表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
66/111

その3

読んでくださっている方々へ


更新が遅れて大変申し訳ありません!


仕事が年度末の繁忙期真っ只中に突入し、中々時間が取れず・・・連勤はキツいっす。


遅筆ですみませんが、その分長めになっておりますので、ご容赦を・・・。


いいね・感想・誤字脱字報告ありがとうございます!これからも宜しくお願いします。

       東海郡郡治所太守執務室


187年5月、荀攸の見立て通り4月半ばに、大尉にして驃騎将軍・張温に朝廷から帰還命令が発せられ、末付けで任務失敗の不手際を責められて、官位・将軍位共に剥奪され失脚、謹慎処分を言い渡された。


これにより空位となった三公・大尉の位に、同じく三公の司徒(しと)(各州牧史の管理者にして任命官で、地方官管理の他に厚生・教育・戸籍管理のトップでもあった。現代日本で例えると、地方創生・厚生・文部科学・法務大臣を兼務した役職)をいち早く出し抜いて、売官制を利用して金銭で買い、同じ名家閥からの批判もなんのその、どこ吹く風の崔烈(さいれつ)がスライドして就任。


そしてスライドに因り空位になった司徒には、名家閥の許相(きょそう)なる人物が就任し、朝廷内の人事が目まぐるしい変動を起こした。


又、地方・涼州に於いても軍の再編成を終えた韓遂が、密約通り悪吏・汚吏の粛清を開始。


名家・宦官閥の涼州に於ける不当な活動資金源調達(大体両派閥から派遣されて着任し、権力悪用に因る略取や重税に因る搾取を、涼州に限らず彼方此方(あちらこちら)で行っていた)を断ち、同時に次々と粛清された事で影響力も排除され、韓遂・董卓の涼州軍閥・民は中央の腐れ役人を始末出来てニッコリ、大将軍の何進も政敵(アホ共)の資金源を潰せてニッコリという、WIN・WINの状態になっている頃・・・


「♪~フンフンフ~んと・・・。」

去年から比べると、格段に読み易く分かり易い決裁待ちの書類を、鼻歌混じりに「可」・「不可」・「保留」の箱にテキパキ分類・処理していく糜芳。


「可」の書類を従事の尹旋に渡して、州に提出する分と書庫に保管する分の分別を任せ、「不可」の書類は問題箇所に線引きして、再提出や書き直しを命じて、もう1人の従事・金敦に渡し、「保留」の書類に取り掛かろうとした時、


「申し上げます。」

「うん?何事だ?」

「は、太守様のご友人・士嬰様が、火急の用事が出来(しゅったい)したので、急ぎ取り次いで欲しいと参られておられますが、如何致しましょうや。」

取り次ぎの者が困惑気味に、楽士の友人・士嬰の急な来訪を告げる。


「士嬰が?・・・何だろう、通してくれ。」

「はは、承知しました。」

拱手して退出する、取り次ぎの者を目で追いながら、「何の用だろう?」と首を傾げる。


(士嬰の火急の用ってなんだべさ?

父上・母上の方なら、士嬰じゃなくて実家の使用人が来るだろうし・・・コ○ン襲来対策の方は、士嬰が知る筈も無いから違うだろうし・・・分かんねー)

全く思い当たる節が無く、色んな可能性を取捨選択してぐるぐる脳内思考していると、


「失礼します、士嬰様をお連れしました。」

「うん?ああ、ご苦労様。」

取り次ぎが士嬰を案内して来た。


「え~と、何か用か嬰?そんなに息切らして。

館に来ずにコッチ来るなんて、よっぽどの大事が有ったのか?」

「はぁはぁ・・・ああ、実は・・・。」

「え・・・?」

士嬰からの報告に、愕然とする糜芳であった。


        豫州沛国譙県付近


弓夏侯こと夏侯淵の弟・夏侯添死去、享年24。


突然の訃報に驚き弔問に訪れるべく、慌てて業務を筆頭官の尹幹・梅里に委任して、演奏依頼を受けた士嬰達楽士と共に、士嬰達の安全の為に夏侯家が付けてくれた護衛達に便乗して、急ぎ馬で譙県を目指す糜芳。


((いず)れはと思っていたけども、まさかこんなに早く亡くなるんて・・・。

去年会った時はピンピンしてたのに・・・)

自分の護衛・左郎が駆る馬に同乗し、左郎の背中にしがみつきながら、去年サーティーンな爺・蔡邕と三連星な猫目娘達から逃れた際に、夏侯添が徐州に送り届けてくれた事を思い起こす。


近世まで世界レベルで、医療技術は未発達で死は身近な存在であり、ちょっとした風邪でも重症化すれば、子供は無論の事大人でも慢性的な栄養不足で、命取りになる事も珍しくなかった。


又、大概の国々は大・中規模都市の四方を城壁で囲う、城郭都市を建設して敵の襲来や災害に備えて居た為、糞尿の不始末に因る飲み水の汚染といった不衛生な状態や、病気が密閉空間的な都市内に蔓延して、疫病化する事も多々あった。


(そらこんな昔の時代だから、平均寿命が短いのは判るし、史実でも早死にしてるけどさ・・・それでもなぁ、早過ぎるよ幾ら何でも・・・)

親兄弟思いで、温厚な人柄を偲んでいると、


ガガッ!ガガガッッ!!ヒヒィィィィンン!?


「おわぁっっ!?」

いきなり急ブレーキがかかり、馬が前脚を掻いて大きく(いなな)くと同時に、腰が浮き上がる。


「な、何だ!?ど・「殿!伏せていてください!賊徒に囲まれました!」

慌てて問い質そうとした瞬間、左郎から小声で切迫(せっぱく)した内容が告げられる。


(うぇ!?盗賊!?マジかいな!イヤァァァ・・・)

リアルヒャッハーな輩に囲まれて、転生して初めての生命の危機的状況に、恐怖を覚える糜芳。


「おうおう、テメー等結構良いモン()幾つも持ってるじゃねーか。

悪いこたぁ言わねえ、身包(みぐる)み置いていきな。

そしたら命だけばわっ!?」

「黙りやがれ・・・クソ野郎がぁぁぁ!!」

賊徒の頭目と思しき人物が、夏侯家からの護衛役を務める、先頭の曹洪に降伏勧告した瞬間、曹洪が淡々とした声の後怒声を上げ、頭目の首を躊躇無く手戟(しゅげき)(片手持ちの短い戟)で斬り飛ばした。


(ひょええぇ!?く、首がぁ、クビがぁぁ!?ボールの如く!!・・・あフん)

ボールの様にポーンと宙を舞う頭目の首を観て、血の気が引いたと思ったらフワフワとした浮遊感を覚え、糜芳は馬上で気を失う。


「な、な、な、頭ぁ!!」

「貴様等ぁ!大事な兄弟分の、大事な俺の兄弟分の不幸にまでケチをつけやがって!!

許せん許さんぞ!死ねやぁクソ共がぁぁ!!」

目に涙を溜めてブチキレた曹洪が、頭目が死んで動揺している賊徒集団に突撃し、同じく激怒した夏侯家の連枝(れんし)(親族)も、最低限の護衛を残して猛然と斬り掛かっていく。


「「「「「ヒ、ヒィィイイ!?お助け~!?」」」」」

「「「「「逃すかぁオラオラぁ!!」」」」」

未来の曹魏の将軍の威圧に、怖じ気づいた賊徒達は算を乱して潰走し、それを曹洪達は容赦なく追撃して斬り捨てていく。


約1時間後・・・


「フゥ・・・こんなモンか、さて行くとするか楽士達と糜芳殿。」

「「「「「ハイ!喜んで!お願いします!」」」」」

「・・・・・・。」

返り血にまみれた曹洪に言われ、完全にびびって脳内で「逆らっちゃ駄目だ!」×3を、天の使い的なテーゼをお持ちな某主人公の如く反芻(はんすう)し、ピシッと居住まいを正して居酒屋の店員の如く、快活で清々しい笑顔で返答する士嬰達。


「うん?あれ?糜芳殿どうしたのだ?」

「それが・・・どうも寝てしまったらしく。」

「なんと!?あの騒ぎの中寝入るとは剛胆な。」

曹洪の驚いた目線の先には、左郎にもたれ掛かって寝ている(様に見える)剛胆者(誤認)が見えた。


実際は気絶しているだけなのだが、パッと見が仏の涅槃(ねはん)像の様に、穏やかな表情で寝ている様に見える為、勘違いをされてしまう。


「まぁ、芳は主上の御前で堂々と居眠りをかました、心の臓に毛が生えている強者ですからね。」

「それは流石に剛胆過ぎるだろう!?

つーか操が言っていた事って本当だったんだかよ・・・処刑されずに良く生きているな糜芳殿は。

別の意味で凄い人物だな。」

プラス士嬰に依る実話が加味されて、ますます曹洪達に良くも悪くも勘違いされる糜芳。


後日、気絶していて知る由も無い事だが、豫州経由で勘違いエピソードが徐州に伝わり、余りの剛胆っ振りに周囲から「一身是胆(いっしんしたん)」と評され、「いや、だからそれ別の人何だけど・・・」と、再度頭を抱える羽目になったのであった。


        豫州沛国譙県夏侯淵邸


(う~ん、盗賊の首チョンパを観て気絶してたら、何時の間にか事後になってて、なんでかやたら夏侯家の護衛役連中から、尊敬?憧憬?かしらんけどキラキラした目を送られるんだが・・・ホワイ?)

徐州から豫州までの道中に、禄でもないトラブルに遭遇した糜芳だったが、気絶から復帰したら夕暮れ時で夏侯淵邸に到着しており、今回は弔問客として宿泊する部屋を宛てがわれ、白の喪服に着替えながら先程からの、不可思議な現象に首を傾げる。


知らぬが仏とはこの事であった。


「え~と、添殿の下に案内を頼みます。」

「はは、では此方へどうぞ。」

準備が整った糜芳は、私的な私用事なので公務と違って普段の口調で、夏侯家の使用人に案内を促す。


使用人に案内されて、前回と同じく淵の亡父が安置されていた、元は饗応(きょうおう)用(客をもてなす宴会場)の広間だったと思しき、灯り取りに篝火(かがりび)が幾つも焚かれた大部屋に辿り着く。


「徐州は東海郡太守・糜芳様、只今お越しになられました!!」

「おお!?よくぞ参られた!楽聖殿!!

どうか添の為に素晴らしき歌曲をお願い致す!!」

使用人が糜芳の来場を告げると、喪主に近い席から短躯(たんく)な男性・曹操が機敏に反応し、目を輝かせてバッと立ち上がった。


(うげげ!?何で短体(たんてい)コ○ンが居んの?

・・・あ、そーいやー曹操も喪中で、コッチに居るの綺麗サッパリ忘れてた!)

自分をロックオンしたコ○ンに、又歌曲を強請(ねだ)られるのかよ、とゲンナリする。


タタタッと曹操が自分の趣味で大好きな詩歌を、糜芳に強請るべく小走りし始めた所で、


「止めんか馬鹿たれ!!詩歌(しか)バカも大概にしろよお前は!?」

「んべっ!?」

曹操から少し離れた所に居た夏侯惇が、糜芳が知る涼やかな物言いとは打って変わって、厳しい口調で怒りつつ曹操の両足を、抱え込む様に両手で掴んで引き倒し、ビタンッッ!!と凄い音を立てて顔面から倒れ込んだ直後に、曹仁・曹純兄弟が詩歌バカにすかさずのし掛かって押さえ込んだ。


さながらラグビーで敵のトライを阻止したかの如く、素晴らしい連携とファインプレーであった。

・・・今現在通夜の最中でなければだが。


慌てて喪主の夏侯淵が糜芳の視界を、突発的に起きた騒動から隠す様に近づき、


「こ、これはこれは糜芳殿。

お勤めに忙しい最中、良くぞ弟・添の為に来てくださいました。感謝の言葉もございませぬ。

・・・ウチの義兄(曹操の妻・(てい)夫人と夏侯淵の妻・丁夫人は姉妹で、丁夫人達の実家丁家は、曹操の母の実家でもあった)が、弔問に来られた糜芳殿に歌曲を強請りかける等、とんだ粗相を・・・!」

拱手をした後、ペコペコと平謝りする。


「はぁ、まぁ・・・。」

「あの、どうしても操兄の非礼が許せぬと有らば、剣を持って来させますが?」

剣を持って来させる=無礼討ちで殺っちゃって良いですよ?と、ピクピクと青筋を浮かべてこめかみをひくつかせながら、凄みのある笑顔で容赦のない提案する夏侯淵。


「い、いえ、流石に其処までは・・・。」

「左様にございますか・・・御寛恕(ごかんじょ)感謝します。」

幾ら何でもと糜芳が躊躇(ためら)いを見せると、遠慮しなくても良いのに・・・とばかりに、さも残念そうな表情とは裏腹に感謝の意を述べたのであった。


~~少しお待ちください~~


なんだかんだあった後、取り押さえられた曹操がブツブツ文句を垂れるも、


「「「「「日頃の己の言動と、時と場所を(かえり)みてからモノを言えやボケ!!」」」」」

夏侯・曹両家双方から怒られて撃沈。


これ以上要らん騒ぎを起こされてたまるか!とばかりに、往年のレジェンドホームラン王に対する対策の如く「曹操シフト」が組まれ、曹操から観て右側に夏侯惇が座り睨みを利かせ、左側には妻・丁夫人が座って旦那の一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)を観察し、後方には曹仁・曹洪が座り待機して有事(コ○ン捕縛)に備え、夏侯添に拝礼をする為の通路を挟んだ対面には曹純が座り、曹操の行動に異常が有れば即座に合図を皆に送って、取り押さえる手筈を整えてと、四方八方からの監視システムが構築されていた。


流石に幾ら図太い神経をしているコ○ンも、シフトを構築されて危機意識を抱いたのか、チラチラと特に左側(丁夫人)の表情を観てビクつき首を(すぼ)め、借りてきた猫の如く大人しく座っている。


「フゥ・・・お待たせ致した糜芳殿。

ささ、添に会ってくださいませ・・・。」

「はぁ、ありがとうございます。」

やり切った感を出している夏侯淵に促され、生返事気味に答えて、木棺に安置されている夏侯添の遺骸に近付く。


そして、夏侯添のすぐ(そば)に座る淵・添兄弟の母に、「この度は・・・」と弔辞を述べた。


「わざわざ遠い所から、息子の為にお越し頂きありがとうございます・・・。

又、亡き夫の時にも丁重な弔いをして頂いたばかりか、遺影まで贈ってくださった事、感謝の念に絶えません・・・ありがとうございました。」

糜芳に二重の感謝を述べて深く頭を下げた後、必死に泣くまいとしているのか、困った様な表情の笑顔を浮かべ、気丈に振る舞う。


(・・・夏侯のおばちゃん前見た時に比べて、随分老けたなぁ・・・白髪も多くなってるみたいだし。

旦那が亡くなってすぐに、息子まで亡くなったんだから、そうなるのも至極当然ちゃあ当然か・・・)

そう思うと、痛ましい夏侯母の笑顔を見るのに堪えれなくなり、自然と目線をスッと逸らす。


(ん?)

夏侯母の後方に視線を逸らすと、やつれた表情をした若い女性が、娘と思しき糜燐と変わらない年頃ぐらいの、大勢の人達に興奮してはしゃいでいる女の子をあやしていた。


「あら、ごめんなさい、紹介しますね。

この()は添の嫁で、一緒にいる女の子は添の娘の(きょう)です。

・・・ほら、2人共お客人に挨拶をしなさい。」

糜芳が視線を逸らした先を観て、紹介を促されたと勘違いした夏侯母が、後ろの2人に挨拶を促す。


「は、はい、この度は夫の葬儀に参列していた・・・頂き・・・ぅぅ・・・。」

「ありがとーごじゃます!!」

添嫁は口上の途中で声が出なくなり(うつむ)き、娘の亨は舌足らずな声で、快活に挨拶をする。


(添さんもこんな若い嫁さんと、小さいお子さん残して逝っちまうなんて・・・さぞや心残りだった事だろうなぁ・・・うん?あれ?つーかこの亨ちゃん、夏侯淵の姪って事はもしかして・・・ス○夫の嫁になる夏侯夫人!?)

途轍もない事実に驚き、マジマジと亨を見つめる。


「うん?な~に?」

(確か夏侯夫人ってス○夫に誘拐されて(?)、済し崩し的に夫婦になるんだっけ?・・・犯罪やん!!

多分官渡戦役の200年よりは前で、呂布滅亡前後のコ○ンの所に、借り暮らしをしてた時に事件が発生していたんだったか?

ホンで呂布滅亡が190年代後半だった筈。

そんで187年現在で、亨ちゃんはど~観ても4~5歳位でスネ張が20歳位か?・・・ガチンコで犯罪やんけ!?2重の意味で!!)

ジッと見つめつつ脳内検索をしている糜芳に、キョトンと不思議そうな表情で、可愛らしく首を傾げる虎髭の彼女(仮)こと夏侯夫人(仮)。


(あ、あかん・・・早よ弓夏侯達に伝えて、亨ちゃんをど~にかしたらんと・・・って言えるかぁ!!

実の身内が不幸で亡くなってすぐに、「故人の残された子供も不幸になりますよ!」って言っている事に成っちまうやんか!・・・アカンわ言えねぇ・・・)

未来知識で100%純粋な善意で忠告したとしても、それを知らない夏侯淵達が糜芳の話を聴けば、現状だと死人に(むち)打つ処か、死人にガソリン撒いて火を着ける行為にしか受け止められずに激怒され、現在兵器で100%純粋な殺意で誅殺されると気付き、どうにもならんと頭を抱える。


「・・・阿亨、無力な俺でゴメンナサイ!」

「???わかんな~い?」

無力感に(さいな)まれ、滂沱(ぼうだ)の涙を流しながら謝罪する糜芳に、ますます首を傾げる。


余計に居たたまれなくなった糜芳は、そのまま夏侯添の遺骸に向かって拝礼をしつつ、


「アアアアァァ!(添さんゴメンナサイぃ!)。」

現状夏侯亨の不幸を改変出来ない事を、号泣して謝罪するのであった。


そして翌朝・・・


通夜を終えて夜が明けた後、告別の儀に際してバタバタと、故人の周りに敷き詰められた花を取り替えたり、篝火を撤去して掃除したり、士嬰達楽士が演奏準備を整えたりと、色々な人達が広間を右往左往動き回っていた。


(おおう・・・これまたバタバタしてんなぁ。

お、花が無造作に置いてあるけど、要らねーのか?

墓前に供える用に拝借しておこう。

前の時は結構静かだったけど、あれは地元の楽士が逃げた所為で、遅延していたからそうだっただけなんだなぁ・・・うん?そう言えば・・・)

放置されている花を袖に入れて拝借しつつ、前の時に士嬰が言っていた事を思い出し、楽士団の団長として、楽器の配置等を指示している士嬰に近付く。


「おーい嬰。」

「ん?どうしたんだよ芳?」

「いや、確か前ん時に「楽士の仁義」とかナントかで、余所の縄張りの仕事の依頼を、受けちゃいけないんじゃなかったっけ?」

仁義破りしているんじゃねーよな?と確認する。


「んなわけねーに決まってんだろ。

今回は此処の地元楽士の、応援要請で来ているから全く問題ないぞ。

ちゃんと見てみろよ芳、明らかに一緒に来た人数の倍は居るだろうが。」

「あ、確かに・・・。」

士嬰の指摘で、徐州から一緒に来た楽士の人数と、今いる人数が全然合わない事に気づいた。


士嬰が言うには、今回の葬儀の演奏を請け負った地元楽士達が、夏侯家に安い単価で請け負う代償に、「先代の時に、演奏していた楽士を招致してください!」と泣く泣く懇請(こんせい)した様で、それで夏侯家を通じて士嬰達がやって来た模様。


「へ~、それじゃあ此処の楽士って、全然儲けが無いんじゃないの?」

「有るわけ無いだろ。

ウチらの応援費用も全部アッチ(地元楽士)持ちだしな。

只の赤字処か大赤字ほぼ確定だろうなぁ。」

声量を落として、徐州組と少し離れた所に居る、豫州組の楽士達を観る。


糜芳は昔とった杵柄と言うか、前世の職業・建築関係でも、普通に同業者同士で職人の貸し借り(応援)がある業界なので、大体察する事が出来た。


大概の業界で共通していると思われるが、余所の業者さんに応援を頼むと、「応援に来てくれた、職人さんの日給+業者さんの仲介料」が応援費用のセオリーなので、元請けから貰う請負単価から応援費用をさっ引くと、少しでも浮けば(利益が有れば)儲け、トントン(プラマイゼロ)で普通、場合によっては赤(字)になる事もしばしばあったようだ。

(前世の職場の親方・自尊(自損)さん依り引用)


「ふ~ん、良くそれで嬰達に、応援要請する気になったモンだな。」

「そりゃああん時に俺らとお前が、夏侯家先代の葬儀でど派手にブチかましたからなぁ。

後々事情を知らない地元の有力者連中から、「夏侯家と同じぐらいの演奏をしろ!」って、怒鳴られたりと散々叩かれたみたいだし。

このままじゃ顧客に総スカンを食って、廃業待った無しになるから、泣く泣く赤字覚悟で身銭を切って俺らを呼んだ訳だ。」

ま、自業自得だけどな、と淡々と実情を話す。


「それに・・・。」

「それに?」

「俺達業界人からすれば、「楽聖」様の未知の歌曲が聴けるかもしれない()()()()()()

万銭払っても叶わない事が、叶うかもしれないと言ったら、()()()()を積んでくれたぜ?」

親指と人指し指で輪っかを作り、ニヤリと悪い笑みを浮かべる士嬰。


「おいおい・・・俺を出汁に使うなよ。

もしも俺が此処に来なかったら、どうする積もりだったんだお前?」

半眼で士嬰を見つめる糜芳。


「ま、ダメ元でお前に報告しに行ったんだけど。

前の時だったら縄で縛り付けても、お前を引っ張って行けたんだけど、今それをやったら、俺が縄で縛られて投獄だからな。

それに駄目なら駄目で、コッチの楽士から貰った費用から、お前の招致料を返せば良いだけだし。」

あっけらかんと答える。


「ふ~ん、成る程ね~・・・さて、士嬰君?」

悪友の肩をにこやかにポンと叩き、


「俺の招致料たっぷり貰ったんだろうなぁ、うん?

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

俺の名前使ったんだから、当然だよねぇ?

・・・解ってんだろうなぁおい。」

ドスの利いた声音で念押しする。


「へ?・・・あ!しまっ・・・。」

「俺を悲しませる事の無い様に頼むよ?

友を投獄するのは忍びないからな~。」

うっかり口を滑らせたアホに、断ったらどうなるのかを示唆(しさ)する、友達思いの優しい男・糜芳。


「うう・・・承知しました・・・。」

「一応豫州組に裏を取るからな。」

「鬼!(あやかし)!友達だろうが俺達は!?」

「いの一番にその友達を出汁に、料金ふんだくって銭儲けした奴に言われたくねーわい!」

逆ギレする士嬰に、怒鳴り返すのであった。


そんなこんなで準備が整い、士嬰達楽士が奏でる音楽をBGMに、夏侯添の遺徳を(たた)える為夏侯家に雇われた、通称泣き男と泣き女と呼ばれる、泣くのが仕事な人達が泣き始めて、告別の儀が始まった。


通夜とは打って変わって、次々と夏侯家と縁の有る人達が、代わる代わる弔問に訪れて、亡き夏侯添に拝礼して、喪主の夏侯淵に会釈をして去っていく。


前回の先代の親族だけの時とは大分違い、縁戚兼族父(ぞくふ)(本家筋の親戚)の曹嵩が、大司農という高官に就任した事で、弔問客が大勢訪れているようだ。


(う~ん、悲しいし悼む気持ちも有るけど、幾らなんでも泣き続けるのは無理・・・。

他の人達ってどうやっているんだろうか?)

正座して俯いた状態で、目線だけ周囲に()わす。


よくよく観察して観ると、雇われの泣き男女や夏侯・曹両家も、大体2人ないし3人1組が交代で泣いており、出来るだけ絶え間無く誰かが泣いていれば、別段常に泣き続ける必要性は無さそうだった。


(まぁ、そらそうか・・・。

そんな無茶な事すれば、脱水症待った無しだし。

とりあえずお経でも唱えて、添さんの冥福を祈るか)

脳内で般若心経を唱えて、故人の冥福を祈る。


そうして瞑目して冥福を静かに祈っていたら、トントンと軽く背中を叩かれたので振り返って観ると、士家の年嵩(としかさ)高弟(こうてい)が申し訳なさげに、客人席の間を縫って近付いていた。


(申し訳ありません糜太守様。)

(うん?一体どうしたの?)

(はい、あの~非常に言い難いのですが当代(士嬰)の伝言で、「1曲か2曲か歌曲を披露して欲しい」との事なのですが・・・。)

(はぁ?どういうこっちゃい!?)

伝言役の唐突な話に、ヒソヒソと声を潜めながも口調を荒げて、顔を上げて士嬰の姿を捜す。


楽士達も徐州組と豫州組に分かれて演奏し、交互に交代で休憩を取っており、丁度休憩中の士嬰と目が合った途端、隣にいた豫州組の楽士と一緒に、土下座をしつつ頭の上で合掌して、俗に言う「一生のお願い」の(ポーズ)をとり懇請していた。


(若じゃなくて当代も彼方(あちら)の無茶な要請に、当然最初は突っぱねていたのですが・・・。)

(何度も泣きつかれて、断り切れなくなったってか。)

(いえ、向こうさんに「綺麗(美人)豊満(ナイスバディ)な女性を紹介する」と言われて、イチコロでした。)

(最っ低だな!?オイ!?)

夏侯添を悼む弔意(ちょうい)よりも、士嬰を(ほうむ)る殺意の方がムクムクと大きくなる糜芳。


改めてキッと睨み付けると士嬰は、合掌した手を上下に振って必死に拝み倒すという、第2の型に移行していた。


(大体時と場所を選べよお前らは!?)

(そう言われましても・・・冠婚葬祭で飯を食ってる仕事柄、こういった時と場所で偶々合同になった、余所の楽士と交流するのが(つね)でして・・・。)

糜芳の剣幕に、困惑気味に答える高弟。


(う~ん・・・そんなモンなのか?

言われてみれば確かに、冠婚葬祭の行事で飯食ってる職業だから、おかしくないのか?・・・判らん)

高弟の話を脳内思考するが、特殊分野の業界事情なので、イマイチ理解が及ばない。


(当代もクソ先代の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)傍迷惑(はためいわく)の所為で、ウチの悪名が徐州業界では轟き渡っておりますので、嫁の来手が皆無でして・・・おいたわしや、当代も嫁探しに必死なのです。

洛陽の嫁候補は即日逃げましたし・・・。)

(ふ、不憫(ふびん)過ぎる。)

士嬰の余りの不憫な婚活事情に、夏侯添の不幸とは別に涙が零れ落ちた。


(うん?それなら・・・そうだ!)

ピーンと電球が脳内で(とも)る。


(じゃあさ、俺が可愛い女の子達を紹介するからさ、歌曲披露は無しでどうだろう?)

咄嗟の思い付きで、とある2人の1人でも押し付けようと画策する外道。


(太守様と交流の有る女性と言えば、蔡家と全家の御息女の事ですか?)

(そうそう、とっても可愛くて良い子だよ?)

何処ぞの怪しい通販の司会者の如く、セールスポイントを提示しつつ、


(・・・中身にちょっとクセが有るけど)

心中で付け足す。


(確か蔡家の御息女の姉君は、ウチの流派の家元とは好敵手関係の家元に、嫁がれておられた筈。

そのような方の妹君を娶れば、家業の仁義として家元から裏切り者の仁義破り扱いされ、破門にされて我が一門はお終いです。

流石にそれはちょっと・・・。)

幾らなんでも無理筋と、明確に拒否反応を示す。


(それと全家の御息女ですが、彼処(あそこ)には徐州最大手の楽士一門の太客でして。

ちょっかいを掛けて来たと見做されて、敵対関係になりかねませんので其処もちょっと・・・)

マズいですと、業界に於けるカースト事情を話して懸念する高弟。


(あ~それはどうしようもないね。

2人には幸せになって欲しいのに、それじゃあ不幸に成るだけか・・・。)

そんな事情ならどうにもならないと悟る。


糜芳からすれば、いきなり降って湧いた縁談に、躊躇いと抵抗が有って気後れしているだけで、2人を嫌っている訳ではなく、幸せに成って欲しい気持ちは本当に有るので、要らない揉め事に巻き込んで、不幸にさせる気はサラサラ無いので諦めた。


そして士嬰を観ると正座状態のまま両手を広げて、上半身をバッサバッサと上下運動をするという、崇め奉っているが如く、第3の型を実行していた。


(あの様な奇態を晒す程、当代は女に飢え・・・ではなく、え~嫁候補を切実に求めて要るのです!

何卒、哀れな若に御慈悲を!)

士嬰の為に土下座して懇願する高弟。


(このオッチャン、確か嬰の守り役(教育係)だったよな。

自分の子供の様に、嬰の面倒を見て来たから、嬰の将来を真剣に心配しているんだろうなぁ。

・・・確か死者に詩歌か歌曲を捧げるのは、最大の弔いになるって、コ○ンが言っていた筈。

士嬰と添さん、両者に得行と徳行に成るんだったら・・・よし、一丁やってみますか)

脳内思考をして結論を出した糜芳。


(分かりました。やりましょう。)

(おお・・・ありがとうございます!

この事を若・・・当代に伝えまする。)

そそくさと再び隙間を縫って戻っていく。


「もし、どうされたのだ糜芳殿?」

曹操シフトの後方に居た曹洪が、高弟とのやりとりに気が付いたのか、士家の高弟と入れ違いに、糜芳に近付いて問い掛けた。


「あ、いえ実は曹洪殿。

・・・亡き夏侯添殿に、歌曲を捧げたいと思うのですが、夏侯淵殿はお許しになられるのか、気に掛かっておりまして・・・。」

適当に誤魔化しながら、曹洪に確認する。


「なんと!?楽聖の貴公が、添の為に歌曲を捧げてくれると!?・・・ありがたや。

申し訳ない少しお待ちくだされ、すぐに淵兄に確認してきます!」

どうやら先代の時と違い、曹操から歌曲を故人に捧げるのは、最大の弔辞と聴いていて理解しているらしく、言うや否や、人を掻き分けて夏侯淵の所に、すっ飛んでいく。


いきなり急に寄って来た曹洪に、夏侯淵は訝しげな表情を見せていたが、曹洪が糜芳を指差して一言二言口を開くと、弾かれた様に立ち上がり、曹洪に何やら指示らしき事をした後、糜芳に向かって拝礼をする。


そして暫くの後、曹洪が夏侯淵の指示を受けて楽士達の演奏を止めさせ、泣き男女にも泣くのを止めて貰い、静まった所を見計らって、


「皆の衆只今より、主上に楽才を認められ、楽聖と謳われている糜芳殿が、我が亡き弟・添の為に、歌曲を捧げてくださるとの事だ。

喪主として兄として、弟に王侯に劣らぬ弔いをしてくださる事に、心より感謝致しますぞ糜芳殿ぅぅ。」

泣きながら、再び夏侯淵が拝礼をすると、夏侯・曹両家の一族一門が倣って拝礼する。


「あ、いえ、僕も添殿には、生前お世話になっておりましたのでお気になさらず・・・どうか皆様方、お顔を上げて頂きたく。」

言えねぇ・・・何処ぞのアホの婚活事情がきっかけで、こんな大事になるなんてと、内心冷や汗を流しながら呟く。


即座に椅子や二胡が用意され、何時でも演奏可能な状態になった。


「・・・では。」

一礼して、指笛改や二胡で演奏を始める。


「大正浪漫溢れる機甲兵器」と思われるから蝋燭の翼、「隣獣のトロル」と思われるから次女が行方不明、「おフランスのお膝元オブ・ザ・ファイヤー」と思われる曲等を演奏していく。


どの曲も儚げで悲しい曲調で、儚く世を去った夏侯添を悼む曲に、相応しいモノであった。


士家達は「新曲じゃあ!」と楽譜に起こし、豫州組も同じく興奮気味に、竹簡に書き記している。


そういった専門家は除いて大半の参列者は、悲しげな曲と共に故人を偲んで、鼻を(すす)って涙する。


(とりあえずこんなモンかな?)

程良くしんみりとした、雰囲気になったのを感じた糜芳は、演奏を止めて歌に移行する。


てくてくと喪主の夏侯淵の方に歩いて行き、泣きながら興奮して、自分に近付こうとジタバタするコ○ンを、夏侯惇達が3人掛かりで食い止めている現場を通り過ぎ、目的地に辿り着く。


「添殿の奥方殿。」

「は、はい!?わ、わ、私ですか?」

昨日挨拶した少年が、とんでもないⅤⅠРだった事に驚愕と、いきなり誰何されたことに動揺する。


「はい、そうです。

貴女の心情を歌で歌わせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「え?え?え~と・・・どうぞ?」

「ありがとうございます。」

混乱状態の添嫁から許可を貰った糜芳は、添嫁に拱手した後クルリと夏侯添に体を向け、


「♪~~~♪~~~♪・・・」

朗々と歌い始めた。


糜芳が歌っているのは、「愛する恋人との突然の別れ(話)を、女性視点・心情で歌っている別れの歌」と思われる、サスペンスドラマのED(エンディング)に流れそうな、悲哀溢れる歌曲である。


突然全く関係無い話になるが、日本語と中国語では同じ漢字でも、全く正反対になる単語が存在し、日本語で「恋人=恋愛対象者(交際相手)・愛する人(配偶者)」になるが、中国語では「恋人=愛人(妾さん)、浮気相手」になり、逆に「愛人」は中国語では「配偶者、恋愛対象者」と、日本語とは真逆になるので、本当に要注意である。


とある古代中国に転生した日本人が、転生初期に転生先の母親に「母上と父上の仲はコレですよね!!」と、父親からの惚気(のろけ)話を聞いて、堂々と胸を張って「恋人」と大きく書いた字を見せた瞬間、視界が真っ黒に染まり、意識もブラックアウトするぐらいは危険なので、マジで気をつけよう。

(とある転生日本人の実体験依り抜粋)


まぁ、真の被害者は、当人は惚気話をしただけなのに、とある転生日本人の息子の勘違いで、一転して修羅と化して怒れる嫁さんを、必死の弁明と夜の営みで宥める羽目になった、悲運な父親であったが。


それはさておき、


「~~~♪~~~~~~♪・・・ふぅ、ご静聴ありがとうございました。」

歌い終わって添嫁の方に改めて向き直り、ぺこりと頭を下げる。


「う、うわあああぁぁぁああ!!」

聞き終えた添嫁は、あやしていた娘の亨を強く抱きしめると、絶叫の様な泣き声を上げた。


余りの悲痛な叫びに、前にいた姑の淵・添母も共感したのか、添嫁に抱きついて共に泣き、淵嫁と(曹)操嫁の丁夫人達を始め、近くにいた女性が添嫁に駆け寄って、泣きながら慰める。


(おおう・・・思った以上に大事に・・・ま、まぁ次に行こう、次に)

想定以上の騒ぎにたじろぎつつも、次に移る。


「え~と、阿亨~?」

「うん?な~に?」

母達が泣いているのに理解出来ず、キョトンとして抱かれている亨に、文字通り集団となった、分厚い女性陣の外から声を掛ける。


「今から父君の添殿から、阿亨に贈る歌を歌いたいんだけど、良いかな~?」

「え、おとうたまから!?良いよいいよ歌って~。」

糜芳の話に、にぱ~っと笑顔で了承する。


「ありがとう、じゃあ・・・♪~~~♪~~♪~。」

深呼吸して息を整えて、歌い始めた。


糜芳が歌っているのは、「遠く離れた場所でも、何時でも君の事を見守っているよと奏でている」と思われる歌である。


遠く離れ離れになっても、会うことが叶わなくなっても、君の事を大切に大事に思っているよといった、子を持つ親の心情を(多分)歌っていて、子持ちの親御さんには特に刺さる歌曲である。


「~~~♪~~♪・・・ふぅ、ご静聴ありがとうごさいました。」

汗を拭って、頭を下げる。


「お、おおおおぉぉぉ・・・。」

「添殿ぉ、さぞや心残りでぇぇ・・・。」

夏侯添の子を思う気持ちと無念さを(おもんばか)り、我が身の如く嗚咽し嘆く男親達。


「??みーな泣いちゃめー!泣いちゃめーだよ?」

無邪気に可愛らしく、泣いている人達に注意している亨を観て、ますます嗚咽が大きくなった。


(う~ん、思いっきり逆効果になってんな亨ちゃん)

え?え?と、オロオロする亨を尻目に、


「え~では添殿に、この歌を捧げます・・・♪~~♪~~~♪~~。」

トリの歌を歌い始める。


糜芳が歌っているのは、「左様ならばは悲しくてもいずれ来るモノ、悲しみに負けず嘆かず頑張って強く生きていくよ、君の事は忘れない」と思われる哀惜(あいせき)の歌である。


親しい人との付き合いが「時の流れ」という、不可避なモノで別離を迎える心情を歌っており、今の現状にピッタリな歌曲であった。


「~~~♪~~~~~~♪・・・ふぅ、ご静聴ありがとうごさいました。」

ぺこりと周囲に頭を下げた後、袖から花を取り出して夏侯添に供える。途端、


「うわあああぁぁ添~~~!!!」

「あ()ぁ!?俺を踏み台にい!?」

後方に座っていた曹洪が、先方の曹操の頭を蹴り飛ばして、夏侯添に縋りついて大泣きし、曹純が曹洪の肩をさすって慰めた。


後で聞いた話だが、曹洪と夏侯添は同年生まれの、幼なじみで親友の間柄だったらしく、夏侯添が病気に掛かった時も、ケチで評判だった曹洪が金銭を惜しまず薬や方士を探し、甲斐なく亡くなった時には、誰よりも深く悲しんだ有り様だったようだ。


曹洪の男泣きに夏侯・曹両家の一族一門も、ヘッドシュートを食らって、別の意味で泣いているコ○ン以外、貰い泣きして涙して嗚咽し、弔問客も同様であり、会場が悲嘆と嗚咽に溢れる事態となった。


「え~と、あの~コレで終わりますね?」

リアルに阿鼻叫喚図を現出させてしまい、俺知~らねとそそくさ席に戻る、無責任男・糜芳であった。


結局進行が大幅にずれ込み、出棺したのは1時間以上も過ぎてからだった。


出棺から納棺場所までは、士嬰達徐州組が以前糜芳が演奏したのを再現し、豫州組が追随してそれを楽譜に起こしてコピーしていた。


そして、納棺も終わって粛々と帰路につき、会場では慰労の宴が始まる。


(ふぃ~・・・何とか無事終わったか・・・一時はどうなるかと焦ったわ。

やっぱり人気のある歌曲は、国も時代も選ばねーモンなんだなぁ)

会場に戻った糜芳は席に着いて、安堵のため息を漏らして、歌曲の影響力に改めて驚いていると、


「糜芳殿、今日は誠にありがとうございました。

添も喜んでおりましょう。」

目を腫らした夏侯淵が、酒壺を持って御礼に来る。


「いえいえ、お気になさらず・・・。」

「いえいえ、糜芳殿のお蔭で有ります。

貴方様にして頂いた事は、この夏侯淵妙才、父弟に誓って生涯忘れませぬ。

・・・ささ、とりあえず一献。」

真剣な目で報恩を誓うと、一転笑顔になって酒器にトクトクと酒を注いでいく。


(う~んと家の主人が酒を自ら注ぐのは、客人に対する最高の礼儀だっけ?確か。

断るのはマズいよな~やっぱり。

う~ん一杯だけ頂戴するか、礼儀作法として)

これだけ丁重な礼を断るのは、流石に非礼に過ぎると判断し、素直に受け取る糜芳。


本来は飲めない・飲まない場合は、酒器の飲み口に手を置く、又は酒器自体を逆さま・横に倒して置けば、「私は酒は要りません・飲めません」の合図になり、夏侯淵も酒を注がないのだが、実家での宴に関する礼儀作法を、おざなりにしていた糜芳は、全く覚えておらず、己に降りかかった災いの諸悪の根源・酒を、グイッと呑んでしまう、しまった。


(ふぃ~きく~・・・うぇへへへ~ぃ・・・い~い気分だ~な~っとくらあ)

「??もし、如何なされた糜芳殿?」

フラフラ~っと立ち上がった糜芳を、首を傾げて訝しむ夏侯淵。


「1番!糜芳で~す!!歌いま~す!」

そう言った後の記憶が飛んだ糜芳であった。


翌日、記憶がキレイにデリート(消失)していた糜芳は徐州に帰る際、やたらキラキラした目の、同年ぐらいの少年達から、「先生!ありがとうございました!僕、頑張ります!」と、謎の御礼を言われて拱手されつつ見送りされ、同じくキレイな目をした、夏侯惇や曹仁達、両家の一族一門若手総出で護衛され、帰路に着いたのであった。


(??何なんだ一体?訳判らん・・・?)

当の本人は首を傾げていたが。


そして・・・酔っ払って無自覚に幾つもの歌った歌は、徐州と同じく多くの若者の共感・感動を呼び起こし、「歌聖」として譙県から始まり、沛国→豫州全体に伝播し、名声を博す事となった。

・・・本人が知らない間に。


それと同時に、又災いを呼び寄せる事にもなり、面倒事になったのは、言うまでもなかった。


                    続く

作中に登場する歌曲は当然フィクションであり、全くの創作であります。


どっかで聴いた事が、有るような無いような感覚に囚われるのは、読者様の鋭い考察・推理という名の、気のせいですという事で悪しからず。


真面目に繁忙期真っ只中になったので、更新が遅れ気味になる事を、優しい社会人であらせられる読者様には、御寛恕頂けます様お願いします。


長々とすみません。


楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。


優しい社会人の皆様には、優しい評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そのうちネタ切れしたらどうするのかと心配になりますね。 しかし、夏侯家とここまで親密になると、主人公が心配している徐州戦乱の話とかどんな展開になるのか楽しみです。
[一言] 更新ありがとうございます。 ご無理をなさらぬ様に。  士嬰がそんな事になっていたなんて。 ここは糜芳様に一肌脱いで頂かなくては。 あれっ?ひょっとして士嬰とこの女の子が?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ