・・。
こんなアホでもな、未だ兄やんに比べたら大分マシやし、マトモやねん。
頼むから、策のアホを見捨てんといてくれんか?」
頭痛と胃痛に苛まれつつ、頭を下げて周瑜に懇願する、2代に渡って泣かされる苦労人。
「気にせんといてください静殿。
伯符(孫策)が武芸や兵法とかの、軍事系以外はパーなんは、幼少のみぎりから知ってますし、義兄弟の私が一朝事あらば、一も二もなく駆けつけて助ける、って言うこっちゃでしょうし。」
「せやせや、そういうこっちゃ。」
絶世の中性的な美貌に微笑みを浮かべ、孫策の言葉足らずを補足しつつ、せっせと書類決裁の手を止めずこなしていく。
「お、おう?何やか叔父として、聞き逃したらアカン様な発言が、そこはかとなく聞こえた気がすんねんけど・・・あ、ありがとうな?」
若干の違和感を覚えつつ、周瑜に謝辞を述べる。
「ほな伯符、父君の孫堅将軍の尻拭い頑張ろか?
将軍に後から武具や馬、珍しい兵法書とかの見返りを、キッチリ毟り取れる様にな。
私も頑張るさかいに、サッサと始末しようや。
早よせーへんかったら、遊ぶ事も出来へんよ?」
「せやな公瑾!オトンの持ち馬が、欲しゅうてたまらんかったさかい、強請る好機やな。
よっしゃ頑張るかいのう!」
周瑜の言葉に発奮して、俄然やる気を見せる。
(いや~ホンマに瑜君は、手の平で策の奴を上手く転がすモンやなぁ。
まぁあんま次期当主・頭領が、ホイホイ転がされるのはよーないんやけど。
策に任せっきりにしたら、「バカの考えはナントやら」になるか、取り返しの付かん所迄、行ってまうのがオチやしな。
ええ調整役が側に居たもんや、策の奴には)
孫策を上手くコントロールしつつ、せっせと書類決裁をする周瑜を観て、感心する孫静。
(眉目秀麗・才気煥発・剛毅木訥と、容姿・才能・性格良しの完璧超人ときたもんや。
天は二物処か三物を与えた人間て、世の中居てるもんなんやなぁ。
策と比較したら、美男子と野人やがな)
コントロールされる孫策を観つつ、あくせくと書類決裁する様を観て、溜め息を吐く叔父さん。
そうして書類決裁をしていく甥の、監督指導をしていると、遠くからざわめきが発生しているのが、微かに聞こえた。
やがて引き摺る様な音が聞こえ始め、
「邪魔するで~!?
あ、静さんウチの宿六連れて来たよ~。」
快活な女性の声が執務室に響く。
「これはこれは義姉様!
すんまへん!ウチのアホが迷惑掛けてからに!」
最早取り繕いもせずに、堂々と主君をアホ呼ばわりして、ペコペコ平謝りする。
「あ、あ、もう、そんなんせんといて静さん。
ウチにとっても旦那なんやし、迷惑掛けたゆうて頭を下げなアカンのは、ウチの方やから。」
赤味がかった毛色に整った顔立ち、メリハリの利いた体を、太守夫人に相応しい衣服で包んだ、妙齢の美女=呉国太が手をヒラヒラさせ、孫静に謝り返して、
「ホラ!アンタもなんか言ったらどないやの!?」
後ろ襟を掴んで引き摺って来た、庶民が着る様な着古した服に、所々破けた編み笠を被っている、ガッチリした男=孫堅に厳しく問い掛ける。
「エヘ・・・スマン「セィィィぃやぁ!!」
ドゴス!!ベキ!ガス!!
はにかみながら、謝ろうとする孫堅を遮り、全力で連撃をかます孫静。
「オゴォ!?何すんねや静!?」
「オイコラ、ゴメンで済んだら捕吏は要らへんねぞ?何晒しとんじゃ我は!?」
普段の温厚な表情を怒らせ、糸目を見開いて殴打を繰り返し、ギリギリと襟首を掴んで締め上げた。
「義姉様、ご足労掛けてすんまへんでしたなぁ。
このアホは何処でなんしょったんです?」
「市場で棒手振り(行商)のフリして、景気良う声出して遊んどったよ。
何気に繁盛しとったんが腹立つわ・・・ハァ。」
額に手を当て、ため息を吐く。
「ほう・・・そげな元気有るんやったら、1日2日ぐらい寝んでも、仕事出来るなぁ、なぁ兄やん?」
「ぐ、ぐるじいて静さん。
も、勿論お前も手伝ってくれるよね?」
締め上げられつつも、強請る孫堅。
「寝言は寝てから言えボケ!?
今度と言う今度は、地下に特別執務室を造ったるさかい、覚悟せーよ兄やん♪」
「地下って牢屋やんけ!?」
「大丈夫や、兄やんが居る所即ち執務室や。
ちゃーんと灯り付きやから、豪勢なモンやろ?」
「んなわけあるかい!?」
ギャーギャーと兄弟喧嘩を始める。
「静さん遠慮は要らへんでぇ~、キッチリウチの宿六締め上げといてや~。
・・・ったく、うん?あれ策やない。
何で策と瑜君が此処に居るん?」
旦那に意識が集中していて気付かず、漸く息子と息子の友人が居る事に気づいた。
「聞いてえなぁオカんん痛たたたぁ!?」
「策ぅ?ウチあんたには「立場有る身なんやから、言葉遣いキチッとせぇ」と言うとるよな?」
「も、申し訳ありません母上様ぁ!!
痛いっすぅ!!頬がもげてまう~!?」
母・呉国太に頬を抓り上げられ、悶絶する小覇王。
「んでどうして此処に居るのよ?」
「ヘイ!!父上に仕事を無理矢理、押し付けられたんでござんす!」
「・・・アンタ、もう一度礼儀作法と、言葉遣いの勉強やり直しな?」
「ええ!?何でですか母上様ぁ!?」
無自覚な息子の無教養さに呆れ、額に手を当ててガックリと頭を垂れる。
「まぁそれは追々やるとして・・・要するにアンタに旦那が、己の仕事を無責任に押し付けて、脱走したちゅうこっちゃな?」
「はい、ちゅうこっちゃです!」
「・・・ほう・・・あんの腐れ外道がぁ・・・。」
孫策が肯定して頷くと同時に、ギチリと拳を握り締め、目つきが鋭くなっていく。
「あ、ヤバ!?公瑾危ない!」
「へ?っうわ!?」
いち早く危険を察知した孫策は、隣りに座っていた周瑜に横っ飛びで飛び付き、庇う様にゴロゴロと転がって、勢いを殺す。
刹那のタイミングで、孫策が座っていた椅子を、ガッと片手で持ち上げると、
「こんの腐れ夫がぁ~!!我がの息子に我がの仕事押し付けた挙げ句に、サボって遊び回るなんて、何考えてんのじゃ~!?
往生させたるわ!覚悟せぇ!!」
怒髪衝天の様相で、椅子を勢いよく孫堅に振り下ろした!
ドカッバキッメキョ!!
「うぎゃあぁあ~!?我的愛人(マイハニ一)!?それはアカン!?それはアカンて!痛たた痛い!止めて~我的愛人!」
「誰が我的愛人やねんボケ!その我的愛人が腹痛めて産んだ子供を、生贄にして遊び回るんは、どういう了見じゃアンタは~!?」
容赦なくバンバン椅子を振り下ろす。
「お~お~出た出たオカンの「椅子連撃」が。
アレは効くで~、オトンがどれくらい耐えられるのか、見物やなコレは。」
「痛たた・・・それはどうでもええけど、いきなり何すんねん伯符?」
孫策に突き飛ばされた形で、横に転がっている周瑜が、非難めいた声と表情をする。
「スマンスマン、オカンはプッツンいくと手当たり次第、間近に有るモン掴んで武器にしてまう悪癖があってなぁ。
一歩間違えたら、俺達がオカンにひっ捕まって、武器にされかねんかったんや。」
「・・・経験あんのか?」
「・・・昔一回・・・居合わせた静おいちゃんと(呉)景おいちゃんが、必死に止めてくれたから、大事にならへんかったけどな。」
経験者はしんみり語る。
そうこうしている内に孫静は、「義姉様やり過ぎ!やり過ぎやて!?ああ!顔はアカン顔は!?表に出れひんなったら困るさかい、止めたって~!!」と、孫堅以上に悲鳴を上げ、怒り心頭で椅子の上下運動を繰り返す呉国太を、必死に取り押さえようと奮闘中であった。
「しかしながら国太さん、あの細腕で結構な力持ちやな~意外に。」
「う~ん・・・本人曰わく、無意識に火事場の馬鹿力で持ち上げとるだけで、本当は箸より重たいモンは持った事無い、非力でか弱い令嬢やて前に言いよったけど。」
顎に手を当てて、記憶をほじくり返し答える。
「いや、目の前でど~みても箸より重い椅子を、意識的に振り回してるやん。
それ言うんやったら、ウチの母様なんか指一本で、倒れてまう重篤者になってまうんやけど・・・。」
ギャーギャー大騒ぎしている大人達を横目に、冷静に突っ込む周瑜。
「それは俺に言われても・・・。
まぁ、本人からしたら、女性としては怪力なんが恥ずかしいのとちゃうか?
前なんか三十路にもなってや、初対面の客人に対してさばぁぁ!?」
いきなり飛んできた椅子を、慌てて転がって緊急回避する孫策。
「あ、すっぽ抜けた。
ゴメンな~策・・・処でさっき何か聞き捨てならへん事、言いよらへんかった?」
「いえいえ!な~んも言ってませんですはい!!」
ブンブンと首を左右に振って、身の安全を図る。
「そうなん?それならええけど。
瑜君もゴメンな~?折角遊びに来てくれたのに、ウチの宿六の所為で、お持て成しも出来へんで。」
片方の手で、申し訳なさそうな表情で頬に手を当てて、もう片方の手でギリギリと襟首を掴んで締め、孫堅を持ち上げている。
「い、いえ、お構いなく・・・伯符と遊ぶんで来ただけですんで・・・。」
しどろもどろに答える周瑜に対し、
「ぐ、ぐるじいて我的愛人・・・。
こ、これ以上はヤバい・・・ふ、フン!フン!?アレ?何で手が解けへんのや!?
どがいな怪力やねん!・・・ちょっと?ドンドン締まってるんですけどぉ!?我的愛人!?」
必死な形相で手を夕ップして、許しを乞う軍閥の頭領な筈の男。
「策と瑜君、ちょ~っとウチと旦那と静さんで大事なお話しが有るさかい、席外してくれる?」
「「はい、喜んで承知しました!」」
異口同音に答えて、そそくさと執務室を飛び出す。
そうして少し離れた途端、ドッタンバッタン振動と、怒号と孫堅らしきか細い悲鳴が、途切れ途切れに聞こえてきた。
「ふぅ~、なんやかんやで解放された~!!
ホンマに助かったわ。」
「まぁ、そうやけど、将軍助けんでええんか?」
「オトンの自業自得や、助ける意義がないわい。
そもそもあの状態でお前、助けれるか?」
「無理やな、諦めるしかないな。」
「せやろ?」
秒速で見捨てられる江東の虎。
「しかし国太さん、美人やけど情がキツいなぁ。」
「ホンマにな。
公瑾のオカンみたいな、清楚で優しげな人を嫁さんにしたいモンやな~。」
「せやろ?私も母様みたいな、大人しい人が嫁さんに欲しいと思うわ。」
「まぁ、どちらにせよ、オカンみたいな情のキツい女性の嫁さんは・・・。」
「「ないな。」」
異口同音に呟き、同時に頷く。
こうして2人の好みの女性の嗜好が、とある人の反面教師で、傾いたとか傾かなかったとか。
「さてほなら遊ぶかいな公瑾。
遠乗りするか?いや武芸の稽古もええな~。」
「いや先ずは礼儀作法と、言葉遣いの復習や。」
「え~?何でやねん?」
ブスッと頬を膨らまして、不満を現わにする。
「国太さんも言うてはったやろ?
お前も一軍の頭領に成る身やさかい、キチンと身に付けとかんと、お前ぎりやのうて部下や家の恥になるんやぞ?」
「う~ん・・・。」
「教養が有ると、女性にモテるで伯符。」
「よっしゃ頑張ろか!」
あっさり頷く。
(相変わらず素直で、乗せやすいやっちゃなぁ、ウチの大将は・・・。
まぁ、それも美徳なんやけど)
内心で素直な兄弟分を観て苦笑する。
幼少の時からの付き合いで、孫策は常に悪ガキ達のガキ大将として中心に居て、色んな騒ぎや出来事を次々と発生させる、台風の目の様な存在だった。
結果色々と尻拭いをする事もしばしば有り、ど突き合いや口喧嘩にもなったりしたが、なんやかんやと気が付いたら、元鞘になるのが常だった。
(なまじ名家の周家に生まれたんで、中央に出仕して官職に一喜一憂する様な、無味乾燥で詰まらん人生に成りそうやったんを、コイツに出会えた事で、私はええ生き甲斐と楽しみが出来た。
・・・まぁ、父様からすれば孫堅将軍と軍を、周家の紐付きにしたかったんやろうけどな)
残念でしたねぇ父様と、廬江郡に疎開している父に、脳内で微笑む周瑜。
周家が孫堅が義勇軍として出征中に、留守番をしていた呉国太達孫家の人達を、自邸に招き入れ住居を提供して保護したのは、勿論周家の善意もあったが、同時に揚州有数の武力集団になった、孫堅とその軍を自家に引き入れる魂胆もあった。
政治的影響力を持つ周家に、孫家の武力を合わせて周家の力を補強し、周瑜が上に立ち、孫策が下に付いて軍事面の補佐を、という目論見だった様だが、運命の皮肉というべきか、周瑜の方が孫策の器量に惚れ込んでしまい、進んで補佐に就く事を選んでしまったのである。
(伯符なら孫堅将軍に負けへん、立派な将軍に成れるやろうし、度量も劣っとらへん。
軍盤(地形や兵科の駒を使って、軍事シュミレーションをしたり、勝ち負けを競う、軍将棋みたいなモノ)では、天性の勘言うか読みで殆ど勝ってしまう、途轍もない才を持っとるし、敵対しとった集団を、喧嘩に勝って根こそぎ仲間にして、元から居た奴等と調和させた事からも、明らかや)
過去の事実からそう確信し、
(なんとなく劉邦と項羽の、ええとこ取りしたみたいな奴なんよなぁ伯符は。
危なっかしくてほっとけへんというか・・・。
蕭何や曹参なんかも、こんな気持ちやったんやろかなぁ?)
思わず声に出して笑う。
「??なんやの公瑾、急に笑い出してからに?」
「うん?いや相変わらず、お前ん所は賑やかでオモロいなぁ思てな。
ほなら頑張っていこか、大・将。」
「おう!」
未来を背負う2人の若獅子は、残り限られた青春時代を過ごすのであった。
因みに、後に本当に地下(牢屋)に特別執務室が設けられ、隙を突かれて身包み剥がされた、近衛兵長の祖茂が地下への入り口に机を置き、とある江東の虎の、呻き声や嘆き声をBGMに、淡々と仕事をこなす様になったのは・・・余談である。
え~と、呉国太は普通に史実に近い?、キツい性格の女性として書いています。
漫画風に例えれば、龍玉に登場する教育ママ・チ○にそっくりだった様です。(ガチで)
後、我的愛人=私の愛しい人を、マイハニ一と訳しているのは、表現を分かり易くする為にしておりますので、悪しからずご了承を。
ついでに孫策は、剽軽で冗句が好きな、陽気な人物だったそうなので、そういう風に書きました。
(周瑜は真面目な関西人風に、なってしまいましたが・・・コレでええっすかね?)
長々とすみません。
楽しんで読んで頂けたら、本当に嬉しいです。
読者の方々には何卒、優しい評価を宜しくお願いします。




