その7
涼州戦地前線付近
つい一週間程前まで、煌びやかな華の都・洛陽に居たはずの糜芳は、孫呉の祖・孫堅に因って血と埃と怒号が飛び交う涼州の戦地に、いつの間にか連れ込まれていた。
(助けて・・・誰か・・・たしゅけて・・・)
心の中で悲鳴を上げて、悲嘆に暮れる糜芳の事情などお構いなしに、どんどん戦地に近づいていく孫堅達。
やがて、「孫」の旗印がはためく陣地に辿り着くと、予め先触れの伝令がいっていたのか、孫堅の部下達が一際大きい幕舎の前で待ち構えていた。
「おう、程普ご苦労!どうだ戦況は?」
「はっ、先ずはお帰りなさいませ殿!
殿が都に行っている間何も変化はなく、相変わらずの膠着状態でございまする。」
程普と呼ばれた、何処となく気品のある男が、拱手をしながら明朗に答えた。
「ふ~む、変わらずか・・・。
董卓殿と皇甫嵩総司令の幕僚が、未だに揉めておるんかよ・・・いい加減にすればええもんを。」
「はっ、左様のようで。
・・・して殿、その手にぶら下げておられる童は?」
手荷物の様に、片手で持っている糜芳を観て、困惑気味に恐る恐る孫堅に尋ねた。
「おお、この少年か?この少年は洛陽で偶然見つけた・・・。」
「殿の隠し子ですか?奥方様に隠れて作るとは・・・そのクソ度胸に感服しました。
呉景殿、急ぎ奥方様に通報を!だらだらしていると我々まで累が及びますぞ!?」
「一切承知!」
程普の言葉を受けて、軍政官っぽい男が懐から竹簡を取り出し、せっせと筆を走らせる。
「違わい!洛陽で見出した逸材だよ!
義弟殿?ホンマに違うからな?誤解だからな!」
あたふたと必死の表情で、恐妻・呉国太の実弟・呉景に言い募る、江東の虎。
不信な目で観られながらも、何とか納得させた孫堅は、幕舎の中に部下達と共に入り、糜芳を紹介する。
「孫堅様よりご紹介を受けました、徐州・東海郡在、糜芳と申します。
先日、主上に年始の挨拶をした際に、11位・右庶長の官爵を頂戴しました。
その後に孫堅様に拐かしにあい、今此処にいる次第であります。
この怨は決して忘れません、皇甫嵩将軍に必ずやご報告致しますので、宜しくお願いします。」
丁寧な口調で、「てめ~ら、この怨みぜってー忘れねーからな!?憶えてろよ?」と怨みの念を込めて自己紹介をする。
「「「「「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・」」」」」
あまりにもぶっ飛んだ糜芳の発言に、目が点となって生返事する部下達。
「ちょっと殿?見出してきた糜芳殿から、とんでもない単語がチラホラ聞こえたのですが・・・?」
「うん?そうか?」
程普の疑問に、あっけらかんと答える孫堅。
「ええ、右庶長というやたら具体的な官爵名が出てきているし、それが本当なら貴人を殿が無理矢理連れてきた事になるのですが?」
「そういう身分に成りたい、という願望だろう。」
「いやあの、貴人に成りたい願望は解るのですが、右庶長に成りたいという細かい願望なんてします?」
「う~ん、無くもないだろう?」
ヒラヒラと手を振り、お気楽に答える。
お気楽極楽な返事をする孫堅と対照的に、どんどん顔色が悪くなる程普は、呼吸を整えて糜芳に顔を向けて、
「え~糜芳殿、主上のお召しがあったとの事ですが、何か物証をお持ちですか?」
恐る恐る糜芳に尋ねた。
「あっはい、これどうぞ。」
懐からゴソゴソと竹簡・符などを程普に提出する。
「では拝見、ちょっと失礼・・・・・・ブフォォ!ゴホッゴホッ・・・殿!ホンマもんの貴人じゃないですか!
貴人を無理矢理連れて来るなんて、何考えているのですか殿は!?
ヤバいですよこれは!?どうすんの殿!?」
糜芳宛ての勅使から渡された勅状を観て、泡を食って動揺し、ガックンガックン孫堅を揺さぶる程普。
「ははは、まさか冗談だろうが。
俺や黄蓋が素手で負けた程の猛者だぞ?
それ程の者が貴人などと、信じられる訳ないだろう。」
「「「「「えええっっっ!!!」」」」」
揺さぶられながら一笑に付した、孫堅の台詞を聞いて驚きの声と、視線を糜芳に向けた。
(う~ん、まぁ、勝ったつっても、孫堅の場合はハンデキャップだったし、黄蓋だったんかあの若白髪、はキレて直情的な攻撃だったから、カウンターが合わせやすかっただけなんだけど・・・)
冷静に分析する糜芳。
素人の一撃でも、どんな猛将といえど急所に打撃を喰らえば、大ダメージや昏倒するのは人外以外は当然である。
糜芳の場合は、偶々状況的に無防備な状態で、急所を付けたから勝っただけのラッキー勝ちであり、正面きっての勝負だったら絶対不可能だった。
しかし未だ人体の急所の概念が、周知化していないこの時代に於いては、糜芳の突きや蹴りが強いと拡大解釈され、孫堅からは、本来の強さよりも高く見積もられているのであった。
それはさておき、
すったもんだの末客将扱いとなり、皇甫嵩将軍に照会
して貰える事になった糜芳は、そのまま孫堅陣営に逗留する事となって、軍議に何故だか出席する事になった。
「え~では、現状確認を兼ねて軍議を行う。」
孫堅の代理で統率していた程普が説明を始める。
程普の説明に拠ると、此処は涼州と司隷の州境にある場所であり、目下の敵は韓遂を筆頭とする一部の涼州軍閥と、それに組する匈奴と羌族と呼ばれる異民族との混成軍、合わせて約3万の兵らしい。
それに対して此方側は総勢約7万であり、皇甫嵩将軍を総司令として長安に本部を置き、長安を起点に約5万の官軍を展開し、董卓将軍が指揮官を務める、地元勢力を結集して構成された、約2万の兵を先鋒に反乱軍と対峙、小競り合いが続いている状況のようだ。
因みに現在の孫堅軍の立ち位置は、官軍所属で董卓の涼州軍閥に出向という形で在るようで、最前線にいるものの、董卓から後方に下げられた状態の模様。
そして情勢は反乱軍が優勢であり、倍する後漢軍が押され気味で徐々に後退している。
これは総司令の軍本部と、前線司令官の董卓将軍の意見が対立しており、軍内部の意思統一が成されていない事が大きな要因のようだ。
董卓の意見は、「出来るだけ投降を呼びかけて、韓遂と離間させてから、討つべし」という慎重論・消極的な意見を述べているのに対し、軍本部の意見は、「漢に刃を向けた以上、問答無用で逆賊として異民族諸共討つべし」という強硬論・積極的な意見を述べていて、真っ向から対立していた。
これにより前線と本部の行動がチグハグになり、マトモに連携が取れないまま、反乱軍に隙をつかれてズルズルと後退していっているのが現状だった。
「・・・とりあえず、現状報告は以上です。
殿から何か意見はございますか?」
「う~む、やはり軍内部の意見が統一されてないのが致命的だな・・・勝てる戦でもこれでは勝てん。」
程普の現状報告を聞いて、ため息を吐く孫堅。
孫堅の意見に続いて意見が幾つもでるが、その殆どが本部寄りの強硬論支持であり、中には消極的な董卓の事を、「怯懦」・「臆病者」と評したり、「内通しているのでは?」だの「二股を掛けているんじゃあ?」と言った訝しむ意見も出ている始末であった。
部下達の意見を、腕も組んで黙って聞いていた孫堅は、バッと手を上げて、
「よし、皆の意見は大体分かった。
・・・う~ん、糜芳君、君の意見を聴きたい。」
皆を制した後、てきと~に聞いていた糜芳に話を振る。
「へ?僕ですか?あの僕門外漢なんすけど・・・。」
「だからこそだ。君の立場だと冷静に第3者の意見が言えるだろうからな。
何、難しく考えなくて良い。
君の思った事を言ってくれれば良いから。」
にこやかに糜芳に意見を求める。
(う~ん、確か涼州に於ける反乱って、他の地域と違って特殊な状態で反乱が頻発してたんだよな。
まぁ、馬超の乱は別物だけど・・・)
脳内で前世の記憶を探り、思考する。
「え~そうですね、僕個人としては董卓将軍の意見に賛成しますね。
寧ろ官軍自体が足手纏いでしょうし。」
「「「「「なっ!!」」」」」
糜芳の意見に絶句・激昂し、立ち上がる部下達。
「ほう、何故だ?理由を聴きたいのだが。」
激昂する部下達を目線で制し、興味津々の顔で糜芳を見つめる。
「え~とですね、韓遂達涼州軍閥は「君側の奸を除く」と銘打って反乱を起こしてますが、異民族達は「冬季の食糧調達」を目的とした略奪をする為に、韓遂達と共に反乱に加担しています。
つまり互いにそもそもの目的が違う訳です。」
「ふむ、確かに言われてみればそうだ。」
糜芳の話に頷く孫堅。
孫堅の部下達も半分近くが頷いていた。
「其処で充分な食糧を与える事を条件に帰順を促せば、ある程度の異民族が帰順して、韓遂達から離反するでしょう。」
「確かにそうなるだろうが、所詮一時凌ぎにしかならず、却って足元を観られて異民族共が、増長するだけではないか!!」
糜芳の意見に、部下の1人が反論する。
「ええ、それだけだと一時凌ぎにしかなりません。
其処で帰順に応じた部族に、「この食糧で先に領地に戻り、留守にしている他部族の領地・財産を奪った方が利益になるのではないか?」と囁くのです。」
「しかし、それで帰順した異民族が実行しなければ、只の食糧のあげ損になるだけではないのか?」
別の部下が反論する。
「はい、その通りです。それだけでは不十分ですね。
ですから、帰順に応じず残った異民族達に、「帰順した奴等は、喜び勇んで貴様等の領地に侵攻する算段だぞ?貴様等大丈夫なのか」と流言飛語をどんどん流します。」
「なる程、そうなれば例え流言と理解していても無視できなくなる。
かと言って捨て置く事も出来ないから、浮き足立って我々と事を構えている処ではなくなるな。」
糜芳の意見というか策謀を聞いて、感心した様子の程普。
「ええ、仰る通りです。
後は放って置いても、異民族同士で諍いが起こり、自壊していくでしょう。
そうなれば残るは、韓遂達涼州軍閥だけになりますから、異民族と纏めて戦うよりは、遥かに兵の損失が少なく済みましょう。
念押しで、その時に涼州軍閥にも帰順を促せば、猶良しと言った所でしょうか。」
「うむ・・・糜芳君、董卓将軍はそのような考えでいるのだろうか?」
孫堅が、探るような目線で糜芳に尋ねた。
「はぁ、恐らくは。
門外漢の僕でも思い付くのですから、百戦錬磨の董卓将軍が、考え付かないとは思えませんが。」
多分、知らんけど、と心中で付け足しながら答える。
「ふむ、それなら董卓将軍の消極的な行動が理解出来るな。
寧ろ利と理に叶った上策と言える・・・良し、我が軍は董卓将軍の策を支持するとする。」
「しかし殿!それでは我々の手柄の立て所がなくなりますぞ・・・。」
がっしりとした体格の部下が、孫堅の決定に異を唱えた。
「立て所も何も韓当、我が軍の主力は歩兵で相手は騎兵だぞ?そもそもの機動力で話になるまいに。
うん?・・・ああ、糜芳君が官軍自体が足手纏い、と言ったのはその事か。」
部下の韓当に話をしている内に、糜芳の発言の意図を理解した孫堅。
「我ら官軍が歩兵主体で有る為に、董卓将軍の騎兵隊の機動力を奪ってしまい、マトモな騎兵戦が出来なくなっているのか・・・そう言う事だろう糜芳君?」
答え合わせを糜芳に求める。
「はい、その通りであります孫堅将軍。
董卓将軍が主攻(本隊)で皇甫嵩将軍が助攻(支隊)なら、皇甫嵩将軍の軍が後方の安全を固め支援する事で、董卓将軍の軍は縦横無尽に駆け巡り、混成軍の韓遂達を蹴散らす事も容易でしょうが、今回の場合ですと常に董卓将軍が、後方の皇甫嵩将軍の安全を確保せねばなりませんから、満足に戦えないかと。」
孫堅の答えに頷き、補足説明をする。
董卓が総司令だったら、韓遂達も自分達と同じ機動力を持つ騎兵を無視出来ず、とりあえず董卓を倒してから、という思考になり、その間に皇甫嵩に後方支援を充実(補給路・中継点の確保・砦などの防衛施設建造)させて、ジワジワと韓遂達を追い詰めていく事も可能だが、今回の場合は皇甫嵩が総司令なので、韓遂達は無理に董卓と戦う必要性が無く、牽制程度の兵で董卓を釘付けにしておき、ノコノコ巣穴(長安)から出てきた鈍足なモグラを、叩けば良いだけなのである。
ハッキリ言って董卓率いる涼州兵よりも、皇甫嵩率いる官軍相手の方が、遥かに与し易いのは自明の理であり、皇甫嵩を破れば自動的に漢軍は総敗北となり、戦わずして董卓も敗走させる事が出来るオマケ付きであった。
(そら~韓遂達も皇甫嵩を狙うのは当然だわな。
あちとらさんは食糧略奪と宦官と名士達の首を狙っているのであって、地域の占領・支配なんぞ考えても無いから、それこそ縦横無尽好き放題な訳だし。
それに比べてこちとらは、鈍足な上に兵の練度も段処か桁違い、挙げ句に黄巾賊に勝ってハイになり、韓遂達を黄巾賊と同列と見做している驕兵と来たもんだ。
「約束された敗北」ってヤツだなこりゃあ)
脳内思考をしていると、ふと、
(うん?あれ?そう言えば皇甫嵩って、涼州で反乱討伐に失敗して敗北して、更迭されたんだよな確か。
・・・ヤバいじゃん俺!?約束された敗北に巻き込まれてる!どないしょー!どないしょー!?)
自分が洒落にならない事態に巻き込まれているのに気付き、テンパる糜芳。
「う~む、そうなると皇甫嵩将軍の取り巻きが提唱している積極攻勢策は、韓遂の思う壺・・・か。」
糜芳の補足を聞いて流石は名将と謂うべきか、即座に攻勢策の危険性を察知し、どうするべきか苦悩の表情を浮かべる。
「殿?如何なされました?」
孫堅が苦悩の表情をしているのを、訝しげに韓当が尋ねた。
「・・・皆の者、我らは知らず知らずの内に、敗色濃厚な状態に陥っている。」
「「「「「は?」」」」」
孫堅の敗北濃厚宣言に、目が点になる部下達。
孫堅は部下達に、韓遂の狙いが本陣急襲に有ること、恐らく董卓は牽制に釘付けにされ、身動きがとれなくこと、このままだと積極攻勢策により、野戦で韓遂達騎兵を迎え撃つ事になり、敗北濃厚な事を説明し始めた。
「しかし殿、それなら韓遂共は、牽制に約1万は割くことになりまする。
残りの2万に、皇甫嵩将軍の5万が負けるとは到底思えませんが。」
「その理屈なら、我らは黄巾賊に負けて此処には居ない事になるぞ?」
「いやいや殿、黄巾賊と皇甫嵩将軍率いる官軍を比べるなど、比較にもなりますまい。」
「では程普、黄巾賊10万と韓遂達2万、どちらが手強いと思うか?」
「それは・・・やはり韓遂達でしょうか。」
孫堅の質問に黙考した程普は、正直に自分の感想を述べた。
「ああ、俺もそう思う。
しかしそれは韓遂共相手に、実際に戦ったから理解出来る事であって、皇甫嵩将軍以下の者は知らないから理解出来ない、解らないから少数の韓遂達相手に、油断する危険性が非常に高いと俺は思っている。」
「それなら急ぎ皇甫嵩将軍に警告を!?」
「無駄だ。外様の1将校に過ぎん俺がご注進した所で、マトモに相手などされん。
只でさえ積極攻勢策を述べている将校が多いのに、真逆な注進をしても途中で握り潰されるのがオチだ。」
「そ、そんな・・・。」
孫堅の冷徹とも言える発言に、二の句が継げなくなる程普。
呆然としている程普から視線を外し、何時の間にか頭を抱えている糜芳に目を向け、
「さて、糜芳君。我らはどうすれば良いと思う?」
微苦笑しながら糜芳に問いかける。
「はい、最早約束された敗北を覆す事が不可能とあらば、孫堅将軍がとれる行動は2つでしょうか。」
「約束された敗北か・・・的確だが聞きたくない嫌な言葉だな・・・ハァ、それで1つ目は?」
糜芳の発言を聞いて、ため息を吐きながら話を促す。
「1つ目は急ぎ皇甫嵩将軍の軍と合流し、韓遂の奇襲を警告しつつ、共に戦う事です。
警告を発した分は、勝てぬまでも官軍の被害が軽減されましょう。」
「上手くいけば、手柄を立てる好機にもなるが、我が軍の被害も甚大になりかねんな、その場合。」
リスクとリターンを瞬時に解する孫堅。
「確かにそうですね。では2つ目。
最低限の義理で警告の使者を送り出し、孫堅将軍はそのまま董卓将軍に張り付いている事です。
孫堅将軍の軍は、ほぼ無傷で残る事が出来ましょう。
只、皇甫嵩将軍の軍の被害がどうなるか、見当が付きませんが。」
「ふむ、損害覚悟で手柄を得るか、手柄を捨てて温存を図るか・・・か。」
糜芳の提案を聞いて、腕を組んで黙考する。
部下達は意見を挟まず、孫堅の去就に固唾を呑んで見守っていた。
「・・・良し、このまま董卓将軍の下に留まり、警告の使者を送る事とする。
程普、使者を急ぎ送る手配をしろ。」
「はは!承知しました・・・殿、宜しいので?」
拱手した後、おそるおそる孫堅に尋ねた。
「宜しいも何も、1つ目は不確定要素が多すぎる。
そもそもが軍令に背く事になるし、駆け付けたからといって、手柄を得れるとは限らん。
そんな状態でお前等と共に、折角これ程の軍勢を育てたのに、無駄死に・犬死にさせるような、馬鹿な事は出来ん。
それなら多少の罪悪感は在るが、次に備えて温存していた方が遙かにマシだ。」
「確かに、左様でございますな。」
孫堅の冷静な判断に納得の表情を浮かべる。
「せめてもの義理だ。出来るだけ早く送るように。」
「はは!」
孫堅は部下達にテキパキと指示を送ると、糜芳に身体を向けて肩に手を置いて、
「いやはや糜芳君。
武勇だけでなく、優れた知謀まで持っていたなんて、とんでもない傑物だなこりゃあ。
どうだい?本当にウチ来ない?今ならウチの軍師として遇するよ?どう?」
わりかし本気の目で勧誘をし始めた。
(まぁ、これが他のチート転生者なら喜び勇んでOKするんだろうけど、前世の自分がしがない建設作業員だった記憶と、この身体の元々の持ち主がモブ武将に過ぎないのを知っているから、気後れしちまうよな~どうしても。
それに孫家もわりかし波乱万丈だし)
孫堅の死後、孫策→孫権に至るまでを前世の記憶で思い出し、二の足を踏む糜芳。
安定重視の糜芳からすれば、キングボ○ビーは無論論外だが、三国志のト○一家(孫権以外全員短命)も孫権が良い年になるまで、結構浮き沈みが激しいので、あまり気乗りしない勢力であった。
(それに、最初の目標だった、「豪商になって、綺麗な姉ちゃん侍らせて、ウハウハ!」計画は頓挫しちまったけど、「係る災難は振り払って、平穏無事に綺麗な嫁さんと側室1~2人と共に過ごす」計画はまだ遂行中だしな。
・・・側室処か嫁さん候補も居ないけど)
自分で思考して、悲しい現実に涙が出そうになる。
それから暫く孫堅の勧誘を、のらりくらり躱していた所、伝令が幕舎に入って来た。
「孫堅様、申し上げます!」
「どうした?」
「はっ、長安より皇甫嵩将軍閣下が、お見えになられました!」
「なにぃ!?総司令直々にだと!?
解った、急ぎお迎えに上がるから、案内を頼む。」
「いえ、それが、孫静様を案内に、此方に間もなくお越しになられます!」
「はぁ?なんで静が一緒におんねんな?」
驚きのあまり、地元方言が素で出ている孫堅。
伝令が返事する間もなく、ズカズカと荒い足音を立てて、熊顔のオッサンこと皇甫嵩と、すぐ脇に糸目の兄さんこと孫静が、無言で幕舎に入って来るや否や、
「~~Χm-,jtpやgjwTpさmなたw~~!?!!?」
理解不能な謎の奇声を上げて孫静が、孫堅にそれはそれは綺麗な飛び蹴りを顔面に決めた。
~~暫くお待ちください~~
え~、突然だが、「勧進帳」と呼ばれる歌舞伎の演目をご存知だろうか?
この「勧進帳」は、まぁ端折って言うと源義経と1の家来・弁慶が、源頼朝に殺されかけたので奥州に逃亡中に、とある関所で尋問を受けた際に、主君の義経が身バレしそうになったので、咄嗟の機転で義経を容赦なくシバき倒して、顔を変形させて誤魔化し、関守をドン引きさせ、あわやの危難を救った話である。
・・・なんか微妙に違う気がするが、概ねこんな話だった筈、多分きっと。
急に何で「勧進帳」の話をしたかと言うと、今現在進行形で、孫静が兄で主君の孫堅をシバき倒して血塗れの手をつき、額が割れる程何度も頭を地面に叩きつけて、必死に一族と家臣達の助命嘆願を自分にしているからである。
奇声を上げて孫堅を蹴飛ばした孫静は、そのまま倒れた孫堅に跨がりマウントポジションをとると、某スタンドの白金の星の如く、「オラァ」と目にも留まらぬスピードでラッシュを開始し、孫堅をボコボコにし始めた。
あまりの急展開に、怒り心頭といった風情だった皇甫嵩も呆気にとられ、呆然とする有り様だった。
静まり返った中、孫静の打撃音だけが周囲に響きわたり、「おい、いきブ」「止めボ」「ちょぺ」「ま・・・」と空耳が聞こえていると、
「お、おい、止めよ!それ以上は死ぬぞ!?」
真っ先に我に帰った皇甫嵩が、孫静を羽交い締めにして、慌てて引き離した。
引き離された孫静は、フラフラとした足取りで糜芳に近づいて、ガバッと土下座の姿勢になると、
「ウチの兄やんが大変申し訳ない事をしでかし、申し訳有りません!」
ガンッと頭を地面に当てて謝罪して来た。
「しでかした兄やんと、止めれへんかった私が罰を受けるのは、当然の事やと思とります。
しかしながら、部下達や故郷の家族達は何にも知らず、無関係なんです!
どうか私と兄やんの首でこらえてください!お許しください!どうか、どうか!!」
土下座をしながら、ジリジリと寄って来て嘆願してくる孫静。
(え~!?どないしたらええのこれ?)
ジリジリと詰められて、謎の圧迫感に襲われながら、周囲に助けを求める糜芳。
周囲を観れば、「もう勘弁してやれよ」といった雰囲気に溢れていた。
(なんかすっげー俺が、悪者扱いになってんだけど?
・・・納得いかね~)
理不尽な状況に内心で泣きそうになる。
「え~孫静殿。此度の孫堅将軍の事は許します。
武人は不始末を起こしたら、戦場で戦って手柄を立てて汚名返上するのが作法と聴きました。
今回の不始末は、戦場で手柄を立てて返上してくださいますよう、お願いしますね。」
どっかの歌舞伎者が、それっぽい事を言っていたのを思い出し、適当に誤魔化す。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
何度もお礼を言って頭を下げる孫静。
直後に孫堅陣営からワッと歓声が上がり、孫静に将兵達が駆け寄って、歓喜の声を上げた。
・・・孫堅が倒れているのを放置して・・・。
(う~む、温厚な人程キレると怖いって言うけど、本当なんだな~。
俺も竺兄をキレさせ無い様に、気をつけよう・・・)
糜芳は、リアルアン○ンマン状態で放置されている孫堅を観て、つくづく思ったのであった。




