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糜芳andあふた~  作者: いいいよかん
53/111

平穏無事ってなんだっけ?・・・その1

読んで頂きありがとうございます!


なんか最近書いてくださった感想が、いつの間にか消えている現象が発生しているのですが、何故なのでしょうか?結構淋しいです。


それはさておき、


いいね、感想をありがとうございます!

          糜芳邸自室


「はぁ~、やっぱ自宅は落ち着くな~。

もう二度と洛陽なんざ、行きたくね~な~・・・。」

自室のベッドでゴロゴロするという、至福の時間を味わいつつ、フラグらしき発言をする糜芳。


1月早々に洛陽に年始の挨拶に行き、その直後に孫堅に拉致られて涼州に強制出張、策謀を駆使して速攻で鎮圧させた後洛陽に戻ると、今度は何進達に依る尋問+料敵と策謀タイムの後のしつこい勧誘といった苦難を乗り越え、漸く愛しの故郷・徐州の自宅に帰って来れたのは、2月も半ばだった。


「あ~あ、もう少ししたら豹蝉が起こしに来て、家令の趙爺の指導込みで日がな半日、書類処理の後に笮融と将来に備えての密謀かぁ・・・面倒くせ~。」

布団代わり(この時代には布団が無かった)の防寒具として、何枚も重ねた衣服を頭から被り、至福の時間の終焉を拒否するかの如く、ダンゴ虫のような体勢になる。


帰って来た当日は、ゆったりと休めたものの、翌日からは書類(竹簡)の山に執務室が占拠され、ヒイコラと処理に泣く羽目になったので有った。


それと言うのも、洛陽から帰って来た糜芳を父・糜董が暖かく出迎えてくれて、「どうだったんだい、洛陽の都は?」と、土産話をせがんで来たので、何気なく素直に、


「はい!年始の挨拶では主上の謁見が叶い、それと官軍に金銭供出が評価されて、2階級爵位(官位)が上がり、右庶長に陞爵しました!

それから直後にとある将軍に誘拐同然に涼州に連れて行かれて、反乱軍との戦に巻き込まれました!

そして何とか生還して洛陽に戻ったら、何進大将軍に部下の不明を謝罪され、諸々の口止め料として100万銭を貰いました!」

にこやかに告げると、「アバババァ!?」と糜董は白目を剥き泡を吹いて失神し、前後不覚になって寝込んでしまったからである。


因みに母・糜香は、「貴方は旦那様を憤死(ショック死)させる気なの!?」と激怒、久方振りに某生体ロボット式アイアンクローを喰らい、ギリギリと締め付けられながら、中空をプラーンとぶら下がったのであった。


そういった経緯で糜董が寝込んだ事と趙家令の、「当主としての良い修行です」と言う発言で、糜董が処理している書類が糜芳に押し寄せ、それを見た糜芳は、「いやいや、離籍して他家になっている、僕が処理したら不味いでしょ!?」と逃げを打つが、


「阿芳~?貴方自身が引き起こしたのに、貴方まさか嫌だとか抜かすんじゃ無いわよね~?

このままだと、職務で忙しい竺殿を呼び戻す事になるのだけど、判ってて言っているのかしら?」

にっこりと菩薩(撲殺(ぼさつ))の笑みを浮かべ、「嫌だと言ったら、どうなるか判ってんな?ああん?」という圧力がビシバシ伝わり、背後にはポキポキッと指の骨を鳴らす、暗殺拳伝承者の姿が幻視出来た。


「滅相も御座いません!謹んでやらして頂きます!

いえ、どうか是非僕にやらして下さいませ!

何卒お願い致します!」

以心伝心で理解し危険を察知した糜芳は、即土下座を敢行して保身に走ったのであった。


こうして糜芳は、糜董の書類処理を肩代わりする事となったのだが・・・既に4日目に突入していた。


「おかしいだろ!?もう4日目やぞ!

とっくの昔に父上回復してんじゃねーかよ!!

それなのに、「偶には親孝行をして、休ませて楽させてあげなさい」って何!?

俺がその代わりに疲労困憊してんだけど!?」

ダンゴ虫状態のまま、不平不満を露わにする。


「そら~ね、父上も当主としてのお務めで疲弊しているから、リフレッシュをした方が良いのは判るんだけども、昨日から逆に余計疲れてると言うか、頬がゲッソリやつれているよな・・・。

反比例して母上や妾さんは、顔色がつるつるの艶やかになっとるし・・・。」

一昨日まではぐっすりと寝て休んで、スッキリとした表情だった父が、昨日から急激に生気を無くしてゲッソリとしていて、(しき)りに助けて欲しそうな目でチラチラと此方を見ていた。


「う~ん・・・ま、いいか。

下手すっと母上にシバかれかねんし。

腹上死(ふくじょうし)は男の理想の逝きかたって、前世の親父が言ってたから、父上も或る意味本望だろうからな。」

糜董の身体(しんたい)と自身の安泰を天秤に架け、容赦なく自身の安泰を図る事に決める。


そのままダンゴ虫状態でぼ~としていると、


「失礼します芳当主様。

もうそろそろ起床の時間で御座いますよ。」

使用人の豹蝉が、部屋の入り口から声を掛けて入室して来た。


「・・・・・・グゥ。」

「狸寝入りしているのは判っています。

サッサと起きてく・だ・さ・い!ふぬー!!」

あっさりと狸寝入りを見抜いた豹蝉が、糜芳を起こす為に布団代わりの衣服を引っ剥がすべく、力を込めて引っ張り始める。


「後ちょっと・・・(太陽)中天(ちゅうてん)に昇ったら起きるからさ、もうちょっと。」

「中天って・・・お昼過ぎまで寝るつもりですか!?全然ちょっとじゃないじゃないですか!

御母堂様(糜香様)が直ぐ参られますから、早く起きないと怒られますよ!ウギギ・・・。」

全く起きる気がない糜芳に対し、力を込めながら糜香接近を示唆して起床を促す。


「ふん、そんなに何度も引っ掛かるもんかい。

今日は書類処理は全休して、ノンビリ休む事に決めたんだから、意地でも僕は休むぞ!」

ダンゴ虫形態のまま、豹蝉の攻撃(?)に必死に抵抗して、ストライキを宣言する。


「・・・もう!あっ、御母堂様!」

「ちょっと芳?・・・あら、どうしたの?阿蝉。」

糜香の声が聞こえた途端、


「おはよう御座います母上、今日も一段と艶やかなお肌をされてて、何よりです。」

ダンゴ虫形態からスルリと蛇が脱皮するが如く、被っていた衣服から抜け出し、蝶が舞うが如くふわりとジャンプして、米搗(こめつ)きバッタの如く土下座の体勢に流れる動作で、ホストの如く阿諛追従(あゆついしょう)(おべっか)をしつつ自然と構える糜芳。


長年の経験(?)から、弱者生存の本能が自然と導き出した最適解で、1番被害を受けない方法であった。


因みに、いきなり力が掛からなくなった所為で、衣服を引っ張っていた豹蝉は、「きゃあ!?」と悲鳴を上げてひっくり返っている。


「ええ、おはよう芳。大丈夫?阿蝉。

あのね芳、都から大将軍府?って言う所から、急使が貴方を尋ねて来ているのだけども・・・。」

「え!?何進大将軍から?」

余りに早い呼び出しに驚く。


(あれ?張純の乱って、秋麦の収穫が終わったぐらいじゃなかったっけ?

う~ん、その辺うろ覚えだから、記憶違いかな?)

脳内思考する。


「あ、そうそうそれ、大将軍府の何進って人の名代って言ってたわね確かに。

え~と、張遼って武官っぽい人が来てるわよ。」

「え!張遼将軍閣下が!?ウソ~!?ホントに!?

は、母上!張遼将軍閣下はど、何処に!?」

大ファンの武将が、自分を尋ねて来た事に大興奮した糜芳は、糜香の肩を揺さぶりながら返答を急かす。


「ち、ちょっと落ち着いて!張遼様なら、ウチの屋敷の貴賓室って・・・芳!?着替え・・・!?」

糜香から所在を聴いた途端、寝間着のまま全力ダッシュして、貴賓室に向かう糜芳であった。


          糜董邸貴賓室


「おお!張遼将軍様!ようこそお越し下さいました!

父上何を為さっておられるのですか!天下の名将をお迎えしているのに、絢爛豪華なおもてなしをせずは、非礼で有りましょう!」 

寝間着のまま前置きもなく貴賓室に突入し、談笑していた2人の会話をぶった切って、興奮気味に張遼に拱手した後に、糜董の不手際を責めた。


「ええ!?そんな大人物なのですか芳様!?

こ、これは大変失礼をば!急いで整えますので、少々お待ち下さいませ!」

「いやいやいや!?某そんな大層な者ではござらん!

将軍などでもなく只の1将校故、今でも十分なもてなしにございます!お気になさらず。」

糜董の陳謝に慌てて両手を左右に振って、お構いなくと意思表示する張遼。


因みに糜董が実子である糜芳に、丁寧語で受け答えしているのは、糜董は賤民(犯罪者や奴隷と同等)で、糜芳は官爵(貴族階級)という明確な身分差が有る為、(おおやけ)の場合での対外的な措置である。


「え~コホン・・・。糜芳様一別以来に御座います。

某に過剰な激賞(げきしょう)、有り難き幸せなれど程々にお願い申し上げます。イヤ、ホントに・・・。

・・・失礼、この度は何進大将軍閣下の、名代としてまかり越しました。

理由は言わずもがな御理解しておりましょう?」

「ええ、無論。

大将軍閣下との賭けについてですね?」

「左様に御座います。

約定通り糜芳様の勝ちとし、一千万銭を持って参りました。どうぞお納めを。」

「はい、では遠慮なく・・・。」

満面の笑みを浮かべ、目録を受け取る糜芳。


その横では糜董が、「いっ、一千万銭・・・!?」と目をひん剥いて驚愕していた。


(うひひひ・・・一千万銭=10億円ゲ~ット!!

これぐらいの知識チート?なら無問題(モーマンタイ)だろ。

天下の大将軍閣下なら、あらゆる利権で荒稼ぎしてんだろうから、端金(はしたがね)だろうしな)

脳内であくどい笑みを浮かべる。


「では確かにお渡ししましたぞ。

改めまして糜芳様、大将軍閣下より至急お会いしたいと、言付けを(うけたま)っております。

ご同行、お願いできますでしょうか?」

「はい?何進大将軍閣下が僕に?」

「はっ、是非にと・・・。」

「・・・・・・。」

ゾワゾワと嫌な予感がして、沈黙する糜芳。


「いや~大変申し訳ないのですが、父の糜董が急病で療養しておりまして・・・看病(書類処理)で現状身動きが取れませんので・・・。」

散々嫌がってストライキ宣言までしたくせに、それ以上の厄介事を感知して、即座に逃げの姿勢に入る。


「え?父君とは、今目の前にいらっしゃる糜董殿ですよね?パッと見御壮健そうですけど・・・?」

「え~と、いえいえ・・・こう見えてもつい先日急病を発して、倒れ込んだ所なんですええ、はい。」

自分が原因で倒れたとは流石に言えず、言葉を濁しつつ説明という言い訳をし始めた。


「いえいえ御使者様、芳様。

周囲の看病のお陰で、私は無事快癒に向かっておりますので、大丈夫に御座います。

大事なお役目お務めを、私の看病如きで滞らせては申し訳が立ちません。

どうかお役目お務めを果たされますよう・・・。」

糜芳の言い訳をぶった切って、にこやかに温和な笑みを浮かべ、何気な~く糜芳の梯子を外す。


(ちょっと父上!?急に何を言い出すんですか!?)

(芳、お役目を疎かにしちゃいけないよ?・・・私はもう限界なんだ・・・搾り取られて死ぬ)

(あ!売り飛ばしましたね僕を!?オイ!俺の目をキチンと見ろ、逸らすなコラぁ!!)

実の親子ならではの、目線・目配せで会話をする。


「???え~と、父君がこう(おっしゃ)っておられますが・・・如何でしょうや?」

「いや~その~・・・。」

「どうしてもと言われれば、やむなしですが()使()が控えておられます・・・如何に?」

「はい?え?」

「それでも無理と申されるならば、勅命拒否として()()()()()()()()()()()()、どれになさいますかな?」

にこやかに三択を迫る張遼。


「任意」か「強制」か「連行」かを迫られた糜芳は、


「・・・身支度をしますので、少々お待ちを。」

ガックリと肩を落とし、観念したのであった。


       洛陽大将軍府何進執務室


簡単に着替えを数着と、細々した物を葛篭(つづら)1つに入れて、昼夜兼行で各駅亭で馬を替えつつ、僅か2日足らずで走破して、張遼の運転(?)する馬に同乗して、車酔いならぬ馬酔い状態で洛陽に着いた糜芳は、張遼の案内で宮城(皇宮)内に有る、迎賓館にて盛大にゲ□を吐いて宿泊。


翌日早朝に叩き起こされて、直ぐ様何進の執務室に再び入室したのであった。


中に入ると、前回と同じメンバーで変わり映えの無い席次で座っていた。


「これはこれはようこそお越し下さいました、神使殿。」

相変わらず目に隈を作った荀攸が、殊更に丁重な言葉遣いで拱手すると、何進以外の全員が荀攸に(なら)って拱手する。


「はぁ、丁重な挨拶痛み入ります。

あの~、「神使」ってなんですか?」

聞き慣れない単語に首を傾げる糜芳。


「読んで字の如く、「神の使い・代弁者」です。

貴方様の言を疑って、大変申し訳ありませんでした。」

ペコリと頭を下げて謝罪する。


糜芳はあまりピンと来ない様だが、この時代は仏教が普及する前で、「儒教」とは別に「神仙思想」(仙人=神)が篤く信仰されており(道師がそれに該当)、古代では張良で最近では張角といった、古代中国歴史上の重要な人物、分岐点・転換点に現れたとされ、その影響で自身がそうありたいと願う、特に上流階級の人々に、熱心な信者が多かった。


「あ、いえいえ!突拍子もない事を突然言われれば、誰しも疑うのは当然の理ですので、お気になさらず。

え~と、聞くまでもないでしょうけど、早速?」

「ええ、貴方様が、「都より北東に災い有り」と言って、徐州に帰られた翌日に并州より、正しく災いの急報が届きました。

急報を聴いた途端、この部屋の時間が止まりましたよ本当に・・・。」

興奮冷めあらぬといった風情で、熱く語る。


(うん?并州?あれ?確か張純の乱って幽州か冀州じゃなかったっけ?)

発生場所のズレに首を傾げる。


「それに加えて、慌てて張遼殿に神使殿が預けた文箱を開封すると、「張姓を名乗る者が、その(みなもと)なり」が書かれた一文を見た瞬間、余りの衝撃に卒倒してしまいましたよ。」

お恥ずかしいと頭を掻き、


「正しく并州は「黒山(こくざん)」にて、「張牛角(ちょうぎゅうかく)」なる盗賊の頭目の者が、褚燕(ちょえん)なる者と一緒に黄巾賊残党と周辺の賊徒を吸収して、総勢約10万と称して蜂起、公然と朝廷に反旗を翻しました。

朝廷はこの者共を、「黒山賊」と呼称して并州の州軍と地方軍閥に討伐を命じました。

見事に預言が的中されましたね。誠にお見逸れしました。」

キラキラとした、尊敬の眼差しを糜芳に送る。


(ハイ?張牛角って誰?焼き肉屋さん?

確か黒山賊の頭って、そんな焼き肉屋さんみてーなへんてこな人物名じゃなくて、「張燕」て言う名前の人だった筈なんだけど・・・?)

張は張でも全くの別人だった事に、脳内で幾つも疑問符を浮かべる。


実際には、張牛角は黒山賊結成の初期段階で、討伐軍との戦闘の際の負傷が元で死亡、死の直前に後継者に指名された褚燕が2代目頭目になった際に、先代の張姓を名乗って、「張燕」となるのだが、其処まで三国志マニアでは無い糜芳は、当然知る由もなかった。


因みにだが、糜芳が鉄板勝ち確と考えていた「張純の乱」は、張温が張純と諍いを起こした直後ではなく、実は今から約2年後に発生する出来事であり、素で間違えていた。


発生場所を曖昧にぼかしていた事と、()()()()の別人が乱を起こした事で、賭けに勝ったラッキー勝ちだったのである。


その事を年末に、張純の乱が発生しなかった事で気付き、冷や汗を拭いながら、


「危うく後漢のタイタニック号に、強制乗船する羽目になる所だった・・・あっぶね~。

ありがとう焼き肉屋さん、貴方様のお陰で助かりました。」

張牛角に、感謝の祈りを捧げたのは言うまでもない。


それはさておき、


「いや~糜芳君、凄いねぇ。

まさか北斗の神に夢見とは言え会うなんて。

・・・賭けに負けたが改めてどうだろう、ウチの将軍府に仕官しないか?

無論安く君を買う積もりはない、今すぐは無理だがウチの次席・将軍府筆頭官か将軍に、ゆくゆくは任ずると確約する・・・どうかね?」

「・・・大変有り難き申し出で有りますが、どうも気忙(きぜわ)しい都の水が僕には合わず、田舎の徐州でノンビリ過ごすのが性に合っておりまして・・・。」

次期勢力トップという破格の待遇を提示されるも、角が立たない様にやんわりと断る糜芳。


(早晩沈むと判ってる船・何進丸=タイタニック号に、乗船する積もりはサラサラ無いし。

何進の勢力形成の源は、「外戚」の立場が有ってこそだから、万一俺が何進の勢力を継いでも、維持もままならずに消滅するのが確定だし・・・残念ながら俺にはバックボーン=後ろ盾がねーしな)

冷徹に利害得失の算盤(そろばん)を弾く。


「・・・そうかね、残念だ。

もし気が変わったら何時でも言ってくれ、歓迎する。」

「はぁ、ありがとうございます?」

前回と打って変わって、あっさりと引き下がった事に、訝しげな言葉遣いになる。


「そんなに、あっさり儂が引き下がる事が不思議なのかね?理由は単純明快だよ。

君が「死を司る神・北斗」と、繋がりを持っているからだ。

下手に無理強いしたりすると、どうなるか解ったものじゃないからね。」

「ああ、左様ですか・・・。」

何進の説明に、納得する糜芳。


(要するに下手に俺と揉めると、北斗って言う「死神」に魂魄(こんぱく)(魂)を奪われる、と思い込んでんだな。

前世の時代なら噴飯物(ふんぱんもの)のオカルト話でも、信心深い時代の人達にはそうじゃないわけだ。

まぁ、これで何進達からは、過剰な接触は無いだろうし、コッチが何進の利権を侵害しなけりゃ、別に無理に命を狙われる事も無いわけだ・・・このまま放って置くのが吉か)

利の方が大きいと判断、放置する事に決定する。


「さて、神使殿。」

「あの~その呼称は、止めて頂けませんでしょうか?

荀攸様がその様に呼ばれていると、下手な騒ぎになりかねないので・・・。」

荀一族の影響力を考えて、大っぴらに騒がれたくない糜芳は、荀攸にお願いをする。


「・・・確かに、では糜芳殿。

先立って献策して頂いた涼州の件なのですが、董卓将軍を仲立ちに韓遂に接触した所、かなりの好感触を得ました。

主上と何進大将軍閣下の御墨付きならばと。

それに、糜芳殿考案の()()()を、非常に喜んだ模様です。」

ニヤリと笑う。


「そして畏れ多くも主上への工作ですが、こちらも折を見て閣下にこっそり事情を説明して貰い、「主上の徳を名家共や天下に示す良い機会」と説得し、勅状を得る段取りとなっております。

これにより、後は張温将軍が軍編成を終え、涼州に遠征を待つばかりになっています。

但し、張温将軍の軍編成がかなり遅く、早くとも5月位になると予測されます。」

肩を(すく)めて、やれやれといった表現をした。


「う~ん、えらい悠長(ゆうちょう)ですね。」

「悠長というよりは、単純に皇甫嵩将軍や朱儁将軍の様に軍務経験者、特に万を越す軍勢を率いた経験の有る将軍が1人も居ませんので、実質的な統括役が居らず、軍編成の意見が2分3分して割れ、纏まらないのですよ。」

(しょ)(ぱな)からして、末期に入ってますね~。」

余りの阿呆っぷりに呆れかえる。


「正しく言い得て妙ですね。

まぁ、そうは言っても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

意味深な台詞を話す荀攸。


「え~と、宦官閥はって事は名家閥の方は・・・?」

「現状将軍位が袁紹殿の虎賁中郎将(こほんちゅうろうじょう)(皇帝の親衛隊長)が、名家閥の実質的な最高位でして、中郎将と言っても実際は千人程の統括者に過ぎませんから、将校並みですね。」

名家閥の軍事的現状を述べて、


「それに、袁紹殿の後ろ盾だった叔父で三公の袁隗殿が、先日三公を解任されております。

つまり権力の源泉で有る、政治の舞台から爪弾きに遭い、袁家は名実共に没落へ待ったなしに。

そんな落ち目で将校並みの、軍事的な実績・経験に乏しい将軍が将兵を募っても、マトモに将どころか兵も集まりますまい。」

満面の笑顔で、容赦なく袁家をこき下ろす。


(へ~、黄巾の乱終結から1年も経たずに、因果応報つーか自業自得というかで、董卓専制前のとっくの昔に、中央ではオワコン化してたんかよ袁家って。

そら~袁紹と袁術が中央から地方に逃げて、挙兵する筈だわ。

権力を失って周りから見放された中央よりも、「四世三公」の影響力の残滓(ざんし)が色濃く残ってる、地方の方が将兵を募るなら余程マシだろうからな~)

なる程なぁと頷く。


何故史実で中央トップ名家の袁家が、董卓台頭時に中央で将兵を糾合せずに、地方に逃げ出したかという理由が、したくてもその力が既に消失していたから、という事が理解出来たのであった。


「うん?それならよく将軍府から、袁紹殿を追い出しませんね?」

「ああ、それは袁家に替わって名家閥筆頭になった、「四世太尉(しせいたいい)」の楊家の縁戚だからですよ。

引き続き名家閥筆頭の連絡役として、利用価値が有るので在籍させているという状態ですね。」

「はぁ、そうなんですね。」

結構シビアで辛辣な理由だった。


「まぁ、本当は袁紹殿よりも血縁の近い、袁術殿が連絡役としては適任なのですが・・・素行が悪すぎてウチで抱えるのは、利よりも害の方が大きいと判断した、という経緯もあったので・・・。」

「素行がですか?」

「ええ、悪い名家連中の典型例、生きた見本ですね。」

同じ名家出身として恥ずかしい、と嘆く。


(そんなバカ坊でも家柄だの血筋だので、1群雄として勢力を形成出来るのが、ホンマに理解不能だわ)

現代日本人の感覚として、よっぽど閉鎖的な田舎でもない限り、そんな習慣などとっくに廃れているので、人柄や能力で判断しない事に首を傾げる糜芳だった。


それはさておき、


「お~い、話が逸れているぞ?」

「あ・・・コホン、失礼しました。涼州の話に戻します。」

何進の指摘を受けて、話を戻した荀攸。


「董卓将軍は、異民族襲来に備えてという体で、終始張温将軍の宦官閥軍とは別行動を取り、宦官閥軍が韓遂に敗れて、張温将軍が更迭(くび)・異動になった後、改めて韓遂との交戦を擬態、そして敗北した体の韓遂が主上の勧告を受けて帰順、収束といった段取り予定で調整をしております。」

「いや~流石は荀攸様、お見事ですね。

後は張温将軍が出発するのを、待つばかりですか。」

流石曹魏の知恵者と、荀攸の策に感心する。


「いえいえ、糜芳殿の策謀を基本骨子に、肉付けしただけですので・・・。」

謙遜しつつも、照れた表情を浮かべる。


いえいえ其方(そちら)こそ、とお互いを褒めあっていると、


「糜芳殿にお尋ね申す。

涼州の始末の目処が立った事は、理解しました。

では、今新たに発生した并州の件は今後どうなるのか、どう対処すべきなのかを御教授願いたい。」

皇甫嵩が挙手した後に、頭を下げて拱手する。


「え~と、それは其方で・「うむ、儂からも頼みたいな糜芳君。賭けとは言え1千万銭を君にあげたのだから、余禄(おまけ)をしてくれても良いだろう?」

面倒くさいので、其方でご勝手にと言おうとした瞬間、何進が言葉を被せて来て、并州の見解をオマケしろと要求して来た。


(う~ん、そう言われると断り難いな。

まぁ、前世の歴史の記憶を元に、私的見解を述べりゃあ良いだろう)

ま、良いかと脳内思考して、


「はぁ、承知しました。

では、并州の件について、個人的な見解を述べさせて頂きます。

参考程度に聞いて頂けたら、幸いです。」

とりあえず持論を述べる事にした。


「え~、今回の「黒山賊」についてですが、恐らくほぼ確実に并州軍・軍閥は敗北します。」

「「「ええ!?」」」

糜芳の予想外の予測に驚いた3人。


「ちょっと待って貰いたい!

并州兵と言えば、涼州・幽州兵と並ぶ精鋭ですぞ!?

戦闘経験も豊富な精鋭集団が、素人同然の賊徒共に敗れるとは、如何なる理由でしょうや?

それでは涼州とは、真逆ではありませぬか!!」

口から(あわ)を飛ばして食ってかかる皇甫嵩。


「ええ皇甫嵩将軍の仰る通り、涼州とは真逆に并州軍閥が不利、と言うよりは役に立たず足手纏いになりますので、主力は歩兵主体の州軍になりますね。」

あっさり肯定する糜芳。


因みにだが、地方軍閥が州軍とは別に、独自の軍隊を有しているのは、幽・并・涼州の騎馬系異民族に接する、3州だけの他州には無かった特殊な軍制であり、他州では州軍の中に派閥を形成する事を軍閥と呼び、それぞれの軍閥が州軍の主導権争いをしていた。(185年現在)


3州がそうなった経緯としては、涼州の場合は前述した通りであり、幽・并州も前漢時代から匈奴・烏丸の騎馬に依る、機動的侵略・襲来に悩まされ続け、州軍のままでは煩雑な手続きや州軍内の内ゲバで、即応性に著しく欠ける事を、度々受けた深刻な被害で痛感。


それを踏まえて即応性を追求した結果、漢帝国は主だった地元有力者達に、州軍とは指揮系統を(こと)にする独立した軍閥化と、独自の判断で行動出来る統帥権を認めたうえで、軍閥維持の為に軍需物資等の支援する事も約束し、その代わりに異民族討伐・撃退を義務化したのが始まりだった。


そうして形成された3州の地方軍閥は、騎馬系異民族に対抗する為に、自然と騎兵主体の軍となり、騎馬系異民族討伐特化の剣=アタッカーとなって異民族を討ち、逆に3州の州軍は異民族の襲来を受けた際に、州民の避難先になる城砦(じょうさい)の守備、襲来を伝達する狼煙台・駅伝の維持管理と言った、州民守護に特化した盾=ディフェンダーとなって、歩兵主体の軍になり、地方軍閥・州軍それぞれ住み分けが出来ていった。


それはさておき、


「・・・ふむ、なる程、先だっての韓遂と同じく、黒山賊が自分に有利な状況を選ぶとしたら、山岳や森林・市街戦を選択するからですね?」

糜芳の見解を受けて、明朗に答えを導き出す荀攸。


「左様にございます。

并州軍閥の主力は騎兵ですので、高低差や入り組んだ地形には使えませんし、守城などは論外ですから。」

「うん?糜芳君何故だね?

それなら馬から降りて、歩兵として戦えば良いのではないのかな?」

軍事音痴の何進が首を傾げて、糜芳に問い掛ける。


「・・・閣下、軍閥はその様な()()()()()使()()()()()()()()()()。」

皇甫嵩が横から何進に告げる。


(お~、流石に涼州軍閥の出身だけあって、荀攸と俺のやり取りで、無理な事に気付いたか)

口を挟んで来た皇甫嵩を、横目に観て感心する。


「無駄使い?」

「はい、例えば歩兵千人と騎兵千人が、それぞれ犠牲になったと仮定した場合、数の上では同数でも中身は全く異なります。」

「え、そうなのか皇甫嵩将軍?」

「ええ、歩兵の場合は新規に補充しても、みっちり訓練・修練をすれば、2~3ヵ月で実戦投入が可能になりますが、騎兵の場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()、実戦投入には年単位の時間が必要になります。

つまり、新規補充が非常に困難なのです。」

何進に解り易く、噛み砕いた説明をする皇甫嵩。


(う~ん、日本で例えると、弓術と馬術の2つの素養が求められる流鏑馬(やぶさめ)が出来ないと、騎兵になれないみたいな感じかな・・・?

・・・結構難易度高くない?それって。

そら~世界レベルで、騎兵がエリート扱いだったのは当然の話だわな)

思わず納得した。


「ふ~む、すると千人騎兵の犠牲が出ると、約5千人分の歩兵の犠牲が出たに等しい損失をする訳か。」

軍事音痴でも利害得失の計算は早く、損得面で理解を示す何進。


「左様にございます。黒山賊は約10万との事ですので、下手をすれば万前後か、それ以上の犠牲を出す結果になりかねません。

そうなれば補充もままならず、本来の任務である、異民族討伐・撃退に支障をきたします。

最悪防衛線を突破されて并州以外に異民族が、略奪をしかねない状況になる事も考えられますぞ。」

騎兵を無理に犠牲にするリスクを、皇甫嵩が話し、


「・・・かと言って州軍で討伐軍を編成すると、城砦の守備が手薄になり、隙を突かれて黒山賊の別働隊が侵入する危険性が増します。

彼方(あちら)を立てれば此方(こちら)が立たず、もどかしい限りですな。」

州軍のみで討伐軍を編成するリスクを、荀攸が話し、


「お二方の言うとおり、并州軍のみでは対処は難しく、遠からず洛陽に救援要請が来る事になるかと。」

糜芳が締めくくる。


「ふ~む、となると・・・皇甫嵩将軍、準備を頼めるか?」

「は、お任せください。

救援要請が有り次第何時でも出陣出来る様、整えておきまする。」

何進の言葉に、拱手して答える。


「して閣下、指揮官は誰に?」

「ふ~む、此処はやはり作戦上とは言え、世間的には汚名を被った形になっておるから、汚名返上を兼ねて、皇甫嵩将軍に任せようと思う。」

「有り難き幸せ!必ずやご期待に添えましょうぞ。」

荀攸が指揮官の選定を確認し何進が決定、指名を受けた皇甫嵩が喜びを露わにした。


(え~、マジかいな?嘘だろ!?気づいてないのか?

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、正気かよ?)

信じられない、と言った表情で唖然とする。


「うん?如何なさいました糜芳殿、何か?」

「いやあの・・・泥沼の消耗戦かつ、必敗の死地に行かれるお積もりなのですか?正気の沙汰とは思えませんが・・・。」

「「「はあ!?」」」

ビックリした表情をしている糜芳に気付き、荀攸が尋ねると、突拍子もない糜芳の発言に、3人が驚く。


「如何なる理由で、この皇甫嵩が戦う前の今の段階で、必敗するのか教えて貰いたい!!」

流石に腹に据えかねたのか、顔を真っ赤にして言い募る。


「如何なる理由もクソも、皇甫嵩将軍自身が兵士の補充云々を、仰っていたじゃないですか。」

「確かに言っていたが、それが?」

「例えば皇甫嵩将軍が千人の兵を犠牲にして、黒山賊を4千人討ち取ったとします。」

「ふむ、それで?」

「千人の兵が2~3ヵ月掛けて補充されるまでに、黒山賊の4千人は、半月も掛からず補充してしまうからですよ。」

「はあ!?一体どういう訳だそれは!?」

訳解らんと首を傾げる皇甫嵩。


「黒山賊の賊徒って言うのは、要するに悪政や災害などで行き場や糧を失った、流民達の成れの果てです。

その辺に何万・何十万の流民達が、ゴロゴロ居る訳ですから、些少の食料で釣れば4千人なぞ、あっという間に集まりましょう。

盗賊になるのに、訓練だのは必要有りませんし。」

「「「あ!」」」

糜芳の指摘で、皇甫嵩以外にも危険性に気付く。


「それに加えて、他の黄巾賊の残党や余所の賊徒連中も、()(どころ)を求めて集まってくるでしょうし。

つまり、要塞化した黒山に籠もって攻めるに(かた)い上に、(いなご)の如く幾らでも湧いてくる賊徒を相手にして、泥沼の消耗戦を強いられる訳です。

如何に歴戦の皇甫嵩将軍と云えど、数の暴力に押されれば、敗北は必至かと。」

延々とゾンビアタックされるぞと警告する。


「・・・確かにそうなれば、どうしようもありませぬ。

糜芳殿・・・事前に警告を発して頂き、誠にありがとうございまする。

そしてご無礼の段、平にご容赦を・・・。」

危うく汚名の上塗りになりかけた皇甫嵩は、警告してくれた糜芳に、ぺこりと拱手して頭を下げた。


「う~ん、今回はどのようにすべきでしょうか?」

「今回は敗北が必至ですので、皇甫嵩将軍や朱儁将軍を出せば、自然と階級上総司令官になってしまい、何進大将軍と両将軍の看板に傷が付き、政治的にも瑕疵(かし)になります。

なので裏方に徹し、并州軍に表立って戦って貰うのが基本になるかと。」

「確かにそうですね。」

糜芳の説明に頷く荀攸。


「後は例えば張遼様の様に并州出身者を、「故郷の危難に駆けつけた」と銘打って、志願兵として并州軍指揮下に援軍として連絡役を兼ねて送ったり、適宜(てきぎ)支援軍需物資や援軍を、并州軍閥の面子を立てつつ送って後方支援に徹し、将軍府に直接累が及ばない様にするべきです。」

「なる程、それなら軍部内で涼州で活躍出来ずに、不満が燻っている連中がおるから、不満解消と并州軍閥の援助を兼ねて、そやつらを派兵するとするか。」

糜芳の助言を聞き顎に手を当てて、誰を派遣するか思考する皇甫嵩。


「そして基本戦略としては、黒山は牽制に留めて攻撃を控えて、黒山賊に合流・合力する者達を積極的に討ち、黒山賊の拡大を防ぐのを第一とし、後は膠着状態に持ち込むのが最良ですね。」

「ふむ、黒山賊という根を断つのでは無く、同業者・協力者=枝葉を切って、孤立・弱体化させて成長させない様にする訳ですな。」

なる程と頷く。


「ええ、根を断つのに夢中になって、枝葉が茂り過ぎて手に負えなくなるのを防ぐのが、今回は肝要かと。」

要塞化していると思われる黒山に拘って、勢力=賊徒の増加を疎かにしない様に、注意を促す。


「確かに・・・閣下、并州に於ける戦略は、糜芳殿の申す通りにされるべきかと。」

「某も荀攸殿と同意見です。

あくまでも黒山賊活動地域を、黒山周辺に限定するべく動くのが宜しいかと存じます。」

参謀長と将軍が同意する。


「両名がそう言うのなら、そうすべきなのだろう。

では張遼、近く校尉(将校)位の志願兵として、并州に赴いて貰うぞ。

お主は并州軍閥の1人、丁原(ていげん)殿からの推挙で、ウチの将軍府に入った訳だから適任だ。」

「はは、承知仕りました!」

何進の命を受けて拱手する張遼。


「皇甫嵩将軍、貴殿は并州に援兵に赴く、兵の選定をしてくれ。

後はそれに伴う、軍政官の選定も同時にな。」

「はは、お任せを。」

皇甫嵩に指示を出し、


「荀攸、物資等の調達は儂がやるから、并州軍の兵数を算出して最低限必要な数と品目、それを輸送する経路等の諸々必要な事を頼むぞ。」

「ははっ・・・又徹夜ですなぁ、ハハハ・・・。」

虚ろな返事と笑みを浮かべる荀攸に、容赦なくブラックな量の仕事を命じ、


「蔡翁殿・・・蔡翁殿?」

「あ、うん、何じゃ?」

「蔡翁殿には、荀攸の予算の概算を聴いた後に、何時でも予算編成が出来る様、大司農(だいしのう)府(財務省)の尻を叩いて貰いたい。頼み申す。」

「はっ、お任せを。

今や大司農府の中枢部は、ワシの弟子達で固めておる。

造作もない事じゃ。」

最後まで言葉を発さず、心此処に非ずと言った体の蔡邕に、予算確保の依頼を頼んだ。


そういったやり取りを、ボケ~ッと実際に他人事で聴いていた糜芳は、自分はもう用無しと判断し、


「皆様方、お忙しい様なのでこれで失礼しますね。

皆様方の活躍を、遠くで祈っておりますよ、では!」

再見(バイバーイ)と手を振って踵を返した。


「ちょっと待ちたまえ糜芳君。」

「(チィッ)・・・何でしょう?大将軍閣下。」

返した途端に声を掛けられ、こっそり舌打ちしながら振り返った。


「まだまだ余禄が有るだろう君は?そう、「策謀」という余禄がね。

君の事だから、黒山賊についても何かおぞましいと言うか、恐ろしいと言うか悪辣な企みがあるだろう?」

「はい?ありませんけど・・・?」

「え~またまたぁ~。」

手をぶらぶら振って、勿体ぶっちゃって~といったジェスチャーをする何進。


「いえ、本当に無いです。と言うか不可能です。」

両手を交差させて、バッテンを作る。


「いやいやいや・・・ホントに?」

「本当の本当に本当です。」

「だって異民族や韓遂達には、「此奴人の心持ってんの?」って思うくらい、鬼畜非道な策謀をしたじゃんか君!!」

糜芳に容赦ない言葉をぶつける何進。


「判りました、鬼畜非道な策謀で閣下を破滅させるべく、早速策謀を起こしましょう。」

「いやいやいや!?冗談だよ冗談!冗句(ジョーク)冗句(ジョーク)!!」

糜芳に取り(すが)り許しを乞う何進。


「冗談はともかく、本当に無いです。」

「何故かね?」

「何故もクソもそれぞれが求めている、前提条件が違うからですよ!」

「前提条件?」

糜芳の前提条件の単語を聞いて、首を傾げる。


「異民族の場合は、「冬備えの食糧確保と自部族の拡大」ですから、食糧事情の優劣と部族間の野心や友好関係を突けば、策謀は大体上手くいきます。

韓遂の場合は、「政治思想の実現」ですから、両派閥に属さず比較的真っ当な政治姿勢を示している、韓遂の思想に近い閣下だからこそ、策謀が効きました。」

何進に2つの策謀のタネを明かし、


「しかしながら流民の果てである、黒山賊の場合は、「飯が食えて、安泰に過ごせる生活」ですから、そんなもん一朝一夕に出来る筈がありません。

つまり相手の欲して要るモノを提示出来ないので、策謀のとっかかりが無く、無理・不可能と言っているのですよ。」

実現不可能なタネでは、無理筋と説明をして、


(そんなん出来るんなら、そもそも黒山賊だの黄巾賊だのが、発生してねーだろうしな)

心中で付け足した。


実際に史実として、曹操が袁家を滅ぼし河北4州を掌握した際には、屯田制の民屯が充足していて、生活の安定感が高かったのを喧伝、黒山賊に対し宥和策を展開、田地提供を提示して帰農を促した。

彼等が心底欲して止まなかった、理想的な生活を目の前にぶら下げたのである。


その上で、袁家討滅の一環で異民族の烏丸討伐を成し遂げて滅亡させ、匈奴を震え上がらせて北方の安全を確保した結果、黒山賊の賊徒達が幹部から末端まで次々と離脱して帰農、組織内部の意見も割れて、維持もままならない状態に陥り、頭目の張燕は残った手下を率いて降伏、黒山賊は消滅したのであった。


それはさておき、


「・・・そうか、確かにそれは無理だな。

漢代々の怠慢のツケが一挙に来ているのか・・・。

遊侠の徒(反社会勢力)でなく、無辜の民が食うに食えずに田畑を棄て、流民と化した末に賊徒と成りて国家に害をなす、か・・・世も末だな・・・。」

政治的なセンスは抜群の何進は、糜芳の言に漢帝国が末期状態にある事を悟り、肩を落とした。


「まぁ、黒山賊には無理ですが、何進閣下や并州軍双方が、ニッコリする策謀はありますよ。

ちょっと条件が厳しいですけど。」

見るからに絶望的な表情を浮かべる、何進を見かねて

糜芳は策謀を提案した。


「ほう、儂と并州軍がかね?それで条件とは一体?」

「はい、凡そ年末まで并州軍が黒山賊相手に粘り、尚且つ予定通り張温将軍率いる宦官閥軍が、韓遂に敗北した場合になります。」

「うん?何で其処で張温が出て来るのだ?」

訳解らんと首を傾げる何進。


「予定通り敗北した場合、張温将軍は唯一の対抗手段を失い、にっちもさっちもいかなくなり、亀の様に手足を引っ込めて防衛に努める他、為すすべがなくなって、「寡兵に惨敗した」という汚名だけが残ります。」

「「「ふむ、確かに・・・。」」」

糜芳の話に、何進・皇甫嵩・荀攸が頷く。


「同じ将軍府を設立したのに、確かな実績と功績のある何進閣下と違い、何の実績・功績も無く汚名だけがある張温将軍は、さぞかし内心焦りが募って、汚名返上の実績・功績を欲する事でしょうねぇ。」

「「「ふむふむ。」」」

コクコクと相づちを打つ。


「そんな折りに、「并州軍が賊相手に苦戦している」という情報を与えれば、「反乱軍よりも賊徒の方が()みし易く、汚名返上の絶好の機会なのでは?」と()()()()()()()、又その様に張温将軍と同じく、このままだと面子丸潰れになる、宦官閥トップの趙忠辺りに吹き込んで、命令書でも出させれば、功績の立て様が無い涼州に見切りを付け、実状を知らずにノコノコ并州に赴く事でしょう。」

「「「・・・・・・。」」」

約束された敗北の地に、誘導されて喜び勇んで赴く哀れな驃騎将軍に、憐憫(れんびん)の情が湧いて無言になる3人。


「そうなれば後は勝手に、宦官閥軍と黒山賊が泥沼の潰し合いをして、政敵である張温将軍と宦官閥は、みるみる自身の支持基盤を削り取って細っていき(宦官閥関係者が戦死)、黒山賊は潰し合いで数が間引かれて一挙両得、何進閣下はニッコリ笑いが止まらない美味しい状態になります。

そして并州軍・軍閥は、軍制上張温将軍が黒山賊討伐の総司令官になり、「張温将軍が討伐失敗の泥を被ってくれる」事になるので、自分達の面子が潰れずに済んで、さぞやニッコリされる事でしょうね。」

「「「ハイ、ソウデスネ、ニッコリデスネ。」」」

あまりにも悪辣な策謀に戦き、片言になる3人。


こうして并州に於ける戦略も、糜芳の意見を取り上げて、それに沿った行動を何進達は始める事となった。


それと同時に、今頃自身の栄華を夢想しているであろうとある驃騎将軍に、生き地獄の未来が確定している事を知っている何進達は、深く哀れみを覚えると共に、糜芳が敵じゃなくて良かったと、心底胸をなで下ろしたという。


                    続く

楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] そっか芳ちゃんだから阿芳になんのか…
[気になる点] 使者張遼って絶対荀攸の仕込みだろw
[一言] 屯田制の頃からだけど、糜芳殿の策略って、相手の方から自滅する様な手を使うからなぁ… 敵にすると恐ろしいが、味方にしても怖い!
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